オンライン決算会見にのぞむ孫正義会長。
出典:ソフトバンクグループ
2020年3月期決算の孫正義会長は、いつもとは雰囲気が違った。
営業損失は1兆3646億円、最終赤字は9616億円。前期の1兆4112億円の最終黒字から大幅に悪化した。
ソフトバンク始まって以来の巨額赤字で通期決算を迎えた孫会長は、決算会見冒頭から、どこか声色にハリのない雰囲気を漂わせていた。
巨額赤字の主因は、孫会長肝いりのソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)。振り返れば、引き金は2019年半ばのWeWorkショックだったのかもしれない。2月の第3四半期決算では「潮目が変わった」と楽観的なコメントをしていた孫会長だが、その後の世界を襲ったコロナショックは想定を超えたものだった。
結果、2019年に1兆2566億円の営業益をもたらしたSVF事業が、今回の通期決算では2兆円近い損失を産むことになった。
売上高こそ持ち堪えているが、営業利益、最終利益ともに極めて厳しい状況で期末を迎えた。
出典:ソフトバンクグループ
営業利益の内訳。投資事業であるSVFが2兆円近い損失をつくり、今回の巨額赤字の主因となっていることがわかる。
出典:ソフトバンクグループ
営業赤字は巨額で、コロナショックで世界経済も不況への突入が確実視される局面だが、孫会長は「ソフトバンクの時価総額もネットバブルが弾けた2000年のときには100分の1に減った。真っ逆さまのどん底の状況と比べると、減ったことは事実だが、大ショックを受けるほど減ったということではない」とも言う。
言葉は強気だが、今日ばかりはいつもの孫正義節とはいかず、語気はこれまでになく弱い。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの成績
ビジョン・ファンドの投資先一覧。Slackを始めとする、上場企業も含まれる。
出典:ソフトバンクグループ
こうなると、気がかりは、SVFの成績と今後の見通しだ。
3月31日時点で、SVFの投資先は88社。世界に名だたる企業も複数含まれるが、ライドシェアのUberを筆頭に、コロナショックの直撃を受けて経営環境が大きく悪化している企業もある。
「登り坂をかけのぼっていたユニコーン(評価額1000億円以上の未上場企業の通称)が、本来ならそのまま登り続けているところを、突然やってきたコロナの谷に、どんどん落馬しているというような状況。大変な危機だ」(孫会長)
「こんななかでも、羽が生えたように空を越えていく本当のユニコーンもあらわれるのではないか。危機がくればくるほど大きく羽ばたくユニコーンもあらわれると信じている」(同)
会見のスライドで示した「コロナの谷に落ちるユニコーン」の図。谷を飛び越える、羽のついたユニコーンは88社の中にいるのだろうか。
出典:ソフトバンクグループ
楽観的に見えるコメントも打ち出す一方、コロナの谷に落ちる投資先・羽ばたく投資先の見立てについて質問が飛ぶと、状況を厳しく見ていることが見えてくる。
「88社のなかで15社くらいは倒産するんじゃないかと思っている。(そのほかの)15社くらいが飛んでいって、それでも大きく成功する。残り60社近くは、まぁまぁの状況になるんじゃないか」(孫会長)
倒産するだろうと見る15社あまりについては、8兆8000億円超の累計投資金額のなかで、小さな金額の投資先が多い、とする。金額規模の大きい投資先は、「生き延びそうだ」とは発言するものの、この未曽有のコロナショック不況のなかで、どの程度持ち堪えるかは、未知数だ。
「まぁまぁ」と表現した60社は、配当を支払うことも勘案すると、ソフトバンクGとしては「たいした利益が出ない」(孫会長)。つまり、投資成績の行く末は、羽ばたく15社にかかっている。
SVF2の資金集めは「大丈夫ではない」
コロナショックを「未曾有の危機」だと言及する孫会長。
出典:ソフトバンクグループ
質疑のなかでは改めて、SVFが外部投資家からの資金調達に苦慮していることも認めた。
新規投資が実質打ち止めのSVF1(総額10兆円規模)に続き、本来なら外部からも資金を募るSVF2に関しては、自社の資金で運用していることを明かした。
「新規投資にについては、SVF2をソフトバンクG自身の手金で継続している。SVF1の業績が決して誇れる内容ではないので(中略)、成績が悪ければSVF2の資金は他の投資家からは集まらない、不人気であると。SVF2の資金は大丈夫かと聞かれるが、“大丈夫ではない”というのが答え」(孫会長)
今後のSVF2の新規投資は、SVF1での反省をもとに、慎重に投資先を選びながら行っている。
ソフトバンクGはすでに、今後約1年で資産売却を通じて総額4.5兆円の現金を調達することを発表している。すでに中国のアリババ集団の株式を現金化し、1.25兆円を調達したという。
コロナショックのインパクトは、世界的な危機だ。しかし、こうした大規模な資金調達による財務改善ができることから、2000年ごろのネットバブル崩壊、2008年のリーマンショックに比べれば、「過去の崖から転げ落ちそうな状況に比べると、今回は余裕で崖の下を覗いている、という状況」だと言う。過去最大の赤字だとしても、グループにおける業績の「危機感」として過去最大というほどではない、という認識を示した形だ。
孫会長は質疑の最後を、次のような言葉で締め括った。
「(新規の投資は)用心深く行ってまいりますが、自身はそこまで悲観はしていない。過去に味わったリスクからは、まだまだ軽い方ではないかと。
前回(3Q決算で)うかつにも潮目が変わったと、楽観的なことを申したが、もう一度潮目が変わって、また悪い方向に行っておるということ。悪い方向には行っているけれど、がんばります、というのが今日現在の心境。がんばりますので、ぜひよろしくお願いしたい」
(文・伊藤有)