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揺らぐ「安倍一強」。2年ぶり支持率低下、検察庁法改正案は先送り

求心力低下が囁かれる安倍晋三首相。

求心力低下が囁かれる安倍晋三首相。

REUTERS

世論の反発が高まっていた検察庁法改正案について、政府は5月18日、今国会での成立を断念した。採決を強行すれば新型コロナ禍の中で与党への反発を招き、政権へのダメージになると判断したとみられる。

一方で、秋の臨時国会で成立を目指す方針。反対する野党は「先送りではなく廃案にするべきだ」と警戒するが、突然の方針転換は「安倍一強」と言われる安倍晋三首相の求心力低下と見る向きもある。

検察庁法改正案、なぜ反対された?

新型コロナウイルスへの対応が求められる中で、いま検察庁法改正案を改正する必要があるのかという声もあった。

新型コロナウイルスへの対応が求められる中で、いま検察庁法改正案を改正する必要があるのかという声もあった。

撮影:吉川慧

検察庁法改正案は、国家公務員の定年を60歳から段階的に65歳まで引き上げる国家公務員法の改正案など他の関連法案と一本化、いわゆる「束ね法案」として国会に提出されていた。

しかし、検察庁法改正案には内閣や法務大臣が認めれば検察幹部の定年を最大で3年間延長できる特例措置が含まれており、年齢以外の理由で検察官の政治的な独立性・中立性が侵害されるおそれがあるとして、主要野党は反対を表明した。

安倍晋三首相は14日の記者会見で「今回の改正で三権分立が侵害されることはもちろんないし、恣意的な人事が行われることはないことは断言したい」と恣意的な運用を否定している。

だが、立憲民主党や国民民主党、共産党などは「時の政権が恣意的に検察幹部の定年を引き伸ばすことが可能になる」として政府・与党を追及した。

1月末の「黒川検事長の定年延長」がきっかけ

1月、安倍内閣は黒川検事長の任期延長を閣議決定した。

1月、安倍内閣は黒川検事長の任期延長を閣議決定した。

Kiyoshi Ota - Pool/Getty Images

検察庁法改正案への反発を招いたきっかけは、今年1月末に定年間際だった東京高検の黒川弘務検事長(63)の任期を半年間延長すると安倍内閣が閣議決定したことだった。

過去の政府は、国家公務員の定年延長の範囲に検察官は含まれないと解釈していたが、安倍内閣は法律の解釈を変更し、黒川検事長の定年を延長した。

現行の検察庁法では、検事総長は65歳、それ以外は63歳と定めている。検事総長は就任約2年で交代することが慣例になっている。現在の稲田伸夫検事総長が今夏で就任人選をむかえる。

野党は検察庁法改正案について、かねてより「官邸に近い」と言われていた黒川検事長を安倍政権が検事総長に起用するため、後付けで正当化するのためのものだと猛反発した。

日ごとに増した反対 アーティスト、弁護士、検察OBも

東京弁護士会は会長声明で検察庁法改正案の問題点を指摘した。

東京弁護士会は会長声明で検察庁法改正案の問題点を指摘した。

出典:東京弁護士会

昨年10月ごろに法務省が作成した当初の改正案原案に検察官の定年延長規定が含まれていなかったことや、閣僚の説明迷走や、定年延長の適用基準が明確に示されなかったこともあって野党は批判を強めた。

著名なアーティストや俳優らはTwitterでハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」で抗議の意思を表明。

東京弁護士会など各地の弁護士会や、戦後最大の政界疑獄「ロッキード事件」の捜査に関わった松尾邦弘元検事総長ら検察OBらも、法案に反対する異例の意見書を法務省に提出した。

報道番組やドキュメンタリーを企画する映像制作グループ「Choose Life Project」が開いた主要政党の党首や幹部を招いたオンラインの討論会も話題となった。

オンライン討論会には、主要野党の党首や幹部が参加した。

オンライン討論会には、主要野党の党首や幹部が参加した。

Twitter/@ChooselifePj

与党は、法案施行は2022年度であり黒川氏の人事と関係ないと反論していたが、自民党内からも法改正に反対する声があがるなど、検察庁法改正案への反対の声は日ごと増していった。

安倍首相「さまざまなご批判があった」

第7回経済財政諮問会議に出席する安倍晋三首相(5月15日)

第7回経済財政諮問会議に出席する安倍晋三首相(5月15日)

首相官邸

こうした世論の反発を受けて、政府・与党は18日、検察庁法改正案の今国会での成立を見送った。野党側は継続審議とすることを了承。武田良太・行政改革担当相への不信任決議案を取り下げた。

安倍首相は18日、「国民の皆さまからさまざまなご批判があった」「国民の皆さまのご理解なくして前に進めていくことはできない」「国民のご理解を得て進めていくことが肝要」と述べた。

ある野党議員の秘書は「この1週間で情勢は変わった。野党内では強行採決は避けられないという感触もあったが、ネット上でのハッシュタグの盛り上がりは野党の追い風となった」と安堵する。

一方、政府・与党は、「束ね法案」を維持したまま秋の臨時国会で法案成立を目指す方針を崩していない。

立憲民主党の枝野幸男代表はTwitterに「あくまで『先送り』です。忘れたころに強行するのは許されません」と記した。束ね法案から検察庁法改正案を切り離し、廃案に追い込む構えだ。

その上で、「一般の公務員などの、一律の定年年齢引き上げは与野党一致して賛成です」と、「問題部分を切り離して、一致している部分の審議は進めるべき」と表明した

支持率も低下、揺らぐ「安倍一強」

朝日新聞は18日、河井克行元法相と妻で参院議員の案里氏らが、案里氏が初当選した2019年7月の参院選をめぐり地元議員や陣営関係者に合計700万円を超える現金を持参していたと報じた。

朝日新聞は18日、河井克行元法相と妻で参院議員の案里氏らが、案里氏が初当選した2019年7月の参院選をめぐり地元議員や陣営関係者に合計700万円を超える現金を持参していたと報じた。

REUTERS/Issei Kato

突然の法案先送りは、自民党内で「安倍一強」と言われた安倍首相の求心力低下の表われと見る向きもある。党内ではギリギリまで採決強行を目指す意見もあり、足並みが乱れていたという。

経済策である現金給付をめぐっても土壇場で一転、一律10万円の「特別定額給付金」を支給することを決めたことも記憶に新しい。

反対の声がある中、減収世帯に限った30万円給付案を党内でとりまとめた「ポスト安倍」の一角である岸田文雄政調会長は顔に泥を塗られた格好となった。

新型コロナウイルスへの対応が迫られる中、党内でも波風はやまない。

朝日新聞は18日、河井克行元法相と妻で参院議員の案里氏らが、案里氏が初当選した2019年7月の参院選をめぐり地元議員や陣営関係者に合計700万円を超える現金を持参していたと報じた。

案里氏は、岸田政調会長の地元組織である自民党党広島県連が推薦した現職候補を「同士討ち」で破って当選。岸田氏は、ここでも面子を潰されている。

同紙は「検察当局は票の取りまとめを依頼する目的だった疑いがあるとみて、公職選挙法違反(買収)容疑での立件に向けて捜査している」と伝えている。検察はGW中に河井夫妻を任意聴取。捜査は大詰めという観測も流れる。

NHKが18日に発表した世論調査では、安倍内閣を「支持する」と答えた人が37%、「支持しない」と答えた人は45%だった。2018年6月の調査以来、2年ぶりに「支持しない」が上回った。

(文・吉川慧

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