オラクルのクラウドビジネスをけん引する経営陣。それぞれの経歴は非常に興味深い。
Oracle; Justin Sullivan/Getty Images; Olivia Reaney/Business Insider
- コロナ危機のなかで、オラクルのクラウド分野でのシェア拡大戦略が加速している。とくにズーム(Zoom)との提携は注目に値する。
- アマゾンやマイクロソフト、グーグルなど競合相手は強力だが、リモートワークへの世界的なシフトによってクラウドのキャパシティ需要も急増しており、オラクルにもチャンスが生まれている。
- クラウドビジネスで攻勢をかける上で重要な役割を果たす10人の経営陣にスポットを当ててみたい。
オラクルは過去7カ月間、いくつかの苦しい変化を経験してきた。
誰もが高く評価するベテランの共同最高経営責任者(co-CEO)マーク・ハードが病気療養中の10月に死去し、CEOはサフラ・カッツだけになった。そしていま、他の大手企業と同じように新型コロナウイルスと対峙する日々が続く。
ただ、オラクルは創業から43年という長い歴史のなかで、何度も苦しい時期を乗り越えてきた。むしろ、苦しい時期にこそチャンスをつかんできたともいえる。今回もそうだ。
コロナ危機のなかで急速にユーザーを増やしているズームは、クラウドキャパシティ拡張のためのパートナーとして、提携済みのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)ではなく、新たにオラクルを選んだ。クラウド分野でのオラクルは、アマゾンやマイクロソフト、グーグル、アリババに比べたら実績と規模で劣るプレーヤーであるにもかかわらず、だ。
オラクルがそうした強力なライバルに追いつくにはまだ遠い道のりが残されているが、米調査会社IDC社長のクロフォード・デル・プレテによれば、データセンターを増強してキャパシティを拡大する同社の戦略は成功する可能性が高いという。
「クラウド分野で今後の競争のカギを握るのは、十分なキャパシティと世界水準のアプリケーション。オラクルはその両者を提供できる数少ない企業のひとつであることは間違いありません」
オラクルを率いる共同創業者サフラ・カッツとラリー・エリソンは、クラウド分野における戦略を展開していく上で、競合のアマゾン出身のベテランを含む経営陣のコアメンバーに全幅の信頼を寄せている。
なお、同社の経営陣はほぼすべて白人で構成されており、米議会の一部の議員から(アフリカ系の役員が1人もいないなど)多様性が欠如していると批判を受けている。
オラクルのクラウド戦略をけん引する10人の経営陣を具体的に紹介しよう。
ドン・ジョンソン、オラクルのクラウドインフラのためにアマゾンから移籍
Screenshot of SiliconANGLE theCUBE/OracleOpenWorld 16
[役職]執行役副社長(クラウド・インフラストラクチャ担当)
[直属の上司]ラリー・エリソン
[解説]ジョンソンはアマゾンのクラウド事業拡大のプロセスで決定的な役割を果たし、2014年にオラクルに移籍した。
移籍後は、シアトルのクラウドエンジニアリング開発センター設立と、データセンターの拡張に貢献。また、マイクロソフトとクラウド分野での提携を成立させるという、オラクルにとって重要な戦略の推進を手がけた。
エドワード・スクリブン、1986年入社。チーフ・コーポレート・アーキテクト
Oracle
[役職]チーフ・コーポレート・アーキテクト
[直属の上司]ラリー・エリソン
[解説]オラクルが過去30年に起きたさまざまな業界構造の変化を乗り越える上で先導的な役割を果たしてきたベテラン。
クラウド市場のリーダーがアマゾンであることを認めつつ、あえてそれに追随することに意味があると主張する。2019年5月のBusiness Insiderによるインタビューで、スクリブンは次のように語っている。
「オラクルがアマゾンの後追いをしたことは事実です。アマゾンが大きなシェアを握っている現実は残念ですが、それでも多くの学びがあったのは良かった。アマゾンはマインドシェア(=世間にブランドを印象づけたこと)という最大の戦利品を得ましたが、テクノロジーについて言えば、アマゾンとの間に憂慮すべき差はありません」
スクリブンはオラクルのトップ技術者のひとりとして、同社のクラウドインフラがより安全で、より洗練された効率的なやり方でデータを扱えるよう改善することに重点を置いている。
クレイ・マグアーク、ズームとの提携合意の立役者。AWSのベテラン
Oracle
[役職]執行役副社長(クラウドインフラストラクチャ・エンジニアリング担当)
[直属の上司]ドン・ジョンソン(執行役副社長)
[解説]マグアークもAWSのベテランで、2014年にオラクルのシアトル開発チームに移籍。オラクルのクラウドビジネスにとって大きな成果といえるズームとの提携の担当者。4月にBusiness Insiderの取材に応じた際に、こう語っている。
「ズームはクラウドのキャパシティを必要としていた。力を貸してほしいという要望があったから、『素晴らしい!ズームと一緒に仕事ができるなんて』となったわけです。1日もしないうちにズーム向けのアプリケーションを組み立て、動かしました」
マグアークは、オラクルのクラウドインフラ開発の最前線を担う、クラウドエンジニアリング開発センター(シアトル、前述)の創設メンバーでもある。
アリエル・ケルマン、AWS副社長からオラクルのCMOに
Oracle
[役職]最高マーケティング責任者(CMO)
[直属の上司]サフラ・カッツ
[解説]クラウド分野でのシェア拡大を狙うオラクルにとって、最大のハードルのひとつが認知度。同社はまだマイナーなプレーヤーに過ぎない。それは言い換えれば、マーケティングの問題だ。
ケルマンが移籍してきた理由はそこにある。オラクルの役員に就任したのは2020年1月で、前職は競合相手AWSのマーケティング担当副社長。その前はセールスフォースで6年間、やはりマーケティング担当の役員を務めた。
米調査会社コンステレーション・リサーチのレイ・ワンはこう指摘する。
「オラクルにとってケルマンを引き抜いてきたのはきわめて賢い選択です。マーケットに顔が利く上、アマゾンのマーケティング戦術あるいは長期戦略にどう対抗したらいいか、よくわかっている。創業者のふたりとの意思疎通もできるし、すでにチームに飛び抜けた人材を引っ張ってくるという貢献もしている」
ユルゲン・リンドナー、SAPからオラクル上級副社長に
Oracle
[役職]上級副社長(SaaS、マーケティング担当)
[直属の上司]アリエル・ケルマン(CMO)
[解説]リンドナーはキャリアのほとんどを法人向けソフトウェア大手SAPで過ごし、オラクル製品の販売に貢献した。企業が自ら運営するデータセンター向けのソフトウェア市場では、SAPとオラクルが圧倒的なシェアを占めてきた。
オラクルがクラウドソフトウェアでのシェア獲得に乗り出した4年前、リンドナーはその取り組みをサポートするためSAPからの移籍を決めた。企業がサブスクリプション契約でアプリケーションを利用できる「ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)」も管轄している。
リンドナーは、クラウドソフトウェアの時代を戦う上でオラクルの戦略に優位性があることを、移籍してからはっきりと認識できたという。彼は2019年、Business Insiderの取材に対してこう語っている。
「オラクルは持続可能性に徹底的にこだわって、クラウドインフラとアプリケーションの構築を進めてきた」
スティーブ・ダヘブ、シトリックスからオラクルのマーケティング戦略担当役員に
Oracle
[役職]上級副社長(オラクルクラウド・マーケティング担当)
[直属の上司]アシュリー・ハート(上級副社長[グローバルマーケティング]担当)
[解説]ダヘブは、仮想化ベンダー大手シトリックスのCMOから、2015年にオラクルに移籍した。
アマゾンがクラウドコンピューティングの分野で大方の予想を超える成長を遂げた2000年代前半以降の流れを間近で見てきた。ダヘブによると、アマゾンは当時、自社が運営する巨大データセンターの空き容量を企業に提供すれば収益になることに気づいたのだという。
「アマゾンのコンピューティング能力には当時、貸し出すだけの余裕があったのです。言ってみれば、『やあ皆さん、この夏はどうも本業(小売り)のほうがヒマそうで、部屋がひとつ空いてるんだ。誰も使ってないし、エアビー向けに貸し出そうかなと思ってるんだけど、誰か使わない?』といった程度の話でした」
始まりはそんな話だったが、AWSはその後ずっとクラウド分野のトップ企業だ。
ダヘブは、オラクルの他のチームと同じように、同社の持つテクノロジーと他分野にわたる大企業との取り引きの実績を最大限に活用できれば、いずれはクラウドビジネスのトップに躍り出る日がやってくると考えている。
「われわれは法人ユーザーと同じ理解度、同じ感覚でものごとを考えることができます。メガバンク、物流、ヘルスケア、さまざまな企業と協業を続けてきたからこそ、企業側のメンタリティに寄り添えるのです」
ユアン・ロエイサ、1988年入社。データベーステクノロジー責任者
Oracle
[役職]執行役副社長(ミッションクリティカル・データベーステクノロジー担当)
[直属の上司]ラリー・エリソン
[解説]ロエイサは在社歴30年以上のベテラン。オラクルの主要プロダクトであるデータベースの拡張に取り組んでいる。
オラクルの自律型データベースクラウド「オートノマス・データベース」は、機械学習を使って迅速な修復とアップデートを可能にしている。ロエイサはこのまったく新たな取り組みを自動運転車の開発に例えて説明する。
「現状を説明しようとすると時間がかかるので、『次のステップは自動運転車だ』と説明するようにしています。クルマは安全でなくてはいけない。するとシートベルトもエアバッグもカーナビもつけないといけない。そういったものをすべて備えつけて、はじめて次の段階に進める」
つまり、オラクルのデータベースも「次の段階」に進む準備ができたというわけだ。
ジェイソン・ウィリアムソン、アマゾンからオラクルのスタートアップ投資責任者へ
Oracle Official YouTube Channel
[役職]副社長(オラクル・フォー・スタートアップ担当)
[直属の上司]メイミー・サン(ラリー・エリソン付スタッフ統括)
[解説]クラウドコンピューティングの成長にスタートアップが果たす役割は大きい。そのため、オラクルはスタートアップとの関係構築に乗り出している。いつ突如として強力なプレーヤーに「化ける」かわからないからだ。
ウィリアムソンはそうした取り組みの担当責任者で、スタートアップがオラクルのプロダクトやサービスを活用しやすいよう環境整備を進めている。
ウィリアムソンもAWSの出身者で、2017年にオラクルに移籍。AWSではプライベートエクイティ・プログラムを立ち上げ、ベインやマッキンゼーといったコンサル企業とのアライアンスを推進した。
エヴァン・ゴールドバーグ、オラクルが買収したネットスイートの共同創業者
Oracle
[役職]執行役副社長(ネットスイート担当)
[直属の上司]サフラ・カッツ
[解説]ゴールドバーグは法人向けソフトウェア企業を立ち上げ成功に導いたオラクル出身のエリート(そういう意味で最も有名なのはセールスフォースのマーク・ベニオフCEOだろう)。
オラクルで長いキャリアを築いたあと、1990年代後半に顧客管理・業務システムなどを統合した中小企業向けクラウドサービス「ネットスイート(NetSuite)」をローンチさせた。当時、ゴールドバーグは最高技術責任者(CTO)を務め、CEOには同じくオラクル出身のザック・ネルソンが就任。ラリー・エリソンは同社の初期投資家として支援した。
2016年、オラクルはネットスイートを買収。現在、ユーザー企業は1万8000社を超える。
スティーブ・ミランダ、1992年入社。クラウドアプリケーション開発責任者
Oracle
[役職]執行役副社長(アプリケーションプロダクト開発担当)
[直属の上司]ラリー・エリソン
[解説]ミランダはオラクルのクラウドソフトウェアを管轄するベテランで、プロダクト開発や展開戦略などビジネス全般を見ている。サプライチェーン管理(SCM)や人事(HR)、エンタープライズパフォーマンス管理(EPM)のような企業の主要業務に利用されるアプリケーションもカバーする。
(※「副社長」はヴァイス・プレジデントの訳語で、企業によって日本での同役職と位置づけが異なる場合もあるが、表記の便宜上この表現で統一した)
(翻訳・編集:川村力)