「Surface Go 2」。写真は、別売の「Surface Goタイプカバー」「Surfaceペン」と組み合わせせたもの。
撮影:西田宗千佳
現在のタブレット市場を主導しているのは、アップルの「iPad」であることは間違いない。一時期に比べると新製品を投入するメーカーが減ってしまっているからだ。
その中で、アップルに対抗するように製品を出しているのがマイクロソフトだ。5月4日、マイクロソフトは、同社の低価格タブレット型PC「Surface Go」の第二世代モデル「Surface Go 2」を発表した。日本でも5月12日より出荷される。
Surfaceというシリーズは、iPadの影響の中で生まれた製品であるのは間違いない。一方、双方ともに初代モデルの登場からはかなりの時間が経過し、商品性も大きく変わってきている。
だからこそ、ここであえて「今のiPadと今のSurface」を、コンセプトから比較してみたい。そうすることで、「個人用コンピュータ」の置かれた状況が見えてくるからだ。
iPad ProはMagic Keyboardの登場で一層「作る道具」になったが……
左がSurface Go 2、右がiPad ProにMagic Keyboardを組み合わせたもの。どちらも「PC的」な佇まいになるが、方向性は異なる。
撮影:西田宗千佳
Surface Go 2と比較するのは、この春に発売した「iPad Pro」と「Magic Keyboard」の組み合わせだ。
この両者は、価格面で同格という訳ではない。もっとも安価な製品同士で比較しても、4万円近い価格差がある(表参照)。今回のテストでは、筆者の手元にあったiPad Proが12.9インチモデルなので、価格的にはさらに大きな差になっている。
Surface Go 2とiPad Proを、ともに最低価格のモデルで比較。Surface Go 2の方がかなり安くなっている。
筆者の作成データをもとに編集部作成
そのため「この比較は不公平なのでは」と思う人がいるだろう。それは理解している。
ただ、今回はあえてこの組み合わせで比較したいと思う。なぜなら、Magic Keyboardが出たことで、iPad Proの位置づけは大きく変わったからだ。「現在のiPad」と「現在のSurface Go」を比較する上で、特徴的な部分がもっとも見えやすいのがこの組み合わせだ、というのが筆者の意見だ。
「良質な仕事の道具」としての2機種の立ち位置
別売の「Surface Goタイプカバー」と「Surfaceペン」。Surface Go 2を使うなら、少なくともタイプカバーの方は必須の存在だ。
撮影:西田宗千佳
では、その特徴とはなにか? それは「コンテンツ制作に対する考え方」だ。
従来、「文章などを作るにはPCが向いていて、iPadなどタブレットはコンテンツを見るためのものだ」と言われてきた。たしかにそれはその通りな部分があった。
しかし、現在その常識は通じなくなっている。iPad Proクラスになれば、多数の「なにかを作るためのアプリ」が増えているからだ。マイクロソフト・オフィスやフォトショップなど、PCを代表するようなアプリの多くはiPadにも登場しており、一方で、カメラやペンを使った新しいグラフィック系アプリについては、PCよりもiPadの方で新アプリの開発が広がっている。
節目が変わった理由は、「iPadは有料アプリが売れる環境」だからだ。
PC用ソフトは売れづらくなり、ほとんどがウェブサービスになった。一方でiPadではAppStore経由でアプリがまだ売れるので、ビジネス的にはそちらにシフトしているのだ。
さらにMagic Keyboardが登場したことで、「文字」に関わる部分でも環境が大きく変わった。Magic Keyboardは非常にタイプが快適で、iPadOSも改善により、文字変換の精度・速度・快適さが増している。まだ独特のクセはあるが、もはやPCやMacと同等以上の快適さだと、筆者は思う。実はこの原稿自体もiPad Pro+Magic Keyboardで執筆している。
それに比べると、Surface Go 2のキーボードは「悪くない」レベルであり、相変わらず膝の上ではタイプしづらい、という欠点を抱えている。特に11インチくらいまでのキーボードは、どれも多少配列が特殊であり、タイプし辛さを抱えやすい。
これはiPad Proの場合も、11インチモデルならば同じような課題があるので、Surface Go 2だけの問題、というべきではないことは注記しておく。
Magic Keyboard(12.9インチ向け)とSurface Goタイプカバーを比較。キーサイズはSurface Go 2向けがちょっと小さい程度。配列はコンパクトサイズなので少し違う。Magic Keyboardは、より一般的なPCに近い。
撮影:西田宗千佳
キーボードについてはBluetoothなどで外付けすればいいので、専用キーボードが決定的な価値を持つわけではない、という話もある。けれども、専用キーボードはある意味「象徴」だ。アップルがMagic Keyboardを作り、その使い勝手が極めて良好であるということは、「iPadがコンテンツを作るために使えるデバイスである」という印象を強くするものでもある。
「Surface Go 2」はOfficeは○だが、グラフィック作業に向かない?
Surface Go 2本体に付属するもの。専用ACアダプターはあるが、汎用のUSB Type-Cの充電器も使える。一般店頭向けの商品では「Office Home & Business 2019」が付属する。
撮影:西田宗千佳
ではSurface Go 2のクリエイティブ向け性能はどう評価すべきか?
Surface Go 2はWindows PCなので、オフィスアプリなどはフルバージョンが使える。日本向けの店頭向け販売版の場合、「Office Home & Business 2019」が付属する。すぐに使える、という点ではプラスだが、「すでに持っているのでその分安くして欲しい」という声もあるだろう。
性能的には、オフィスアプリやウェブを使うならそこまで問題はない。今回試用したモデルでは「Pentium Gold-4425Y」を使っている。メモリーは8GBだ。初代モデルでは同じCPUの「4415Y」だったので、ほんの少し速度アップしたことになるのだが、クロック周波数にして100MHz変わっただけなので、正直体感できるほどのものではない。メモリーが4GBの下位モデルだと、アプリの起動や切り替えで少しもたつくのでないかと思うが。
今回新たに、最上位機として「Core m3」搭載の高性能モデルも用意された。こちらなら、性能面での不安はより小さくなる。ただ、価格は2万円以上高くなる。
一方、性能の問題から、グラフィック制作などは厳しい。
ペンでメモを取ったり、ちょっと写真をいじる程度なら問題はないが、「本格的に絵を描く」ためにはおすすめしない。iPadの場合、もっとも安価なモデルでも特に問題なく絵を描けるが、あくまでPCであるSurface Go 2の場合、そうはいかない。
「PCである」ことがSurface Go 2のメリット
Surface Go 2には、「Surface Pro」シリーズと同じように、本体に「キックスタンド」がついていて、自由な角度で立てられる。
撮影:西田宗千佳
もちろん、Surface Go 2の方が優れた部分もある。
実は「コンテンツを見る」には、PCの方が万能性は高い。電子書籍についてはiPadの方がいいと思うが、映像などはウェブブラウザーを介して問題なく見られる。Go2では従来機種に比べて画面が10.5インチに若干大きくなったので、そこもプラスではある。
Surface Go 2の場合、キックスタンド付きで、自由な角度で立てておきやすいのもプラスだ。寝転がって映像を見るときなどでも、キックスタンドを開いて手にもつと、ケースのないiPadよりずっと持ちやすい。
開いてキックスタンド部分を持つと、タブレットとして使う時に落ちづらい。
撮影:西田宗千佳
また、テレワークでの「ビデオ会議」でも、PCの方がいいところはある。ZoomでもTeamsでもGoogle MeetでもiPad用アプリはもちろんあるが、PC用アプリやウェブで使った方が柔軟性が高い部分がある。
例えば、「バーチャル壁紙」などに対応するには、現状、PCの方が楽だ。
iPadの場合、Zoomなどアプリ側が対応していればできるが、PCならアプリに関わらず変更する方法もある(SnapCameraなどの無料アプリを使う)。また、一眼レフカメラなどを外付けにしてウェブカメラ代わりに使う人もいるが、それもPCだからできることだ。iPadでは、そうした使い方はできない。
「SnapCamera」などのアプリを使い、ビデオ会議で自由に「バーチャル壁紙」などが使えるのは、PCならではの利点。ただし、性能の問題から、負荷はかなり高めだ。
撮影:西田宗千佳
多くのサービスは、まだ「PCのウェブブラウザー」と「PCで自由なアプリの組み合わせで使える」ことを前提に作られている。特に、新しく生まれたばかりで、変化し続けているものほどその傾向が強い。
PCであるがゆえの「自由さ」こそ、PCであるSurface Go 2を選ぶもっとも大きなポイント、と言えるだろう。テレワークのためのサービスがまだ新しく、変化しているものである以上、PCである利点は大きい。
サブ的性格の機器だけに「性能」「価格」のバランスが難しい
出典:マイクロソフト
ただそうなると問題になるのが「性能」だ。
例えば、「バーチャル壁紙」などを実現する「SnapCamera」を使った場合、Surface Go 2のCPU性能は、実質的に半分が背景合成の処理のために消費されてしまう。一般的なPCなら、多くても3割以下だろう。
汎用性が高くて自由に使えるが、性能面ではそこまで「自由」ではない……この辺が、Surface Go 2の最大のネックだ。
価格を抑えた製品であるがゆえに、どうしても「PCらしい使い方」をすればするほど、性能面での課題が出てくる。「Core m3」を使った最上位モデルを選べば、性能的にはそれなりのレベルになる。しかし、その場合にはトータルでの価格が13万円台になり、一般的なノートPCとの競合が始まる。
iPadも価格が高くなっていて、特にiPad Proだと、すでにノートPCと価格面での差はない。どちらを買うべきかは、なかなか難しい。iPad Proの場合には「タブレットであるがゆえのコンテンツの見やすさ」や「ペン・カメラなどを使った新しいアプリの価値」が差別化点となり、「PCとは違う機器」として購入する、という判断もできるだろう。
出典:マイクロソフト
逆にいえば、PCとiPad、どちらかしか買えない場合、「それはやはりPCを選ぶべきではないか」というのが現状だ。PCではカバーしづらい生活シーンや、PCより快適に使いたいシーンで使うデバイス、という意味合いが強い。
一方でSurface Go 2はPCなので、無理に性能を追求しようとすると、メインPCとの棲み分けが難しくなっていく。Surface Go 2だけでも色々なことはできるが、性能に余裕があるメインPCが別にあったり、タブレットがまた別にあったりすると、サイズ・機能的な棲み分けができて、価値がある高まる。
筆者は、テレワークでのサブ端末や、子供の学習に使うPCと考え、上位モデルはあえて狙わないのが「Surface Go 2らしさ」が一番生きるところなのか、とも思う。
そうすると、米国版のように、Officeを外して価格を抑えたモデルを用意して欲しかった。教育市場や法人市場には、そうした「価格重視」モデルも用意されているので、なおさらもったいない。
結局は、現状iPadもSurface Go 2も「家庭内での2番目以降」を争うものだ。そうした時、どの方向性での「サブ機」をあなたが欲しいのか。それ次第で、選ぶべき機種が決まるのではないだろうか。