ウクライナの首都キエフにて。ロックダウン中でウーバーイーツはじめフードデリバリーが必要不可欠になっている。
REUTERS/Valentyn Ogirenko
- 新型コロナウイルスの影響で食料品宅配サービスが大人気だ。専門家は、ソーシャルディスタンシング(社会的距離戦略)が終わっても人気は衰えないとみている。
- この動きは不動産市場にもそれなりの影響をもたらす。事業用不動産サービスCBREが発表したレポートによると、従来から需要の高まっていた冷蔵スペースへのニーズが加速しそうだ。
- 同レポートでは、この(宅配需要増という)生活習慣の変化が冷蔵倉庫と食品流通関連の不動産にもたらす影響を5つの切り口から紹介している。
フードデリバリー(食料品宅配)へのニーズが急激に高まり、サービスを展開する企業のインフラや人員計画を圧迫している。
アマゾンフレッシュやホールフーズの宅配注文は順番待ち状態、インスタカートは消毒やマスクの確保など職場の安全性向上を求める従業員たちがストライキを起こしている。どのサービスでも注文が集中し、宅配予定日の空きが早くて1週間後といった問題も発生している。
しかし、宅配サービスを手がける企業とその従業員たちはこの混乱に慣れる必要があるのかもしれない。専門家の間では、このブームはソーシャルディスタンシング(社会的距離戦略)が緩和されたあとも続くと予想されているからだ。
そしてこの動きは、食品流通にとって不可欠な不動産、すなわち冷蔵倉庫のオーナーや物流会社、物流施設デベロッパーにも恩恵をもたらす可能性がある。
日本の豊洲市場にある冷蔵倉庫。低温環境での作業を好む労働者はそう多く見つからない。
REUTERS/Issei Kato
CBREが発表したレポート(4月8日、2019年発表のアップデート版)には、新型コロナウイルスが冷蔵倉庫業にも影響をおよぼし、将来的に食品宅配サービスとの融合を加速していく5つのシナリオが示されている。
同レポートによると、アメリカの産業市場において、すべての倉庫の延べ床面積のうち冷蔵倉庫はわずか1〜3%を占めるに過ぎないが、これから食品貯蔵のニーズが高まるため、今後5年間のうちに7000万〜1億平方フィートの冷蔵スペースが新たに必要になるという。現存する冷蔵スペースは2億1400万平方フィートなので、1.3〜1.5倍に拡張する必要があるということだ。
ここから、CBREが指摘する「5つのシナリオ」を紹介していこう。
1. 日持ちのしない食品をオンラインで注文する客が増える
オンラインの食料品宅配サービスは確実に増えており、上記のように、宅配会社は冷蔵スペースを拡大する必要が出てきている。
もし本当にそうなっていくとしたら、日持ちしない生鮮食品や冷凍食品へのニーズも高まるはずだ。従来、宅配の対象としてはさほどメジャーではなかったが、コロナショックによって、あらゆる食料品を宅配に頼りたい人が増え、結果として、生鮮食品のオンライン宅配サービスも問題なくできるようになるだろう。
2. 地域の食料品店は、保管・発送スペースを拡大する必要が出てくる
ロックダウン中のフランスで、冷蔵施設に収穫を運び入れる農家。
REUTERS/Charles Platiau
オンラインでデリバリー受注した食料品の大半は、実際には各地域の食料品店から発送されることになる。注文量が増えれば、店舗側は手が回らなくなり、注文に対応して発送するスペースも足りなくなる。
そうなると、販売スペースと(管理・発送用の)作業スペースをうまく融合させる必要が出てくる。また、宅配する客先により近い場所に冷蔵スペースを設置する必要も出てくるだろう。
融合の仕方としては、単純に在庫保管スペースをもっとたくさんつくる方法もあるし、独自の冷蔵倉庫を備えた店舗に、より大きな発送センターを併設するという手の込んだ方法もある。
いずれにしても、現存の冷蔵倉庫の築年数は平均して34年と老朽化が進んでいるので、少なくとも一部は新設する必要がある。
3. レストランももっと冷蔵スペースが必要になる
CBREレポートは、新型コロナウイルスによる混乱は当面続くため、レストランは店内営業よりテイクアウトやデリバリーにフォーカスしていくと予測する。その結果、レストランでも冷蔵能力の拡張が必要になるという。
4. 冷蔵倉庫の関連事業者どうしの統合が進む
冷蔵倉庫事業者や大規模食品倉庫を有する企業(アメリコールド・ロジスティクスやライネージ・ロジスティクス)は、冷蔵スペースの需要拡大に対応し、同時にスケールメリットを確保するため、合併統合の検討を始めると考えられる。
倉庫運営を手がける事業者(物流企業)は物流施設デベロッパーと組んで、人口周密エリアに近接する冷蔵倉庫のネットワークを築き、宅配サービスを展開する際の物流面での障害を取り除こうとするだろう。
5. 冷蔵倉庫の自動化が進む
中国・北京市内のレストラン。ロボットアームで冷蔵庫内の作業を自動化している。
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冷蔵倉庫は当然のことながら低温環境の施設だ。倉庫の中は寒い。そこで働きたいと思う人材は自ずと限られてくる。冷蔵スペースのニーズが高まれば、自動化も促される。そうすることで、24時間ぶっ通しで操業を続け、労働力を圧縮できるようになる。
人間が働く施設と違って、自動化された施設では密度を高め、少ない面積により多くの荷物を重ねて扱えるので、従来は不可能だったロケーションに冷蔵倉庫を設置することも可能になる。
(翻訳・編集:川村力)