「休ませてと言いづらい…」 妊娠中の働く女性コロナから保護、企業に義務付け

厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館。

厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館。

撮影:今村拓馬

厚労省は5月7日、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、感染に不安を抱える妊娠中の女性に在宅勤務(テレワーク)や休業、配置転換などの対応をとることを事業主(企業)に義務付けた。感染の不安を抱えながら働く当事者らの声が後押しした形だが、新たな措置にはまだ課題も残る。

4月に厚労省が「要請」も強制力なし

4月に厚生労働省が出した企業向けリーフレット。

4月に厚生労働省が出した企業向けリーフレット。

出典:厚生労働省

男女雇用機会均等法や労働基準法では、妊娠中や出産後の女性労働者を保護するため、事業主に対して必要な措置を義務付けている。

厚労省は4月1日、経済団体や労働団体に対して妊娠中の女性労働者に配慮するように要請。「一般的に妊婦が肺炎に罹患した場合には重症化するおそれがある」として、休みやすい環境の整備や時差出勤、テレワークを活用するように協力を求めていた。しかし、要請に強制力や罰則はなかった。

日本婦人科感染症学会によると、新型コロナウイルス感染症による妊娠中の女性の重症度、胎児の異常、流産、死産、早産、などは現時点ではまだ明らかにはなっていないが、子宮内における胎児のウイルス感染が疑われる例は報告されている。

また、妊娠中の女性はレントゲン撮影や使用できる薬剤に制限がある。新型コロナウイルスの治療効果が期待され、政府が治療薬として承認を目指す方針と報じられた「アビガン(ファビピラビル)」は、動物実験で催奇形性が確認されている。そのため、妊娠中の女性には投与できない。

当事者も声、3800人超が賛同

妊娠中の医師は「万が一コロナに罹患した場合には私だけでなく子供の命も危険にさらすことになると思うと、責任感と罪悪感の中で今後どの様に働けばいいのか葛藤しています」と訴える。

妊娠中の医師は「万が一コロナに罹患した場合には私だけでなく子供の命も危険にさらすことになると思うと、責任感と罪悪感の中で今後どの様に働けばいいのか葛藤しています」と訴える。

出典:change.org

不安を抱えながら働く妊娠中女性の保護を求める声は、当事者からあがった。

4月、新型コロナウイルス感染症が広がる中、不安を抱えながら医療活動に従事する妊娠中の医師が、配置転換や休業補償など必要な措置を求める署名活動を開始。署名サイト「change.org」での賛同者は3800人を超えた。

妊娠中の女性の感染防止を国会でとりあげた国民民主党の矢田稚子参院議員は4月7日、当事者たちから寄せられた意見を厚労省に提出。その中には、「リスクの高い中で無事に出産できるか毎日不安」「年次休暇を活用して産休を利用したいと申請したが許可されなかった」「出勤停止を政府で制限してほしい」と切実な言葉が並んだ。

こうした流れを受け、厚労省は5月7日、感染の不安やストレスを抱えながら働く妊娠中の女性にも適用できる特例規定を新たに設けた

妊娠中の女性労働者が、保健指導・健康診査を受けた結果、その作業等における新型コロナウイルス感染症への感染のおそれに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、主治医や助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合、事業主は、この指導に基づいて必要な措置を講じなければなりません。

厚労省「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について」

主治医に相談、「母健カード」に指導記入

新たな母性健康管理措置を伝える厚生労働省のリーフレット。

新たな母性健康管理措置を伝える厚生労働省のリーフレット。

出典:厚生労働省

措置には、母性管理事項連絡カード(母健連絡カード)を活用する。健診などで主治医や助産師に相談。指導を受け、指導内容を母健カードに記入してもらい、これを事業主に提出する。

事業主は、出勤の制限(休業)や感染のおそれが低い作業への転換など、適切な措置が義務付けられる。カードの提示がない場合でも、指導を受けて労働者が申し出た場合、事業主には適切な措置をとる義務がある。

厚労省雇用環境・均等局の担当者はBusiness Insider Japanの取材に、「企業が適切な措置を取らなかった場合、管轄の労働局が助言・指導・勧告を出すことができ、改善が見られなかった場合は企業名を公表できる」と説明する。

厚労省は同7日、妊娠中の医師や看護師などの医療従事者への配慮に関する通知も発表。「医療機関においても、地域における新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、妊娠中の医師、看護師等が新型コロナウイルスに感染することを防止するために休暇を取得させること等の配慮をお願いする」とした。

新たな措置も、残る不安と課題

jimi

出典:YouTube/MHLWchannel

男女雇用機会均等法に基づく拘束力を持った措置が適用されたことは、一歩前進と言えるだろう。自見はなこ・厚労政務官は「事業主に申し出れば、このカードに書かれた主治医等からの指導事項を守るために必要な措置を講じてもらうことが可能となっております」と呼びかける。

一方で、措置を受けるには妊娠中の女性本人が事業者に申請する必要があるため、医療現場など人的リソースが逼迫している職場では声をあげにくいという懸念もある。

妊婦としても、人手が足りない現場でリスクの少ない職場に変更して欲しい、休ませてほしいと積極的には言いづらい状況にあると思います。

change.org「妊娠中の医療従事者をCOVID-19から守ってください!」

休業を余儀なくされた場合には、勤務先の就業規則によっては補償がなく、収入が減る不安もある。フランスでは、感染リスクが高い妊娠中の医療従事者が休業した場合の給与補償などがあるが、国内でも母子の健康を守るため、さらなる理解と制度の拡充が求められている。

特に休業時の補償については厚労省側も課題として認識。同省雇用機会均等課の担当者は「今後議論が進む可能性がある」と述べた。

男女雇用機会均等法では、母性健康管理措置や母性保護措置を求めたことを理由に従業員を解雇するなどの「不利益取扱い」は禁止されている。

(文・吉川慧)

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