ニューノーマルの時代に学びたい「非連続な未来を描く方法」。“アンラーン”のスクールが開校

Unchained(アンチェーンド)

世界をフレームワークから再設計することを掲げたラディカル・デザイン・ラボ「Unchained(アンチェインド)」が2020年5月、活動を本格化させる。大手企業で新規事業を手がける社内起業家や社会起業家らと、新しい社会の枠組みの構築を目指すというものだ。Unchainedは今の社会をどう捉え、未来をどう描こうとしているのか。ラボを立ち上げた小林弘人さんと、同ラボのプログラム・リードを務める菊池紳さんに聞いた。

既成概念を一旦忘れてみる「アンラーン」が必要だ

小林さん

インフォバーン代表取締役CVO小林弘人。1994年『WIRED』日本語版を創刊。1998年インフォバーンを設立。2016年、ベルリン最大のテック・カンファレンスTOAの公式日本パートナーとして、エバンジェリスト・イン・レジデンスを務めながら、企業・自治体のDXやイノベーション支援を行う。2020年5月からラディカル・デザイン・ラボ「Unchained」を始動。 2020年2月撮影。

小林弘人さん(以下、小林):「Unchained」は、最初期にはブロックチェーンの社会実装を推進するために立ち上げたプロジェクトの名称です。その後、ベルリン視察プログラムや各種イベント、インキュベーション・プログラムを行ってきました。今回、菊池さんと一緒に新生「Unchained」として改めてラディカル・デザイン・ラボとして拡張することになりました。

「Unchained」は、自分の所属している組織やコミュニティ、背景に関係なく、叡智を持ち寄って「再接続」するために、一回「Unchain=接続を解除」しようという考え方。自分や所属する組織等の縛りをなくして、思想も発想も軽やかにやりましょうという意味を込めています。

菊池紳さん(以下、菊池):もともと「Unchained」は「これからの社会はどう描きたいか?」というデザインや気付き、可能性を学びつつ示してきましたよね。今回の取り組みでは、それを拡張できたらと考えています。 先行きの見えないと言われる現在、社会のトレンドを「誰かが作ってくれて、その恩恵を享受する時代」は終わりました。誰かが作ってくれるのを待つのはやめて「自分たちで未来を描いて、作る」。そうした人材や企業を生み出すのが新生「Unchained」です。

「Unchained」は2つの部分から構成されています。1つ目は「Un-LEARN(アンラーン)」というスクールと学びのコミュニティです。これは、個人が参加できるラーニング&コミュニティです。

未来デザインの実現を牽引している研究者や実践者の方々を「リード」、つまり講師に迎えて、1リードあたり2週間ずつ、参加者と密に、これからの未来の姿や取り組むべきことを議論したり、アウトプットを作ったりします。1シーズンを3カ月(全12週間)とし、6人のリードと過ごす、今までにはないラーニング&コミュニティになるでしょう。

もう1つは「Rad-Lab(ラディカル・ラボ)」です。こちらは、大学の研究室と企業が共同研究するイメージで、特定の分野の専門家や、起業家などをリード、つまり「ラボ・オーナー」に迎えます。そこに企業に参加していただき、3~5年後のビジョンを具体的に作って実現を目指します。未来のサービスや製品のプロトタイピングや人材の育成、企業のイノベーションに貢献すべく、より専門性高く、深いテーマを扱おうと思っています。

社会問題、ビジネス、あらゆるテーマの「未来を描く」

菊池 さん

Unchainedのプログラム・リードを務める菊池さん。

—— Unchaindでは、どのようなテーマを扱うのでしょうか。

小林:これまで、例えば哲学や倫理とコンピューティングをどう組み合わせるかといった問題は、ほとんど議論されてきませんでした。その結果、現状では企業の利益誘導のために、ユーザーに対してクリックを誘発させたり、悪質なものはフィッシング詐欺や解約ができない状態を作り出すなど、そういうユーザー・インターフェイスの総称である「ダークパターン」はじめ、人間性より利益を優先した「邪悪なデザイン」が量産されてしまいました。 これまでのエンジニアはコードを、ビジネスマンはマネタイズモデルのことだけ考えていればよかった。

でもこれからは人間と社会に及ぼす影響も考えていくべきだという議論にグローバルなデザイン業界を中心に言及されつつあり、まさに岐路に差し掛かっています。

菊池:スクールの役割を担うUn-LEARNのトピックは、本当に幅が広いです。

例えば企業や国が作る制度やサービスについても、充分な議論が尽くされていない、未来像がきちんと描かれていない中、目先の課題に対症療法に必死になっているように映ります。社会保障をはじめ、企業のあり方、雇用や働き方、権利や契約関係など、従来のやり方では通用しなくなりつつあることはたくさんあります。

社会が抱える課題について、まずフレームワークからもう一度描き直す。プロトタイピングを通じて、未来図を可視化、言語化をして社会に示す。そういう新しい価値を提供できる人材を、Un-LEARNで増やしていきたいと思っています。

「Un-LEARN」という英単語には、「既知のものや価値観に縛られずに、新たに学び直す」という意味がある。僕たちがやりたいのはまさにそれなんです。

ビジョンを描くことは、市場を作るということ

苗に実験している写真

菊池:僕はSDGs(持続可能な開発目標)とビジネスの関係にフォーカスしているのですが、多くの問題は二項対立になっている。ビジネスを伸ばすと環境が悪くなるとか、たくさんものを作ると資源は減るとか。対立構造になっている限り解決できない。

SDGs169の2030年までの達成は、今までの製造方法や設計思想、販売戦略、商品ライフサイクルの設計では限界があります。従来とは全く違うデザインが必要で、人が喜び、しかも環境や資源にもよいプロダクトにするには、一から描き直すしかない。

小林:環境といえば環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんがよく取り上げられますが、その裏でESG投資(社会的責任投資)により世界の多くのファンドの資金がそちらに動いていることは、日本では一般的に知られていません。それは、すでに新しいエコシステムとなっていて、資源と環境を巡る二律背反が利益を生む形で一つになっていくものです。そのためには、よりクリエイティブな方法や思考が重要となります。

ダイバーシティの問題もそうです。新型コロナウイルスの蔓延で多くの人が在宅勤務になって、仕事とプライベートが混ざってしまい困っている人が少なくないでしょう。ただ、ホラクラシーのような組織論(階層がない組織構造)では、人格や才能の「一部」だけを会社に切り売りするような従来のやり方とは違い、「全人格」と付き合えたらいい。多様化するワークライフバランスを含めた働き方改革、少子化による人材難への対策が求められる中、今はドラスティックに変化するチャンスだと思います。

菊池:今後、ビジネスの世界での生存競争はもっと激しくなると思います。誰が生き残るかも分からない中で、旗を掲げて社会をリードする人たちと、社会の旗印となるビジョンがちゃんと生まれていくことがとても重要です。

一人ひとりが未来を示すリーダーになる可能性があるんですよ。起業家であったり、社内のリーダーであったり。SF作家やクリエイターも、未来を示し社会を牽引する存在になりえます。

『スターウォーズ』とか『ドラえもん』を見た人の中から、実際に空飛ぶ車を作る人、宇宙に行ける船を作る人が生まれるように、未来の社会像なり製品のビジョンを描くと、誰かがその世界を実現しようと努力を始める。投資しようと思う人が現れ、手に入れたいと思う人が現れる。ビジョンを描くことは「市場を創ること」にもなるんです。

イノベーションを阻まない仕組みづくりが必須

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菊池:今の日本や世界の状況を考えると、子供や若手や女性がもっと台頭していくし、それをもっと加速させる必要があると思っています。どうしても、過去の概念ややり方に縛られるのは、過去に成功体験や慣習を持つ人たち、つまり、年配になればなるほどこの傾向は強まるようにも感じます。一方で、今回の新型コロナの対策でも、世界で圧倒的に強いメッセージを発しているのはニュージーランドの女性首相、それにデンマークの首相。いずれも若く、そして女性です。

新型コロナウイルスが流行する以前から、従来の社会や政治のシステムは、すでに疲弊していた。若者や子供達、未来のためにという、新しい視点でデザインができる人たちだったからこそ、必然的に若い女性がリーダーとして選ばれたのだと思います。

誰をリーダーに選ぶかは、「こういう未来にしたい」というビジョンを実現するための手段でもある。彼女たちが選ばれたのも同じ理屈です。こういうことが、政治レベルだけでなく、企業の中でも、社会活動の中でも、どんどん起きてほしいですね。

小林:意欲的な大企業では、中堅がイノベーション部門の責任者として、いい意味で組織内の摩擦における緩衝材となって若手の動きを守っています。しかし新規事業は「エリートコース外」と見られる傾向があり、理解あるトップが去ると途端に冷遇されたりするという問題がある。

結局、イノベーションはテクノロジーよりも、人事や知財、バックヤード、評価システムといったところに大きく依拠する構造をもちます。もっと突っ込んで言えば、社長など経営陣の頭の中身が変わらない限り、現存のやり方でいくら進めても頭打ちになるでしょう。

菊池:Un-LEARNは個人で参加できるので、起業家はもちろん、企業の若手や次世代の経営陣の方たちに広く参加していただきたい。組織の未来像を描いて着実に変えられる提言をし、行動を起こせる人を増やしたい。そういうメンバーが長く付き合い、孤独を感じずに未来に挑み続けられるコミュニティとなっていけたらいいですね

小林:そして10年後、ここから巣立った人たちが起業家になっていたり、組織を変えていくような存在になっていたりしてくれたらいいですね。

菊池:僕はUn-LEARNから1万人くらいは卒業生が出てほしいなと思っています。上場企業3500社に数人は必ずいて、社内の将来のデザインをやっていてくれたらいいですね。既存の市場や事業を守るのではなく、全く新しい市場や組織自体を創りに行くような、クリエイティブでアグレッシブな個人が活躍する社会がいいなと思っています。


Unchainedについて詳しくはこちら。

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