世界企業の経営者200人以上に「次の世界」について聞いた。
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世界がパンデミックの影響を受け入れて生きていけるかどうかは、多分にテクノロジーの力にかかっていると思われる。
感染者の接触履歴の追跡、より多くの人々のリモートワークを可能にするコラボレーションツール、より多くのモノや食料品をオンラインで購入できる物流あるいは通販サービス……このあと私たちがどんな「ニューノーマル」を生きることになるのかは、テクノロジー企業がどう動くかによって決まってくる。
旅行やイベント、情報セキュリティ、コンシューマーテックのように誰もが知る産業はいま急速に変化を遂げつつある。そうした業界にいる企業も、ますますローカル化し、ますますデジタル化する生活のあり方に適応を迫られている。
常に先を見通し、未来を自らの手でつくり出そうとしてきたテクノロジー企業のトップに質問をぶつけてみた。コロナ危機はあなたの会社を、あなたの産業を、そして世界をどう変えるのか ——。
(※テクノロジー産業を皮切りに、世界企業の経営者に将来予測を聞く連載企画です)
「仕事ではやたらと出張に出かけるが、自分の楽しみの時間はパソコンやタブレットの画面の前で、という人が多かった。でも、これからは逆になる」(ブライアン・チェスキー、Airbnb CEO)
Airbnb(エアビー・アンド・ビー)共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキー。
Mike Cohen/Getty Images
僕らエアビーは人と人をつなげようとしてきた。コロナ危機の始まる前は1日に200万人が(ホストとユーザーとして)出会っていた。危機が終息すれば、おそらくまた元の状態に戻れるだろう。
ただ、そのためには覚悟を決めて積極的な回復に取り組む必要があると思っている。スピード感をもって、オペレーションをシンプルに改善し、他と異なる強み、つまりホストコミュニティの強化に力を入れるつもりだ。
この危機が旅行産業をどう変えるのか、間違いなくこうなる、と断言できる人なんていない。けれども、ふたつだけ言えることがある。
ひとつは、世界はさらにローカル化するということ。人々は身近な場所への旅行、身の丈にあった楽しみ方を嗜好するようになっていくだろう。
もうひとつは、いままさにみんながやっているように、ビデオ会議が増えた影響で出張の数が間違いなく減るということ。別に出張がまるごとなくなると言ってるわけじゃない。いまとはまったく違った形になる、という話だ。
仕事ではやたらと出張に出かけるが、自分の楽しみの時間はパソコンやタブレットの画面の前で、という人が多かった。でも、これからは逆になる。画面の前でしっかり仕事をして、楽しい時間はリアルの世界で過ごすようになる。
多くの人たちは、ひとつの都市にしばられる必要なんかないと気づいている。これからもっとたくさんの人が世界の好きな場所で暮らすようになるだろうし、数カ月ごとにいろんな土地を転々とする人も出てくるだろう。そういう生き方をする人たちの役に立てるよう、長期滞在ニーズへの対応にも力を入れていきたい。
最後に、今後も変わらないことについてひと言。
1950年、国境を超えて旅をする人の数は2500万人だった。それが2019年には14億人に増えた。人間には生まれつき旅し、探し求める欲望がそなわっていて、それはどうしたって拭い去れない。旅にひと休みはよくあること。でも、人はまた旅路につくものだ。
「退屈で、不潔で、危険の伴う作業から人間を解放してくれるロボットの開発は、ロボティクス企業が成し遂げる価値のある仕事だということがはっきりしてきた」(マーク・レイバート、Boston Dynamics会長)
ボストン・ダイナミクスのマーク・レイバート会長。2018年にソフトバンクグループ傘下に。
Michael Cohen/Getty Images for The New York Times
(「会社は、産業は、世界はどう変わるか」という)質問を受けてすぐに思い出したのは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ラボにこもるのをあきらめ、スタッフが各所に散らばって開発を続けねばならなくなったことだ。ラボにはロボットが置いてあるし、実験には基本的にそこにある設備が必要で、われわれのあらゆる仕事がラボを中心に回っているので大変だった。
いまはスタッフがそれぞれ自宅にロボットをもち込んで、問題なく開発を続けることができている。どうしてもラボでないとできない実験もいくつかあるけれども、必要不可欠な作業以外での使用が制限されている状況なのであきらめるしかない。
ご質問の趣旨は、こうした状態が永続的に続いたらどうなるかということだと思うけれども、こうやって各スタッフが自宅に散ったまま開発を続けられるかというと、われわれとしてはきわめて懐疑的と言わざるを得ない。
ただ、はっきりしているのは、この状態で成功を収めるとか開発を進められる見通しが立つとか、(実績や成功体験が得られれば)より多くの人が、おそらく恒久的に在宅で仕事をするようになるということだ。
ところで、ロボティクスの世界に目を向けると、退屈(Dull)・不潔(Dirty)・危険(Dangerous)という「3D」の作業から人間を解放してくれるロボットの開発は、ロボティクス企業が成し遂げるべき、きわめて価値の高い仕事だということがはっきりしてきた。
例えば、われわれが取り組んできた開発プロジェクトのひとつに、医療用四足歩行ロボット「ドクター・スポット(Dr. Spot)」がある。目下、ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院と共同事業を進めているところだ。
病院から連絡があって、相談を受けたのがきっかけになった。
「新型コロナウイルスに感染した可能性のある人たちをテントでスクリーニングしています。もしこの作業を遠隔操作で実施できれば、個人防護具(PPE)を使う必要がなくなり、スタッフを感染リスクにさらすこともなくて済むんです」
そんなわけで、私たちはすでにドクター・スポットを現地に送り込み、遠隔操作で潜在患者のスクリーニングを行っている。搭載カメラを使ったバイタルサイン(生命兆候)の遠隔モニタリングにも着手したところだ。
こうした「リモートワーク」に、もっともっと取り組んでいけたらと思っている。
「いま起きている社会の変化を考えると、ビジネスのルールにも変化が出てくると考えざるを得ない」(チャック・ロビンス、Cisco Systems CEO)
シスコ・システムズ(Cisco Systems)のチャック・ロビンスCEO。
Theo Wargo/Getty Images for Global Citizen
今回のパンデミックで明らかになったのは、セキュアなネットインフラと協力体制の構築こそが危機対応の根幹であり、これからやって来る新たな時代の礎(いしずえ)になるということだ。
会社の経営、リモート環境での学習、遠隔医療……何であれインターネットへの信頼度がこれだけ増したことで、逆に、プライバシーやセキュリティの保護について、顧客に対して果たすべき説明責任のハードルも上がってきている。
いま起きている社会の変化を考えると、ビジネスのルールにも変化が出てくると考えざるを得ない。将来起こりうる危機から従業員や取引関係を守るために、私たちは本当の意味でダイナミック(動的)な会社と従業員のあり方を再構築する必要がある。
それができたとき、すべての利害関係者あるいは自社が根ざすコミュニティ、とりわけ最も弱く傷つきやすい人たちに、これまでにない形で貢献できるのではないだろうか。
「企業は不動産ポートフォリオの見直しを始めるだろう。従業員たちがコロナ以前と同じ仕事を生産性を落とさずに在宅でこなすことができるなら、従来のような広さのオフィスは必要なくなるからだ」(デビッド・ヘンシャール、Citrix CEO)
シトリックス(Citrix)のデビッド・ヘンシャールCEO。
Citrix Synergy 2019/SiliconANGLE the CUBE YouTube Official Channel(Screenshot)
いまの状況が教えてくれるのは、働き方や生き方をありとあらゆる視点から見直すしかないという避けがたい現実だ。
リモートワークの拡大など、ほんの数週間のうちに起きた働き方の変化に企業が適応するには、もしかしたら数年かかるかもしれない。でも、見直すしかない。コロナ以前には間違いなく勝算があると思われた領域ですら、これから先に同じやり方で成功を収められるとは、私にはどうしても思えないのだ。
企業は不動産ポートフォリオの見直しを始めるだろう。従業員たちがコロナ以前と同じ仕事を生産性を落とさずに在宅でこなすことができるなら、従来のような広さのオフィスは必要なくなるからだ。
そして、在宅ワーカーが増えれば、エンタープライズ(=大企業向け)テクノロジーを見直し、代わりにコンシューマー(=個人向け)テクノロジーのような使い勝手の良いソリューションを導入する必要が出てくるだろう。
家庭と仕事場の間の線引きはいまやほとんどなくなってしまった。情報システムなどのエンタープライズITは急速に消費者向けプロダクトに置き換わり、その結果クラウドの普及が進むのは間違いない。
「ここ数カ月間で起きたデジタル・トランスフォーメーションは本来なら5年はかかるような大きな変革で、今後の可能性を大いに広げてくれた」(マイケル・デル、Dell CEO)
デル(Dell)のマイケル・デルCEO。
Drew Angerer/Getty Images
今回のパンデミックは私たちの社会に亀裂を生じさせた。テクノロジー、インフラ、教育、ヘルスケア、経済的安全性をめぐって格差が生まれている。胸が痛くなる話だが、大きく前進するチャンスでもある。
ここ数カ月間で起きたデジタル・トランスフォーメーションは本来なら5年はかかるような大きな変革で、今後の可能性を広げてくれた。
私たちの生きるグローバル社会はどんな未来に投資していくのか、これから決めていくことになると思うが、長く続く良い結果が生まれると私は信じている。(テクノロジーより)人間を優先して考えるかぎり、私たちは力強い復活を遂げることができるだろう。
「より強力なコンピューティング能力、より安定した接続を求める今日のニーズの高まりは、働き方、学び方、家族とのつながり方、エンタテインメントの楽しみ方、健康的な暮らし方をアップデートしていくことになるだろう」(ボブ・スワン、Intel CEO)
インテル(Intel)のボブ・スワンCEO。
David Becker/Getty Images
今日、テクノロジー産業はかつてないほど重要なポジションを占めている。
パンデミックの最前線で続いている必要不可欠な仕事、新しいワクチンや治療法をめぐる開発競争、世界中で行われているソーシャルディスタンシング……それらをテクノロジーが支えている。
長い目で見れば、われわれの生活がこのコロナ危機によって何ひとつ変わらないというのは、さすがに想像できない。
より強力なコンピューティング能力、より安定した接続を求める今日のニーズの高まりは、働き方、学び方、家族とのつながり方、エンタテインメントの楽しみ方、健康的な暮らし方をアップデートしていくことになるだろう。
(翻訳・編集:川村力)