世界中の家庭から企業までさまざまなシーンで使われるようになったZoomアプリ。デイリーアクティブユーザー(DAU)は3億を超えた。
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- オラクル(Oracle)のクレイ・マグアーク執行役副社長は、ズーム(Zoom)が利用者増に応じてコンピューティング能力を拡張する必要に迫られていることを受け、同社とクラウド分野で提携したと明らかにした。
- マグアーク氏はズームとの提携の担当責任者。 提携はわずか数週間で成立したという。
- シリコンバレーを代表する法人向けコンピューティングの巨大企業と、爆発的な急成長を遂げたビデオ会議システムのスタートアップの提携は、業界地図を一変させる影響をもたらす。
- ズームの創業者兼最高経営責任者(CEO)エリック・ユアンは、「AWSもオラクルも、こちらから頼む前にサーバー料金をディスカウントしてくれた」とBusiness Insiderの取材に答えている。
新型コロナウイルスによる危機が深刻度を増しつつあった3月、ズームはオラクルに助けを求めた。世界中で突如としてリモートワークへのシフトが起き、トラフィックが急増した。ズームに限らず、ビデオ会議サービスを展開する各社は、コンピューティング能力を急きょ拡大する必要に迫られていた。
オラクルのクレイ・マグアーク執行役員副社長(エンジニアリング・クラウドインフラ担当)はBusiness Insiderの取材にこう語った。
「ズームから手を貸してほしいと連絡がありました。われわれオラクルも『おお、素晴らしい!一緒に仕事ができるなんて』と応じ、その日にもズーム向けアプリケーションを立ち上げたわけです」
この新たな提携で、マグアークはオラクル側の担当責任者を務めた。世界的なコンピューティング企業である同社とビデオ会議を一気に普及させたホットなスタートアップの提携は、わずか数週間で劇的な成果をあげた。
マグアークによれば、世界に14万人の従業員を抱えるオラクルは、今回の提携以前からズームにとってトップクライアントの1社だった。
「オラクルは社内でズームを使っていました。逆に、ズームは今回の提携前まで、オラクルのクラウドを使っていなかったのです」
ズームは、オラクルのクラウドビジネスにおける競合相手で現在トップシェアを誇るアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のユーザーだった。米証券取引委員会(SEC)に最近提出した書類によれば、マイクロソフトのアジュール(Azure)と自社運営のデータセンターも併用している。
ズームの広報担当者は「引き続きAWSもアジュールも利用していく。オラクルとの提携は、追加のキャパシティ(容量・能力)を確保するためだ。アマゾン、マイクロソフトとの提携と同様、オラクルとの関係も継続的なものとなる」と説明してくれた。また、オラクルとの提携は約6週間前(3月中旬)だったことも明かした。
金融サービス大手DAデビッドソンのアナリスト、リシ・ジャルリアは今回の提携を次のように分析する。
「ズームがクラウドインフラのプロバイダを多様化するチャンスでもあります。各社を競わせ、有利な条件を引き出すために、この提携を使えるでしょう。同時に、もし1社のクラウドで問題が発生したとき、他のプロバイダのサービスでバックアップできることは、安全性を大きく高めることになります」
互いにメリットのある提携
Business Insiderの取材に応じた、オラクル(Oracle)のクレイ・マグアーク執行役副社長。
Oracle
新型コロナウイルスの世界的大流行により混乱が続くなか、ズームはオラクルをはじめ世界の多くの企業にとって重要なビジネスツールとなった。
オラクル「帝国」の創設者であるラリー・エリソンは、異例にも自らビデオメッセージに出演し、「社員が自宅にいながらエンジニアリング、カスタマーサポート、セールスを継続する上で必須のサービスだ」とズームを称賛している。
4月上旬、ズームのエリック・ユアンCEOはBusiness Insiderの取材に応じ、こう語っている。
「アマゾンとオラクルの双方とも、こちらから頼む前にサーバー料金をディスカウントしてくれました。AWSのアンディ・ジャシーCEOも、オラクルのサフラ・カッツCEO、ラリー・エリソン会長兼CTOも、『ズームのサービスは経済を支えているのだからわれわれも協力する』と言ってくれたんです」
隔離生活が続くなかで、仕事のみならず通夜葬儀から結婚式まで、さまざまな社会的活動を維持していかねばならず、みながそのためにズームを活用している。トラフィックは爆発的に増大し、4月21日にはデイリーアクティブユーザー(DAU)が3億に達した。1カ月足らずで1億人の新規ユーザーを獲得したことを意味する。3月下旬のDAUは2億、2019年12月末の段階ではわずか1000万だった。
冒頭のマグアーク執行役副社長はこう語っている。
「わたし自身がズームのヘビーユーザーなので、そのキャパシティを向上させるのは個人的にも重要な課題でした。正直なところ、オラクルだけでなく、世界中の多くの人々がわたしと同じようにズームを必須のインフラとして使っているのではないでしょうか。これがなかったら、同僚や友だちとつながりを保つ方法がない。隔離生活はとても暗い時間になっていたと思います」
当のズーム側も突然スポットライトを浴びるようになったことにとまどっているのが現実だ。 コンピューティング能力の拡大が必要となったこともそうだが、セキュリティ問題でも悪戦苦闘しており、グーグルなどの著名企業は社員にズームの使用を禁止している。
オラクルはすでにこうした問題に対処するための支援を始めている。
「ズームはセキュリティ問題に非常に真剣に取り組んでいる。オラクルと提携したのも、きわめて安全性と信頼性の高い状態でわれわれのアーキテクチャを利用できるようにすることが目的だ」(マグアーク執行役副社長)
ズームは、無料ユーザー向けにも、デフォルトでパスワードを必要とするように設定を変更した。ミーティングの参加者を一時待機させるウェイティングルームなどのセキュリティ機能を提供するアップデートもリリース。さらに、ビデオ会議のトラフィックが経由するデータセンターのリージョンを選択できる機能も、法人など有料会員向けに提供を始めた。
ズームのホスティングはオラクル側にもメリット
2019年4月に米ナスダック上場を果たしたZoom。中央にエリック・ユアンCEO。
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RBCキャピタルマーケッツのアナリスト、アレックス・ズーキンは、アマゾン、マイクロソフト、グーグルの3社がリードするクラウド分野において、ズームとの提携はオラクルの競争力を大きく高める効果があると指摘する。
「PR面でも大成功です。多くの企業がズームのビデオ会議を使って取締役会を開いていますが、いまやオラクルは『皆さんが使っているズームはわれわれがホストしている』と言えるわけですから」
また、DAデビッドソンのリシ・ジャルリア(前出)によれば、オラクルのクラウドインフラは業界リーダーに比べるとはるかに遅れを取っていたため、ズームのような顧客を獲得することはきわめて重要だったという。
「ズームという花形ブランドをクライアントとして獲得したことは、今後ほかのクラウドビジネスでもマーケティングに使える好材料となるでしょう」
(翻訳:滑川海彦、編集:川村力)