日本でもPCR検査体制の拡充が進められているが、必要数には足りていないと言われる。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
新型コロナウイルスの症状は周知されてきた。疑わしい症状が続くならかかりつけ医か、「帰国者・接触者相談センター」に相談する。それも知られているだろう。
だが、かかりつけ医がおらず、「帰国者・接触者相談センター」に電話がつながらない場合は?
残念ながらそこから先は、自分で何とかするしかない。都市部には個人病院やクリニックが供給過剰ではと思うほどあるが、このご時世、発熱患者が断られることもあるし、GWは休診するところもある。
4月23日に38度の熱が出て、4日間下がらなかった私の実際の体験を紹介したい。
突然の発熱にタオルで口を覆う家族
体のだるさを感じたのは4月23日木曜日夕方、スーパーから帰宅し、会見で小池百合子都知事が「買い物は3日に1回」と呼び掛けるのをテレビで見ていたときだ。「スーパーの混雑は怖いけど、3日に1回は無理だなあ」とつぶやいていたら、急にだるさが襲ってきた。
ちょっと休めば落ち着くと思っていた体調は、夕食を食べているときにさらに悪化した。晩ご飯を残して居間のソファに横になって、熱を測ると37.7度。そこで夫の顔色が変わった。
「布団を敷いてあげるから、ちゃんと寝た方がいいよ」
普段使っていない部屋に来客用の布団を敷いてもらい、22時ごろ横になったときには、熱は38度を超えていた。夫と息子がタオルで口を覆いながら、飲み物を枕元に持ってきてくれた。
38度後半の発熱、病院にも行けない苦しさ
一番苦しかった頃。状況を伝えるため、息子が撮影し、私の両親に送信した。
翌日が地獄だった。熱は38度台後半に上がり、体を起こすこともできない。動けたのはトイレのときだけで、昼過ぎに夫が買ってきてくれたゼリー飲料とりんごしか口にできなかった。
前夜のうちに、息子が九州の祖父母(私の両親)に「お母さんが熱が出た」と連絡を入れたらしく、心配した両親から何件も着信とLINEのメッセージが入っていた。が、返信する気力もなかった。自宅にあった風邪薬を2回飲み、仕事関係者にだけ最低限の連絡を入れた。
これだけ熱が上がるのは15年ぶりで、「新型コロナかどうかはともかく、インフルエンザか何かウイルス性の病気じゃないか」と心配ではあった。何の予兆もなく突然、体調が崩れたのだ。
だがこの日は、病院に行くことは考えなかった。自力で歩くのは無理だったし、うちには車がない。早々にコロナを疑った息子が、ネットで調べて「受診の目安は37.5度以上の発熱が4日だってよ」と言ってきた。37.5度どころか、この日(24日)は38.2~38.7度で推移していたが、苦しくてあれこれ考える余裕もなかった。
近所のクリニックに来院を断られる
実家の親からは心配のあまり怒涛のメッセージが来た。
我が家は比較的冷静だった一方、九州に住む70代の両親は私の発熱を聞いてパニックを起こしていた。私に連絡を入れても反応がないため、テレワーク中の夫が怒涛の電話とメッセージを受けることになった。
「解熱剤はあるか。ないなら買ってきて」「あそこのドラッグストアは22時半まで開いているようだ」「食欲がないなら果物を買ってきて」「飲み物は〇〇がいい」
思いつく限りの細かな指示がその都度飛んできて、しばらくすると「買ってきたか」「熱は何度だ」「マメに報告してほしい」とメッセージが入る。
最近は、軽症の患者が自宅療養中に亡くなるとか、亡くなった後に新型コロナだったと判明するとか、そういうニュースが増えていて、両親も不安が募ったのだろう。父はさらに、私の家の近くの病院を検索し、診療予約を入れようと九州から電話した。
だが、そこで、受診を断られてしまう。病院いわく、「適切な防護措置が取れないので、インフルの検査なども含め、発熱者には対応できない。帰国者・接触者相談センターにご連絡ください」とのことだった。
父が電話を入れた病院は、実は今年初め、息子のインフルエンザで受診したことがあり、昨年秋に引っ越してきた我が家にとって、唯一の“心当たりのある”医療機関だった。
来院を断られたことで、父の不安が一層高まり、夫への電話が増えた。イライラしているのか、爆弾の絵文字が何度も送られてきた。夫も仕事と慣れない家事と看病、さらには私の実家とのコミュニケーションであっという間に混乱しきってしまった。
相談センターには100回かけても通じず
25日土曜日。起きて体温を測ると38.5度。熱は全く下がらないが体が慣れたのか、多少は動けるようになった。久しぶりに歯を磨き、人と連絡を取り始める。
私自身も、「できれば今日病院に行っておきたい。明日は日曜日で休みだし」と、布団の中からスマホで病院を探し始めた。
知っている医療機関に診療を断られたことから、「居住区 内科」「居住区 呼吸器内科」で検索し、発熱者と他の患者を時間を分けて診察する「発熱外来」を設置している病院を見つけた。だが、病院のホームページに以下のような注意書きがあった。
「発熱外来は、新型コロナの可能性が低い人だけを受診しています。当院に連絡する前に、帰国者・接触者相談センターに相談をしてください。センターから『一般の医療機関で受診』を指示された方のみ、受診できます」
同じ頃、新型コロナの入院患者を受け入れている病院で働く知人からも連絡をもらった。
「熱が出て3日目なんだけど、相談の目安が4日とあるし、どうなんだろう」
と聞くと、
「熱が高くて心配だから、3日目でも病院に行った方がいい。ただ、先に帰国者・接触者相談センターに相談した方がいいよ。オンライン診療や発熱外来に行っても、様子見てくださいと言われがちだから、センターに相談したという既成事実をつくった方がいい」
との答えだった。
「既成事実ねえ」と思いながら、布団の中から電話をかけ始めたが、想像通りつながらない。
土曜日で、保健所が閉まっているから余計に混雑しているのだろう。30回かけ直してつながらない。少し休憩してまたかけ直してつながらない。数時間後、発信履歴が100回を超えたところで諦めた。既に午後になっており、多くの病院が閉まってしまったし、私も前日よりは調子が良かった(とは言え、熱は38度台後半)。
この間も、実家の親から連絡が来まくる。
「センターに100回かけたけどつながらないから、もう寝るわ」
と言うと、
「家族3人のスマホからつながるまでかけろ、諦めるな」
とのお叱り。いやいやいや、これは何の攻略ゲームなんだ。
「センターに相談を」という病院と「医者の判断を」というセンター
院内感染を恐れ、発熱者が診療してもらえないというケースが増えている。
REUTERS/Issei Kato
27日日曜日。発熱4日目だが、熱は37.5度まで下がり、体はだいぶ楽になった。代わって下痢、咳、鼻水と風邪っぽい症状が出て来た。固形物は相変わらず食べられず、下痢で水分が出ていくので、病院には行きたい。午前、帰国者・接触者相談センターに再びかけ始めた。今度は30回ちょっとリダイヤルしたところでつながった。それまで全くつながらなかったので、つながったときはびっくりしてしまった。
この原稿に書いたような症状の変化はメモ書きしていたが、それは必要なかった。23日から熱が下がらないことを伝えると、以下のことを聞かれた。
- 最近感染拡大国に行ったか→いいえ
- 感染者と直接接触したか→たぶんいいえ
- 基礎疾患があるか→いいえ
- 息苦しさはあるか→熱が高くて全身きついのでよく分からない
たぶん、この4つに当てはまらないと、センターの網からは外れる。そこまで確認されたところで、それ以上の質問はなく「こちらでPCR検査に直接紹介できないので、お近くの病院に行って、お医者さんに判断してもらってください」というようなことを言われた。
想定された対応ではあるけど、さすがに私も一言言わずには言われなかった。
「病院には、『センターに判断してもらって、一般病院に行けと言われたら電話してください』と言われるんです。だから昨日はそちらに100回以上かけてつながりませんでした」
センターの人は申し訳なさそうに、
「それは本当にすみません。最近、病院に診療を断られたという話も増えていますが、センターから一般の医療機関受診を指示されたと言えば大丈夫ですので。ただ、今日は日曜日で、医療機関もあまりやっていないかもしれません」
と説明した。
熱が下がってから受診、両親も安堵
結局病院に行けたのは27日月曜日だ。病院のHPを見比べて、「発熱外来」があり、かつ「事前にセンターに電話しろ」と書いていないクリニックを見つけ、電話した。こちらはあれこれ聞かれることもなく、来院時間だけを指定された。
病院ではインフルエンザの検査を受け、レントゲンを撮ってもらった。インフルは陰性だった。医師の説明は以下のようなものだった。
「新型コロナの場合、熱はじわじわと出て、日が経ってから高熱になることが多く、あなたのようにいきなり高熱というケースはあまりない。だけど当然、コロナではないとは言えないし、コロナの場合はこれから症状が強くなる可能性があるから、薬を飲みながら自宅で安静にしてください。体調が悪化したらすぐ来て。連休で病院が閉まっていたら、救急要請してもいいから」
ここに来るまでに、病院探しに苦労したことを話すと、医師は「みんなが発熱者を拒否しているわけではないと思うけど、リスクには過敏になっているかも」ということだった。
体調を心配してくれた人たちに診察結果を説明すると、「やっぱりPCR検査はしてもらえないのね~」という反応が多かった。ただ週末の間、狂ったように電話とメッセージを送ってきた実家の両親は、「病院に行って薬をもらった」ことで相当安心したようで、それ以来おとなしくなった。
表玄関が狭すぎて裏口、裏技探す人々
週末、仕事先に体調不良を報告し、SNSに熱があることを投稿すると、数多くの助言をいただいた。「病院に早く行った方がいい」「帰国者・接触者相談センターに相談した方がいい」というアドバイスも多かったが、そこに簡単にアクセスできるなら苦労しないよ、というのが今回の率直な感想だ。
一歩踏み込んで、「センターには病状を大げさに説明した方が、きちんと対応してもらえる」という助言もあったし、「ツテはないのか」「コネはないのか」というものがあった。
国が案内している「表玄関」がマヒしているから、裏口、裏技、バイパスを探す人が現れる。そしてそれがさらなる混乱を招いている。
「ツテがある人は簡単にPCR検査を受けられる」という話も入ってきた。私も以前から気になっていたので、身近でクラスターが発生した友人知人に聞きまくって、「すぐにPCR検査を受けられた人」の詳細を調べた結果、
- かかりつけ医がPCR検査推奨派、かつ交渉力があり、保健所を説得してくれる
- 保健所を通さずPCR検査ができる大病院に、本人あるいは勤務先が何らかのツテを持っている
という2パターンは実例を確認できた。もちろん検査を受けるための症状・根拠は必要で、「特権」とまで言えるのかは微妙だが、それでも、センターと医療機関の間でたらい回しにされてしまう人が大勢いることを考えると、既に格差は存在している。
「かかりつけ医」がない不安
家族がコンビニやドラッグストアで思いつく限りの医療品、食べ物を買ってきた。
強く感じたのは、新型コロナの感染者対応において「帰国者・接触者相談センター」が代表的な窓口になっている故に、一部の病院も患者対応をセンターに丸投げしている構図だ。
病院に電話すると、「まずセンターに相談してください」と言われるので、センターの電話がパンクし、つながっても大抵は「病院に行ってください」と言われる。手形をもらうためにセンターにつないでいるような状況で、電話する側も、受ける側も非効率極まりない。
まずは今整備が検討されているPCRセンターでもっと相談の間口を広げてもらうこと、自治体ごとに「熱があっても診てくれる病院リスト」を作成して、苦労せずそこにかかれるようにしてほしい。
GW期間の5月3日から6日の4連休は多くのクリニックが休診になる。その間はセンターがさらに大渋滞することは目に見えている。コロナでただでさえ不安になっているのに、「つながらない」「行き場がない」ことはより非合理な結果を招きかねない。
新型コロナの流行で、「かかりつけ医」という言葉をかつてない頻度で聞くようになったが、20代~40代くらいだと、かかりつけ医がいない人も多いだろう。都市部では、自宅周辺にクリニックがたくさんあるから、病気になればどこかに飛び込めばいいと私も思っていた。だが今は、発熱というオーソドックスな症状で来院を嫌がられる、という状況なのだ。
かかりつけ医がいない人は、熱や咳が出ても診てもらえる病院を事前にピックアップしておくことをお勧めする。
また、特に一人暮らしの人は、1、2日動けなくても何とかなる程度に医薬品と食料品を備蓄しておいた方がいい。我が家はテレワーク生活で食べ物はたくさんあったが、熱が39度近いときには、自力で冷蔵庫を開けられず、食欲不振でヨーグルトも粥も食べられなかった。家族がいなかったら、2日間は水だけで過ごす羽目になっていただろう。
私はその後、熱が下がって「普通の風邪」のような症状が続いている。不安になっても解決手段が少ないので、「家族ではなくて、(発熱したのが)私で良かった」と考えるようにしている。
(文・写真、浦上早苗)