撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
「第3の居場所」としての副業
ゴールデンウィークが明けたものの、コロナ禍の影響により、通常業務に戻るまでにはまだまだ時間がかかりそう……という方も多いのではないでしょうか。
今回の出来事を機に、「突然仕事を失うリスク」を痛感し、副業(複業)(※)を持つことを考えた方もいらっしゃるかもしれません。
※副業(複業):ここでは、本業を中心として空いた時間にする仕事を「副業」、複数の仕事を都度バランスを調整しながら併行して行うことを「複業」とします。
政府は数年前から「働き方改革」の一環として、副業・兼業・フリーランスなどの働き方を推奨。2018~2019年には、従業員の副業を解禁する企業も増えました。
私は転職エージェントとして、企業から人材紹介の依頼を受ける立場にありますが、以前は「正社員を採用したい」というニーズが大半だったのが、現在は「業務委託でもOK」とする企業が増えています。つまり、副業(複業)者を受け入れる門戸が広がっている、ということですね。
一方、近年は最新テクノロジーを活用した商品・サービスで勝負するスタートアップ企業も増えています。スタートアップでは正社員の雇用にコストをかけられないため、副業(複業)者のスポット的サポートを求めるケースも多数。これはNPOなどでも同様です。
近年進む従業員の副業解禁。「正社員」という立場にとらわれない働き方の選択肢が広がりつつある。
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このように、ここ数年で副業(複業)しやすい環境が整ってきたと言えますが、実は私はその何年も前から、「サードパーティ(第3の居場所)」を持つことをお勧めしてきました。「会社」と「家庭」の往復にとどまらず、「第3の居場所」を持つことには大きなメリットや価値があると考えています。
それは、副業(複業)だけでなく、ボランティア、サークル、コミュニティなどの活動も含まれます。私自身、会社員時代からNPO法人の理事を務めるほか、複数の会社に「顧問」「アドバイザー」、時には「社外取締役」などとして関わってきました(今も、約10社の名刺を持っています)。
副業(複業)というと「本業以外の収入源を持ちたい」という目的で始める方も多いでしょうが、それ以外にもさまざまなメリットがあります。報酬が少なくても、時には無償であっても、「サードパーティ」で活動することで得られる価値をご紹介しましょう。
自分の会社ではできない経験を積める
転職を考えている方から、こんな声をよくお聞きします。
「今の会社で、営業として実績を挙げています。自分としては事業企画のキャリアを築いていきたいんですが、会社からは営業マネジャーになることを望まれているので、企画部門への異動は認められません。企画職に転職したいです」
この場合、企画業務未経験で企画職として転職するのはかなりハードルが高いと言えます。けれど、副業(複業)を活用することで、「企画経験者」になれる可能性はあります。
例えば、スタートアップ企業などに自身の営業のスキル・ノウハウを提供して働くと同時に、企画業務にも携わり、企画の経験を積む。スタートアップであれば人的リソースが不足しているため、マルチタスクで動いてもらうことは大歓迎です。
それが転職時の武器となって、企画職のキャリアへの道が拓けることもあります。
このように、自分のスキルを活かせる業務にコミットし成果を上げつつ、染み出すミッションにもチャレンジしていくことはキャリア開発で堅実な選択肢とも言えます。また、新しいスキルを身につけられるような副業(複業)先を選ぶことで、キャリアの幅を広げることができるというわけです。
また、今の会社で「マネジメント」の立場に就いたことがなくても、副業先の会社でアルバイトや若手メンバーの指導・育成などを担ったり、小さなプロジェクトをリードしたりすれば、「マネジメント経験」を職務経歴書に追加することができます。
実際、勤務先企業でマネジメント経験がなかった方が、プライベートで参加していたコミュニティでさまざまなメンバーのとりまとめをしていたエピソードを面接で語ったところ、「マネジメントの素養が高い」と認められ、マネジャー候補として採用された事例もありました。
異分野の人たちと関わることで視野や発想力が広がる
営業、マーケティング、IT、ウェブ、管理部門業務など、汎用的なスキルを活かして、あえて異業種の会社で副業(複業)をしてみるのも面白いと思います。
業種が異なれば発想も異なります。そこでキャッチアップした考え方やノウハウを本業の会社に取り入れることで、成果や評価アップにつながるかもしれません。
また、これまで接点がなかったような人々と交流し、人脈を広げるのも、今後のキャリアや人生のプラスになるのではないでしょうか。
本業ではなかなか知り合えない人たちと新たな接点を持てることも副業(複業)の魅力のひとつだ。
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“お試し転職”ができる
大手企業に勤務する方々からは、こんな声も多く聞かれます。
「大手企業の看板なしに、自分自身の力でどれくらいやれるのか試してみたい」
「新しいチャレンジができて、スピード感のあるベンチャー企業で働いてみたい」
ところが、安定感のある大手企業を辞めることにリスクを感じ、一歩を踏み出せない方が多いのが現実です。
大手→ベンチャーに限らず、どんな転職にもリスクはつきもの。「後悔したくない」という思いは当然誰にでもあります。
そんな時、転職前に“お試し”できるのが、副業(複業)です。車を買う前に試乗して操作性や居住性を確かめるのと同様に、興味がある会社で少し働いてみることで、仕事の進め方や風土などを体感し、自分にフィットするかどうかを確かめられるというわけです。
実際、企業に勤務しながらスタートアップ企業に副業で携わり、「自分に合う」と確信して転職に踏み切るケースは最近増えています。
また逆に、副業(複業)として別の会社で働いてみた結果、自分の会社の魅力を再認識できることも。「隣の芝生は青く見えていたけれど、うちの会社って実はいいところもいっぱいある。自分は恵まれているんだな」と、以前より自社の仕事に意欲的に取り組めるようになることもあるんです。
人から感謝され、自分の「存在価値」を実感できる
私がお会いしてきた転職希望者の方々の中には、「今の会社で評価されていない」「今の会社には自分の居場所がない」と、自信喪失状態の方もいらっしゃいます。このような時は、転職が「逃げ」の手段になってしまっていることも。
しかし、それらは本人の思い込みであり、自分の存在価値を見失うのは一時的なことにすぎないケースも多いものです。
例えば、異動によってこれまでの経験・スキルが活かせなくなったり、初めての業務になじめず成果を挙げられなかったり……。けれど、取り組み方次第でいくらでも挽回できるはずですし、安易に転職するべきではありません。
そんな状況においては、副業(複業)がリフレッシュの場になり得ます。会社でつらい思いをしている時期、家との往復だけでは思い詰めてしまいがち。しかし、「サードパーティ」——つまり「第3の居場所」があれば、気分転換ができるでしょう。
「それだったら、行きつけの飲み屋とか趣味のサークルなどでもいいのでは」と思うかもしれませんね。でも、「楽しく過ごしてストレスを解消する」だけではない効能が、副業(複業)にはあります。副業(複業)先で自分の知識・スキルを活かすことで「すごい」と褒められたり、「助かった」と感謝されたりすることです。
森本さん自身も複業の実践者。「“第3の居場所”を持つことで自分にしかできないことが確認できるのも魅力です」。
撮影:鈴木愛子
自分の会社では誰もが当たり前に持っているスキルでも、場所が変われば「自分にしかできないこと」になることもあります。
そうしたサードパーティにおいて仲間から認められ、 必要とされている実感や自分の存在価値を感じることができれば、気分がポジティブになり、本業の苦労に立ち向かうエネルギーになります。つまり、副業(複業)は、自分に誇りを持ち、自信を取り戻す手段にもなり得るということなんです。
以上、副業(複業)を持つメリットをご紹介しました。しかし、注意すべき点もあります。
まず、勤務する会社の就業規則やルールに従って行うべきであること、そして情報管理をしっかり行い、守秘義務を守ること、副業をすることで本業の生産性を落とさないようにすることなどです。
また、複数の仕事を抱えることで、時間的にも精神的にも余裕がなくなり、メンタルに支障をきたす人も。自分のキャパシティをきちんと把握するなど、セルフコントロールが大切です。
最近は、副業(複業)をしたい人と企業のマッチングサービスなども登場しています。自分の志向にフィットし、最大限の効果につながる副業(複業)先を探してみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
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※本連載の第16回は、5月18日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。