私は転職エージェントという立場上、これまで何万枚もの「職務経歴書」を見てきました。その経験から言いますと、初めて転職活動に臨む人が独自で作成した職務経歴書は、「強みが伝わらない」ものが大多数です。
面談でじっくりお話を伺ってみると、「それはすごい経験ですね!」「このスキルは転職市場で希少価値が高いです!」と感服するようなビジネスパーソンなのに、職務経歴書を見るとなぜか残念感が漂っている……ということが少なくないのです。
現在は転職を具体的に考えていなくても、人生100年時代、いずれは転職したり、副業(複業)を持ったりする可能性は十分あると思います。
その際、「職務経歴書」の提出は必須。作成するとなると、社会人1年目時代にさかのぼって経歴を記さなければなりません。いざ作成しようとした際に「覚えていない!」ということがないように、早い段階で整理しておくことをお勧めします。
というわけで今回は、キャリアの棚卸しの5ステップとポイントをお伝えしましょう。
【STEP-1】経験した部署・業務内容をすべて書き出す
まずはこれまで所属した部署と、業務内容・ポジション(チームリーダーなど)をすべて書き出します。
このとき「補助的」に行った業務も漏らさずに書いてください。例えば、「他部署のプロジェクトを3カ月間だけ手伝った」というものも書き出します。実は、そうした経験が思いがけずプラス評価されるケースもあるのです。
日々の仕事に追われていると後回しにしがちな「キャリアの棚卸し」。まとまった時間がとれたらぜひ取り組もう。
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【STEP-2】経験した業務内容の詳細を整理する
経験した業務1つひとつについて、その内容を詳細に書き出します。このとき「5W1H」をベースにすると整理しやすいでしょう。
5W1Hとは情報をわかりやすく伝達するための手段として、もともとは新聞記事を書く原則とされたもの。ビジネス現場でも報告書作成や状況説明で活用されています。
- いつ(WHEN)
- どこで(WHERE)
- 何を(WHAT)
- 誰に(WHO)
- なぜ(WHY)
- どのように(HOW)
例えば「食品メーカーの営業」だとすれば、このように整理します。
- いつ……顧客を長期的にフォロー ※商談期間やプロジェクト期間
- どこで……北関東エリアを担当
- 何を……加工食品を
- 誰に……量販店の本部バイヤーに対して(エンドユーザーは主婦)
- なぜ……既存商品の売上拡大/市場リサーチのため
- どのように……定期的に訪問し、販促手法を提案
このように5W1Hで整理しておくメリットとして、採用担当者にあなたの仕事内容が伝わりやすくなるだけでなく、「志望企業との共通点を見つけやすくなる」ということがあります。
例えば、商材がまったく異なる企業でも、「ターゲット顧客は同じ」「売り方は同じ」といったように、経験を活かせるポイントをピックアップし、それをアピール材料として使用できるというわけです。
【STEP-3】挙げた成果とそのプロセスを明確にする
それぞれの部署・業務において「挙げた成果」も書き出します。
なお、数字で表せるものはしっかりと記録しておいてください。営業やマーケティングなどなら「売上◯%アップ」「新規顧客を○件獲得」、管理部門職などなら「業務改善の結果、◯%のコスト削減」「従業員の満足度◯%向上」といったように。
なお、「社長賞を受賞」「営業成績1位」などと記載している職務経歴書もよく見かけますが、読み手にはその「価値」がどれほどのものなのか伝わりません。「社長賞」は、毎月複数の人に授与されるものなのか、年1回・社内で1人だけが授与されるものなのか、「1位」とは10人中1位なのか100人1位なのかで価値は大きく変わってきますよね。難易度について、読んだ相手が納得できるようにしておいてください。
「社長賞受賞」だけでは不十分。それがどれほど価値あるものなのか、社外の人にも伝わるように工夫しよう。
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さて、職務経歴書に記載するのはここまでですが、「成果」については、「なぜその成果を挙げられたのか」を振り返っておくことが大切です。
つまり、志望企業の面接で「この成果をどのようにして挙げたのですか?」と質問された場合にもしっかり答えられるように、整理・言語化しておくのです。
これが整理できていないと、とっさに「いやー、連日残業して頑張りました」「チームの皆が支えてくれたおかげで」など、曖昧なことを言ってしまいがち。それでは、「この人の中で、成功体験はノウハウ化されていないのか。だとすると、うちの会社では再現できないかもしれない」と思われてしまいます。
企業側は「やったこと」と「できること」は別物だと考えています。挙げた成果を通じ、その「手法」や「ノウハウ」をしっかり自分のものにしているかどうかの“再現性”を見られますので、それを語れるようにしておきましょう。
「PDCAをどのように回したか」「どんな人をどのように巻き込んで協業したか」「どのような壁にぶつかり、それをどう乗り越えたか」などについて整理しておいてください。
【STEP-4】「メンバー育成経験」「マネジメントスタイル」を言語化しておく
30代以上になると、採用選考では「マネジメント力」も注目されるポイントです。「部長」「課長」といった役職に就いた経験がなくても、マネジメントの素養はチェックされますし、それが認められて「リーダー」「マネジャー」のポジションで採用されるケースは多々あります。
「チームの後輩などに対し、どのように接し、指導してきたか」「プロジェクトの責任者としてどのようにメンバーのモチベーションを上げる工夫をしたか」など、人材育成の経験やチームマネジメントについて、自分なりに工夫したこと、自分ならではのスタイルを言語化しておきましょう。
また、職場での経験値だけでなく、副業先のNPOやボランティアの現場、外部のコミュニティなどにおいてリーダーやマネジメントを務めた経験は評価の対象になることもありますので、補足として記載することをお勧めします。
【STEP-5】「失敗経験」も振り返っておく
面接で意外によく聞かれるのが失敗経験。なぜ失敗したのか、そこから何を学んだのか、どうカバーしたのかを採用者は見ている。
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実は、採用面接においては、「成功体験」だけでなく「失敗体験」「挫折体験」を聞かれることもあります。
変化が激しい今の時代、企業が人材に求める要件の一つに「レジリエンス」があります。レジリエンスの本来の意味は、「復元力」「回復力」「弾力」など。困難な状況やストレスに直面しても、柔軟に対応できる力を指します。
企業は、失敗体験を尋ねることで、その人が危機的状況に陥った時、どんなマインドでどう行動するのかを知ろうとしているんですね。
この質問をされて「いや、特にないですね」と答えるのはNG。失敗した経験がない人などまずいないのですから(仮にいたとしたら、リスクを取ってチャレンジした経験がない、ということになります)、「ない」と言い切る時点で不信感を抱かれてしまいますよ。
失敗体験を振り返ることは、自分が学んだ経験を客観視して認識することでもありますので、「なぜ失敗したか」「どうカバーしたか」も整理してみてください。
「キャリアの棚卸しは、自分が仕事に何を求め、どんなことに喜びを感じるのかを再発見することにもつながります」と語る森本さん。
撮影:鈴木愛子
以上、キャリアの棚卸しの仕方をご紹介しました。
キャリアを振り返り、整理していく中では、「ストレスを感じた業務・場面」「ワクワクした業務・場面」なども意識してみてください。
自分は仕事において何に喜びを感じるのか、何がしたいのか、自身の「Will」が自覚できると思います。それを次の会社選びにも活かしてくださいね。
なお、このステップを経て書き出した経歴は、すべて職務経歴書に記載する必要はありません。転職活動に臨む際は、志望する業界・職種・企業に応じて、そこで必要とされる経験をピックアップし、厚めに記載するようにするといいでしょう。
連載第4回でもお話ししたとおり、中途採用においては「資格」より「実務経験」が重視されます。これまでの経験と無関係な資格を書き連ねるより、今回お話ししてきたポイントをおさえながら実務経験を詳しく書くことを心がけてください。
※この記事は2020年4月27日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。