医療崩壊を食い止めたい、自宅でAI事前問診システムを無償提供へ

日赤

写真は日本赤十字医療センター。救急患者を受け入れる大病院でも、院内感染リスクは深刻だ。

撮影:竹井俊晴

新型コロナウイルスの感染拡大により、全国の医療機関で、感染患者の受け入れ可能な病床数が逼迫している。他の患者の感染が明らかになることでの院内感染も深刻になっている。

そんな中、ヘルステック系スタートアップと医療関係者らの有志が、人工知能(AI)を使った事前問診システムの無償提供を4月28日から緊急開始することを、明らかにした。

サイト上で、性別や年齢などの基本情報と主な症状を回答することで、自宅で事前問診が可能になる。新型コロナウイルス感染症の疑いがある場合はアラートで知らせ、院内感染拡大を防ぐ適切な行動を支援するという。URLを公開し、パソコンやスマートフォンからフリーアクセスできるようにする。

来院前に相談内容からAIが参考病名を提示

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AI受診相談ユビーの入力画面の展開イメージ。

提供:Ubie

提供を開始するのは、医師とエンジニアが創業したヘルステックスタートアップUbieが開発した「AI受診相談ユビー新型コロナウイルス版」。これまで41都道府県の約200の医療機関で導入・活用されている「AI問診Ubie」のシステムを応用し、新型コロナの感染拡大に対応したものを開発したという。

体調がすぐれない、いつもより熱がある、などの症状があれば、「AI受診相談ユビー新型コロナウイルス版」にアクセスする。その後の具体的な使用の流れは以下の通り。

  • 患者は年齢、生物学的性別などの基本情報に応える。
  • 伝えたい症状のうち、主要なものを回答するとAIが個別化した質問を尋ねてくる。
  • 症状に合わせて20問前後を回答する
  • 回答の結果から、AIが参考病名を「病名辞書」から複数表示。
  • 病名に応じた受診行動、適切な診療科、電話相談窓口などが案内される。

約5万件の医学論文から提出されたデータに基づき、患者の回答に合わせて、3500種類の質問データからAIが適した項目を選び出していく。医学的な根拠に基づいたAI問診によって、地域のかかりつけ医なのか、公的機関がいいのか、適切に案内することで患者の不安を和らげる相談窓口を提供する狙いだ。

院内感染を未然に防げないか

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撮影:竹井俊晴

現在、新型コロナウイルスの影響は、国内で感染者数は1万3000人以上、死亡者は370人超に達し、感染スピードは鈍化したとはいえ、収束は見えていない。

都市部では大病院でもコロナ患者を受け入れる病床が逼迫していることに加え、救急対応をこれまで担ってきた中規模病院でも、発熱患者の受け入れを断るケースが生じている。背景には、院内感染に対する病院側の強い危機感がある。事前のスクリーニング(ふるい分け)が不十分なまま症状のある人が来院した場合、院内感染を拡大させてしまい、医療機能不全を起こす事態になりかねないからだ。

AI受診相談ユビーの担当者は、新型コロナウイルス感染拡大を受けてこう説明する。

「現在、多くの人が適切な医療へのアクセス方法やタイミングに悩んでいる。症状に関わらず大病院にかかったり、救急車を呼んでしまったり、一方でタイミングを逃して重症化や感染拡大をしてしまったり。自宅での事前問診により、適切な受診行動を支援する必要があります」

当初から、来院前のAI問診サービスを準備して来たが、「国難とも言えるコロナ禍への対策として貢献したい」として今回無償提供を決めた。

AI受診相談ユビー新型コロナウイルス版は、適切な医療のかかり方を支援する目的で設立準備中の「社団法人日本医療受信支援機構」として提供。同機構は、「独立行政法人労働者健康安全機構」理事長の有賀徹氏を代表に、4つの医療関係の団体と、Ubie共同代表で医師の阿部吉倫氏ら5人が有志として立ち上げる。

多数の患者が押し寄せる病院のリスク減らす

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Ubie共同代表で医師の阿部吉倫氏。

提供:Ubie

システムを無償提供するUbieは、現役医師の阿部氏が共同代表となり、医師やエンジニアを集めて2017年に創業した。東京大学医学部卒業後、救急外来に勤務していた阿部氏は、依然としてICTの導入やペーパーレスが進まない医療現場の課題に直面。カルテ記入など事務作業に追われ、患者とじっくり向き合うことが困難な実態を痛感したという。

データサイエンスを学ぶことで「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する 」をミッションに起業し、AI問診Ubieを開発。全国の医療機関への導入を進めると共に、電子カルテと連動させるなどして、医療現場の過労問題に取り組んできた。

阿部氏は、コロナ禍を目にし「最前線で戦う医療従事者の皆さんと志を同じくする一人の医師として、何か力になれないか」と模索してきたという。

「その結果が『AI受診相談ユビー』提供の動機です。AI問診の技術を活かし、不安に苛まれる人を適切な医療に案内することで、感染防御が困難な地域の医療機関や、多数の患者が押し寄せる病院での感染のリスクを減らし、医療崩壊を防ぐ一助となれたら」(阿部氏)

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンラインでの医療相談サービスは注目を集めている。LINEヘルスケアやメドビア子会社Mediaplatなどがオンライン医療相談サービスを提供。これらは医師による対応なのに対し、UbieではAIが受診前のスクリーニングを行う点が特徴だ。

(文・滝川麻衣子)

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