「早く、大量生産できる」新型コロナ国産ワクチン、年内供給を目指す。開発者に最新状況を聞いた

ワクチン開発

世界中で新型コロナウイルスに対するワクチンの開発が進められている。

Pedro Vilela/Getty Images

世界中で流行が続く、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。その治療薬やワクチンの開発は急務とされている。

世界保健機関(WHO)の報告では、世界で70を超えるワクチンの開発プログラムが進んでいる。

日本でも3月5日、大阪大学と大阪大学発のバイオベンチャー「アンジェス」が、従来のワクチンとは異なる「DNAワクチン」という手法を用いたワクチンの開発に取り組むことを表明。3月24日には、動物実験用の原薬の開発に成功している。

アンジェスの創業者であり、DNAワクチンの開発に取り組む大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の森下竜一教授に、DNAワクチンの開発状況、そして今後の対コロナ戦略について話を聞いた。

森下竜一教授

森下教授はアンジェスの創業者。現在は同社のメディカルアドバイザーを務めている。

提供:森下竜一教授


世界初のプラスミドDNAを使った治療薬のノウハウを応用

—— 森下先生はどのような研究をされているのでしょうか?

森下竜一教授(以下・森下):私は、大阪大学で血管を再生させるための遺伝子治療薬を研究していました。その実用化のために設立した会社がアンジェスです。

そこで2019年、大腸菌を培養することで得られる「プラスミドDNA」(環状のDNA)に、血管の再生に利用できる遺伝子を組み込んだ治療薬「コラテジェン」の実用化に成功しました。

意図した遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを体内に投与することで、体内で治療に必要とされる物質がつくられます。 厚生労働省から販売の認可が降り、世界初のプラスミドDNAを使った遺伝子治療薬となりました。

他にも、プラスミドDNAをベースに、血圧を上げるホルモン(アンジオテンシンII)に対する抗体をつくるDNA治療薬の開発にも取り組んでいます。高血圧のDNAワクチンです。

2020年3月には、オーストラリアで臨床試験を開始したことを報告しました。 来年には、結果が出てきます。

プラスミド

環状DNAであるプラスミドにワクチンを作る上で必要な遺伝子を加え、大腸菌に導入する。大腸菌を培養することで、この遺伝子を含んだプラスミドを大量に得ることができる。

提供:アンジェス

——なぜ、今回新型コロナウイルスのワクチン開発レースに参加できたのでしょうか?

森下:アンジェスは以前、アメリカのバイオテック「バイカル」に出資していました。

バイカルは、エボラウイルスや鳥インフルエンザウイルスに対するDNAワクチンを開発しており、鳥インフルエンザウイルスが流行しかけたときに一緒に仕事をしていたんです。

そのときの開発ノウハウと、アンジェスが実際に世界ではじめてプラスミドDNAを用いた遺伝子治療薬を製作したノウハウがあったため、迅速に新型コロナウイルスのワクチン開発をスタートできました。

新型コロナウイルス用DNAワクチン

プラスミドDNAに新型コロナウイルスの表面にあるタンパク質の一部を作り出すような遺伝子を組み込み、体内に投与する。体内で目的のタンパク質が作られると、免疫システムはそのタンパク質を排除対象として認識する。その結果、ウイルスが体内に侵入してくると、表面にあるタンパク質を目印にして排除されるようになる。

生産にはタカラバイオさんにも協力いただくなど、現在は複数の企業連合のような形で開発を進めています。人工知能(AI)を利用して、第2世代のDNAワクチンの開発にも着手しています。

shutterstock_1643947495

コロナウイルスのイメージ。開発中のDNAワクチンでは、ウイルスの表面に見られる突起状の構造を作る遺伝子を導入したプラスミドを体内へ注入することを想定している。体内で遺伝子がはたらくと、それに対応できる免疫がつく。

Andrii Vodolazhskyi/Shutterstock.com

パンデミックに有効なDNAワクチン

——DNAワクチンと従来のワクチンの違いはどのような点ですか?

森下:インフルエンザワクチンなどの普通のワクチンは、不活化ワクチンや生ワクチンと呼ばれ、その開発にはウイルスそのものが使われます。

弱毒化(あるいは不活化)したウイルスを有精卵に接種して、「抗原」(ウイルスがもつ、免疫反応を引き起こすタンパク質)をつくります。それを体内に入れることで、免疫を担う「抗体」ができるという仕組みです。

この手法は確立されたものですが、開発までにウイルスを見つけてから6〜8カ月くらいかかります。 また、有精卵を使う以上、すぐに大量生産することができません。

一方で、DNAワクチンは大腸菌を増殖させれば(プラスミドDNAを増やせるので)、簡単に増産することが可能です。値段が比較的安いというのも一つの特徴です。

また、ウイルスそのものを使うのではなく、ウイルスの遺伝情報をプラスミドに挿入して利用しているため、ウイルスのゲノム情報が公開されればすぐに開発に着手できる上、安全だというのも大きなポイントです。

早期に大量生産でき、さらに安いという点が大きなメリットといえます。

新型コロナウイルスのDNAワクチンとして、アメリカのバイオテクノロジー企業のモデルナが新型コロナウイルスのDNAデータが公開されてから42日でRNAワクチン(DNAワクチンと似たタイプのワクチン)を作りました。

アンジェスは3月5日に開発を発表して、3月24日にはDNAワクチンが完成しました。20日間で作れたのは、世界最速です。

3月5日の記者会見

3月5日の記者会見でDNAワクチンの開発について報告する大阪大学の森下竜一教授。

REUTERS/Issei Kato

—— ワクチンには副作用がつきものです。どういったものが考えられますか?

森下: 副作用は2つに分けて考えられます。1つは、ワクチンで免疫をつけること自体に対する副作用。もう1つは接種するワクチンの種類ごとに生じる副作用です。

どんなワクチンでも、接種する際にADE(Antibody Dependent Enhancement)という現象が生じることがあります。ウイルスに感染しないためのワクチンを接種することで、逆にウイルスに感染しやすくなってしまう現象です。

動物実験や一部のワクチンの臨床試験で報告されていますが、詳しいメカニズムは分かっていません。

どういったワクチンを接種しても起こるため、そのリスクを踏まえてワクチンの接種対象を選ぶ必要があるでしょう。

若い人が新型コロナウイルスに感染してもあまり重症にならないのであれば、ADEが生じるリスクを避けてワクチンを接種しないほうが良いかもしれません。

一方、高齢者合併症(既往歴)を持つ人など、新型コロナウイルスに感染した場合の致死率が高い人は、ADEが生じる割合を考慮してもワクチンを接種するメリットが大きいのではないでしょうか。

また、感染する可能性が高い医療関係者に対するワクチンの接種も、デメリットを大きく上回るメリットがあるでしょう。

—— 従来のワクチンとDNAワクチンで副作用に違いはありますか?

森下:生ワクチンや不活化ワクチンといった従来のワクチンは、ウイルスそのものを使うため、副作用としてウイルスの影響が出る可能性があります。また、ワクチン内にウイルスが混じる可能性もあります。

一方、DNAワクチンについては、ほぼ副作用はないと思っています。

2019年に販売を開始したコラテジェンという血管再生のDNA治療薬でも、今回開発しているDNAワクチンと同じ仕組みを使っています。臨床試験では、比較対象となった方々との間で、DNA治療薬を使ったことで生じる重篤な副作用はみられませんでした。

予防接種

DNAワクチンといっても、従来のワクチンと同じように注射で接種される。

Tero Vesalainen/Shutterstock.com

—— 確認できる範囲では大きな副作用はなさそうということですね。では一方で、DNAワクチンの効果は従来のワクチンと遜色ないのでしょうか?

森下:DNAワクチンが安全なのは間違いないですが、抗体を作り出す能力が若干弱いとされるのが懸念点です。

だからこそ、抗体をつくる能力を上げるために、 ほかの企業と一緒に、第2世代のDNAワクチンの開発にも力を入れています。

プラスミドに組み込む遺伝子を調整したり、ワクチンと一緒に投与する「アジュバンド」と呼ばれる物質や、DNAワクチンと相性の良い抗体誘導ペプチドの研究を進めたりしています。

—— ワクチンを接種したあと、効果の持続期間はどの程度になるのでしょうか? インフルエンザのように、毎年打たなければ意味がないのでしょうか?

森下: コロナウイルスに対するワクチンは前例がないため、正直、実際にやってみないと分かりません。インフルエンザワクチンの効果は大体3カ月くらいです。

仮にコロナウイルスに対するワクチンが半年程度しかもたないとすると、毎年のように打たなければならなくなるので、少し厳しくなりますね。

—— その場合、抗体ができやすい他のワクチンを検討しなければならないということでしょうか?

森下:正直なところ、DNAワクチンなどの新しいワクチンは、パンデミックを一時的にしのぐためのものです。恒常的に打つようなものではありません。

とりあえず社会生活を維持し、その間に治療薬や通常のワクチンの開発が追いついてくるための、リリーフ役でしかありません。

DNAワクチンはパンデミック対策に向いているといえば向いていると思いますが、対策のメインとして長期間据えるのは厳しいと思っています。

実は、SARS(重症急性呼吸器症候群、コロナウイルスが原因の感染症)が流行した時に、従来の方法ではワクチンを作ることができませんでした。その際の経験などから、有精卵を使ってワクチンを作る手法だと、コロナウイルスに対するワクチンを作りにくいのではないかという話もあります。これがもし本当なら、先行きはかなり暗いです。

自国のワクチンは自国で。年内に10万人分を確保へ

渋谷

ワクチンや治療薬がなければ、ウイルスを抑え込むために、今後も緊急事態宣言のような強烈な対策を取らざるを得なくなりかねない。

撮影:竹井俊晴

—— 今後、どのようなステップで臨床試験が進んでいくのでしょうか?

森下:今、動物での試験を実施しているところです。その結果をもとに、7月からヒトへの臨床試験が行われます。 最終的な実用化に向けた試験も9月から実施する予定です。

年内には、医療従事者を中心に十数万人にワクチンを接種することを目標としています。

—— 性急な臨床試験で、安全性は十分担保されるのでしょうか?

森下:当然安全性の試験はしっかりと進めます。

また、すでにある程度安全性について確認済みのものを利用しているので、その面での心配は低いと考えています。アジュバンドなどを加えるにしても、もう臨床現場で使われている物質、承認されている物質を使う予定です。

あらためて全く新しいものを開発すると、その承認に時間がかかりすぎてしまいますから。

—— 臨床試験で効果が思うように出なければ、開発のやり直しになるのでしょうか?

森下: 第1世代でどの程度効果があるのかは分かりませんが、パンデミック用のワクチンの開発では、どうしてもそうした問題が起こります。また、仮に第1世代のワクチンを投与したときにできる抗体が少なかったとしても、ある程度の効果を見込んで接種を進めていくことになると思います。

また、効果が思うように出なくても、バックアップとして準備している第2世代のDNAワクチンがあります。第2世代の開発は、2021年の前半に間に合えば良いかなというくらいです。

—— 世界中で開発が進められていますが、日本のワクチンはどういった立ち位置なのでしょうか?

森下:モデルナやイノビオなど、アメリカの企業ではすでにヒトでの臨床試験に入っているところもあります。

ただし、アメリカで仮にうまくワクチンができたとしても、それが日本にやってくるまでには時間がかかります。まずは、自国が優先になるはずです。加えて、仮に技術を提供してもらい日本で同じものをつくろうとしても、まったく同じ結果にはなりません。

そういう意味では 複数のワクチンを並行して開発し続けるしかないと思います。少なくとも、自国でパンデミックに対応できる体制を整備しないといけません。

(文・三ツ村崇志)

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

新着記事

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み