「新型コロナ経営悪化」に苦しむJリーグ。サガン鳥栖・20億円赤字は他人事じゃない

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厳しい経営状況を明かすサガン鳥栖の竹原稔社長。

オンラインによる決算会見をキャプチャ。

Jリーグがこれまでにない経営危機に襲われている。

新型コロナウイルスの影響で、2月21、22、23日の開幕節を最後に、公式戦の延期が続いているためだ。延期が始まって、2カ月が経過しているが、公式戦再開の見通しは全く立っていない。

1月期決算のクラブが多いJリーグ。4月は、ガンバ大阪(14日)、北海道コンサドーレ札幌(24日)、鹿島アントラーズ(24日)、浦和レッズ(24日)、ベガルタ仙台(25日)、サガン鳥栖(26日)などJ1のクラブたちが続々と、2019年度の定時株主総会や決算会見を行っている(一部のクラブは会見は行わず)。

そして、いくつかのクラブが、経営危機にあることを経営陣が明かし始めている。

「自転車操業」状態? 赤字20億円に苦しむサガン鳥栖

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サガン鳥栖に所属していたスペインの英雄フェルナンド・トーレス。写真は2019年2月14日、Jリーグのキックオフカンファレンスのもの。

撮影:大塚淳史

公式戦が再開できないと入場料収入やグッズ販売収入などを入ってこない。各クラブ、我慢が強いられる厳しい経営状況の中、特に危機感を募らせているのがサガン鳥栖だ。

サガン鳥栖の経営母体であるサガン・ドリームスは4月26日、定時株主総会と決算報告を開いた。2019年度(2019年2月〜2020年1月)は、純損失20億1486万円で2期連続の赤字だったことを報告した。

オンラインで記者会見に臨んだ竹原稔社長は、株主による第三者割当増資を行い、債務超過を回避したことを説明した。増資した額や筆頭株主の変更の有無については「ノー回答」(竹原社長)だった。ただ、サガン鳥栖の置かれている状況は依然として厳しい。

新型コロナウイルスの感染拡大の以前から、サガン鳥栖の経営は危ういとささやかれていた。大きな要因が、身の丈にあわなかった経営だ。

サガン鳥栖は2018年7月に、元スペイン代表のフェルナンド・トーレスという世界的な大物選手を獲得して、一気に注目が世界中から集まった。地元サポーターやサッカーファンに夢を与えた一方、トーレスの獲得にかかった費用や、8億円とも言われる破格の年俸が重くのしかかった。

トーレス以外にも、元日本代表の実力選手を移籍で獲得するなど人件費がさらに高騰していった。

「広告収入の増加に人件費を合わせてしまった」(竹原社長)

もちろん、人件費が高騰しようが、それを上回る収入があれば問題ない。

しかし、クラブ経営にとって大きな収入源であるスポンサー収入を失っていた。2019年1月に大口のスポンサーだったサイゲームスが契約を更新せず、同じく長年の大口スポンサーだったDHCも2020年シーズンでは契約を更新しなかった。

また、トーレス獲得とともにスポンサーになった3社が、トーレスが2019年8月で引退するのと共に撤退していったという。

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2019年6月23日に東京都内で行われたフェルナンド・トーレスの引退発表会見。写真左は、サガン鳥栖の竹原稔社長。

撮影:大塚淳史

2020年度の支出計画では、フェルナンド・トーレスの引退や高年俸の選手の移籍により、人件費だけで「約9億円を落とした(削減した)」(竹原社長)。しかし、それでも苦しい状況は変わらない。

今言われている無観客試合となれば、サガン鳥栖の場合、年間チケット収入約7億円の何割かを失う。第三者割当による増資で債務超過は回避できたものの、今後銀行による融資の準備や考えがあるかと問われた竹原社長は、

「存続するためにいかなる手段を使ってでも努力していく、という言い方でいいでしょうか。それが市中銀行であるとか、寄付であるのか、クラウドファンディングなのか、新しい試みなのか。サガン鳥栖は生き残ることを誓う。全ての可能性を探る」

と話し、具体的な動きについては言及しなかった。新しい大口スポンサーの候補については、

「厳密に連絡を取り合っている。しかし、2月からドンドン状況が変わっている」

と不透明な状況だ。

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サガン鳥栖の経営状況。2019年度も「売上」を大幅に上回る「支出」があり、その多くがチーム人件費だ。

決算説明で発表されたものをキャプチャ。

4月26日の会見以降、サガン鳥栖は身売りや市民クラブへの移行への可能性がささやかれているなど(広報は否定)、混迷を深めている。

Jリーグ再開延期で追い込まれるクラブたち

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鹿島アントラーズ小泉文明社長(写真右)。写真は、2020年2月5日にシンポジウムに登壇したときのもの。

撮影:大塚淳史

危機的なのはサガン鳥栖だけでない。

北海道コンサドーレ札幌も4月24日の決算会見で、売上高こそ前年度比20.4%増の約35億9982万円だったが、最終損失が1億4991万円の赤字で、2期連続の赤字となった。ベガルタ仙台は約4億3000万円の最終赤字となっている。

両チームとも1月決算で新型コロナの影響を受けていない状況での数字で、2020年度はさらに苦境に陥るのは目に見えている。北海道コンサドーレ札幌の野々村芳和社長は、コロナによる公式戦延期が続けば、10月にも資金が尽きる可能性があることを4月24日のWEB会見で明かしている。

経営が安定しているクラブも危機感を示している。浦和レッズは4月24日に、鹿島アントラーズが4月24日に株主総会と決算会見を行った。

浦和レッズは2019年度の営業収入が82億1766万円と過去最高となり、純利益が6198万円と9年連続黒字だった。一方で浦和レッズのクラブ経営陣は、

「シーズンは現在、世界を覆う新型コロナウイルスの影響もあり、経営に大きな悪影響があることは避けられないと予想されます。この危機的状況に対し、私たちはクラブ一丸となって浦和レッズの存在意義をあらためて確認し、その存続に向けて全力を尽くしていきます」(リリースより)

とリリース文のなかで危惧を表明している。

鹿島アントラーズは、売上高にあたる営業収入が67億6800万円、純利益300万円と黒字を確保したものの、メルカリの会長でもある小泉文明社長は、「夏から秋にかけて資金繰りが厳しくなるチームが出てくるはず。アントラーズも気を抜けない」と話した。

“聖域”の人件費削減に手を着ける可能性も

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Jリーグの村井満チェアマン。写真は、2020年3月9日、東京都のJFAハウスで緊急の取材対応のもの。

撮影:大塚淳史

新型コロナウイルスの収束の目処が立たない中、試合の再開時期が見通せず、多くのクラブは2020年度の計画の見直しも進められないでいる。

そもそも公式戦の全日程をこなせるかどうか。再開したとしても無観客での試合の公算が強い。これが続けば、チケット収入やグッズ販売収入を億単位で失ってしまう。Jリーグに入るDAZNなどからの高額な放映権収入・配信権収入の各クラブに分配される金額も減額される可能性もある。

考えられるのが人件費の削減だ。Jリーグの各クラブの人件費(選手、監督、スタッフなど全て含む)は、営業費用の4割から7割を占める。クラブの経営負担を削減するには大きな効果があると思われる。

海外のサッカーリーグにおいては、既にクラブの人件費に手をつけ始めている。

イングランドのプレミアリーグでは、リーグ側が非常事態期間中の給与の30%削減をリーグ所属の各クラブに呼びかけた。当然、選手側から大きな反発が出て、現在はクラブ個々が選手と交渉している。スペインの名門FCバルセロナでは同じく非常事態宣言中の給与70%削減に合意したが、その過程でもめているとの報道もある。

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2018年度のJ1クラブの決算データではあるが、多くのクラブでチーム人件費が営業費用を大きく占めていることがわかる。

Jリーグの資料より。

北海道コンサドーレ札幌の選手たちがそろって、給与の一部返納を経営陣に申し出ているが、クラブ側が受けるかどうか決まってはいない。

Jリーグの各クラブの経営陣は、原則人件費という聖域に手をつけない方向だ。ただ、その判断もいつまでもつのか。あるクラブの幹部は「夏以降には経営基盤の弱いJ2(2部)、J3(3部)のクラブから、人件費の削減に手をつけざるを得ないところが出るだろう」と指摘していた。

緊急事態宣言の延長の可能性が高まっており、Jリーグの公式戦再開はさらに延びるとみられる。各クラブはこの苦難を乗り切られるのか。

(文・大塚淳史)

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