新型コロナウイルスによるロックダウンを受け、実家へ帰ろうとトラックに乗り込む出稼ぎ労働者たち(2020年5月17日、インド)。
Santosh Kumar/Hindustan Times via Getty Images)
- インドでは5月19日現在、新型コロナウイルスの感染者数が10万1000人を超え、3164人が死亡している。感染者数はアジアで最も多い。
- モディ首相は3月24日、インド全土をロックダウン(都市封鎖)すると宣言。その後、その期限は複数回延長されている。
- 低迷する経済をよみがえらせようと、一部の規制は解除され、農業や小さな店は営業の再開が許されている。
- 中でもムンバイは新型コロナウイルスの深刻な影響を受けている。ただ、何百万という出稼ぎ労働者が主要都市から実家へ戻るにつれ、感染は農村地域でも広がり始めている。
人口13億5000万人を抱えるインドは、アジア最大の新型コロナウイルスの流行地でもある。
AP通信によると、インドは5月18日、1日あたりとしてはこれまでで最多となる新規感染者5242人、死亡者157人を報告した。5月19日現在、インドの新型コロナウイルスの感染者数は10万1000人を超え、3164人が死亡している。
モディ首相は3月24日、インド全土を25日からロックダウンすると宣言した。
ニューヨーク・タイムズによると、モディ首相は「自宅からの外出を一切禁止する。全ての地区、通り、村をロックダウンする」と語った。
モディ首相はこの時点で、ウイルスの感染スピードを抑えるには約3週間が必要だと見ていて、「これから21日間でパンデミックを制御できなければ、この国と我々の家族は21年間立ち遅れることになる」と強調した。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、インド政府はそれ以降、ロックダウンの期限を複数回延長し、直近では5月31日までとしている。
アッサムにある大学病院では、発熱した男性がストレッチャーの上で新型コロナウイルスの検査を待っていた(2020年5月17日、インド)。
Anupam Nath/AP Photo
中でもムンバイは深刻な影響を受けていて、インドの感染者数の20%、死亡者数の25%を占めていると、ニューヨーク・タイムズは報じた。
人口2000万人を超えるムンバイは、インドの金融の中心というだけでなく、ボリウッドやアジア最大のスラム街「ダラビ」を抱える都市だ。ニューヨーク・タイムズによると、地元の病院は患者であふれていて、警察はパンク寸前だという。ダラビでは一般的に、コンクリート平板に挟まれた薄い屋根の付いた部屋で6人以上が生活していて、家の中でソーシャル・ディスタンシング(人と人との接触を極力減らすこと、社会距離戦略ともいう)を守るのはまず不可能だ。
出稼ぎ労働者に深刻な影響が
新型コロナウイルスの影響を最も受けているのが、4000万人を超えると言われる出稼ぎ労働者だ。仕事を失えば、彼らはお金も食べ物もなく都会で立ち往生してしまう。中には家に帰るために数百キロを歩かなければならない人もいた。
「このロックダウンは本当に冷酷だ」と弁護士で活動家のプラシャント・ブーシャン(Prashant Bhushan)氏はBBC Newsに語った。ブーシャン氏は最高裁に嘆願書を提出し、出稼ぎ労働者たちが家に戻れるよう支援を求めている。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査で陰性となった人は、強制的にシェルターに留め置かれたり、意に反して家や家族から引き離されるべきではない」と語ったブーシャン氏は、「政府は彼らが安全に地元の町や村へ帰れるよう、必要な交通機関を提供すべきだ」と付け加えた。
ウッタルプラデシュでは、出稼ぎ労働者たちが自宅へ帰るために、駅へと向かうバスを家族とともに待っていた(2020年5月18日、インド)。
Imtiyaz Khan/Anadolu Agency via Getty Images
インド政府は5月4日、一部規制を緩和し、何百万という出稼ぎ労働者たちが働いていた主要都市からバスや特別列車で移動することを許可した。これが彼らの向かった農村地域での感染者の増加を招いた。
また、2600億ドル(約28兆円)の経済対策を実施すると発表したモディ首相は、経済をよみがえらせるために規制を徐々に解除している。複数の州で農業や小さな店はビジネスを再開、eコマースの配達も再び始まっている。
だが、AP通信によると、レストランやホテル、学校、フライト、ショッピングモールはインド全土で閉鎖されたままだ。
「インドへの経済的影響が非常に深刻なものとなっている中、延び延びになっている」と、インド政府の元経済顧問アルビンド・スブラマニアン(Arvind Subramanian)氏はニューヨーク・タイムズに語った。
ゴールドマン・サックスは5月18日、4~6月期のインドの国内総生産(GDP)が45%減になるとの予想を示した。同社は、2020年度の実質GDPは前年比5%減になるとしている。
ジャールカンド州ラーンチーでは、中央警察予備隊の隊員がパトロールをしていた(2020年5月17日、インド)。
Diwakar Prasad/Hindustan Times via Getty Images
一方で、気温が38度近くまで上がり、屋内にとどまることが難しくなる夏やモンスーン(雨季)が近付く中、衛生状態の悪さやソーシャル・ディスタンシングを守るスペースの欠如は、引き続き、インドの新型コロナウイルス対策を複雑にしている。
また、専門家たちはインドの検査率の低さを懸念している。検査率が低いと、新型コロナウイルスが実際にどのくらい流行しているのか、当局が把握できないためだ。
だが、ロックダウンの更なる緩和を示唆したスピーチの中でモディ首相は、ウイルスのせいで国を完全にストップさせるわけにはいかないとの考えを示したと、ニューヨーク・タイムズは報じている。
「専門家は皆、コロナが長期にわたって、わたしたちの生活の一部になるだろうと言う。だが、コロナがわたしたちの生活の中心になるのを許すことはできない」
(翻訳、編集:山口佳美)