アイスランドは接触者追跡アプリ普及率40%…それでも足りない。プライバシーの懸念も

アイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相

アイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相

Reuters

  • 世界各国の政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を追跡して抑え込むために、先を競って接触者追跡アプリを開発している。
  • 接触者追跡アプリ開発に伴う課題の一つが、十分な数の人にアプリをダウンロードしてもらうことだ。
  • 「MITテクノロジー・レビュー」の記事によれば、アイスランドは接触者追跡アプリのダウンロード率が最も高く、人口の38%以上がダウンロードしている。
  • 接触者追跡対策を指揮するアイスランド警察の調査官によれば、高いダウンロード率にもかかわらず、接触者追跡アプリはウイルス追跡の「決定的な」対策にはなっていないという。

新型コロナウイルスの感染拡大に役立つ接触者追跡アプリの利用では、アイスランドが各国をリードしているように見える。しかしそうしたアプリは、期待されていたほど大きく状況を変えているわけではないようだ。

「MITテクノロジー・レビュー」の記事によれば、国民1人あたりで見ると、アイスランドの接触者追跡アプリのダウンロード率は世界最高で、36万4000人の国民のうち38%が、すでにアプリをダウンロードしているという。

「ラクニング(Rakning)C-19」と呼ばれるこのアプリは、GPSデータを使ってユーザーがいた場所の地図を作成するものだ。ユーザーが陽性と診断されると、アイスランド保健省保健局がユーザーにデータの提供を求め、それをもとに、接触した可能性のある人が特定される。

このアプリの運用が始まったのは4月上旬で、アイスランドで最初の感染症例が確認された2月28日から1か月強が経過した後のことだ。

プライバシーに配慮した接触者追跡アプリ

このアプリがこれほど高いダウンロード率を達成した一因は、アイスランド政府がデータの使用方法について明確なルールを定めていることにあると見られている。

イギリスのプライバシー研究者サミュエル・ウッドハムズ(Samuel Woodhams)はBusiness Insiderに対して、「アイスランドのアプリには明確なデータ保持規則があり、一時的な措置であることが説明されている。アプリのプライバシーポリシーによれば、データの保存期間はわずか14日間であり、アプリ自体もパンデミック後には使えなくなる」と話している。

「これは異例と言ってもいい。私の調査では、接触者追跡アプリの半分以上はユーザーデータの保存期間を明示していない。データ保持と破棄に関する手順を定めた明確なプライバシーポリシーがないと、ミッションクリープ(当初の目的以上に活動が拡大してしまうこと)や、個人のプライバシー侵害に関する懸念が非常に高くなる」

普段なら観光客で賑わっている首都レイキャビクのハットルグリムス教会。2020年4月29日撮影。

普段なら観光客で賑わっている首都レイキャビクのハットルグリムス教会。2020年4月29日撮影。

AP Photo/Egill Bjarnason

ミッションクリープとは、ユーザーのデータを、最初に明示されていたものとは別の目的に転用することを意味する。たとえばイギリスでは、接触者追跡アプリで集めたデータを、その他の研究にも転用する可能性を政府関係者がほのめかしている。

アイスランドのアプリでは、データはユーザーの端末上でローカルに処理される。それに対して、イギリスやフランスなどでは、解析しやすい外部サーバーへデータを集める集中型アプローチを選択した。この選択は、プライバシーやサイバーセキュリティの専門家たちの懸念を生んでいる。集中型のアプリはハッカーの攻撃を受けやすく、政府による監視の「裏口」になるおそれがあるというのだ。

決定的なツールにはならず

アイスランドのアプリは、比較的広く使われているにもかかわらず、「画期的な」技術と言うにはほど遠い状況のようだ。

MITテクノロジー・レビューの記事では、国内の接触者追跡に関する幅広い取り組みを監督するアイスランド警察のギェストゥル・パルマソン(Gestur Plmason)調査官が取材を受けている。

パルマソンによれば、アプリが効果を発揮するのは、人手による接触者追跡(新型コロナウイルス感染者に電話をかけ、接触した可能性のある人を特定する追跡方法)と組み合わせた場合に限られるという。

「この技術は、多かれ少なかれ…断言はしないが2つの方法を組み合わせてこそ効果が出る。いくつかのケースでは確かに役に立ったが、決定的な対策にはならなかった」とパルマソンは話している。

接触者追跡アプリは完璧にはほど遠い、と政府関係者が発言するのは、これが初めてではない。

シンガポールは3月に接触者追跡アプリ「トレース・トゥギャザー(TraceTogether)」の運用を開始したが、アプリ責任者のジェイソン・メイ(Jason May)は、自動追跡アプリは「特効薬」ではないと釘をさすブログ記事を4月に公開した

アイスランドは大規模な検査プログラムも導入しており、4月3日までに人口の5%近くを検査している。MITテクノロジー・レビューによれば、アイスランドは感染拡大を抑えるのに成功しており、4月19日を最後にコロナウイルスによる死者は出ていないという。

人口の40%では足りない

アイスランドにおけるアプリのダウンロード率は、38%でとどまっている。この事実は、さらに高いダウンロード率を目指す、もっと人口の多い国にとってはあまりいいニュースではない。

目下、接触者追跡アプリをテストしている(さらに、第二のアプリの開発を進めていると報じられている)イギリスは、アプリが効果を発揮するためには、成人人口の56%前後がダウンロードする必要があると見ている。この数字は、イギリスのスマートフォンユーザーのおよそ80%に相当する。

「(アイスランドの)アプリをダウンロードした人が、人口の40%ほどにとどまっている事実からすれば、接触者追跡アプリが世界中に普及したとしても、その有効性に対する疑念がなくなるとは言えない」と、プライバシー研究者のウッドハムズは話している。


[原文:Iceland had the most-downloaded contact-tracing app for its population size. Authorities there say it hasn't made much difference.

(翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)

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