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コロナで広がるローカル経済圏、チリンチリン三鷹はなぜ始まったのか?

野菜売り場

三鷹市で始まった野菜配達サービス、「配達を頼んで地元を応援!チリンチリン三鷹」。

撮影:宮本恵理子

緊急事態宣言以後、ステイホーム生活が続き、外に買い物に出る頻度もめっきり減った。とはいえ、食品の消費量は増えるものだから困っていた。休校中の時間を持て余す小学生の子どもがいる上、外食は極力控えているので、自炊のための食品が2倍は必要になっている。

スーパーは混雑必至で足を向ける気にならず、とはいえネットばかりに頼るのも……。都内ではあっても三鷹市という都心から離れたエリアでは、デリバリー情報は限られる。「これがあとどれくらい続くのか……」と不便を感じていた矢先。息子の野球チーム仲間のお母さんから「義理の姉がこんなサービスを始めました」とLINEにメッセージが入った。

リンクを開いてみると、なんとも手作り感満載のホームページが。一緒に送られてきたチラシの見本には、「配達を頼んで地元を応援!チリンチリン三鷹」という題字が踊っていた。チリンチリン……?

元プロボクサーの「配達員さん」

詳しく読んでみると、コロナの影響で休業を余儀なくされたり、お客さんの来店が減少したりした店舗や事業者、給食提供がなくなるなどして作物が余ってしまう農家と、外出自粛などさまざまな事情で買い物に出掛けにくい家庭を“配達”でつなぐ新サービスだという。

注目に値するのは「配達員さん」の顔ぶれだ。スポーツ教室代表の元プロキックボクサー、同じく教室を主宰する造形工作師、フラワーデザイナーなど、やはり地域で活動する多彩な面々が顔写真付きで紹介されている。

この配達員さんもまた、新型コロナウイルスの影響でやはり営業自粛となっている地元の事業者だ。つまり、一時的な休業状態で収入が減って困っている教室運営者に「配達員」として働いてもらうという、“地域内雇用創出”の仕組みなのだ。配達に使う乗り物が自転車だから「チリンチリン」というわけか。

1000円で届く野菜のボリューム驚き

目玉焼きご飯

実際に届いた野菜セットと弁当の一例。野菜や肉などを届ける「フレッシュ便」と、弁当・惣菜を届ける「弁当便」を展開する。最新情報はFacebookの公式ページで。

撮影:宮本恵理子

配達してもらえる商品のラインナップは、朝採れ野菜6品セット(1000円)や、精肉店のおすすめお肉4種パック(約800g相当の1〜2人用で2000円)、コーヒー豆(200gで660g)、そして在宅勤務生活では立ち寄る機会がなくなった駅前の人気店のお弁当や惣菜のデリバリーも。お弁当は500円からと良心価格(価格は取材時)!

加えて、1回の注文ごとにかかる500円の配達料は、配達員への支援金になるという。買い物に困っていた私にはピッタリのサービスだったので、すぐに試しに注文。オーダーボタンを押して1時間後に、代表者からショートメールが届き、「スミマセン!野菜の収穫予定が変わって、品種が変更になりますが、よろしいでしょうか?」と。承諾の返事をした後、なんとなくほのぼのとした気分に。

翌日、指定した時間に届いた野菜のボリュームに驚いた。1週間は持ちそうな量。しかも、新鮮で味もいい。

感染予防のため「置き配」が原則となっているため、配達員さんと直接話すことはできなかったが、インターフォン越しに見えた笑顔がうれしかった。一連の体験にすっかり感動した私は、事務局の代表者がなぜこのサービスを始めるに至ったかを知りたくなった。

インタビューを申し込むと、「立ち上げに関わったメンバーもぜひ一緒に」とオンライン会議ツールを使って5人の話を聞けることに。

「最後につながろうとしても間に合わない」

配達員

配達を担当するのは、地域で教室運営などを行う事業者。休業中の“臨時ワーク”として参加。

撮影:宮本恵理子

代表の濱絵里子さん(37)は、小学5年生の子どもを育てるワーキングマザーで、一般社団法人てとて代表理事。普段は地域の居場所づくりを企画するなどの活動をしているが、もともとは訪問診療の仕事を長くしていたという。物販や配達に関わる仕事経験はゼロ。それがなぜ「チリンチリン便」の活動につながったのか?

「きっかけは、訪問診療の仕事をしていた頃に抱いた問題意識です。地域とのつながりを持たずに暮らしていた人たちが、誰にも気づかれないまま病気が悪化し、深刻な状況になってから介護サービスや訪問診療を利用するというケースがとても多くて。

若い頃から自然に地域とつながりを重ねられるきっかけをつくりたいと、3年前から地域のイベントでコーヒーを淹れて交流する活動『みたかコミュニティコーヒーマスター』を始めました」

その活動を通じて知り合ったのが、市内在住の刈谷恵さん。叔父が珈琲店を開業したのをきっかけに会社勤めを辞めて店を手伝っていた刈谷さんもまた、“地域のつながり”に課題を感じていた。

「地元で長く暮らす私たちにとって、商店街の皆は顔見知りだし、いざとなったら助け合える信頼関係は築けている。一方で、ここ10年ほどで立ったマンションに引っ越してきた新しい住民の方々とはなかなか接点がもてない歯がゆさを感じていたんです」

意気投合した2人は、1年ほど前から“地域通貨”のプロジェクトを構想。地域で発生する小さな頼みごとをギブ&テイクするアクションを記録する「通帳」まで準備でき、「さあ、いよいよスタート!」というところで、コロナが直撃。地域通貨構想はいったんお預けとなってしまった。

同時に聞こえてきたのが、収入減に苦しむ地域の自業者からの悲鳴。「まずはこれをなんとかしなければ」と突き動かされるように、チリンチリン便の構想を大急ぎで練り上げ、「行きつけのお店の店主や知り合い、思い付く人すべてに声をかけた」(濱さん)。

「うちも仲間に入れて欲しい」と問い合わせ

野菜

「遠慮せず周りを巻き込むこと」が大事だと言う濱さん。チリンチリン三鷹のサービスはどんどん大きくなっている。

撮影:宮本恵理子

着想から2週間後には農家だけで7事業者が参加することが決まっていたというから、その行動力が光る。最初は半信半疑だったお店からも、サービス開始後は「うちも仲間に入れてほしい」と問い合わせが絶えない。現在までに飲食店12店舗が参加し、注文件数は約2週間で174件を超え、ニーズに対応するために配達員は当初の3人から6人に増やした。

うまく進めるコツは?と尋ねると、「遠慮せず周りを巻き込むこと」(濱さん・刈谷さん)。チラシやSNS発信を担うのは、これまでの地域活動でつながってきた個人事業主。やはり新型コロナウイルスの影響で、仕事が減ったと聞き、濱さんから声をかけたという。

毎日配達する商品を集荷・仕分けする場所は、地元の葬儀社AZUMAが運営するイベントスペースを活用。無償でスペースを提供した同社の渡邉幸治さん(三鷹市中原)によると、「電話番として、うちのスタッフも働かせてもらえて給料が払える。雇用を止めない仕組みがありがたい」。

地元で代々農家を営む根岸隆好さん(三鷹市新川)と森屋賢さん(三鷹市北野)も、「あっという間に巻き込まれたメンバー」だ。根岸さんは刈谷さんの小学校時代の同級生で、森屋さんはJA武蔵野支部の青年部長を務める。

「農家の力だけで地域とつながるのは限界がある。異業種のいろんな人が得意なことを持ち寄って実現できたことだと思う」

三鷹に住んでいてよかった

集合写真

左から2人目が、代表の濱さん。「参加店がどんどん増えて、メニュー改訂に追われていて大忙し。うれしい悲鳴です(笑)」。※短時間の撮影時のみマスクを外しています。

撮影:宮本恵理子

注文はネットだけでなく、電話でも受け付けることにしたのは高齢者への配慮。反響が大きく、配達員も増やす予定だそう。

「うれしいのは、利用者から『三鷹に住んでいてよかった!』という感想をもらったとき。作る人も食べる人も運ぶ人も、笑顔になれるエコサイクルを作れたら。そして、誰よりも私たちが楽しむ気持ちを大切に続けていきたいです」(濱さん)

生産から消費、雇用まで、経済活動のサイクルを地域の中で小さく回していく試みは、産声を上げたばかりでサービスはまだ荒削りだ。しかし、そこから滲み出る“地域のつながりの底力”は、コロナが終息した後にも街と人を輝かせる希望の光となりそうだ

(文・宮本恵理子)

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