非正規介護ヘルパーの独白。コロナで人手不足加速し38時間勤務。感染恐怖と媒介者になる不安

介護現場 コロナ

新型コロナウイルスは世界各国で医療現場だけでなく、多くの介護福祉現場の“崩壊”を招いている。写真のフランスでは、高齢者施設で感染が拡大、多くの死者が出た。

REUTERS

介護福祉現場にも新型コロナウイルスの感染が拡大する中、介護士たちも感染のリスクと闘っている。感染やその不安から介護士不足にも拍車がかかり、勤務も過酷を極めている。

マスク、消毒薬、手袋も底を尽きかけている現場はどういう状況なのか。感染の恐怖と戦いながら高齢者を支え続けている登録型ヘルパーの藤原るかさん(64)に話を聞いた。藤原さんは『介護ヘルパーは見た』の著書もある、30年以上の現場経験があるベテランだ。


—— このところほとんど休みがないと聞いていますが、大丈夫ですか?

施設での夜勤明けの後、そのまま3件の訪問介護をこなして、先程帰ってきました。38時間寝ていないことになります。夜勤は慣れているほうですが、それでもここまでの連続勤務はこれまでありませんでした。さっきは電車で寝落ちして数駅先まで行っちゃいました(笑)。

—— 訪問介護の現場はどのようになっていますか?

コロナウイルスが深刻になり始めた2〜3月にかけて、うつると怖いからと家族だけで面倒をみるという人が出てきました。ヘルパーは感染源になり得るので、「来ないでください」という雰囲気もあったと思います。でも自宅での介護が長引く中で、家族も疲弊し、いろいろな問題が出始めています。

昨日も家族が自宅で転倒し、介護できなくなったと短期滞在型の施設に来られた方がいらっしゃいました。特別養護老人ホームの緊急ショート(ステイ)では、感染防止のため、新しい利用者を受け入れていないので受け皿がほとんどない状態です。

不安解消には糸電話で話しかける

ヘルパー藤原さん

医療従事者向けのセミナーで話す藤原るかさん。

藤原さん提供

——「来ないで」という家族が増えたならば、ホームヘルパー(訪問介護士)の人員は足りているということではないのですか?

とんでもありません。ホームヘルパーは以前から深刻な人手不足の状態でした。平均年齢も60歳近く、持病があり、コロナ感染後のリスクが高いので休んでもらっている人も多い。子どもの学校の休校で働けない人、外国人ヘルパーで国に帰ったまま戻って来られなくなっている人もいます。

その結果、一部の人にしわ寄せが来ているのです。

デイサービス(通所介護)を閉鎖するところも出てきているので、そのスタッフを訪問介護に切り替えることも考えられますが、デイサービスと訪問介護では求められることは異なります。他人が家に入るという訪問介護では、家族と培ってきた信頼関係が重要になるので、そう簡単にはいきません。

——お年寄りの状況はどのようになっていますか? 

身体介護では、濃厚接触が避けられませんから、ウイルス対策には神経をすり減らしています。いつもならば正面に立って体を支えるところを後ろにまわることで飛沫感染を避けるようにしたり……。

マスクで表情が見えづらいことも相手を不安にしていると感じます。目ヂカラを駆使して頑張っているのですが(笑)、なかなか難しい。少しでも安心してもらおうと離れた位置に立ってマスクをはずしてニッコリ笑ってみたり、近くで話ができないので遊びで糸電話を作ってお話したり……。

認知症などで現在の状況を理解できない方や不安や孤立感を強めている方もいて、マスクで表情を隠すと不安定になるというなかなか難しい現場です。

熱がある人にも陽性疑いの人にも介護を

介護イメージ

日本では医療現場でのマスクや防護具の不足も大きな課題だ(写真はイメージです)。

写真:REUTERS

——今、一番不安なことは何ですか?

私自身、安全対策は取っていますが、いくつものお宅を行き来しなければならず、ウイルスの媒介者になってしまうのではないかという不安を強く持っています。常に神経が張りつめている感じで、「食事の味がしなくなっているのではないか」「臭いを感じなくなっているのではないか」とビクビクしながら過ごしています。

PCR検査か抗体検査を優先的に受けさせてもらえれば、大きな安心材料になるのですが、そういうこともまったくない。厚生労働省は、熱がある人や陽性の疑いのある人についても感染予防対策をとった上で介護するようにと通達を出しています。

訪問介護の現場では防護服やゴーグルはおろか、マスク、消毒液、手袋すら底をつきそうな状況です。これではまるで「竹槍で敵陣に突っ込め」というのと同じだと憤りを感じます。

——藤原さんは以前からホームヘルパーの労働環境について問題提起をしていますね。

私のように事業所に登録して働く登録型ヘルパー(非正規)の場合、介護をした時間(出来高)分の賃金のみ支給されます。これは非常に問題のある仕組みです。介護される人の状況により、身体介護や生活介護を受けられる時間が決まっているのですが、その時間で終わらない場合が多くあります。

例えば今日、私は買い物に行ったのですが、最初のスーパーには頼まれたトイレットペーパーが品切れで、スーパーをハシゴしなければなりませんでした。ようやく見つけてもレジが大混雑していて時間どおりには到底終わらない。それでもオーバーした分の時給は支払われません。

時間が足りないという事態は今に始まったことではなく、短時間で食事、入浴、排泄をこなさなければならず、話を聞く時間はほとんどありません。お話を聞けば、その時間はボランティアと覚悟するしかない状況です。以前は訪問時間は最低1時間は確保されていたのですが、2015年の介護保険改定によって20分、45分と細切れの介護が認められるようになり、ホームヘルパーの労働条件が切り下げられていったのです。

介護施設

高齢者介護の現場はコロナ危機によって人手不足がさらに深刻になっている。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

——コロナウイルスの感染拡大で、待遇も悪化しているということでしょうか?

介護労働者の待遇はコロナの前から非常に厳しい状態でした。訪問介護の場合、介護をした時間のみに賃金が発生し、移動時間や待機時間、キャンセルになった場合には一切賃金が支払われないのです。

訪問介護士の求人倍率は13倍と、介護業界は既にひどい人手不足の状態にありました。コロナ禍によって現場での介護は精神的、肉体的に過酷さを増していますが、それに対する国からの支援はほとんどありません。このような扱いでは、介護を担おうとする若い人材はいなくなってしまうのではなないかと危惧されます。一部の地域では感染のため施設が閉鎖され、介護崩壊に近い状態も出てきていますが、コロナ禍によって介護崩壊へのスピードがさらに加速化していくことが考えられます。

もう個人の努力、事業所の努力では乗り越えられないところにまで来ている……。なんとか介護士の環境を守らなければと、昨年11月、介護士の仲間と一緒に国を提訴しました(※)。私たち自身も未来のためにも、国は待ったなしのこの実態を知り、一刻も早く改善してもらわかければならないと切実に感じています。

ホームヘルパー国家賠責訴訟:藤原るかさん、伊藤みどりさん、佐藤昌子さんらベテランヘルパー3人が国を相手に起こした損害賠償請求訴訟。現在、第1回口頭弁論が終了。

(文・飯島裕子)


藤原るか:介護福祉士として30年以上高齢者等の生活をサポート。訪問介護事業所NPOグレースケア機構の登録ヘルパー。学生時代に障がい児の水泳指導ボランティアに参加したことから福祉の仕事に興味を持ち、区役所の福祉事務所でヘルパーとして勤務。介護保険スタートにあわせて退職後、訪問ヘルパーとして活動している。著書に『介護ヘルパーは見た』『介護ヘルパーはデリヘルじゃない―在宅の実態とハラスメント』。

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