トランプ氏が前のめりな経済再開への不安。韓国・ドイツ同様の対策なら逃れられた経済損失

トランプ米大統領

4月16日、トランプ米大統領は「アメリカを再開する(Opening up America Again)」を発表。経済再開を急いでいる。

REUTERS/Leah Millis

「風と共に去りぬ」の舞台、南部ジョージア州に、ホワイトハウスや各州知事、医療関係者の視線が注がれている。

新型コロナウイルスの感染拡大で事実上のロックダウンをしている州の中で先駆けて4月24日(米国東部時間)、まずは歯科やスポーツジム、27日からはレストランと幅広い業種の営業を再開したためだ。

全米42州(4月23日現在)が出勤禁止・自宅待機令を発し、食品店・病院・薬局以外は営業禁止、レストランはテイクアウトと出前しか許されていない中での、“見切り再開”。

専門家は再開に対して警告

閉鎖されたデリ

もっとも感染者数の多いニューヨーク州では再開の目処は立っていない(2020年3月26日撮影)。

REUTERS/Stephen Yang

ホワイトハウスの新型コロナウイルス対策チームのアンソニー・ファウチ医師は、ブライアン・ケンプ州知事(共和党)に対し、「再開するな」と警告。経済活動の早い再開を強調してきたトランプ米大統領でさえ、ケンプ州知事にこう告げたという。

「彼の決断には激しく同意しかねる。しかし、やりたいようにやればいい」(4月22日記者会見にて)

ケンプ知事が出した行政命令によると、4月24日から再開する業種は、理髪店・美容院や歯科、タトゥーショップ、ネールサロン、マッサージなど、利用者との接触が多いものも含まれる。ジムやボーリング場なども、利用者の検温を条件に営業再開できる。

まだ米政府や州政府が、家族以外とは社会的距離(1.8メートル)を取ることを強く徹底しているにもかかわらずだ。

さらに27日からは、社会的距離を取ることを条件に、レストラン、劇場、クラブまで営業という急な再開プロセスだ。

ケンプ知事は、「知事の新型コロナ対策チームの助言も受け、州経済の強さを守るとともに、住民などの健康と安全、発展をもたらすことが必要である」と、行政命令で再開の理由を示した。ジョージア州の感染者数は4月22日までに2万523人、死亡者数は862人だ。

早期再開を求める保守系住民

経済再開を求めるデモ

オハイオ州では、延長された外出禁止令に対して抗議デモが行われた(2020年4月20日撮影)。

REUTERS/Seth Herald

アメリカでは5月1日にかけて、ジョージア州に続き8州が次々に社会・経済活動を再開する。その中には、南部のテキサス州など人口が多い州も含まれるが、ジョージア州に比べると段階的な再開だ。

人口で全米第2位のテキサス州は、食品以外の小売店の営業を許可する。ただデパートなど大型店は、オンラインで注文したものをドライブスルーなどでピックアップする形式を指示。従業員には検温、マスク、手洗いが義務付けられる。

保守系住民が多い南部を中心に、共和党州知事が牛耳る州は経済活動再開を急いでいるが、そこにはトランプ大統領の発言が大きく影響している。

トランプ大統領は3月下旬には、4月12日のキリストの復活祭には経済活動を再開し、教会の礼拝をする案を打ち出した。保守系住民とトランプ支持者が教会に通えないことに強い不満を持っているからだ。その案は頓挫したものの、4月13日には、国民に早期の職場復帰を呼びかけ、政権は再開に「かなり近づいている」と繰り返し述べた。

さらに、再開の時期を決めるのは州知事ではなく自分であり、「最終的な権限は私にある」と述べ、州に対し、経済再開を義務付ける大統領令をちらつかせた。

「再開は電気のスイッチではない」

クオモ州知事

ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は「(経済再開の大統領令が出ても)私は絶対に従わない」と主張。トランプ氏の「再開圧力」に屈しない姿勢だ。

REUTERS/Carlo Allegri

全米の3分の1の感染者が集中するニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は即座にCNNへの出演で反論した。

「建国の父たちが決めたように、公衆衛生、安全については州知事の権限を行使する。(大統領令が出ても)私は絶対に従わない」

「経済再開は電気のスイッチではない。段階的なプロセスで、検査を増やして感染の状況を追跡することで、どの業種が営業できるのかを決める。今、再開を急ぎすぎて、賢く決断しなければ、またロックダウンをしなければならないことになる」

ニューヨーク州の感染者数は26万3460人、死亡者数は1万5740人に上り(4月22日現在)、クオモ知事は段階的再開の時期を未だに明らかにしていない。

民主党出身の州知事らはクオモ知事同様、トランプ大統領の「再開圧力」に抵抗しながら、ロックダウンを続けている状況だ。保守系住民が多いものの民主党州知事が州政府を動かす中西部ミシガン、ウイスコンシン、南部バージニア州などに対し、トランプ大横領が彼の支持者に「経済再開」を求めるデモを展開することをTwitterで示唆した。

「ミシガン州を解放せよ!」

コロナ禍で失業状態になり不満を募らせていたトランプ支持者は早速、各州の州議会議事堂前などで4月17、18日、数百人、数千人のトランプ支持者がマスクもせず集まり、「コロナウイルスはフェイクだ」などといったプラカードを掲げた。

NIH

トランプ氏は2017年に米疾病対策センター(CDC)と米国立衛生研究所(NIH)の予算を削減。。感染症対策に消極的だったと批判されている。

Shutterstock/Jer123

そもそもトランプ大統領が当初、新型コロナ対策に後ろ向きだったため、アメリカが感染者数で最大の国になったという批判は根強い。

10年間民主党政権の元ホワイトハウス上級職で、コンサル会社ヴェラ社長、モー・ヴェラ氏は、筆者とのインタビューでこう指摘した。

「トランプ氏の唯一の仕事は、アメリカ国民の安全を守ることだ。それが求められた時に彼はそれをしなかった。罪もない人々のことを気にもかけなかった。私はそれを許すことはできない」

その理由は、以下だという。

・トランプ氏が、米疾病対策センター(CDC)と米国立衛生研究所(NIH)の予算を2017年に削った

・オバマ前大統領政権が設置したパンデミック対策オフィス(PPO)を廃止した

・情報機関が2019年末から2020年1、2月に、新型コロナの説明をトランプ氏にしたが、耳を貸さなかった

韓国のドライブスルー検査

韓国では早くからドライブスルー形式でのPCR検査を実施(2020年3月3日撮影)。感染爆発を防いだ、と言われている。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

韓国やドイツより大きい経済損失

実際に、トランプ大統領とホワイトハウスの動きが韓国やドイツと同様に迅速であれば、新型コロナ感染拡大前に比べて最大で86%の経済的損失を逃れられたというリポートもある。クリントン政権の元経済問題担当商務次官、現在ジョージタウン大学マクドナー・ビジネススクール上級研究員のロバート・シャピロ氏によるワシントンマンスリーへの寄稿だ。

それによると、トランプ大統領が情報機関や専門家の声に1月上旬に耳を傾け、行動していたら、概算として少なくとも40%、最大で86%の経済的損失を抑えられたとしている。

シャピロ氏によると、韓国が新型コロナで受けた国内総生産(GDP)の減少率は年間2.3ポイント。一方、トランプ大統領の対応の遅れによって起きた、ロックダウンによる大量の失業者数や、感染拡大の封じ込めが2021年2月までかかったと想定した場合、アメリカのGDPの減少は、16.6ポイントと試算。韓国と比べて、86%もの経済的損失を被るとしている。

同様にアンジェラ・メルケル首相主導のもと、新型コロナの劇的拡大を防いだとされるドイツと比べても、同様の試算で40%の損失とした。

2020年11月の大統領選挙で再選を狙い、経済活動再開を急ぐトランプ大統領は、国民の健康を二の次に考えている。そのことによる経済的損失への考えは及ばないようだ。

(文・津山恵子)

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