Jリーグの各クラブ情報発信を行うプラットフォーム「ONE FIELD」。
出典:ONE FIELDのトップ画面よりキャプチャー。
新型コロナウイルスの影響で2月23日以来、いまだに公式戦を再開できないJリーグに、ユニークな動きがあった。5月7日に始まった、各クラブの情報発信を支援するプロジェクト「ONE FIELD」が、それだ。ブログ型コミュニティーサービス「note」上で、Jリーグの各クラブの情報を掲載し、各クラブのサポーターやサッカーファンなどをオンラインでつながっていこうという今までにない試みだ。
Jリーグ理事が呼びかけ人も、Jリーグ非公式プロジェクト
Jリーグ理事の藤沢久美氏(最上段左上)はONE FIELDと平行して、5月8日には、「Jリーグ非公式勝手未来ミーティング」第1回オンラインサロンを開催した。
出典:5月8日の第1回オンラインサロンより。
呼びかけ人であり、Jリーグ理事の藤沢久美氏(シンクタンク・ソフィアバンク代表)は、始めるにあたっての思いを明かす。
「新型コロナウィルスの感染拡大により、試合の延期が続くなが、Jリーグを応援してくださるサポーターの方から、このままJリーグが再開されないと、サッカーとの距離が広がっていく気がするという言葉をいただき、サッカーとサポーターがこんな時こそ、何か一緒にできないかと思い、有志の皆さんに相談した結果、Project One Fieldが始まりました。
活動の第一歩は、コロナ禍における各クラブの取り組みを一元化して、各クラブに役立てていただくこと。これをきっかけに、Jリーグを愛するさまざまなステイクホルダーが繋がり、Jリーグの未来を語り合い、Jリーグの未来を共に創造していけるようなプラットフォームに、Project One Fieldが進化していけたらと素敵だと思います」
この「ONE FIELD」は藤沢氏が関わっているが、実はJリーグとしての公式の動きではない。だが、もちろんJリーグ側も歓迎している。
Jリーグの木村正明専務理事は、立ち上げに際し、コメントしている。
「藤沢久美理事の呼びかけにより、外部からJリーグを支えて頂く新たなコミュニケーションが生まれたことを心から嬉しく思います。様々な立場から忌憚ないご意見やご提案を頂くことで、我々JリーグやJクラブに刺激を与えてくださる存在になるのではないかと期待しています」
「ONE FIELD」では、全国にあるJ1(1部リーグ)、J2(2部)、J3(3部)に属する全56クラブや選手たちの、社会貢献活動、グッズ販売情報、SNSやZoomなどデジタルツールを活用したサポーターとの交流イベント、といった情報を掲載している。活動期間はJリーグの中断期間終了時までの予定としている。各クラブの取り組みなど情報をnoteでまとめるだけでなく、サポーターからJリーグへの提案をまとめ、「双方向でJリーグの未来を語り合う場所」として活用することも考えている。
ONE FIELDを約半月で形にした有志
有志の会の1人、西原雄一さん。
出典:西原雄一さんより提供。
今回のプロジェクトを支えているのが「有志の会」だ。15人からなり、Jリーグクラブの若手社員や、スポーツ関連企業に勤務する人もいるが、スポーツ業務とは無関係の企業の人や、現役の大学生も参加している。共通するのはサッカーが好きなこと。
中心メンバーの1人である西原雄一さんは、普段はIT企業に務める。しかし、西原さんはサッカーなどスポーツ好きが高じて、スポーツに関して記したnoteは人気で、スポーツセミナー等の開催にも関わっている。本業はあくまでオウンドメディアのプロジェクトマネジャーだが、そのスポーツに対する情熱が、「ONE FIELD」のきっかけとなっていった。
「4月11日に、組織開発のファシリテーターの長尾彰さんやフットサル日本代表の星翔太さんと『アフターコロナのスポーツリノベーション』というテーマでオンラインセミナーを開催しました。
30人くらいが参加してくれたのですが、その参加者の中に、藤沢さんがおられました。他にもアスリートや経営者、広告代理店などと多種多様な方が参加していました。そのセミナー後、参加者たちと一緒に、長期化するだろうコロナ問題について引き続き考えていこうと、Facebookでグループを作り、議論の場としました。どういったことが可能なのか、どういった取り組みができるのか。すると、藤沢さんが『理事会に提案してみるのでいくつか案をだしてもらえませんか』とFacebook上で投稿されたのがきっかけでした」(西原さん)
なぜ「有志の会」で情報発信するのか
そこで西原さんたちはいくつか案を練り上げて藤沢氏に渡した。そして、最終的に今回のような情報発信プラットフォームという形で始めることになった。
ここで3つ疑問がある。なぜ情報発信プラットフォームを選んだのか、なぜJリーグとしてではなく有志の会としてなのか、なぜnoteなのか。
情報発信のプラットフォームについては、有志の会に参加していた藤沢氏やJリーグクラブ関係者の問題意識からだったという。
「新型コロナウイルスの中断期間中に様々なイベントを行っているけど、どうもステークホルダーの一つである企業に伝わっていない印象を受ける。これは情報が流れていってしまっているからではないか。その情報を一箇所にストックして、一覧性を高めたり、検索やジャンル分けで簡単に見つけやすくできないか、という問題意識があったそうです」(西原さん)
「ONE FIELD」ではnoteを利用したブログスタイルである。有志のメンバーたちが、手作業で一つ一つ、各クラブの情報を投稿している。さらに、情報を見つけやすくするため、右側にはジャンル分けしてある。
ONE FIELDではジャンルごとに情報が分けてある。
出典:ONE FIELDよりキャプチャー。
選手のnoteまとめ、オンラインイベント系まとめ、選手コンテンツ系まとめ、動画配信系まとめなど9つから成り、クリックすると関連する情報が一覧表示される。
こういう形であれば、クラブのサポーターは自分の好きなチームの活動だけでなく、他チームの動きも知りやすくなり、さらにスポンサー企業のJリーグ担当者も、どんな動きがあるのか知りやすくなる。
では、なぜこういった活動をJリーグとしてではなく、有志の会として行うのか。そこにはスピードとフレシキブルさを必要としたから。
「もしこれをJリーグとして行うとなると、組織体の都合上どうしてもフレシキブルに動くには難しい面があります。どうしても時間を必要とします。であれば、Jリーグの外で有志の会という形にし、Jリーグは間接的に関わる形を取りました」(西原さん)
その結果、企画のスタートから約3週間という、異例の短期間で実現した。もしJリーグ公式で開始するとなれば、ここまでの速さでは始まらなかっただろう。
使用するプラットフォームにnoteを選んだのはなぜか。他にもFacebookやTwitterなど、あるいは自作でホームページを作るという手段もあったはず。
「有志の会の関係者にnoteの方がおられたので、相談したというのはあります。ただ、noteには広告が無いので、記事に目がいきやすい。また、マガジンという機能があって、記事を束ねることができてジャンルごとに見られますし、アーカイブできます。」(西原さん)
こういった本業を抱えながらボランティアとして関わっている西原さんたちからすると、少しでも機能性がある方が良い、という選択肢だった。
中断期間が2カ月を超えるという苦しい状況のJリーグだが、「ONE FIELD」のようなユニークな形で支える動きがあるというのは、ある意味で厚いファン層を持つからこその「底力」なのかもしれない。
(文・大塚淳史)