「会計」や「ファイナンス」に苦手意識を持っている人は少なくないでしょう。けれど、数字を読み解くスキルは今やビジネスパーソンに必須。数字が物語ることの意味合いが分かれば、企業活動や経済事象をもっと解像度高くクリアに見通せるようになります。
この連載では、大手金融機関を経て現在はスタートアップ企業のCFOを務める村上茂久さんに、日々の経済ニュースや実際の決算データを事例にしながら「会計とファイナンスを同時並行で学ぶエッセンス」を解説していただきます。
今回は、4月13日に「今期の営業赤字が1兆3500億円になる見込み」と発表したソフトバンクグループを取り上げます。ソフトバンクグループといえば、「姿形が複雑すぎてよくわからない」との声も多く聞かれるほど理解が難しい事業構造で有名。そんな同社を読み解く鍵は何なのか、そして今回の巨額営業赤字の原因とは?
「1兆3500億円の営業赤字」——。
ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)は2020年4月13日および4月30日付けのリリースで、同年3月期の営業赤字が1兆3500億円になる見込みと発表しました(図表1)。仕事柄大きな数字を見慣れている私でも、1兆円を超える営業赤字とはそうそう目にすることのない数字。かなりのインパクトに驚かされます。
2019年3月期は、スプリント非継続事業化調整後の数値として公表されている。
(出所)ソフトバンクグループ「2020年4月13日通期業績予想に関するお知らせ」(2020年4月13日)、ソフトバンクグループ「2020年4月30日通期業績予想の修正に関するお知らせ」(2020年4月30日)をもとに筆者作成。
と同時に、いろいろな疑問が湧いてきませんか? ソフトバンクGはいったいなぜこのような赤字を計上することになったのでしょうか? 先行きは大丈夫なのでしょうか? まさか倒産なんてことは……などと考えが頭をめぐります。
そこで今回は、ファイナンスと会計の視点から、ソフトバンクGの巨額の営業赤字の謎を追ってみることにします。
ソフトバンクとソフトバンクGは別物
「ソフトバンク」と聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか? 「通信や携帯事業をやっている会社」「孫正義社長」「野球の球団」、詳しい方なら「ビジョン・ファンド」などなど、実にさまざまなキーワードを連想するかもしれません。
そこで、もう少し解像度を上げて「ソフトバンク」を見ていくことにしましょう。
まず大前提として頭に入れておかなければいけないのは、今回多額の営業赤字を計上したのは「ソフトバンクG」であって、「ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンクKK)」とはまったくの別物だということです。
スマートフォン、インターネット通信事業、電気事業などを営んでいるのは「ソフトバンクKK」。Yahoo!を運営しているのは「Zホールディングス」。そして、ユニコーン企業をはじめとするスタートアップ等に投資する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の運営会社は「SBI Investment Advisers (UK) Limited」。これらをはじめとする会社の株式を保有している持株会社、それが「ソフトバンクG」です。
(出所)2020年3月期第3四半期決算「投資家向け説明会」p.3より編集部作成。
持株会社とは、他の会社を支配する目的で株式を保有する会社のことを言います。例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループは、三菱UFJ銀行、三菱信託銀行、三菱UFJ証券ホールディングスといったいくつもの金融会社の株式を保有しています。
ソフトバンクGもこれと同様です。ソフトバンクGに至っては、実に1500以上もの子会社・関連会社などを傘下に抱える一大帝国なのです。
(出所)ソフトバンクGホームページをもとに筆者作成。
ソフトバンクGの子会社は連結される
ソフトバンクGの収益源は大きく分けて3つあります。1つ目は、連結されている子会社からの収益、2つ目はソフトバンク・ビジョン・ファンドからの収益、そして3つ目は持分法が適用されている株式からの投資損益です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
筆者作成
図表4に示したように、ソフトバンクGの子会社数は1300を超えます。1300社すべての社名を載せるとそれだけで1万字を超えてしまいそうなので、ここでは同社の2019年3月期のアニュアルレポートに記載された代表的なものをご紹介するにとどめます。
(出所)ソフトバンクグループ「アニュアルレポート2019」p.203より編集部作成。
おなじみのソフトバンクKKに加え、ヤフー(現Zホールディングス)やアメリカの大手通信事業会社スプリント(※1) 、さらにはソフトバンク・ビジョン・ファンドを運営する「SBI Investment Advisers (UK) Limited」や、銀行業のジャパンネット銀行、文具の通信販売でおなじみのアスクルなどが子会社として名を連ねています。
ここで、会社の“親子関係”について整理しておきましょう。
会社法上で子会社とは、次のように定義されています。
「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう(会社法第2条第3号)」
簡単に言うと、自身が株式を保有している会社を実質的に支配している場合は、子会社となります。
次に会計上(※2)の話です。子会社は、親会社の貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)に連結されることになります。例えば、ソフトバンクKKが売上を計上した場合、親会社であるソフトバンクGとソフトバンクKKの内部取引は相殺したうえで、ソフトバンクGのP/LにソフトバンクKKの売上が計上されます。図解すると図表6のようなイメージです。
具体例として、2019年3月期のソフトバンクGのアニュアルレポートから、セグメント別の売上と営業利益を見てみましょう。
(出所)ソフトバンクグループ「アニュアルレポート2019」p.15より。
まず2019年3月期(2018年度)のソフトバンクGの売上の多くは、ソフトバンク事業とスプリント事業で占められていることがわかります。子会社の売上が「親会社に連結されてP/Lに反映される」とは、まさにこのような状況を言います。
次に、営業利益に目を向けてみましょう。すると別の姿が浮かび上がってきます。営業利益2.3兆円のうち、なんと半分以上の1.2兆円は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドおよびデルタ事業(以下、SVF事業)からもたらされていることがわかります。
不思議なのは、SVF事業は営業利益の過半を占めているというのに、「売上高」のどこを見てもSVF事業からの売上は計上されていないという事実です(図表8)。よく「ソフトバンクGの決算はわかりにくい」という声が聞かれますが、それはこのような複雑な会計処理にも由来すると言えるでしょう。
(出所)ソフトバンクグループ「アニュアルレポート2019」p.15をもとに編集部作成。
では今度は、このSVF事業についてもう少し詳しく見ていくことにします。
SVFはソフトバンクGの収益の中核
ここで、ソフトバンクGを理解するうえで大切なポイントをお伝えします。それは、ソフトバンクGの実態は、モノやサービスを売って利益を上げる「事業会社」ではなく、投資家や金融機関から資金を集めて投資活動を行う「投資会社」だということです。
そして、SVF事業におけるソフトバンク・ビジョン・ファンドは、投資会社としてのソフトバンクGの中核を担うものです。事実、2019年3月期の営業利益の半分以上をこのSVF事業が稼ぎ出しています(図表8を参照)。
と同時に、2020年3月期の1兆3500億円もの営業赤字の理由も、ソフトバンク・ビジョン・ファンドによるものです。実際、この期はSVF事業だけで1.8兆円もの営業赤字を被る見込みと発表されています。
では、ソフトバンク・ビジョン・ファンドとはいったい何なのでしょうか? これは、主に上場手前のスタートアップ企業に投資をする、ベンチャーキャピタル的なファンドです。主な投資先は、ライドシェアのUberやGrab、シェアオフィス事業を展開するWeWork(※3)、ビジネス向けチャットツールのSlack、ホテル事業を手掛けるインド発のOYOなどが挙げられます(図表9)。
(出所)ソフトバンクグループ「アニュアルレポート2019」p.19より。
では、なぜソフトバンクGはSVF事業で1.8兆円のも営業赤字を被ったのでしょうか? ここにSVF事業の秘密があります。
ソフトバンクGはなぜ巨額の営業赤字を出したのか
結論を先に言ってしまうと、SVFはソフトバンクGに連結されているからです。そのため、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先の公正価値(投資先の時価のこと)が変動すると、ダイレクトにソフトバンクGの営業利益に影響を与えるのです。
一般的にファンドは、親会社には連結されないことが多いものです。というのも、ファンドを運営する会社とファンドに出資する外部投資家は別であり、ファンドを運営する会社自身が出資することは稀だからです(※4)。では、こうした“常識”に反して、なぜSVF事業はソフトバンクGに連結されているのでしょうか?
ソフトバンク・ビジョン・ファンドは“10兆円ファンド”と称される、まさに天文学的な数字の規模感のファンドですが、実は同ファンドへの出資の多くをソフトバンクGが担っています(ソフトバンクGの他にサウジとアブダビの政府系ファンド等も投資していると言われています)。
その結果、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを実質的に支配しているのはソフトバンクGと認定され、会計上連結されているわけです。
するとどうなるか? ソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資する企業の株式の公正価値が変動した場合、ソフトバンクGは会計上、営業損益に直接的に計上することになるのです(※5、図表10)。
2019年3月期では、SVF事業はソフトバンクGのB/Sに7.1兆円計上され、P/LではSVF事業の投資先の公正価値が上昇したことで1.2兆円の営業利益が計上されていました。先ほどの図表8で見た、2019年3月期の営業利益の大半をSVFが占めるからくりがここにあります。
他方、2020年3月期においては、コロナショックの影響もあって世界中の株価は大きく下落しています。とりわけ、将来の期待に価値が大きく依存するスタートアップ企業やユニコーン企業は、相場の下落の影響をもろに受けることになりました。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先の公正価値は、四半期ごとに第三者評価機関によって再計算されます。実際、2020年3月末時点での再計算によって公正価値が大きく毀損した結果、通期でSVF 事業は1.8兆円もの営業赤字を計上することになったのです。
連結されていない株式価値が変動したら?
ここまで、ソフトバンクGの主な収益源として、(1)連結されている子会社からの収益と、(2)ソフトバンク・ビジョン・ファンドからの収益、の2つについて説明してきました。
残るもう1つの収益源は「連結されていない投資先の収益」です。ソフトバンクGの場合、ここに含まれる代表例は、なんといっても中国EC大手のアリババです。
アリババの時価総額は、なんと50兆円超。世界の時価総額ランキングではアップルやアマゾンに続く第6位に位置し、GAFAの一角をなすフェイスブックをもしのいでいます。このアリババの筆頭株主がソフトバンクGであり、アリババの株式の30%弱を保有しています。
ただし、ソフトバンクKKやZホールディングスと違って、アリババはソフトバンクGの連結子会社ではありません。ではどういう位置づけなのかというと、アリババはソフトバンクGの「持分法適用会社」に属します。
では、持分法適用会社の売上や利益は会計上、ソフトバンクGのB/SやP/Lにどのように計上されるのでしょうか?
先ほどお話しした「連結子会社」では、子会社のB/SやP/Lは親会社の財務諸表に直接計上されました。しかし持分法適用会社の場合、そのB/SやP/Lは投資会社(この例ではソフトバンクG)の財務諸表に直接計上されるのではなく、株式の持分に応じた金額が投資会社の損益に反映されます(※6)。
筆者作成
2019年3月期の決算では、ソフトバンクGにおけるアリババの持分は約2兆円(※7)で、アリババからもたらされる投資損益(持分投資損益)は、約3300億円(※8)でした。この投資損益は、ソフトバンクGが採用している会計基準であるIFRSにおいては、営業利益の段階では計上されず、営業外の損益として計上されることになります(※9)。
ここまで、ソフトバンクGの主な収益源として、(1)連結子会社からの収益、(2)ソフトバンク・ビジョン・ファンドからの収益、そして(3)持分法適用会社からの投資損益について説明してきました。それぞれの計上のされ方をざっくりまとめると、図表12のように表現できます。
筆者作成
2020年3月期に見込まれる1兆3500億円の赤字のうち、1兆8000億円は(2)SVFの投資先の公正価値の見直しによるもの。つまり、SVF事業はこの1年間を通して1兆8000億円も価値が減少したことになります。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドは2019年度も追加の投資をしているため一概には言えませんが、前期(2019年3月期)にSVF事業の公正価値は約7.1兆円だったわけですから、今期(2020年3月期)SVF事業だけで1兆8000億円の営業赤字を計上したということは、仮にSVF事業のポートフォリオが同じだと仮定したら、公正価値はざっくり25%減価したことになります。
2020年2月から3月にかけては新型コロナウイルスの影響もあり、世界の株式市場は20〜30%近く下落しました。そのことを考慮に入れると、今回ソフトバンクGがSVF事業で1兆8000億円もの営業赤字を計上したのは何ら不思議なことではありません。
ソフトバンクGは倒産してしまうのか?
1兆3500億円もの営業赤字を計上し、最終損益(親会社の所有者に帰属する純利益)は9000億円の赤字ともなれば、普通の会社なら当然「倒産」の2文字がちらつきます。ソフトバンクGは大丈夫なのでしょうか?
ここで思い出していただきたいのが、ソフトバンクGは普通の会社ではなく、実質的には「投資会社」だという点です。
そこで、ソフトバンクGのキャッシュフロー計算書(C/S)を見ることで、キャッシュの観点から同社の倒産リスクを検討してみることにしましょう(C/Sを読む際のポイントについては、本連載第9回をご参照ください)。
(出所)ソフトバンクグループ有価証券報告書をもとに筆者作成。
図表13は、直近の四半期決算となる2020年3月期第3四半期におけるソフトバンクGのC/Sです。これを見ると、ソフトバンクGは約3.7兆円の投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)を、6237億円の営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)と、約3兆円の財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)でまかなっています。
現金及び現金同等物の期末残高は約3兆8047億円となっていて、2019年3月期の3兆8585億円と比較してそれほどの増減はありません(とはいえ、500億円もの現金等が減っているわけですが、ソフトバンクGは売上高も損益も規模が桁違いなので、100億円単位の変動は“誤差の範囲”とみなしてよいでしょう)。
(出所)ソフトバンクグループ有価証券報告書をもとに筆者作成。
今期(2020年3月期)の通期決算において、SVF事業だけで1兆8000億円もの赤字を計上し、営業利益全体では1兆3500億円もの赤字を想定していますが、資金繰りという点では懸念はそれほどありません。
もちろん課題はあります。ソフトバンクGはこれまで、外部投資家から資金を調達して投資をすることで、財務CFを上手に活かしながら投資活動を行ってきました。しかし、保有する有価証券の価値がこの先も毀損すれば、これまでのように財務CFを用いた積極的な投資はできなくなる可能性があります。
保有株式価値に対する純負債の割合のことを、LTV(Loan to Value)と言います。LTVは次の式で求められます。
LTV = 純負債 ÷ 保有株式価値
本稿執筆時点でのソフトバンクGのLTVは17%。過去、私が不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、レバレッジドファイナンス業務に携わってきた経験から言うと、LTVはおおむね70〜90%程度の水準ですから、この17%という数字だけを見れば、ソフトバンクGが保有する資産の時価と比較すると借りすぎというわけではありません。したがって、現段階では負債のリスクもそこまで気にかける必要はないでしょう(※10)。
むしろ、ソフトバンクGにとって今後大きな壁となるのは、「ソフトバンク・ビジョン・ファンドがうまくいかなくなること」ではないでしょうか。
2019年3月期第1四半期の決算説明会での孫正義氏。この時点では2号ファンドについて、アップルやマイクロソフトをはじめ多くの企業や投資家が出資を検討中と説明していたが……。
撮影:小林優多郎
ファンドは通常、まず最初のファンドを作ってファンドの投資実績(投資リターン)をもとに、2号ファンド、3号ファンド……とファンドごとに投資家を募っていきます。最初の1号ファンドが成功すれば、次のファンドではより多くの投資家が集まります。これを繰り返すことで、ファンドは大きくなっていくのです。
ちょうど、新海誠監督の映画『君の名は』が大ヒットしたことで、次作の『天気の子』ではより多くのスポンサーや協賛企業がつきやすくなるのと似ています。
一方で、10兆円ファンドとも言われる1号ファンドの成績が振るわないとなると、当然、2号ファンドの調達に大きな影響が出てきて、これまでのような積極的な投資ができなくなってしまいます。スポンサーから巨額のお金を集めて映画を作ったものの、ヒットしなかったとなると、その続編の映画にはスポンサーがなかなか集まらないのと同じです。
実際、2号ファンドの調達はうまくいっておらず、目標額である1080億ドル(約11兆8500億円)の半分も満たず、さらにその大半をソフトバンクG自らが拠出する必要があるとの報道も出ています(※11)。
孫社長が言うようにソフトバンクGを投資会社とみなした場合、「投資がうまくいかない」ということは、会社としての存在意義を問われることになります。
このコロナ禍の影響は今後もしばらく長引くことが予想されます。とすると、株式相場もいっそうの荒波にさらされるでしょう。このような状況で、ソフトバンクGはどのような航海を続けていくのでしょうか?
ソフトバンクGの次回の決算発表は5月18日。当日の決算説明会の模様は同社のホームページやYouTubeでもライブ中継される予定です。今回の巨額営業赤字について孫会長がどんなプレゼンをするのか、ぜひ注目したいところです。
※1 直近では、スプリントはTモバイルとの合併により、ソフトバンクGの連結子会社から外れる予定です。
※2 ソフトバンクGは、国際財務報告基準となるIFRSを採用しています。
※3 WeWorkへはソフトバンクG本体も出資しています。なお、WeWorkはサービス名であり、運営会社はThe We Companyです。
※4 事業会社がスタートアップ企業に投資をする際に、「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)」を設立するケースが最近増えてきています。CVCでは、投資家が主に親会社の事業会社のみなので、連結されるケースは多いです。一方でソフトバンクGのように外部投資家からも多くの資金調達しているファンドを持っているものの、子会社として連結されるケースはそれほど多くはありません。
※5 ソフトバンクG以外の外部投資家の持分の総額はB/Sの負債の部で控除され、外部投資家の持分の増減額(損益)については、P/Lの営業外の損益で控除されます。
※6 持分法を適用する際にも、会計処理上、連結と同様に内部取引の消去を反映して金額を算定します。
※7 ソフトバンクG 2019年3月期有価証券報告書、p.164より。
※8 ソフトバンクG 2019年3月期有価証券報告書、p.29より。
※9 ソフトバンクGにおける営業外の損益として計上されるものとして、持分投資損益以外には、例えばFVTPL(Fair Value Through Profit or Loss)の金融商品から生じる損益、デリバティブ関連損益、貸倒引当金繰入額、持分法投資の減損損失、ローンコミットメント及び金融保証契約に係る損失等があげられます。なお、ソフトバンクGは、4月30日のリリースで2020年3月期の税引前利益と親会社の所有者に帰属する純利益を下方修正していますが、その理由は上記の営業外の損失の計上が当初想定より増えたためです。
※10 ソフトバンクGの子会社であるソフトバンクKK等の有利子負債は、上記のソフトバンクGの純負債には含まれていません。というのも、ソフトバンクKKは「ノンリコースローン」という、親会社に遡求がいかない形式での借入を行っているからです。実際のところ、不動産ファイナンスやプロジェクトファイナンス等では、ノンリコースローンの借入を通じてLTVが80%になるような案件が多く存在します。しかし、このようなケースはあくまでプロジェクト単位の話であり、親会社におけるLTVという概念を使うケースはそれほど多くはありません。そのため、通常のストラクチャードファイナンスの視点から見ると確かにLTVは低いものの、この17%をどのように解釈するかはやや難しいとも言えます。
※11 ブルームバーグ「ソフトバンクGの2号ファンド、資金調達が予想に届かない見通し」2020年2月7日。
※次回は6月5日(金)の更新を予定しています。
(執筆協力・伊藤達也、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
村上 茂久:1980年生まれ。経済学研究科の大学院を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして大手企業や地方の新規事業の開発及び起業の支援等をしている。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も実施している。