吉田社長が語ったソニーの「ニューノーマル」時代の経営戦略…注目は社名変更だけじゃない

ソニー本社

東京・品川のソニー本社(写真はイメージです)。

Shutterstock

5月19日、ソニーは2020年度経営方針説明会をオンラインで開催した。先週の決算を受け、今回は同社の長期的経営ビジョンを語る場として設けられたもので、同社の吉田憲一郎・代表執行役社長兼CEOが登場し、プレゼンテーションを披露した。

「アフター・コロナ」を見据えた、ソニーのニューノーマル戦略を分析してみよう。

ソニー本社が「ソニーグループ」に社名変更した理由

ソニーの吉田憲一郎・代表執行役社長兼CEO

ソニーの吉田憲一郎・代表執行役社長兼CEO。オンラインで記者・アナリストに向けてプレゼンテーションを行った。

出典:ソニー

経営方針説明会では、主に3つのことが語られた。

ひとつは、来年4月1日よりソニー本社の社名を「ソニーグループ」とし、「ソニー株式会社」の商号は、エレクトロニクス事業を担当する「ソニーエレクトロニクス株式会社」が継承することだ。

変更の理由を吉田社長は「(本社を)グループの管理に特化した組織にするため」と話す。現在本社には、各事業部門を管理するための機能と、過去から続くエレクトロニクス事業の間接管理を行う機能が混在している。このうち後者をエレクトロニクス事業会社に完全に移管し、「グループ本社としての管理機能」に特化した会社に変える。

そして、「ソニー」という馴染み深い名前は、「祖業であるエレクトロニクスに」(吉田社長)移管する。コンシューマとの製品を介した接点となる部門であるエレクトロニクスが「ソニーの看板」を継ぐ、と言ってもいいだろう。

コンシューマとの接点が多いところが元々の企業名を継ぎ、本社機能を持つ部分が「グループ」と冠する、という命名形態は、「ソフトバンクグループ」でも採用されているものだ。ソニーがそれに倣った、というわけではないだろうが、長期投資や全体管理という部分を「グループ統括会社の役割」と切り分けるのは、納得できるあり方と言える。

コア事業・金融を完全子会社化、「国内事業で地政学リスク」にも対応

ソニーフィナンシャルホールディングス

ソニーフィナンシャルホールディングスの公式サイト。

撮影:伊藤有

2つ目の大きな発表は、金融部門であるソニーフィナンシャルホールディングスの完全子会社化だ。

現在同社はソニー本社の連結子会社ではあるが、株式保有率は65.04%。これをTOB(株式公開買付)によって完全子会社化する。ソニーフィナンシャルホールディングスは上場会社だが、TOBによる完全子会社化で上場廃止となる。買付期間は5月20日から7月13日までで、3955億円を投じる予定だ。

ソニーフィナンシャルホールディングス

金融部門子会社のソニーフィナンシャルホールディングスを、TOBにより完全子会社化。買付には3955億円を投じる。

出典:ソニー

完全子会社化の狙いについて吉田社長は「3つある」とする。

1つ目は、「コア事業であるから」。「金融は『人を支える』コア事業の一つ。700万人のお客様がいる安定的な事業」と吉田社長は言う。現在も収益の14%を稼ぎだす柱なので、それを強化するのは当然とも言える。

2つ目は「長期的企業価値」だ。ソニーの十時裕樹・代表執行役専務CFOは、「帰属する利益が完全子会社化で100%取り込めるようになる」と説明する。その結果として、収益への貢献は2021年度以降を見込むものの、年間400億円から500億円の純利益増加が見込めるという。

そして3つ目が「地政学リスクへの対応」だ。ソニーの金融事業の顧客はほぼ日本に集中していて、安定的な事業である。そのため「グローバルな地政学リスクが高まる中では、リスクマネジメント上有効」(吉田社長)という判断だ。

これらのことは、ソニーの経営に対して「変動要因を減らす」という意味合いも持っている。「感動するコンテンツが動く時にはお金も動く。バリューチェーンからお金は切り離せないもの。安定した事業によって投資力を上げていきたい」と吉田社長は言う。

PS5は予定通り、エレキでは「リモートを極める」

PS5controller

公開されたばかりのPS5のコントローラー。

出典:ソニー・インタラクティブエンタテインメント

ゲーム、エレクトロニクス、コンテンツ、イメージセンサーなどの事業についても解説された。

「(新型コロナウイルスの影響下で)デジタルエンタテインメントの価値は高まっている」と吉田社長。

PlayStationの有料ネットワークサービスである「PlayStation Network」の会員数は4150万人に達し、映画のデジタル配信も好調に収益を上げているという。こうした部分は、「巣ごもり」がプラスに働いている部分と言える。

ソニーは新型ゲーム機「PlayStation 5」の発売を2020年末に控えているが、「魅力的なソフトウェアタイトルについて近々発表できるものと思う」「年末から発売時期は変更ない」(吉田社長)と、計画に変更がないことをアピールしている。

ただ映画については「撮影ができないことにより長期的な影響が懸念される」(吉田社長)と言う。

そうした状況は、エレクトロニクス事業の今後に関わり始めた。エレクトロニクス自体は、生産体制の混乱や販売の減速など、新型コロナウイルスの影響を最も早く受けた分野だが、次の流れも見えてきた。

吉田社長は、今後の方向性として「リモートを極める」と宣言する。「エレクトロニクスで追求してきたのはリアリティでありリアルタイム。これはリモートに通じる」(吉田社長)という考え方だ。執行役専務でR&Dを担当する勝本徹氏は、方向性を次のように説明する。

エレクトロニクス事業のリモートソリューション

エレクトロニクス事業では「リモートを極める」と吉田社長。コロナ後の状況に自社技術を生かして市場を確保する狙いだ。

出典:ソニー

「新型コロナウイルスの流行が一旦落ち着いた後でも、多くの人は電車や飛行機での移動ができず、どこかに集まることもできない状況が長く続くものと思っている。エンタメの製作現場では、ロケに行けないので作れない。また、人が集まれないのでライブもできない。医療現場では、そもそも感染症なので人に近づけない。こうしたことを解決する技術が必要だ。バーチャルな場での制作を実現し、ライブもバーチャルに。遠隔診断や遠隔治療も重要になる」(勝本氏)

半導体事業は堅調、「AI搭載センサー」投入する攻めの姿勢

AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」

5月14日に発表された、AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」シリーズ。

出典:ソニー

ソニーの稼ぎ頭であるイメージセンサー事業については、現状「堅調」だ。吉田社長は「スマートフォンの需要自体は上向いていると言えないが、ハイエンド機での複眼化(多数のカメラの搭載)によって、収益は安定した市場と認識している」と話す。ただし、2021年以降の見通しは不透明であるため、生産・設備投資自体は慎重に見定める。

その中で同社が期待するのは、スマホのカメラ向けではなく、画像認識などに使う「センシングデバイス」の需要だ。現状ではスマホ向けがほとんどだが、センシングデバイスの比率を高め、こちらでもシェア世界一を狙う。

そこで武器とするのが、ソニーが5月14日に発表した世界初の「AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー」だ。

このセンサーは、イメージセンサーのうしろに処理用のプロセッサーが搭載されており、画像を受け取ってすぐに画像認識ができる非常にユニークな構造だ。

CPUやGPUまでデータを送る必要がなく、30分の1秒以内で処理が完了する。用途によって画像でなく男女や年齢層などの「認識結果」だけを送れば、転送する情報量は激減する。このセンサーは5年前のハイエンドスマホ並みの「1Tflops」の演算力を持ち、8MBのメモリーを搭載している。これだけで相当の画像認識が行えるのは間違いない。

ソニーのAI搭載センサーの動作イメージ

イメージセンサーの裏に処理用のチップを積み、映像からダイレクトに画像認識などを処理できるのが特徴。

出典:ソニー

5月19日にはこのセンサーについてマイクロソフトと提携し、同社のAI技術である「Azure AI」が搭載されることが発表された。両社が協力することで、センサー向けのAI開発や連携するサービス開発を加速する狙いがある。

ソニーとマイクロソフトの提携

AI搭載イメージセンサーの活用についてマイクロソフトと提携。2019年にクラウドゲーミングで提携したことに続く動きだ。

出典:ソニー

5月14日に開催された説明会で、ソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部・事業部長の染宮秀樹氏は、「AIを搭載することで、センサーを『モノ売り』から、リカーリング(継続)型のソリューションビジネスにしていきたい」と話した。こうした方針は、ソニーの「ソリューション型・リカーリング型ビジネス重視」の姿勢そのものだ。

技術投資を加速する半導体分野においても、体質改善は進んでいきそうだ。

(文・西田宗千佳)

編集部より:初出時、染宮氏が所属する会社名と名前が間違っておりました。お詫びして訂正致します。 2020年5月21日 18:10

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