撮影:伊藤有
決算発表後の社長メッセージで登壇した豊田章男社長。
出典:トヨタ自動車
トヨタ自動車は5月12日、2020年3月期の通期決算を発表した。
売上高にあたる営業収益は29兆9299億円(前期比2956億円減)、営業利益2兆4428億円(同246億円減、営業利益率は前期同様8.2%)、当期純利益は2兆761億円で着地した。
2020年3月期の新型コロナウイルス関連の影響については売上高で-3800億円、営業利益で-1600億円の影響があったとする。
今期については、堅調な決算で終えた形だが、2021年3月期はどうなるのか? 質疑ではこの点に質問が集中した。
トヨタが算定した「回復のシナリオ」
トヨタは今回、2021年3月期の業績見通しを、限定的ながら具体的な数字を出して公開した。
新型コロナウイルス感染症の収束への道筋が不透明な状況が続くなかで、多くの企業が通期予想を非公開とするなかで、異例の発表といえる。
その内容は次のようなものだ。
2020年3月期895万8000台に対して、21年3月期は700万台(前年同期21.9%の台数減)
出典:トヨタ自動車
2021年3月期は売上高24兆円(同5兆9299億円減)、営業利益5000億円(同1兆9428億円減)営業利益率は2.1%
出典:トヨタ自動車
非常にネガティブな見通しを公表した形だが、質疑に応じた近健太執行役員は「市場を見通すのは非常に難しいなかで公表した」とした上で「自動車産業はOEM(で成り立っている)ということもあって、裾野が広い産業。何らかのよりどころ、基準を示すことも必要だ」と説明。ある種の叩き台となる数字を公表したという認識を示した。
気になるのは、この数字の「算定根拠」だ。
オンライン配信された通期決算説明会の模様。
出典:トヨタ自動車
決算説明資料のなかでは示していないが、質疑での近氏の回答から、トヨタが描いたシナリオが見えてくる。
「(2021年度の全体見通しとしては)4月〜6月期で6割くらい、7月〜9月期で8割くらい、10〜12月期で9割くらい、その後通常に戻っていくという前提」(近氏)
算定が困難ということで、地域別の見通しは決算資料の中では控えたが、質疑の中では、ある程度の目算を示している。
「北米は5月ごろから徐々にロックダウンなどの緩和がされている。感染収束後は、非常に強い経済で政府の強力な下支えもあり、(北米は)21年の早い段階で前年並みに戻るという前提。欧州もほぼ同様。政府の経済施策の状況もあり、7月以降、徐々に回復。21年の早い段階で前年並みに戻るという前提」(近氏)
「(現時点の実績として)中国市場は3月に8割、4月は100%の販売は達成しており、回復してきている。アメリカも4月はもっと低くなるとの計画からは、やや上積みした。(中略)アメリカ・欧州、少しずつ稼働が戻って回復の芽が見えているので、販売機会を逃さず、(試算した)前提に上積みできるように活動していきたい」(近氏)
と、2021年3月期の通期見通しは、上積みを期待する前提での、最低限の算定というような見立てだとする。
トヨタはコロナショック以後、手元資金の確保として1兆2500億円の借入を実行している。近氏は、現時点では手元資金の不足は感じていないとする一方、「(資金繰りなどが)厳しい先様(取引先)が出てきたときに、しっかりと資金供給できるように備えている」と、リスク対策の意味での調達だったとする。
自動車産業は、さまざまな下請け工場からなるサプライチェーンで成り立っている。厳しい局面になれば、周辺産業に与える経済的な影響も大きい。
その意味で、トヨタの浮沈は、日本の景気を左右すると言っても過言ではない。日本のグローバル企業の「コロナからの回復」がどうなるかは、2021年に向けて気がかりなことの1つだ。