コロナ禍を経て、私たちの働く環境は大きく変化しましたね。これをきっかけにして、今後の人生、キャリアについてじっくり見つめ直している方も多いようです。
さて、あなたは今、どちらの心情に近いでしょうか?
「正社員として企業に勤務しているほうが、やはり安定感、安心感がある」
「会社の方針に自分の生活・人生を左右されたくない。組織に縛られず自己裁量で働き、自由に生きたい」
後者に近い思いが少しでもある人は、いずれ「フリーランスで働く」という選択肢を検討してみてもいいかもしれません。
そこで今回は、フリーランスの仕事内容、ニーズ、働き方などについての最新事情をお話しします。
転職の選択肢に「フリーランス」を加える人が増加中
「フリーランスになること」を選択肢のひとつに加える人が増えてきた。
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私は数十年にわたって転職エージェントを務めていますが、ここ2~3年、「フリーランス」で働くことを視野に入れたご相談が増えてきました。例えば——
「企業に正社員として転職するか、フリーランスになり『業務委託』で複数の取引先の仕事をするか、両方の選択肢を考えています。私にはどちらが向いているでしょうか」
「いずれはフリーランスの立場で、時間・場所・取引先を自由に選んで働く生活がしたいんです。そのためにはこれからどんなキャリアを積んでいけばいいでしょうか」
このように、直近、あるいは将来の選択肢のひとつとして、フリーランスになることを検討している方が多く見られます。
少し前までは、フリーランスで働く人といえば、クリエイティブ職やITエンジニアなどが多いイメージでしたが、近年は、事業企画・マーケティング・セールス・広報・経理・財務・人事・法務などの「ビジネス系フリーランス」が増えています。インディペンデント・コントラクター(IC)という名称で活動している方々もいらっしゃいます。
彼らは複数の企業と契約を結び、一定期間、専門スキル・知見を提供します。例えば、週3日はA社で、週2日はB社でプロジェクトを遂行、その合間の時間にC社からの相談を受けてアドバイスを行う……といったようにです。
報酬額は、多くの場合、プロジェクト単位で設定されます。例えば「プロジェクト遂行期間中、週1回程度の出社&随時リモート対応の契約で月額20万円」など。複数社のプロジェクトを掛け持ちすることで収入を上げることができるわけです。
企業側でも「業務委託」の人材ニーズが高まっている
では、こうしたビジネス系フリーランスにはどのようなニーズがあるのでしょうか。
ここ数年の間に、企業のフリーランスの活用度が高まってきています。以前は正社員・契約社員しか採用していなかった企業でも、「雇用形態は問わない。業務委託でもかまわない」とするケースが増えてきました。
企業側のフリーランスへのニーズとしては、次のようなものが挙げられます。今後、コロナ禍がどのように影響するのかは不透明ですが、背景にある根本的な課題をご紹介しましょう。
1. 新たな取り組みを始める際、知見・スキルを借りたい
少子化に伴う国内マーケットの縮小、グローバル企業との競合、テクノロジーの進化などに対応するため、多くの企業が「変革」を迫られています。それはビジネスモデルの転換であったり、新たな収益源となる事業開発であったり、組織・人事の仕組みの見直しであったり。「今、それをしなければ生き残れない」くらいの危機感を持って、新たな取り組みを行っています。
コロナ禍の影響という点では、事業運営のDX(デジタルトランスフォーメーション)、コスト削減のための効率化といった必要にも迫られることでしょう。
コロナ禍によって加速するDXへの流れ。専門知識や経験を持つ人材は貴重な戦力だ。
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企業にとって未知の領域に踏み出すため、既存社員には経験者がいません。既存社員に一から学ばせてチャレンジをさせるより、外部から知見を持つ人を迎えてリードしてもらったほうが、スピーディだし成功率が高い。とはいえ、外部の人材を正社員として迎えるとなると、採用には時間がかかるし、採用できるかどうかも分からない。
また、新規事業などの場合は途中で立ち行かなくなってクローズする可能性もあるため、正社員採用よりも業務委託のほうが雇用リスクが低く、コスト面でも都合がいい、というわけです。
また、既存社員だけで新しい取り組みをしようとすると、「イノベーションのジレンマ」も発生しがち。今まで自分たちがやってきたことを否定しなければならない局面において、思考を切り替えるのは難しいものです。そこで、自社の既成概念にとらわれない人を一時的に迎えることで、新たな発想を取り入れたい、という考えもあります。
2. スポット的に発生する難易度の高い業務を任せたい
成長途上のベンチャー企業には、ところどころで難易度の高い業務が発生します。例えば、資金調達、上場申請に際してのショート・レビュー、就業規則の整備、人事制度の構築など。そうした経験を持つ人を採用するとなるとコストが高くつき、採用難易度も高くなります。
そこで、難易度が高い部分のみフリーランス人材の助けを借り、運用に入ったら既存社員で回したりフルタイム社員を採用したり、といったケースが多いのです。いわば、CxOの派遣やレンタルといったところでしょうか。
3. 営業職でも業務委託の活用が拡大
ここまでのお話では、企画系・管理部門系の専門職のニーズが高い印象ですが、営業職もフリーランスで活躍するケースが増えています。ニーズは多様で、一例を挙げれば以下のようなパターンが見られます。
- 新商品のリリース時、一気に拡販するため一時的に業務委託の営業パーソンを活用したい
- 新商品のリリース時、どんな売り方が効果的かを探るため、異なる手法を持つ営業パーソンを業務委託で活用し、比較検討したい
- 問い合わせや引き合いが急増しているが、商談のマンパワーが不足しているため、すぐにでも稼働できる営業パーソンを活用したい
- 起業から日が浅く、顧客がまだいない。1つでも導入成功事例ができれば横展開できるので、「1つ目の導入事例」の創出を目指し、ゼロから取引先を開拓してほしい
- 大手エンタープライズを攻めたいが、リレーションがない。パイプを持った方にキーパーソンを紹介してもらいたい
- 若手の営業人材を育成してほしい
人脈や営業力がなくても、顧客を獲得できるルートが拡大
フリーランスになるにあたり、大きな不安のひとつは「顧客を獲得できるのか」ということではないでしょうか。「人脈あるいは営業力がなければ仕事を受注できないのでは」と。
しかし最近では、フリーランスと、フリーランスを活用したい企業のマッチングサービスもいろいろと登場しています。昔に比べ、仕事を獲得するルートは増えていると言えるでしょう。
副業を解禁する企業も増えてきましたので、まずは副業としてスタートし、手応えを感じたら独立するのも一つの方法です。
また、今働いている企業に対し、仕事内容はそのままで「業務委託」に雇用形態を変更する交渉をする手もあります。
健康機器メーカーのタニタでは、2017年より、社員が希望すれば個人事業主として会社と業務委託契約を結べる制度を導入しました。これを受け、他社でも「うちでもこのやり方を取り入れたい」という声が聞かれます。
今の企業で業務委託に移行すれば、これまでの収入水準を維持しつつ、ペースをつかめたら他の企業との取引を増やしていくことができるでしょう。
政府は数年前からフリーランスという働き方を後押しする施策を打ち出していますし、フリーランス協会でもフリーランスの支援策を拡充しています。
今すぐではなくても、「いつかはフリーランス」の可能性を視野に情報収集をしてみてはいかがでしょうか。
※この記事は2020年5月25日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。