ソニー・2019年度連結業績。売り上げは前年同期比5%のマイナスと、小幅な減少にとどまったが、影響が出るのは「これから」と読む。
出典:ソニー
ソニーは5月13日、2019年度の連結業績を発表した。売上高は前年同期比5%減となる8兆2599億円。営業利益は同488億円減の8455億円、当期純利益は3341億円減の5822億円と、減収減益だった。
理由はもちろん、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が大きい。だが、重要なのは世界経済が厳しさを増す、2020年度に向けた見立てだ。
「2020年の業績予測については、現時点で合理的な算定が困難」(十時CFO)
ソニー・専務CFOの十時裕樹氏は、記者・アナリスト向けにオンラインで開催された決算説明会で、こう説明した。
現状では「算定が困難」として、2020年度の業績予測は発表しなかった。各事業分野の影響にはそれぞれ幅があり、どこに落ち着くかはまだ読めない。
出典:ソニー
新型コロナウイルスの影響はこれから出てくる部分も多く、長期化も予想される。予測困難な部分も多くある。「8月に開催を予定している2020年度第1四半期業績発表の場で説明できれば」としつつ、「2019年度との比較では、少なくとも3割程度の減益となる可能性がある」と話し、各事業への影響について時間をかけて説明した。
コロナの影響を最初に受けた「エレクトロニクス」事業
ソニーが試算した、2019年度の営業利益に対する、各事業分野への影響。特にエレクトロニクスへ事業に、いち早く大きなダメージがあった。
出典:ソニー
現在、ソニーの業績を支えているのは、ゲーム事業とイメージセンサーを中心とした半導体事業だ。ただし、音楽・映画などのコンテンツ事業、エレクトロニクス事業、それに金融事業と、主な事業領域がそろって収益を上げていることが、トータルでの強さにつながっている。現状、それぞれの事業が一気に厳しくなった、というわけではない。
「事業領域によって新型コロナウイルスの影響の出方が異なり、さらには、影響が顕著に出てくる時期も異なる」と十時CFOは説明する。ただし、どの領域でも為替の影響による減収分も大きくなっており、その点を加味しつつ見ていく必要はある。
「現在最も影響が大きく、早く表れている事業」(十時CFO)とするのが、いわゆるエレクトロニクス事業だ。2019年第4四半期の売上高は、3294億円の大幅減収となっている。
エレクトロニクス事業の業績。スマートフォンやテレビの販売台数の減少と為替リスクから、約3300億円の大幅減収となった。
出典:ソニー
理由は、スマートフォンやテレビの販売台数の減少だ。それだけでなく、多くのエレクトロニクス機器が、製造の遅れによる市場投入の遅延、世界各国での小売店の休業で販売機会の喪失などで影響を受けている。
テレビについて、ソニーはテレビを主に海外の4つの拠点で生産しているが、そのうち、マレーシアの自社工場、メキシコ・スロバキアの生産委託工場が、現地政府からの要請により一時操業ができない状況にあったという。
現在は生産を再開しているものの、完全に元には戻っていない。カメラやスマートフォンはタイで生産しているが、こちらもパートナーから供給される部品に一部調達の遅れがあるという。
販売については、「足元では、欧州の販売悪化が大きい」(十時CFO)とする。だが、インドやベトナムでも販売悪化の傾向がある。製品ジャンルで言えば、外に出られないためか、デジタルカメラへの影響も大きく「長引く可能性が高い」(十時CFO)という。
巣ごもりで「クリスマスより遊ばれた」プレイステーション
ソニーが公開しているPlayStation 5用の新型ワイヤレスコントローラー「DualSense」。
出典:PlayStation Blog 撮影:小林優多郎
もうひとつ「生産」という面で記者の質問が集中したのが、いまやドル箱になった「ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野」だ。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、年末までに次世代ゲーム機「PlayStation 5(PS5)」を発売する、としている。その開発や生産の状況に影響しないのか? という問いだ。
十時CFOは、「現状年末販売に向けて、遅滞なく準備を進めている」と話す。長距離の移動に制約があるために社員が出張できず、動作検証や生産ライン確認などに影響があったと言うものの、現状はなんとかなっている……ということのようだ。
売り上げだけを見ると、今期のG&NS分野は、前年同期比で14%(3333億円)の大幅減収となっている。理由は2019年に比べ、PS4の販売台数とソフトの販売本数が減少したためだ。
だが、これは新型コロナの影響ではない。経営計画上予想されていたものであり、「需要は堅調」(十時CFO)という。
ゲーム&ネットワークサービス分野の業績。PS4がすでに世界で1億台を超えたこと、2019年は2018年に比べ、ソニー自社での大規模ヒットタイトルが少なかったことから減収だが、これは織り込み済み。ネットワークサービスを中心に、収益自体は「巣ごもり」でプラスの影響を受けている。
出典:ソニー
ゲームは巣ごもり市場に向いていると言われているが、それはPS4も同様で、この時期のPlayStation Networkでのゲームのプレイ量は「クリスマスシーズンの1.5倍を記録した」(十時CFO)。
そのため、新型コロナウイルスの影響下にあっても、年間の営業利益に対してゲームは「プラス」に働いている、と推定されている。
映像作品が「撮影できない」ことが経営リスクに
映画事業の業績。
出典:ソニー
現状は影響が顕著ではないが、ここから影響が強く出てくると予想されているのが、音楽および映画ビジネスだ。2019年度については、ヒット作に恵まれたことやストリーミング配信の増加で増収だが、ここから本格的に新型コロナウイルスの影響を受け始める。
音楽も映画事業と同様に基本的に好調。しかしこれから「コンテンツ制作」の遅滞に伴い、新型コロナウイルスの影響がより大きく出てくる可能性が高いという。
出典:ソニー
長期的影響としてもっとも懸念されているのは「制作できないこと」だ。
「映画にしろミュージックビデオにしろ、映像が絡むものはどれも撮影ができていない」(十時CFO)
映像を撮影する場合には、どうしてもアーティストやスタッフを1カ所に集めて作業する必要がある。場合によっては、大勢のチームがロケ地へと移動する必要もある。しかし現状、人が集まることも移動することも難しい。映像作品の制作は、どうしても滞りがちになる。
映像制作には長い時間がかかるので、今影響が出ている、という話ではない。だが、ミュージックビデオではその影響が出始めた結果、新譜のリリースが遅れがちになってきた。
映像作品についても、2020年後半や2021年、あるいはさらにその先に公開される作品の制作は、まさに今「遅れつつある」状況だ。制作の遅れは、当然今後の収益に悪影響を及ぼす。自社配給作品だけでなく、最近は映像配信事業者などへ納入する作品も多いが、それらの納入が遅れることも、ビジネス上の大きなリスクとなる。
なお、ゲームは映像と同じように、制作に時間と手間がかかるものだが、「現時点では、自社制作タイトル・他社作品とも、顕著な遅れは発生していない」(十時CFO)という。
イメージセンサーは好調、しかし「市場を慎重に読む」
売り上げ・利益ともに好調なイメージセンサー事業。現状の受注状態は活況とのことだが、スマホ市場の状況が急速に悪化することも視野に入れているという。
出典:ソニー
ゲームと並ぶソニーの収益源、イメージセンサー事業は、2019年度も非常に好調だった。売り上げに対して為替のマイナス影響が222億円分もあったにもかかわらず、1兆706億円の売り上げ。対前年比で917億円も利益を伸ばしている。
十時CFOは「我々が得意とするイメージセンサーの領域では、新型コロナウイルスの大きな影響は上がってきていない」という。
現在スマートフォン向けのイメージセンサーでは、1台のスマホに複数のセンサーが載る「多眼化」と、より大型で付加価値の高いセンサーが搭載される「大型化」のニーズが同時に起きており、ハイエンド向けスマートフォンセンサーを得意とするソニーには、両方の面で追い風が吹いている。少なくとも2019年度中は、この「追い風」がソニーに強く作用していたのは間違いない。
ソニー・専務CFOの十時裕樹氏(2018年5月撮影)。
撮影:小林優多郎
一方で「今後に慎重に注意を払う」と十時CFOは強調する。現状ソニーに対してイメージセンサーの発注は止まっていないが、結果としてそのセンサーが市場に在庫として滞留する可能性ある。
特に2020年下期以降、経済の冷え込みなどの影響を受けて、ハイエンド・スマートフォン自体の販売目標数量が引き下げられる可能性も高い。
過去にもソニーは、スマートフォン向けセンサーの需要量を見誤り、収益性に負担をかけたことがある。市場を先読みし、生産過剰な体制にならないようにすることが、同社としてはまず必要な施策、ということなのだろう。
撮影:小林優多郎
一方で「R&D(技術開発)については、優先順位はつけるがこれまで通り進めていく」とも話す。技術的な差異こそがソニーの差別化要因である以上、ここにブレーキを踏む事は、将来の差別化要因を失うことにもなる。
今回はあくまで決算説明会だったため、十時CFOの口からは、「現状の説明」が中心に語られた。この先のことについては、翌週5月19日に経営方針説明会が予定されており、そこで吉田憲一郎社長から、直接語られることになっている。
今日説明された現状分析を踏まえたソニーの「アフターコロナ」がどうなるのかは、あと1週間お預けだ。
(文・西田宗千佳)
西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。