新型コロナウイルスの感染爆発が起きたニューヨークの上空から。不動産業界にもコロナ後の「ニューノーマル」の波が押し寄せようとしている。
U.S. Air Force/Staff Sgt. Cory W. Bush/Handout via REUTERS
- 不動産業界の短期あるいは中長期的な変化について、専門家3人が話し合った。
- コロナショックを受けて、企業経営者から個人事業主まで例外なく、オフィスの使い方の見直しを迫られているという。
- 不動産業界は、ネット通販の浸透が加速していく影響を受けざるを得ない。
- ビルオーナーは、公衆衛生を向上させるテクノロジーへの投資が、自らの保有する物件の価値を高めることにつながるのかどうか思案している。
コロナショックの影響で、企業の従業員たちが在宅勤務するようになり、ネット通販の取扱量が増えた結果、かつてない量の荷物が物流センターに集まるようになっている。そしてそうした変化が、不動産業界にもさまざまな影響をもたらしている。
不動産業界に詳しい、以下の専門家たちに今後の見通しを語ってもらった。
- ピーター・ミスコヴィッチ(事業用不動産サービスJLL、マネージングディレクター)
- ミンタ・ケイ(法律事務所グッドウィンプロクター、パートナー)
- クレリア・ウォーバーグ・ピーターズ(不動産企業ウォーバーグ・リアルティ、プレジデント)
不動産の世界で昨今続いているトレンドはコロナショックによって加速する。そしてワクチンが完成すれば、ソーシャルディスタンシング(社会的距離戦略)は緩和され、そこから先にはこれまでとは異なる世界が広がるだろう……という見方では、3人とも完全に一致している。
「私たちはニューノーマルの時代に備える必要があります」(ピーターズ)
私たちはまだ危機のさなかにいるが、ニューノーマルのおおよその姿は見えてきている。
従来型のオフィスを「再創造」する
週5日オフィスに通勤する従来の働き方を見直す動きが出てきている。写真はマスクを付けて通勤するウォール街の従業員。
REUTERS/Lucas Jackson
コロナショックによって企業とその従業員はリモートワークを余儀なくされ、その結果としてオフィスの役割にも変化の兆しが見えてきている。
小売り事業者はいま地獄を見ている。外出禁止令によって人足が途絶え、多くの事業者が破たんの危機に瀕している。
新型コロナの感染爆発が起きた人口密度の高いエリアでは、密集を避けて郊外や田舎に引っ越す動きも出てきている。
事業者向けのオフィス仲介を手がけるミスコヴィッチによると、リモートワークが長期化するなかで、企業はオフィスの構築の仕方を再検討し始めているという。
「私たちはどのように働くべきなのか、見直そうという動きが強まっています」
ミスコヴィッチは、従来型のオフィスで週5日勤務することが本当に適切な働き方なのか、多くの人がいま疑問を感じていると指摘する。実際、企業はいま、ひとつの場所に偏らない働き方を模索している。VR(仮想現実)技術を活用したオフィスシェアリング、コワーキング、リモートワーク……ホテルでも仕事はできるし、方法はいくらでもある。
人々が一緒に働き、協業し、クライアントをもてなす場として、オフィスは「再創造」されようとしている、とピーターズとミスコヴィッチは口を揃える。
米カリフォルニア州でデモ展示された、熱を視覚化できるサーマルイメージングカメラ。保有するオフィスビルへの導入を検討するオーナーが増えている。
REUTERS/Nathan Frandino
オフィスビルも変化していく。ピーターズによれば、ビルオーナーはソーシャルディスタンスを確保し、ビルの公衆衛生を向上させるため、タッチレスエントリーやサーモスキャン、より高品質なHVAC(冷暖房換気空調)システムなどの導入を検討しているという。
「(ビルオーナーたちが)いますぐ結論を出すことはないと思いますが、早めに計画を進めることで競争優位性を確保できる面はあります」(ピーターズ)
ビルオーナーの判断基準は結局のところ、費用対効果なのだとケイは指摘する。
「テクノロジーはタダではありません。ビルオーナーにとって決定的に重要なポイントは、いまのところ、テクノロジーに投資してそれがどんな形で返ってくるのか、ということなのです」
そうした事情があるからこそ、ビルに付加価値をもたらすテクノロジーにこそ人気が集まる、とケイは強調する。
店舗やホテルの用途転換、郊外への移住など新たな動き
中国・武漢市内のショッピングモール。また人足が戻るのか、当面は用途転換でしのぐのか。
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ケイによると、小売り店舗やホテルが使われなくなり、オーナーはすぐにお金を生み出さないその物件を、何かに用途転換できないか検討している。
例えば、いまは空っぽのショッピングモールも、さまざまな消費者に近い有利なロケーションにあることを考えると、ネット通販の物流配送拠点として使えるかもしれない。またそうした変化によって、ネット通販の定着が進み、事業用不動産の優位性が高まっていく可能性もある。
ミスコヴィッチはまた、オフィスも小売り店舗も、それがこれからどんな用途に使われるにせよ、そこにいる人間の位置情報を取得して安全性の向上につなげるためのセンサーや人工知能(AI)テクノロジーの導入検討が進むとみている。
3人の話題は、人々が人工周密を避けて都市から郊外や田舎に移り住む可能性にも及んだ。ケイとピーターズは、間もなくそうした動きが起きてくるものの、しばらくすると都市に回帰すると指摘。とりわけ、ケイは1918年にスペイン風邪が大流行した際にも同様の動きがあったことを理由としてあげた。
トランプ米大統領は4月21日に永住権(グリーンカード)の取得手続きを60日間停止する大統領令に署名し、アメリカ国民の雇用を守るとしているが、鼎談に参加した専門家3人はいずれも、コロナショックが経済的ナショナリズムの台頭につながり、国際取引が抑制されるおそれがあるとの危惧を口にした。
「ウイルス感染に対するあらゆる恐怖が、国境の壁を高くすべきとの考えを助長しているのです」(ケイ)
(翻訳・編集:川村力)