新型コロナが変える自治体のIT活用。大阪市職員が「オープンソース」でサイト公開した理由

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大阪市のサイトでは、情報が「個人」「事業者」などの形で分類されている。

出典:大阪市新型コロナウイルス感染対策支援情報サイト

東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」がCode for Japan(コード・フォー・ジャパン)などのITスキルの高い一般市民たちによって、異例の速度と品質で公開されたことは「シビックテックの実例」として話題を呼んだ。

これに続けとばかりに、いま大阪市の新型コロナウイルス感染症対策支援情報サイトが、同様に「異例」のデータ公開の手法をとっていることをご存知だろうか。

大阪市の新型コロナ情報サイトが異例なのは、他の自治体でも同様のサイトを簡単に解説できるように、東京都の事例と同様にどのように設計されているのかをネット上で公開する「オープンソース」という形をとっている点だ。

しかも、地元の人が見やすいように情報を整理されたこのサイトを作ったのは、大阪市役所で働く一般職員だ。

行政の職員が自らサイトを構築し、しかもオープンソースで公開する取り組みは、どのように生まれたのか?

情報を無機質に並べただけでは「誰が見んねん、と」

大阪市の新型コロナウイルス感染症対策情報サイト

大阪市の新型コロナウイルス感染症対策情報サイト。事業者向け情報を見ると、資金繰りから雇用、給付金制度など、いま会社を存続させるために必要な情報を集めた。先に進めば、給付額や対象者などを整理された情報で読むことができる。

撮影:伊藤有

同サイトは、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者や大阪市民向けに、「補助金」や「給付金」「資金繰り相談」といった公的支援へのアクセスを容易にするものだ。

一般的に、役所が行うこうした資金面の支援は全体像がわかりづらいケースがあり、「わかる人・知ってる人は使える」といったものが多い印象があるが、項目を分類して、どんな支援があるのか見つけやすくした点がまず画期的といえる。

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大阪市ICT戦略室の中道忠和さん。取材はオンラインで実施した。

撮影:横山耕太郎

このサイトを作った、大阪市ICT戦略室・ICTイノベーション担当課長の中道忠和さん(48)はこう語る。

「国や民間でコロナ支援をまとめたサイトを作っているが、大阪市民が調べる場合、他の自治体の情報はノイズになる。かといって、ただずらずらとスクロールが必要なサイトだったら『誰が見んねん』ということになる。3回クリックするだけで見たい情報にたどり着けるように設計した」

ソースコードをネット上で公開

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「GitHub」で公開されている大阪市コロナサイトの情報。

撮影:横山耕太郎

大阪市の新型コロナ情報サイトが「異例」なのは、サイトのソースコード(設計図にあたるデータ)を「GitHub(ギットハブ)」という世界中のエンジニアが活用するプラットフォーム上に公開している点だ。

誰でも見たり、複製して改良したりできるため、同様の仕組みのサイトをどの市町村でも作れる、ということになる。

また、自治体によってはこうした情報サイトのメンテナンス(更新)が課題になり得ることから、エクセルで作ったデータを読み込ませるだけでサイトの情報を更新できるようにもした。役所の事情がわかる職員だからこそのアイデアだ。

中道さんは、東京都の新型コロナ対策サイトの影響に触発され、大阪市の新型コロナ情報サイトを作成したという。

「東京都のサイトのおかげで、シビックテックが広まった。恩返しというか、東京都が切り開いたムーブメントを、拡大して、お返ししたいという思いがあった」(中道さん)

東京都の新型コロナ対策サイトは、冒頭でも触れたように、市民がIT技術を使って課題を解決するシビックテックを推進する団体Code for Japanが作成・運用を請け負った。サイトの情報をGitHubに公開し、その情報を複製したサイトが各地に誕生している。

中道さんは、過去に大阪市内のスポーツイベントを競技名や施設から調べる仕組みを作ったことがあり、今回はその仕組みを応用。約2週間で完成させた。

サイト情報の公開後、奈良県生駒市がさっそく大阪市の公開したコードを使用して生駒市のコロナ対策サイトを作成している。

「情報の公開について、自治体関係者からの反響が大きかった。少しでも役に立ててうれしく思っている」

小学5年からプログラミングに熱中

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小学生からプログラミングに親しんできた中道さん。「自然とコンピュータの仕組みを覚えられた。僕らの世代にはそういう人も結構います」と話す。

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中道さんがプログラミングを始めたのは、小学校5年の時。当時はまだ一般家庭に普及していなかったコンピューターが家に届いたことがきっかけだった。

「当時は自分でプログラミングしないとコンピューターは動かなかったので、『家で1日ゲームできる!』という感じで、ひたすらコードを写して打ち込んでいた。

そのうちオリジナルのコードを書けるようになり、その後もプログラミングは趣味でずっと続けていた」

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中道さんが開発に関わった大阪市のサイト。

提供:中道忠和さん

中道さんは大阪市立大学法学部を卒業後、大阪市役所に就職した。

総務局などを経て、2014年の大阪市ICT戦略の策定時に、手を挙げて準備チームに異動。2016年にはICT戦略室が市長直轄組織として設置された。

中道さんはこれまでも、グーグルマップ上で保育所の空きを探せるサイトを作成するなど、「市民にわかりやすく情報を伝えるためのサイト」を作ってきた。

現在、大阪市のICT戦略室は約80人。コードを書ける人は中道さんを含めて2~3人というが、他の自治体と比較しても大きな規模だという。

「勉強したらできる。するかしないかだけ」

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大阪市ICT戦略室の様子。新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務の職員もいる。

提供:中道忠和さん

「『あそこの市はできていたのに、なんでうちの市ではできないのか』。そういう事態をなくしたい。それが結果的に市民の皆さんのためになる。

テクノロジーの世界は、そもそも誰かの努力や貢献があって今の姿がある。確かに勉強はしないといけないが、勉強したらできる。あとは、するかしないかだけです」(中道さん)

東京都の新型コロナ対策サイトをきっかけに、存在感を増しているオープンソースの活用だが、全国の自治体ではまだまだ活用が進んでないのが実情だ。

各自治体で、それぞれICTの担当者を置いているものの、システムの運用保守が業務の中心になっており、人的リソースも不足しているという。

中道さんも、今回のGitHubでのオープンソース化には迷いもあったという。

「市が公開したもので問題が起きてはいけないですから。迷っていた時に、ICT戦略室長に相談したら、『やれ』と背中を押してくれた。リソースを持つ自治体が、仕組みを拡散することも使命だと思っています」

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新型コロナウイルスをめぐり、シビックテックへの注目が高まっている(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

中道さんは、全国のエンジニアに、自治体を助けてほしいと話す。

「大阪市のコロナサイトは、都の仕組みよりも情報更新のしやすさなど使いやすさを重視し、エクセルベースで表を更新することが、“運用の柱”になるように設計した。

ただ、それでも馴染みのない人にとっては難しい作業になる。知識のある市民の方が力を貸してくれれば、それが地域のためになる」

中道さんは、今後も作成したサイトをGitHubで公開していきたいと話す。

「大阪府でもスマートシティの推進を掲げており、私たちも協力していきたいと思っている。市でもやっと世の中のテクノロジーを取り入れる環境ができてきた。自治体が取り組むべき情報のIT化は、まだまだたくさんあります」

(文・横山耕太郎)

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