あなたの会社は「お金を介した」依存?全員副業必須の経営がもたらした脱依存

代表取締役社長の団遊(だん・あそぶ)さん

働き方改革の一環として、厚生労働省が推進している「副業」。ワーク・ライフバランスの向上、スキルや収入のアップなど働く人たちにとってのメリットだけでなく、経営者にとっても優秀な人材の確保や企業のPRといった効果が期待されています。

しかしながら、人材や情報が流出してしまうことへのおそれ、働く人たちが一社勤務だけですでに十分忙しいこと、さらに会社に対する忠誠心が求められる日本的な仕事文化などが障壁となり、現状副業を推奨している企業はほんの一握りにすぎません。

そんな中、社員に「副業必須」を課し、さらに「コアタイムなし」「出社義務なし」「ギャラ自己申告制」などユニークな組織運営で業績と社員満足度の向上を両立させているとして注目を集めるのが、企画・編集を手がけるアソブロックです。

代表取締役社長の団遊(だん・あそぶ)さんはこう言います。

やはり1社でしか働かないとなると、個人は会社に依存しやすくなる。そして、そんな個人にどうしても会社も依存してしまう。その危うさに、若い人ほど気づき始め、行動を変えようとしている

果たして、その言葉の真意とは? 今回は団さんに、アソブロックの「全員副業」という組織のあり方を伺い、これからの時代に「会社と個人のあるべき関係性」を探ります。(取材日:2020年3月13日)

団遊(だん・あそぶ)さん

「全員副業」でも組織は実は成り立つ

——社員は副業必須、つまり「全員副業」ということになりますが、どのように組織は成り立っているのでしょうか?

そもそもアソブロックは、事業はすべてが手段であり、本質は「人が“成長”するプラットフォーム」だと捉えています。

ここでいう”成長”とは、会社の売り上げや個人の市場価値、収入ではなく、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)、幸福度が向上することを指します。平たく言えば、人生の選択肢をたくさん持っている状態、自分のやりたいことで稼げている状態、ということです。そうした人を育てるうえで欠かせない仕組みが、「副業必須」ということなんです。

アソブロックの事業は、企画・編集のほかに、新卒・社会人向けの人材研修、アイドルグループの運営、企業のオウンドメディア運営、さらには幼稚園や保育園の運営支援など多岐に渡ります。ですが、事業でも組織づくりでも、会社として最も大事にしているのはあくまで「人を育てる」ことなんです。

——そうした雇用形態や組織体制の中で、メンバーのみなさんはどのような働き方をされているのでしょう。

人それぞれ、ですね。アソブロックは出社義務なし、コアタイムもないのですが、副業先に出社義務があるメンバーは、副業先のオフィスに常駐していますし、家で働いている人もいます。ただ、みんなの共有カレンダーには、自分たちが今いる場所を記載しているので、お互いにどこで働いているかを知ることはできます。

といっても、全員が集まるのは「半期会」と「全社会」の年に2回だけ。4月と10月に宿泊型で、顔を合わせないとできない話をしています。

——顔を合わせないとできない話?

例えば、それぞれ今、なにをして、どんなことに幸せを感じているのか。双子がいるメンバーには「家庭のバランスはどう?」とかも。こういうことって、Slackでは聞きづらいですよね(苦笑)。

「そんなプライベートなことまで共有したい? する必要ある?」と思われるかもしれませんが、「人が成長するプラットフォーム」としては、お互いの今が見えるのはとても大事なことだと思っていて。

それって当然仕事のことだけじゃない。生活すべて含めて「今」ですし、そんな生活の中に実は仕事のボトルネック、それに成長の機会も潜んでいると考えているんです。

全社会の様子

全社会の様子

会社ですから、全員で顔を合わせるときも2割くらいの時間は売り上げなど業績の話もします。だけど実はそういう話題、あとは一緒に仕事を進めるだけとかなら、Slackみたいなツールを使って、テキストでやりとりするだけで十分なんです。

多くの会社は会社と個人がお金を介して依存し合っている

——「全員副業」でも仕事は回る。では、全員副業であることは「メンバーの成長」にどうつながりますか?

やはり、1社でしか働いていないと、個人は会社に依存しやすくなるんだと思います。

例えば、結婚して子どもができたりして、守らなくてはいけないものが増えていくと、多くの人はどうしても、会社や今の仕事に多少の不満や違和感を感じていても、それで相応のリターンが得られるなら耐えようとしてしまう。そして生存本能が働いて、良くも悪くもその環境にいつのまにか慣れてしまう。その結果、「お金を介した依存状態」に陥る人たちが量産されている気がするんです。

それだけじゃない。極端に会社に依存し、しかもそれがマイナスに働くと、某自動車会社のリコール隠しのように、組織の利益を守るため、一丸となって不正行為を働いたりしてしまうことも。これはつまり、会社もまた弱い立場にある個人に依存している状態、とも言えます。やはり、組織のマネジメントがどう働く環境をデザインするか、が大事だと思うんです。

——なるほど。どうすれば、働く個人はそうしたお金を介した依存状態から脱却できるのでしょう。

会社員でも、そうでもなくても、「自分のやりたいことをやれるようにしていくこと」じゃないでしょうか。そもそも、やりたいことをやれるのが、個人としては健康ですよね。

それに、これは組織が個人への依存から脱却するうえでも大切なことかもしれません。なぜなら、会社で耐えている人は、他の人にも同じように耐えることを強要してしまうんです。「自分も耐えているんだから、お前も耐えろよ」って。それは苦しいですよ。

代表取締役社長の団遊(だん・あそぶ)さん

もしこれが、自分のやりたいことに向かって、「主体的に」耐えているんなら話は別です。「別にお前は無理して頑張らんでええんちゃう?」って、まわりに強いることもないと思います。

もちろん、「自分のやりたいことをやること」と「稼げるか否か」は、まったく別の話ですよ(苦笑)。100%やりたいことで稼げたら幸せでしょうけど、最初はそれが20%、30%だけでも、とにかく自分のやりたいことをやって生きていける努力を始めることが、依存から脱却する第一歩だと思います。アソブロックの「全員副業」もそのためです。

ただ、あんまり世代論にしたくはないんですが、今の20代の人たちはそういうこと——副業によって依存先を増やし、自分の人生を生きられること——に気づいて、すでに行動を始めているんじゃないでしょうか。なかなか難しいのは、団塊ジュニア世代以上。「一社の中で」という価値観を植えつけられてきた人が多いと思うので。

メンバーに変化「iメッセージ」と「シェアード・リーダーシップ」

「全員副業」にして、メンバーに「ここにいることの意味」をより感じてもらえるようになったのか、残念なかたちでの退職が少なくなりました。幸せそうな表情をするメンバーも増えたような気がします。それもきっと、会社に依存しなくなったからなんでしょうね。

だって、例えば3社で働いていたら、もし1社つぶれても大丈夫。だから、給料のことを気にしてだれかに忖度をしなくてすむ。そうすると、会社に自分を合わせるのではなく、「私はこう思う」と「iメッセージ」で話せるようになっていく。「会社的には」「組織としては」ではなく、「私はこう思う。好きだ、嫌いだ」と。

実際、メンバーから「団さんのこのやり方は間違っている」って直球で言われるときもあるんですよ。ほかにも、「もし、自分がいま安倍首相だったら、こういうふうにすると思う」とか、会社的ではなく社会的な立場として意見を言うメンバーも増えました。居場所が他にもあるから、ためらいなく言えるんでしょうね。

代表取締役社長の団遊(だん・あそぶ)さん

それに、「全員副業」は会社としてもよかったなと思います。アソブロックに興味を持ってくれる人が格段に増えて採用に苦労することがなくなりましたし、メンバーが副業先で学んだことをシェアしてくれるから、「2社分のエッセンスを学べた。ラッキー」って(笑)。

それと、メンバーの中に「シェアード・リーダーシップ」が培われているようにも思いますね。

——「シェアード・リーダーシップ」?

特定のリーダーだけでなく、お互いにリーダーシップを持ち合い、得意分野で能力を発揮し合いながら、個人としてだけでなく、組織としてのパフォーマンスを最大化していくことです。

例えば、共有ファイルの命名規則がなく、バラバラになっているのをだれが統一するのかとか、ゴミ捨ての前日に、すでにゴミ箱が一杯になっていたとして、だれが新しい袋に取り替えるのかとか。細かいことですが、上手く回っている組織では、誰もがこういう名もなき仕事をしているんですよ。

だれからも「やりなさい」とは言われていないけど、課題に気づき、組織がよりよくまわるために自分にできることを考える。シェアード・リーダーシップは、ただ人に言われた仕事をこなしているだけでは培われません。

シェアード・リーダーシップを実践できると、アソブロックだけじゃなく、副業先や家庭でも自分にとって良いことが返ってくるんですよ。「気づいて、やってくれてありがとう」って感謝されたり、新しい仕事を頼まれたりするようにもなる。個人の幸福感も増していくでしょうね。

メンバーが「自分はこんなリーダーシップを発揮できるんだ」と気づけば、マネジャーとしてはいい意味でチームに一致団結を求めることもなくなります。そのうち「右向け、右」と言っても、「左を向く」メンバーが半分くらい出てきてくれたほうが、組織に多様性が生まれる。メンバーからしたら、「左向いたら怒られると思っていたけど、あれ、受け入れてくれるんだ」って。

「右向け、右」で全員が右を向く一致団結って、調子が良いときはいいんですが、調子が悪いとみんなで良からぬ方向に突き進んでいく、脆弱な組織になりかねませんから。

ただ、僕らもまだ模索している途中です。メンバーが自分のリーダーシップを見つけられるよう、僕にできることと言えば、その大切さを説き続けることと、「こういうとき、君がいたらこの場が楽しくなるね」と声をかけ続けること。誰かに言ってもらえることで、自分のリーダーシップに気づけることってだれにでもありますから。

会社のメンバー

メンバーのみなさんと

「みんなもう、気づき始めている」

——ここまでお話いただいたこと、「会社と個人のあるべき関係」に団さんはなぜ、気づけたのでしょう? そこにはなにか、大きなマインドシフトが必要な気がします。

アソブロックを起業して18年経つのですが、実は5年目に倒産しかけたことがあったんです。

元々は今とは真逆の考え方で、東証一部上場を目指す(笑)、売上至上主義の会社でした。「とにかくWebサイトを作りまくっていたら上場できるらしいぞ」と人を採用しまくって。メンバーのことは、まるで駒のように、「給料と社会保障を担保しているんだから、働いてくれて当たり前」みたいに思っていたんです。

代表取締役社長の団遊(だん・あそぶ)さん

そんなことをしているうちに、事業が傾き始めて大赤字が続き、メンバーに給料さえ払えない状態になりました。メンバーには「ごめんなさい」ってとにかく謝るんですけど、「もう少しやってみようよ、手伝うよ」と言ってくれる人たちがいて。当時の僕にはまったく理解できなかったんですけど、半年くらい給料なしで働いてくれた人がいたんです。

そんな中、あるメンバーが他の会社から「手伝わないか?」と誘われて、僕に「いいですか?」と確認しに来たんです。13年前は副業なんてありえませんでした。それに、僕も感情的にはうち専属でいてほしかった。だけど、給料を払えていない手前、どうこう言える立場じゃないですよね(苦笑)。

そうして最初の副業が始まったんです。ただそのうち、副業を始めた彼が会議で話すことが変わってきたんです。「それは団さんが古い考えにとらわれているだけ」とか。それだけじゃなくって、2社居場所があるからかなんとなく幸せそうで。いまみたいに論理的には説明できなかったけれど、「副業って人を幸せにするんだな」と感じました。

それで、経営が持ち直して来たころ、会社としても、粗利が高いものではなく自分たちがやりたい仕事を選んでいくように体質を変えました。次第にメンバーの愚痴が減り、社長としても「こういう空間のほうがええなあ」って思えたんです。それに、僕は一度自己破産しかけて、死にかけたようなものですし、どうせなら「ここにいる人が幸せでいてくれるならそれでええかな」って(苦笑)。

ちなみに、メンバーに給料を満額払えるようになったとき、副業を止めてもらうかどうか、正直悩みました。だけど、副業で彼らの意識が変わって、生産性も上がっていたし、なのに「副業を止めてくれ」というのはお門違いだな、と。気づいたら、副業先で月10万円の報酬をもらっていた人は、倒産寸前のときより収入が10万円増えたかたちになっていました。

もし、僕にいわゆるカリスマ社長みたいな、社員に「右向け、右」と言えるような才能があれば、アソブロックはこうはなっていなかったかもしれません(苦笑)。

——大きな転機ですね。

はい。たしかに、「いま自分は会社に依存しているかどうか」なんて、実際に勤めている会社がつぶれないことには、分からないのかもしれません。ただ、経営者として言いたいのは、今時そんな安定した会社なんて少ないということ。そのことに、みなさんもう、気づき始めているのではないでしょうか。

代表取締役 団遊さん


PROFILE
アソブロック株式会社 代表取締役 団遊
「人の成長に資する場づくり」をポリシーに、業態様々な7つの会社の経営に携わる一方で、「社会課題を創造的に解決する」をモットーに様々なプロジェクトを手がける。元は雑誌の編集者。立命館アジア太平洋大学では、それぞれの人生のビジョンを考えるキャリアの授業を展開。独自の経営手法が、働き方改革の流れで注目され全国で講演も行う。

[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

iXキャリアコンパスより転載(2020年4月24日公開の記事)

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