「お互いに不満がある夫婦」に欠けていること、在宅勤務の今浮き彫りに

共働き

Shutterstock/milatas

新型コロナウイルス感染症の流行拡大で、在宅勤務をする人が増えている。夫婦ともに在宅勤務をすることになり、配偶者の仕事ぶりについて、新たな発見をする人も多いようだ。

4月末に自宅で仕事ができるようになった知人の女性は、先に在宅勤務を始めていた夫の仕事ぶりをドア越しに聞いて、軽い衝撃を受けた。

ふだんの夫は、合理的に考えて、自分のペースでものごとを進めたいタイプ。はっきりした物言いは、出会った頃からあまり変わらない。

ところが、ドア越しに聞こえてくる同僚や部下との会話は、受け身にも思えるような柔らかな口調。相手の話を聞くことに徹している様子だったという。

彼女に限らず、配偶者やパートナーの仕事の概要は知っていても、仕事のスタイルまでは知らない、という人は多い。

仕事で何を大切にしているのか。どんな風に上司や同僚と人間関係を作っているのか。しかし、在宅勤務が増えれば、お互いの仕事ぶりや家事・育児の苦労について、これまで見えなかったものが見えてくる。

生活と仕事の場の一体化で可視化されたもの

在宅ワーク

在宅ワークにより、お互いの仕事を知り理解に繋がった方も多い。

JacobLund:Shutterstock

実際に、在宅勤務をした人からは、そんな声が聞こえ始めている。

大企業の若手有志社員の実践コミュニティである「ONE JAPAN」が2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大を受けて緊急に行った「働き方意識調査」によれば、在宅勤務によって仕事面だけでなく、家族との関係性に関わる変化を挙げた人が少なくなかった。

たとえば「配偶者、家族のコミュニケーション量が増えた」と回答した人は4割を占めた。

家事や育児・介護によりコミットできるようになった」「配偶者や子どもの生活や困りごとについて、より良く知ることができた」と回答した人は、それぞれ約2割に上った。

さらに「お互いの仕事の大変さを気遣えるようになり、配偶者の機嫌が良くなった」など、共に在宅勤務をすることによって、新たな発見があったことを指摘する声も。

このケースでは、これまで見えなかった相手の仕事の苦労や努力を肌で感じられるようになることで、よりパートナーを気遣えるようになったのだろう。 

お互いの仕事を知ることが、共働き夫婦の「円満」の鍵となる

共働き夫婦

不満のある夫婦とない夫婦とでは、結婚生活の理解度に差がある。

GettyImages:TaiyouNomachi-1

お互いの仕事について深く知ることは、夫と妻が、より良いパートナーシップを築くことにもつながる。

リクルートが2019年に行った「iction! 週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査2019」は、家事・育児の分担に関する夫・妻の満足が、どのような要因と関わるのかを調査している。

それによると、

  • 夫・妻ともに家事・育児の分担に不満がない夫婦(お互い不満がない夫婦)
  • 夫・妻のどちらか又は両方に不満がある夫婦(不満がある夫婦)

で、家事・育児の分担割合にはっきりとした差はみられなかった。

一方、配偶者の仕事についての理解度には、大きな差がみられた。

配偶者の「仕事の内容」や「仕事で得た喜び」「仕事の愚痴」「今後のキャリア」「職場環境・人間関係」について理解している人の割合を見ると、「お互い不満がない夫婦」は「不満がある夫婦」と比べて理解度が高い傾向にあった

さらに「お互い不満がない夫婦」は、結婚前より結婚後(現在)の理解度が高いのに対し、「不満がある夫婦」は結婚前から結婚後にかけて理解度が変わらない、または低下していた

“SS”2020-05-1414.46.03

[お互いに不満がない夫婦]と[どちらかが不満あり]夫婦では、 相手の仕事への理解に違いがある

週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査 2019

※注:それぞれの項目について理解している割合。全国 25~49 歳の夫婦1039組への本調査(対象者とその配偶者に同一の質問を行い、同一夫婦の回答を聴取)、および「夫婦共に週 5日以上勤務かつ、1 日平均 6時間以上勤務、 第一子の年齢が 2~6 歳かつ配偶者、第 1 子と同居している」という条件を満たす夫婦への追加調査から得られた490世帯のデータを用いた分析。

つまり、「お互い不満のない夫婦」は、結婚前からお互いの仕事やキャリアについて理解しているだけでなく、結婚生活を通じて理解度が高まっている。

これに対し「不満がある夫婦」は結婚前から理解度が低いが、さらに結婚後に理解度が下がってしまっていた。

パートナーが働くときに何を大切にして、何に喜びを感じるのか。困っていることは何かを知っていれば、相手にとって本当に必要な時に家事・育児の分担量を増やすなど、臨機応変に対応できる。

だからこそ、仮に家事・育児の「量」の分担が平等でなくても、その夫婦なりの協力体制に満足感を持ちやすいのだろう。

在宅勤務がくれた、仕事について話すチャンス

女性

キャリア形成に深く関わってくるパートナーとの働き方問題。

撮影:今村拓馬

新型コロナウイルスの影響は経済や雇用に深刻な影響を及ぼし始めており、今後の収入や仕事がどうなるのかを気にする人は少なくない。

これを機に事業やサービスのデジタルトランスフォーメーションが加速し、企業のビジネスモデルも急速に変わっていくという見方も多い。

先行きが不透明になるからこそ、できれば夫婦でお互いの仕事をサポートし、キャリアも家族の生活の安定も実現していていきたいと考える人も増えていくだろう

夫婦がお互いの仕事をより深く知ることは、そのような関係性を作るキーピースとなりそうだ。

とはいえ、これまでお互いの仕事について話してこなかった夫や妻が、急に仕事に関わる思いや希望を共有するというのは簡単ではない。

照れもあるだろうし、そもそも基礎的なことを知らなければ、表面をなぞるような会話をして「おしまい」になりかねない。

しかし今、在宅勤務を経験した人が増えたことで、たくさんの気づきが生まれている。

ウェブ会議でできることの多さ、その時のコミュニケーションの方法。職場での雑談の大切さや、家族と一緒に夕食を囲めることのありがたさ。これからどんな風に働きたいかの希望がはっきりした人も多い。

とりわけ夫婦で在宅勤務を経験している場合は、お互いの苦労を見聞きしたからこその発見があるだろう。

今だからこそ、お互いの仕事について、いつもより深く話をしてみてはどうだろうか。それはきっと、夫婦のパートナーシップを強くしてくれる。

(文・大嶋寧子


大嶋寧子:リクルートワークス研究所主任研究員。金融系シンクタンク、外務省経済局勤務を経て現職。一人ひとりが生き生きと働ける社会をテーマに、雇用政策やキャリアに関わる研究を行う。主な著書に『雇用断層の研究』(共著)、『不安家族 働けない転落社会を克服せよ』(単著)、『30代の働く地図』(共著)など。

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