リモートワーク拡大を受けてユーザー数を爆増させたビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」のエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)。
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- 新型コロナウイルスの大流行とそれに続くリモートワークの増加は、コラボレーションとコミニュケーションを円滑化するアプリへのニーズを劇的に拡大した。
- 最も恩恵を受けたのがズーム(Zoom)で、法人向けと一般個人向けがいずれも伸びて、ユーザー数はいまや全世界で3億人を超える。
- スラック(Slack)とマイクロソフトのチームズ(Teams)も大幅にユーザーを増やした。
- これらのアプリの急成長を示す4つのグラフを見てみよう。
ズーム、スラック、チームズは短期間でユーザー数を一気に増やした。
ズームは前代未聞の勢いで認知度を拡大し、在宅勤務が必要な企業の従業員だけでなく、いわゆる「ズーム飲み」やオンライン授業、オンラインヨガ、ユダヤ教の祝祭(過ぎ越し)まで、さまざまな個人向け用途でも使われている。
チームズとスラックもユーザー数を増やしたが、いずれも在宅勤務を必要とする企業のユーザーが中心だ。フューチュラム・リサーチのアナリスト、ダン・ニューマンは次のように分析する。
「新型コロナの世界的大流行によって『在宅経済』が拡大し、ソーシャルディスタンシング(社会的距離戦略)が当面続くこともあり、それぞれにとって都合の良いプラットフォームを複数使い続けようと、みな手探りしているところです」
それらのアプリの急成長ぶりを示す4つのグラフを以下に紹介しよう。
Zoomは1カ月に満たない時間でデイリーアクティブユーザーを1億増やし、4月21日時点で合計3億に到達した。
Skye Gould/Business Insider
この3億人のデイリーアクティブユーザー(DAU)には有料・無料の両方が含まれる。うち1億人以上については、新型コロナウイルスの感染拡大エリアで時間制限を解除する施策を導入してから増えたユーザーだ。
ズームは当初、中国の無料ユーザーを対象に40分の時間制限を撤廃したが、その後、オンライン授業へのシフトを必要とする20カ国の初等中等教育期間(K-12)にも対象を拡大した。同時期、社会活動を行う個人や組織のユーザーも増えている。
ユーザー数の急増を受けて、ズームはデータセンターやクラウドコンピューティングへの投資などインフラ増強の必要に迫られた。結果的に事業維持コストは増えたものの、サーバ容量について、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)とオラクルから積極的なディスカウントによる支援を受けられたことで、サービス拡大は順調に進んだ模様だ。
ユーザー数増加に伴い、Zoomの株価も上昇した。
Skye Gould/Business Insider
ズームの株価は年初以来150%上昇した。4月初旬、プライバシーとセキュリティに関する問題が浮上して一時下落したものの、すぐに回復。3億DAU超えを発表した翌日の4月23日には、上場後の最高値を更新する169ドルをつけた。
新規株式公開(IPO)時の株価36ドルを大きく上回る水準で推移しているが、この評価がいつまで続くか疑問を呈する専門家も多い。
Teamsは3月中旬の1週間だけでユーザーを1200万増やし、合計4400万DAUとなった。
Skye Gould/Business Insider
チームズはチャットとビデオ、ドキュメント共有などが一体となったビジネスツールで、リモートワークの増加に合わせてユーザーを増やしている。
マイクロソフトのOffice 365は法人向けオフィスツールとして圧倒的なシェアを誇るが、チームズはそのバンドル製品。多くの企業が新型コロナの影響を受けてリモートワークの必要に迫られ、これまであまり需要のなかったビデオ会議ツールを使うことにした、そんな動きがみてとれる。
フューチュラムのアナリスト、ダン・ニューマン(前出)はこう指摘する。
「新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業は否応なく決断を迫られる瞬間があった。でも、一度決断したからには、『これからのコラボレーションのプラットフォームはこれだ、もう会議のために出かけて歩く時代じゃない、これで会議をやろう』というわけだ。ビジネスリーダーたちはみんなマイクロソフトを信頼している」
マイクロソフトは生産性向上ツールとして、個人向けにもチームズを含むOffice365をリリースする計画だ。ズームがいま抱えているようなビジネスユースとは異なる一般ユーザーを獲得できるのか、注目される。
一方、マイクロソフトが4月9日に公開したブログ記事によると、教育現場向けのチームズ(Teams for Education)は世界175カ国、18万3000学区(複数の学校を含む)で利用されており、3月31日の1日だけでも全世界で27億分(4500万時間)のミーティングが行われているという。3月前半の時点では9億分だったので、3倍に増えた計算だ。
Slackは第1四半期の半ばまでに9000社の有料会員を獲得。これは2019年第3・第4四半期の合計獲得会員数に相当する。
Skye Gould/Business Insider
スラックも世界中で大幅にユーザーを増やした。
3月中旬に米証券取引委員会(SEC)に提出した資料に、リモートワークの拡大によりユーザーが大幅に増えたことを盛り込んでいたが、その数週間後には指標となる具体的な数字を公表。2月1日から3月31日までに9000社との有料契約を結んだことを明らかにした。
スラックのスチュアート・バターフィールドCEOは、足もとの経済状況の不確定性を考慮すると、この成長がどこまで続くのかは予想できない、と警戒を怠らない。
「有料契約を結んでいる企業のなかからも、破たんしたり、レイオフを行ったり、事業規模を縮小したりしなくてはならないところが出てくるだろう。これから3カ月後にやってくる不確実性に満ちた世界の姿を予測できるスーパーコンピューターを、我々はまだ手にしていない」
バターフィールドCEOは、昨今のユーザー増はスラックのビジネスを長期的に支える力になると確信している、と話す。
(翻訳・編集:川村力)