ユーグレナ決算説明会はオンラインで行われた。売上高は前年同期に比べて減少したものの、想定内との見方を示した。
出典:ユーグレナ2020年9月期第2四半期決算説明資料
ミドリムシを使った次世代バイオ燃料の開発などを進めるバイオベンチャーのユーグレナは5月18日、2020年9月期の上半期(2019年10月〜2020年3月)決算を発表した。
売上高は前年同期比で約12%減の約60億8100万円。通期予想の133億円に対して約46%の進捗で、同社の出雲充社長も「順調に進捗している」と現状について評価した。最終損益は1億4300万円の赤字だった。
今期は短期的な収益を追わず、広告投資の厳格化やマーケティング施策準備、事業基盤整備などを進める方針を示していた。
広告費2割減も、売上高は1割減。黒字が大幅改善
前期に比べて広告費を減らしているものの、化粧品の定期購買者数は純増傾向にある。
出典:ユーグレナ2020年9月期第2四半期決算説明資料
「順調」という言葉が飛び出す背景には、これまで進めてきた広告戦略の見直しが功を奏しはじめている実感があるのだろう。
今回発表した上半期の販促費・広告宣伝費の合計は、直前の下半期(2019年4〜9月)に比べて約2割削減されている。そのため、売上減は「1割減にとどまった」という見方が強いようだ。
広告宣伝費を厳格化した一方で、直前の下期(2019年4〜9月)と比較してヘルスケア事業は大幅な黒字化を達成。
出典:ユーグレナ2020年9月期第2四半期決算説明資料
広告費の効率化なども相まって、ユーグレナの主力販売事業であるヘルスケア事業(食品と化粧品を含む)における黒字幅は、直前の下半期の6800万円から、4億4300万円へと大幅に改善された。
また、広告宣伝費の大半を占める化粧品事業の定期購買者数も、1、2月を境に純増に転換。食品を含めたヘルスケア事業全体での定期購買者数はいまだ減少を続けているものの、広告効果が顕在化しはじめているとした。
「準備の上半期」から「攻めの下半期」へ
2019年9月期の通期決算発表時の資料。外部機関によるユーグレナ食品と他社競合食品に関する認知度調査の結果。ユーグレナ製品を知らない人が52.4%。知っていても実際に購入したり飲んだりしたことのない人が42.2%だった。
撮影:三ツ村崇志
ユーグレナは2019年11月の決算発表に際し、商品の認知度が低いことやブランドイメージの不統一感について自ら懸念を強調。今後の事業戦略における大きな課題であり、成長の余白でもあると位置づけ、ブランドイメージの統一や、基幹商品の開発などの取り組みを進めてきた。
出雲社長は、
「次の下半期では、しっかりとした広告投資を進めていきたい。ユーグレナを知ってくださっている、買ってくださっている方はまだ5%程度。残りの95%の方にユーグレナを知ってもらうための戦略、商品作りに注力してきましたが、その成果がいよいよ出てきました。これから、攻めの反転攻勢をしかけていく下半期になると思っています」
と、ヘルスケア事業で抱えていた3つの課題、「認知率の低さ」「ブランディングの連携不足」「顧客の偏り」を改善していく準備が完了しつつあるとした。
新型コロナの影響で在宅率アップ。健康志向の高まりも需要を後押し
2020年3月、主力食品商品群をリニューアルした。
撮影:三ツ村崇志
新型コロナウイルスのマイナス影響を受ける企業が多いなか、永田暁彦副社長はユーグレナの事業モデルについて、
「当社の通販は、(新型コロナウイルスへの)耐性が強い事業モデルだといえます。グループの売り上げの7割が直販。外出自粛のなかで需要が増加しています。在宅率が上昇していることによって、テレビ通販を通じた広告効率も改善しています。
また、健康志向が高まり、売り上げの7割を占める健康食品の需要も高まっている」
と、少なくとも通販事業においてはプラスの影響を受けているという。
下半期には、こういった需要拡大の流れに乗って本格的なプロモーションを開始する予定だ。
主力の健康食品は、「からだにユーグレナ」として3月中旬にリニューアルされている。
今後、これまでの研究成果を踏まえて、素材としてのユーグレナがもつ「59種類という豊富な栄養素」が、「心身の疲れにくさ」を引き出し、「免疫機能の改善」につながっていく、という一連のサイクルを製品のブランドイメージとして打ち出していく方針だ、と永田副社長は今後の戦略を語った。
ユーグレナの健康効果について、動物実験はもちろん、ヒトに対してもさまざまな臨床研究が進められている。
出典:ユーグレナ2020年9月期第2四半期決算説明資料
コロナ禍において「免疫」や「健康」という言葉の訴求力は強い。一方で、健康食品の販売にともなうこういったイメージ戦略は、一歩間違えれば誇大表示にもつながり、逆にブランドイメージを損なう懸念もある。
永田副社長は、
「『コロナにかからない』という切り口のプロモーションをする気はまったくありません」
と、プロモーションにおいて安易な訴求は行わないと明言。
「病気にかかりずらくなったり、体調不良になりにくい状態をつくったりするには、栄養をちゃんと取って、ストレスのない生活をしてしっかり寝ることに尽きる。
ユーグレナには、59種類の栄養素があり、ヒトに対する臨床試験で睡眠の状態を改善したり、ストレスを軽減したりという結果が得られています。
コロナが流行している中では『免役』という言葉が切り取られてしまうということはあるかもしれませんが、私たちが獲得したいポジションは、病気にかからなくなるということではなく、ベースが上がってとても健康な状況になるというところです」(永田副社長)
また、出雲社長も
「医療の現場に迷惑をかけずにどうやって(新型コロナウイルスに関係する)研究を進めていくべきなのか、知恵を絞って考えている最中です。皆さまにしっかりとしたものをお見せできるような段階になってから発信していこうと思っています。
一方、免疫力をアップして体の防御力を上げるという点については、非常にに良いデータも集まってきているので、これを誤解のないようにしっかり丁寧にお伝えしていくことが大事」
と、新型コロナウイルスに対する基礎研究に臨む可能性も示唆しつつ、あくまで現時点での科学的エビデンスにもとづいた、誤解のない訴求方法を探っていく姿勢を強調した。
次世代バイオ燃料を初めて売り上げ。商業フライトは柔軟に対応
国産の次世代バイオ燃料がついに供給されはじめた。
撮影:三ツ村崇志
また、決算発表では、ユーグレナが開発する次世代バイオディーゼル燃料について、初めて売り上げを計上したことも報告された。
同社は、2020年1月末に次世代バイオジェット燃料の国際規格であるASTM認証を取得。3月には、横浜・鶴見にある実証プラントの本格稼働を実現している。すでに、いすず自動車と川崎鶴見臨港バスに、バイオディーゼル燃料の供給も行っている。
現時点では、20社以上から次世代バイオディーゼル燃料の供給を希望されているものの、新型コロナウイルスの流行に伴う緊急事態宣言の発出によって、供給スケジュールは不透明になっているという。
出典:ユーグレナ2020年9月期第2四半期決算説明資料
なお、ユーグレナは現状稼働している実証プラントとは別に、次世代バイオ燃料の商業プラントの建設計画を進めており、当初の予定どおり、2020年中には設計開始を判断する予定だ。
また、ユーグレナは今期中に同社が開発した次世代バイオジェット燃料を使った飛行機の商業フライトを実施する目標を掲げていた。その点について、永田副社長は、
「基本的には今期中に実施を目指すというスタンスは変わっていません。ただし、少なからず影響は受けているので、スケジュールの延期であったり、発表のやり方の変更については、考えていきたいと思っている」
とした。
(文・三ツ村崇志)