撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は、読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。
テーマは「専門性を持たない人は、今後どのように市場価値を高めるか」。
Aさんのように、転職市場での「市場価値」を意識し、ご自身のキャリアの現状に不安を抱く方が増えています。寿命は延びるのに年金はあてにできず、皆さん70代まで働くことを覚悟している様子。大企業ですら「終身雇用はできない」と明言するようになった今、いつでも転職に踏み切れるように市場価値を高めておきたい、という声をよくお聞きします。
人材としての市場価値を高めるために、今、何を強化すべきか——いくつかのパターンをお話しします。
今の仕事と「デジタル」を融合させる経験を積む
まず、Aさんが考えている「特定領域で専門性を蓄える」という道について。いま狙うとすれば、やはり「デジタル」の分野でしょう。
必ずしもIT・ネット業界に転職する、ということではありません。近年はあらゆる業種が既存事業とデジタルの融合を図っています。いわゆる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組む企業が増えています。
今、市場価値アップを図るなら、デジタルを活用したビジネスモデル・サービス・販売手法などを開発する、あるいは業務改善にデジタルを活用するなど、「デジタル化」の分野に関わっていくことをお勧めします。
今後もテクノロジーの進化はとどまることなく、どんな企業も常にテクノロジーを活用したアップデートを続けていく必要に迫られます。デジタル対応のリテラシーや経験を持っていることで、キャリアの価値はアップするでしょう。
自社内にデジタル関連部署があれば異動を希望する、あるいは「DX推進」などをテーマとする社内プロジェクトや委員会などがあれば手を挙げて参加してはいかがでしょうか。自社内で取り組みが遅れているのであれば、デジタル関連の経験が積める企業に転職するのも手です。
副業が許可されている会社であれば、自社と同分野のTechベンチャーやスタートアップのお手伝いをするという方法もあります。
Aさんが身を置く広告業界の場合、特にデジタルの台頭が著しく、パラダイムシフトが起きていますよね。2019年にはインターネット広告費がテレビ広告費を初めて上回りました。転職市場においても、大手総合広告代理店の出身者より、その子会社であるネット広告会社出身者のほうが転職市場での価値が高まっているのが実情です。
ネット広告にも、リスティング広告、アフィリエイト広告、SNS広告、動画広告など幅広い種類があり、常に新たな手法が登場しています。ここ2、3年で、SNSで多くのフォロワーを持つ「インフルエンサー」を活用してPRする手法も広がりました。
デジタル化のトレンドをキャッチし、顧客にとって最適な手法を選択して提案する力をつけていくことを目指してはいかがでしょうか。
「リレーション営業」から脱却し、提案力を磨く
「リレーション営業に強みがある」というだけではこの先が不安。顧客の利益に貢献できる提案力を磨こう。
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「何らかのスペシャリストになる」というより、「市場価値を高める」ことが目的なのであれば、必ずしも「専門性」を追求する必要はありません。
Aさんと同様に、営業職の皆さんには「専門性がない」と卑下する方が少なくないのですが、営業職としてのスキルを磨くことは十分に市場価値アップにつながります。
まず、営業職としての今の仕事内容を見つめ直してみましょう。
「お客様と仲良くなり、リレーションを維持・向上させる」
「フットワークと行動量で勝負。少しでも多くのお客様を訪問する」
こうした行動やそのためのモチベーションはもちろん素晴らしいのですが、まさにこれからのアフターコロナ時代には、以前ほどには通用しなくなるかもしれません。業種や企業によってはこれらの営業手法でも活躍できるでしょうが、一般的に「市場価値が高い」とは評価されづらくなると思われます。
営業としての価値を高めるには、「顧客の利益に貢献する提案力」を磨くことが重要です。リレーション構築や行動量だけで勝負するのではなく、「マーケティング」「プランニング」といった要素を含む仕事をすることで、先々のキャリアが拓けるでしょう。
Aさんの場合、今、顧客リレーションの部分のみを担当しているとしたら、マーケティングやプランニングもできる部署、あるいは他社に移ることも考えてみてはいかがでしょうか。
広告・PR業界は、近年、構図が変わりつつあります。もともと日本では、総合広告代理店を頂点として、それより低いレイヤーにキャンペーン、イベントといった「PR」を手がける企業が位置付けられていました。
しかし実は、海外ではポジションが逆。PRエージェンシーがクライアント企業にとって最適なPR戦略を考え、手段のひとつとして広告枠のバイイングなどを行う広告代理店を動かす……という構図があります。日本でもそうした業界構造に変わっていく可能性があります。
芸能人を起用したTVCMや雑誌広告へ多額の予算を投じる時代は終わりました。最近では、例えばインスタ映えする企画商品をリリースしてSNSでの拡散を狙ったり、情報番組などメディアの取材を誘致したり……といった戦略がブランディング効果やPR成果を挙げています。
そうしたプランニングや仕掛けの経験・スキルを磨くことを目指し、社内異動や転職の道を探ってはいかがでしょうか。
近年の広告・PR業界の構図は大きく様変わりしている。「デジタル領域の経験に加え、マーケティングやプランニングにも積極的に挑戦を」と森本さん。
撮影:鈴木愛子
あるいは、信頼を得ているクライアントがあれば、その企業に転職するという選択肢もあるでしょう。最初はPR担当を務めながら、マーケティング、事業企画などの経験を積むことで、新たなキャリアの可能性が広がると思います。営業スキルに自信があるなら、営業マネジャーとしてのキャリアを進展させてもいいと思います。
「広告」の仕事にこだわらないのであれば、30代前半の今なら営業経験を活かして異業界に転職するチャンスもありますよ。
広告営業のように、無形商材を扱う法人向けのソリューション営業を経験した方の場合、IT・ネットサービス・人材サービスなどの法人営業へ転職を果たした事例も数多くあります。
この連載の第7回では、自分の強みを活かすために「ポータブルスキル(=業種・職種を問わず持ち運びできるスキル)」を整理する方法をお伝えしましたので、そちらも参考にしてみてください。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
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※本連載の第17回は、5月25日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。