Shutterstock/metamorworks
こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。新型コロナウイルス感染拡大により、新しい経済(コロナコノミー)が形成されつつあります。
営業活動などを停止せざるを得なくなり打撃を受ける会社が多い中、コロナコノミーで大きく成長する会社があるのも事実です。
その1つが、デザインコラボレーションツールの「Figma(フィグマ)」です。現在企業価値が20億ドル(約2154億円)のユニコーン企業(評価額1000億円以上の未上場企業)となったスタートアップですが、どうして今、フィグマが注目されているのでしょうか。フィグマの成功事例をもとに、アフターコロナで私たちが適応しなければいけないデジタル化の話しをしたいと思います。
「クラウドで開発」のメリットを実感した3つの体験
フィグマの操作の一例。公式サイトでは動画で使用イメージを紹介している。
フィグマは、サンフランシスコに本社を置く、2012年創業のデザインコラボレーションツールを開発している会社です。UXデザイナーやUIデザイナー、ソフトウェアエンジニア向けのツールとして幅広く利用されており、私が経営するパロアルトインサイトでもプロトタイプデザインは全てフィグマで行なっています。
フィグマを導入してから機械学習のモデル開発やインフラ設計というバックエンド中心のプロジェクトに、ユーザーインターフェースをつけて最終的にどんなプロダクトになるのかを一発で伝えることが可能になり、無駄なPDCAが一切排除できるようになりました。普通のデザインソフトウェアとの大きな違いは、次のようなものです。
(1)クラウドで管理されており、ウェブブラウザー上(またはアプリ)でデザインが共有できる
世界中どこにいても、どのパソコンからもチームメンバーと作業中のデザインが共有できる。私はこの記事をGoogle Docsで書いていますが、イメージでいうとUI設計のためのGoogleDocsのようなものです。今までのデザインソフトウェアは個人のパソコンにインストールするタイプが多く、「作業中のものを共有するのが手間」「バージョン管理やコラボが大変」という手間がありましたがそれを全て解決。
(2)デザイン画の細かいところにそれぞれコメントがつけられ、チーム内でのコラボレーションが活性化する。
(3)デザイン中のプロトタイプにコメントできるため、初期段階からフィードバックを集め、意図の共有がしやすくなり、作業効率が上がる。
Airbnbなどのデザインと使いやすさを重視するプロダクトを作る会社や、リモートワーク(テレワーク)で有名なGithub、そしてバークレー大学が使っていることでも有名で、コロナ危機の真っ只中の4月末に5000万ドル(約53億円)のシリーズDの資金調達を、アンドリーセン・ホロウィッツ等のVCから終えました。
アフターコロナの「ニューノーマル」を感じさせるのは、その時の資金調達までに至るミーティングのほとんどが、Zoomで行われたらしいことです。今までは対面で投資家と会ってミーティングを重ねて投資決定に至ることが通常だったのですが、今後は、Zoomなどを通してやりとりが行われることが主流になります。
どこにいても投資家とミーティングが可能になり、シリコンバレーにいることがスタートアップとしても大きな優位性にならずに、色々なスタートアップにチャンスが訪れるだろう、とフィグマのCEOのディラン・フィールド氏は述べています。
調査:ニューノーマルの世界では「フルリモート」が定着する
Shutterstock/Intarapong
現在、自粛が続きテレワークを強いられている人も多いと思います。
リサーチ会社のガートナー(Gartner)が2020年4月に発表した統計によると、アメリカの317人のCFOに行なった調査で、74%もの会社が「アフターコロナでもフルリモートを何かしら維持する意向である」と回答しました。コロナ危機で経費削減のプレッシャーが押し寄せる中、リモートワークに移行したことで、大きく収益性が改善する可能性があることが分かったという示唆が挙げられています。中には、アフターコロナも社員の20%をフルリモートにする意向だという会社も全体の25%近くいました。
ガートナーの調査によると、74%もの企業がアフターコロナでも何らかの形のフルリモートを維持すると回答。これも「ニューノーマル」の一例だ。
出典:Gartner
フルリモート、または、半リモートという働き方がアフターコロナでも定着する可能性が高いことがデータを見ても分かります。日本企業も社員の多くがリモートになる中で新しい評価基準を作る必要性に迫られています。今までのように、顔を合わせて決められた時間内で労働力を提供しているだけでは評価されない時代になるからです。そこで今後必要になってくるのが、以下の3点ではないかと考えています。
- プロセスではなく、(作業中を含む)成果物で評価する新しい評価基準
- フィードバックをリアルタイムで与えることができる環境
- 他の社員との横の繋がりの形成
こういった環境を実現する仕組み作りです。
例えば、フィグマのようなクラウド型のコラボレーションツールを使えば、作業中のデザイン画をチームメンバーにその都度ワンクリックで共有できます。リアルタイムで誰が見ているかがデザイナーに伝わり、デザインのどこがいいのか、どこが改善すべきなのか、コメントを読めば伝わります。
エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャー、CEO、CFOなどの重要なメンバーをコラボレーションツールのメンバーに入れることで、フィードバックの幅が広がり、横の繋がりも形成されるようになります。もちろん、ツール1つで上記3つの課題が一発で解決するわけではないと思いますが、1つの事例としては参考になるのではないでしょうか。
また、GitLabというGitリポジトリー管理ツール(アプリなどのソースコード管理ツールなどDevOps工程で必要な機能を提供するフルスタック開発管理ツール)を開発する会社も、フルリモートで働くことで有名です。同社では、ミニマムバイアブルチェンジ(最小限の実行可能な変更で、数時間以内で完了できるもの)という視点から、社員のタスクを割り出すようにしています。
通常は、下書きや作業中のものが全て終わってからチームに共有してフィードバックをもらい、修正、改善と回します。ところが、作業中のものをどんどんチームに共有することで、最終成果物に至る道のりが効率的に回せる……という理念に基づいています。
フルリモート社会では「フィードバック下手」が大きな課題に
Shutterstock/Puckpao
私が日々日本の企業の皆さんと仕事をしていて感じるのが、フィードバックが少ないことです。改善してほしい点などの指摘も、ここがすごく良いという賞賛も含め、フィードバックの頻度と内容が圧倒的に不足していると感じます。
今まで対面で仕事をしていた時には顔の表情や、「何も異論がないこと=良い仕事をしたこと」というような慣習に基づく判断基準が成り立っていたかもしれませんが、リモートワークが増える今後は、そうはいかなくなると思います。
フィードバックが少ない背景には、実は良いフィードバックというのはテクニックを要するということがあります。「いいね!」という単純なフィードバックはアイコン1つで送れますが、建設的なフィードバックを与えるのは、経験とじっくりと(作業中含む)成果物を見て理解する力が必要になります。
そして、大事なのは、なるべく早くフィードバックすることです。
ハーバードビジネスレビューの2020年4月の論文では、リモートワークが進む中でフィードバックがより社員のやる気を維持するために大事になるため、毎日、その日の終わりにうまくいった点などを話す時間を設けた方がいいと書かれています。
今後、リモートワーク化がどんどん進み、多くのデジタルトランスフォメーションがなされます。まず第一にZoomやSlack、Teamsなどのツール導入をすることは良いですが、それは第一歩に過ぎません。クラウド型コラボレーションツールをどのように使いこなせば、新しい働き方に対応できるか。将来的には、自社が持つデータもどこまでクラウドに移行するのか。ここが鍵となってくるでしょう。