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新型コロナウイルス禍という想定外の厄災によって、図らずも働き方改革の一つの流れでもあったテレワーク、在宅勤務が急速に進むことになりました。
始まってしばらくは、もともと主張されていたメリットである効率性についての声が多くありました。SNSなどでは「なぜ、もっと早くやっておかなかったのか」「コロナが終わっても、この働き方でいいのではないか」との声は多かったように思います。
しかし、それから1カ月、2カ月と時が経ち、さらに今後何カ月続くのかわからないという状況になって、今度は実際にやってみてからこそわかったデメリット、テレワークに不安を抱く人が増えてきたようです。
「孤独感」をいかに解決するか
Zoomを始めとするオンライン会議ツールを使った「飲み会」も一般的なものになりつつある(写真はイメージです)。
撮影:小林優多郎
まず、わかりやすいデメリットは「孤独感」です。
在宅ワークは確かに作業が進むのですが、雑談も仕事仲間の笑顔もなく、人と人のふれあいがなくなって、「さみしい」と「孤独感」を訴える人が増えています。
雑談が多いチームは創造性や生産性が高いという調査もありますが、メンタルヘルスを維持する効果も実感した人が多いのではないでしょうか。そのため、「Zoom飲み」のようにオンライン会議ツールを使って、つながりながら家で飲むというようなこともちょっとした流行りになっています。
企業も、インフォーマルなコミュニケーションが維持できるように、チャットツールなどの使い方を柔軟にして、業務連絡以外の些細な雑談的な話もアリにして、リーダー自らオンライン雑談をするようにしているところも増えています。
閉鎖空間に閉じ込められると人はどうなるか
人がいなければ寂しく、人がいれば鬱陶しいと、人間関係は難しいものですが、思うに、閉鎖空間にずっといること自体に、そもそもイライラさせる要素があるので、その人の目の前にある状況に原因を押し付けて考えてしまうというのが真実ではないでしょうか。
JAXAと資生堂が共同でおこなった閉鎖空間におけるストレスに関する実験。
出典:JAXA
JAXAと資生堂が共同で行った宇宙飛行士のメンタルヘルスに関する実験では、閉鎖空間に長期間滞在するストレスによってホルモンのバランスが崩れたり、表情のゆがみが生じたりするという結果が出ました。
特殊な例ではありますが、現在の在宅ワークは、新型コロナ禍ゆえに外出も控えなければならないため、少し似ているかもしれません。
イライラの原因を間違えないように
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そう考えると、まず大事なのは、今自分がイライラしているのは、自宅に閉じこもっているために生じる物理的でフィジカルなストレスが「真因」であるということを強く認識することです。
そうでなければ、目についたものを誤って原因としてしまい、孤独な人はネットで罵詈雑言を吐いてしまったり(実際、既に、SNSは大荒れの状況です)、同居者がいる人はむやみにケンカをしたりと、無意味な摩擦を生んでしまう可能性があります。フィジカルなストレスが「真因」であるとわかっていれば、間違った対象を攻撃しなくてすみ、より本質的なストレス解消方法を探すことができます。
フィジカルなストレスのマネジメントはまさに試行錯誤中
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例えば、ストレスをフィジカルに軽減する方法として、植物を用いるというものがあります。
人間の視界の中で緑が占める割合を「緑視率」と言いますが、豊橋技術科学大学の研究によれば10〜15%程度で最もストレスが軽減され生産性が高まるとのことです。あるいは、アロマのような香りを使ったり、音楽や効果音を使ったりして、ストレスマネジメントをするのもよいでしょう。食べ物を工夫したり、運動やマッサージを行ったりすることなども効果があるかもしれません。
このあたりのフィジカルなストレスマネジメントは、早晩、専門家によってさまざまな研究がなされていくと思います。しかし、企業は「今」すぐ何かをしないといけない状態であり、実際に、私の周囲で各社の人事や経営者の皆さんは以下のように試行錯誤をしています。
「これまでやってなかった社内でのオンライン飲み会を何度かやってみたのですが、ママ社員はこれまでリアルの社内飲み会では参加難しかったのですが、リモートだとほぼ全員参加できてよかった。社員同士のオンライン飲み会の費用は会社持ちにしている」
「チームによっては、長期リモートで一体感が損なわれたり、誰が何をやってるかわからなくなるようなマネジメント上の問題が出てきたところもある。人によっては、テレワーク鬱のような症状が出ている。そのため、朝と夜の朝礼と夕礼だけ、短時間でも必ずやるようにしたり、Slackで勤怠報告だけをするチャンネルをつくったりしている」
「夫婦ともに在宅勤務の人もいるために、勤務時間がカチあって、狭い家の中でどちらがテーブルを使うかどうかでもめているような状況を聞く。
そのために、ミーティングの時間を個々の状況に合わせて早朝や夜に行うこともできるように労働時間管理を柔軟に行っている」
今後人事関係者の間で、こうしたノウハウ共有が価値をもつようになるのではないでしょうか。このようなストレスマネジメントの良い方法を発見していくことで、メンタルを平静に保ち続けることが、これから長引く可能性のある“Stay at home”を健全に生き延びるためには必要です。
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曽和利光:京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長を歴任し、2011年に株式会社人材研究所設立。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。近著に『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』。そのほか『コミュ障のための面接戦略』、『人事と採用のセオリー』などの著書がある。