困難な時代に挑むあなたのために。ベン・ホロウィッツ『WHO YOU ARE』翻訳者が語る

whoyouare

『Who You Are』書影(タップするとAmazonの販売ページに遷移します)。

筆者提供

生まれてから死ぬまで起業家で居続けるつもりだった私が、何を思ったかシリコンバレー起業家の翻訳を共同で手掛けることになった。本書『WHO YOU ARE』は、スタートアップ界隈で大きな注目を集めたビジネス書『HARD THINGS』の著者にして連続起業家、シリコンバレーでトップクラスのベンチャーキャピタル(VC)の1つ、アンドリーセンホロウィッツの共同創業者ベン・ホロウィッツの最新著作だ。

ここに、少しだけの自分語りと、起業家のバックグラウンドをもつ自分だからこそ書けるのかもしれない、『WHO YOU ARE』の魅力を伝えられたらと思う。

『WHO YOU ARE』はリーダーシップの本であり、企業文化の作り方の本だ

『Who You Are』のKindle版

撮影:伊藤有

私は学生時代に起業し、そのまま10年以上、自分の会社を経営し続けていた。

1社目は自己資金で始め、さなかでリーマンショックを体験。2社目はベンチャーキャピタル(VC)等から合計億単位の資金調達をするも成功にいたらなかった。就職をした経験がなかったため、プロダクトの開発も、事業の構築も、企業文化も、常に手探りと勘(と読書)で運用していた。

『WHO YOU ARE』は企業文化の本とも言えるし、リーダーシップの本とも言える。投資家、従業員、顧客などの仲間を増やしていくことで、より大きく「事を成す」には、創業者本人の情熱や想いを創業者の意図通りに正しく伝搬させていかないといけない。

しかし、創業者の想いや意図は千差万別だ。

本書では歴史上のリーダーたちがどのようにその想いを伝え、不可能とも思えるような偉大な事を成したかを紹介し、その手法を分析し、現代のリーダーらによる成功例、失敗例を紹介している。

リーダーのポジションはよく語られるように、とても孤独だ。最終的な判断をする立場となり、誰に任せることも、判断したことを「○○がやれと言ったから」と人のせいにすることもできない。結果に対する責任も負わなければいけない。

自分の「していないこと」に関しても、自分が「直接指示していないことから起きたトラブル」に関しても、それが発生しない環境を作らなかったのは自分であるため、その責任を負わなければいけない。

スタートアップの創業社長になるような人は、この責任感に関して強い覚悟を持っている人が大半だろうと思う。覚悟をし、一歩踏み出した時点でその人はすでに素晴らしい勇気を持っている。その勇気にレバレッジを利かせて大きなインパクトを作るために人を巻き込んでいくことが次のステップとして必要だ。

同じ道を歩んだ起業家として、自身の失敗談をいくつも思い出しながら本書を翻訳していたのは言うまでもない。前作『HARD THINGS』を読者として読んだ際は、みぞおちを殴られ続けるような感覚を覚えた。

一方、本作では、してしまったこと・やらなかったことにより「長期で会社がダメージを負う経験」を思い出すケースが多かった。こうした実体験と、シリコンバレー起業家に憧れてがむしゃらに調査、読書をしてきた経験を『WHO YOU ARE』の翻訳に多少なりとも活かすことができたのは良かったと思っている。

恥ずかしながら、この10数年の起業人生で犯した失敗体験をいくつか紹介したいと思う。『WHO YOU ARE』を事前に読んでいたら、やっていなかったことばかりだ。

(1)「自分自身がやりたくもないこと」をルール化したこと

shutterstock_1707947335

Shutterstock

みんな休みたい日に休み、出社したい時間に出社すればいい。有給休暇の日数の管理などをするほうがコストだ、と当時発言していた。ある時期、緩んだ状態が目に余ったので朝10時出社にルールを変更した。しかし、その時間が絶対化されていたことがとてつもなく嫌だった。よく「じゃあ、9時58分にオフィスの入口で道に迷った人に声かけられたらどうするの? 当然助けるでしょ!」と制度の無意味さについて語っていたのを思い出す。社長が制度に文句言ってるなんて、今考えると意味がわからない。20代前半の若気の至り。

(2)改革の必要な時期に「社長室」にこもったこと

shutterstock_1671501193

Shutterstock

厳密に言うとかっこいい「社長室」ではなく、会議室の一角にあるくぼみをひきこもりスペースとして使っていただけなのだが。社内のメンバーとよりコミュニケーションをして向かう方向を伝えなければならない時期に、作業に集中するために離れたスペースで仕事をしていた時期がある。自分自身が仕事のボトルネックとなっていると考えたためだ。思い返すと明らかに改革から逃げていた自分がいた。

(3)「どうせ」という言葉

shutterstock_1303137892

Shutterstock

「どうせやっても意味ない」のような発言をしていた自分を思い出す。「どうせ」から始まる会話からポジティブな結果だったり実現する方法につながるわけがない。社長である自分が使っていたことを思い出すと、「どうせ」は社内でも一般的に使われていただろう。地味だがめちゃくちゃ痛いミスだ。

その他、チームの組織的な判断ミスで他の社員を疲弊させたりなど、たくさんの失敗はあるが、勢いにまかせて書くと一冊の本になってしまいそうなのでここでやめておく。

もちろん、自分自身の強い気持ちと覚悟で正しい仕組みを作ったり、団結をしたり、メッセージを伝えた経験もきちんとあるが、性分としてうまくいったものはできて当然と考えてしまい、できなくて悔しかったことばかりを思い出してしまう。

困難の時代にチーム(会社、家族、部活動)を導く方法

shutterstock_1621123831

起業家、リーダーの歩みは物事に深く、慎重さを持ちつつ大胆に掘り下げていくことでもある。

Shutterstock

そうした意味では『WHO YOU ARE』は、起業したての当時の自分に読ませたかった本だ。

読んでさえいれば、上記のような失敗を防げた……かもしれない。ドラッカーの『マネジメント論』で語られるIntegrity(真摯さ)に通ずるものがあるが、リーダーの行動規範ともいえる内容が、読者それぞれの人達の基準で構築できるように論じられている。失敗から学ぶのではなく、事前にこの本を読める人たちが本当にうらやましい。

wya

タップするとアマゾンの販売ページに遷移します。

日経BP

本書は経営者に限らず、年齢も関係なく、誰かに見られる立場にいる人すべてに勧めたい。それこそ、学校の部活のキャプテンから一人の子どもの親までだ。

経営者の立場では、この本は企業文化構築の本になるが、部活のキャプテンなら人望を得るマニュアルになる。一人の父親の立場なら良い親になるための行動規範の本となる。

息子が生まれ父親になったばかりの自分が、子育てにあたりこの本の内容に素直に従って行動してみようと思えるほどには、想いを込めて訳したつもりだ。ぜひ手にとって読んでみてほしい。


浅枝大志 (あさえだ・ひろし):起業家。米国育ちのバイリンガル。青山学院大学経営学部卒業。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。2012年米国デラウェア州に音楽スタートアップBeatrobo Inc.を設立。事業売却後、AIスタートアップ・スタジオ All Turtles のプロダクトマネージャーを経て、2020年よりミラティブ社のシニア・プロデューサーとして参画。事業の傍ら、著名シリコンバレーの起業家の取材通訳・講演同時通訳を務める。著書に『ウェブ仮想社会『セカンドライフ」: ネットビジネスの新大陸』(アスキー)、翻訳書に『WHO YOU ARE』(日経BP社)などがある。著者自身のnoteはこちらから

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み