5月15日、記者会見で説明する小池百合子都知事。
撮影:三ツ村崇志
5月15日、東京都の小池百合子知事は定例の記者会見で、「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」の骨子を発表。
外出自粛や休業要請などを緩和する目安について、合計7つの指標をモニタリングしながら、専門家も交えて総合的に判断した上で、段階的に緩和していく方針を示した。
7つの指標の中でも、以下の3点については「特に重要な指標」とした。
・1週間の平均感染者数が20人未満
・感染経路の追えない感染者の割合が50%未満
・1週間単位の感染者の増加比が1を下回る
段階的に要請を緩和。対象業種は調整中
東京都が休業要請を緩和するステップのイメージ。各ステップの対象となる業種については、現在精査中。
撮影:三ツ村崇志(東京都作成資料)
要請の緩和は段階を分けて行われる見込みだ。
第1段階では、まず博物館や美術館、図書館をはじめとする文化的施設などを緩和する方針。
その後およそ2週間毎に状況を確認しながら、2段階目にはクラスター発生歴がなく、3密になりにくい飲食店や劇場などの施設を緩和する。さらに、3段階目として、クラスター発生歴や高リスクの施設を施設を除いた施設の再開を検討している。
クラスター発生歴のある施設や3密になりやすい高リスクの施設の再開については、3段階目まで緩和が行われたあとで、「適切な予防策を講じたうえで、全面緩和」としている。
なお、各段階の対象となる業種については、現在調整を進めているところだ。
警戒する第2波。指標が一つでも基準を超えると「警報」を発信
緩和や自粛・休業の再要請をする際に用いる7つのモニタリング指標。あくまで目安であり、これら複数の指標を総合的に判断し、専門家の意見も交えて意思決定を行っていくという。特に重視する3点に加えて、重症患者数、入院患者数、PCRの陽性率、受診相談窓口における相談件数も判断の際に加味される指標としている。
撮影:三ツ村崇志(東京都作成資料)
東京都のロードマップには、緩和基準に加えて、外出自粛や休業要請を再度行う際の基準についても明記される見込みだ。
今回発表されたロードマップの骨格では、まずモニタリング指標の中でも特に重視する3点の指標が要請を緩和する基準値を一つでも超えた段階で、警報「東京アラート」を発信するとしている。
例えば、新規感染者の7日間平均が20人を超えたり、感染経路の追えない感染者が50%以上になったりすると、警報が発信されることになる。
緩和基準にもなっている20人、50%という数値は、小池知事が緊急記者会見を開催して「オーバシュート重大局面」と強く自粛を促した、3月25日前後の数値を基準に算出されたものだという。
なお、14日の夜に開催された専門家会議でも、3月末に行われた東京都の一連の対応によって、感染者の爆発的な広がりをある程度抑えられたのではないかとの見解が示された。
東京都が示したこの目安は、緩和する際の考え方としては、専門家会議が示した目安である「新規感染者の7日間平均が10万人あたり0.5人」(東京だと7日間平均で10人)などと比べて少し甘い基準といえるかもしれないが、再度の警戒を行う基準としては、整合性が取れたラインといえる。
なお、東京アラートを発信しても感染拡大が止まらなかった場合、再度自粛を要請する可能性がある。都はその基準として、特に重視する3つのモニタリング指標の目安を次のように示した。
・新規感染者数の7日間平均が50人
・感染経路の追えない患者の割合が50%
・週の感染者数の増加率が2を越える(1週間で新規感染者が2倍以上になる)
最終的に休業要請を決定する際には、この3つの指標に加えて、ほかのモニタリング指標なども含めて総合的に判断されることになる。
政府専門家会議と都のロードマップの対応関係は?
専門家会議は5月14日、緊急事態措置の解除水準や、再指定に関する考え方について記者会見を行った。
出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
東京都の判断基準は、政府の専門家会議の提言とどう対応しているのか。
14日の夜に開催された専門家会議は、緊急事態宣言の対象地域から除外するために重要視される指標を次の3点と発表していた。
(1)感染の状況【疫学的状況】
直近1週間の新規感染者の報告数がその前の1週間の報告数を下回っており、減少傾向が確認できること。直近1週間の10万人あたり累積新規感染者の報告数が0.5 人未満程度。
(2)医療提供体制【医療状況】
重症者数が減っていること。患者の急増に対応可能な体制があるかどうかということ。
(3)検査体制の構築
PCR検査の件数が一定程度担保されていることや、陽性率が高すぎないかといった点。
ほとんどの項目について、基準となる具体的な数値は示されなかったが、専門家会議の尾身茂副座長はその理由について、
「専門家会議は、あくまで国全体の指針を示すための機関です。自治体ごとに状況が違う中で、具体的な数値を提示することはできない」
と説明していた。
自粛要請の緩和を検討する際には、各自治体、あるいは生活圏ごとにこれらの要素を総合的に判断する必要がある。内訳を見てみると、東京都が示した7つのモニタリング指標は、基本的に専門家会議の提言通りといえそうだ。
14日に行われた専門家会議でも、今後起こりうる第2波、第3波をどうしのぐのかが今後の課題となるとしていた。
出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
新型コロナウイルスへの対応が長期化することは避けられない。
専門家会議でも、今後、新規感染者の増減を繰り返しながらワクチンや治療薬の開発を待つことになることがあらためて示された。東京都の方針としても、第2波に備えて、検査体制や病床数の確保、感染者情報のスムーズな把握に向けて体制を強化していくとしている。
39県での緊急事態宣言の解除や、東京都における外出自粛や休業要請を緩和する道筋が示されたことは明るい材料ではある。
一方で、
「東京都はまだ緊急事態宣言が続いているということ。まだ、その最中にあるということを徹底的に意識してほしい」(小池知事)
というように、一部では空気感の緩みが出始めているのも事実だ。
東京都福祉局の担当者によると、緩和や再要請、東京アラートの目安となるモニタリング指標については、一部計算が必要になるものの、東京都のホームページから確認することができるという。
緊急事態宣言、それに伴う緊急事態措置は、社会的・経済的に大きな傷をともなう施策だ。
これを繰り返さないためにも、国や自治体からのスムーズで透明な情報発信はもちろん、私たち自身も、何を見て、どのような行動を選択するのか、新しい生活様式を作り上げていく必要があるのかもしれない。
(文・三ツ村崇志)