気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の道場相手は大企業の正社員でいながら、株式会社ハピキラFACTORYの代表取締役でもある正能茉優さん。大学、そして博報堂時代の先輩後輩という旧知の仲である2人。学生の頃よりGO三浦の背中を見てきた正能さんが今回相談したい悩みとは? 連載初のオンライン対談を前中後編でお届けします。
「一流か二流か」ではなく「ストック型かフロー型か」
三浦
正能、久しぶり! 正能とは博報堂時代に先輩・後輩の関係だったんだよね。で、今日の相談は?
正能
お久しぶりです!実は私、一流の大人になりたいんです。最近、肌感覚ではあるんですが、一流の大人と二流の大人の違いを感じる機会が多くて、その差はどういうもので、どうしたら一流の大人になれるんだろうと考えています。
コロナ禍ということで、オンラインでの対談となったが、年来の友人である2人は初っ端から軽快にトークを進める。
三浦
正能の言う一流と二流って、どういうこと?
正能
変な言い方なんですが、「今、世の中で活躍している大人」には2種類の大人がいることを感じています。1種類目は、私と同じように「何がすごいのかよくわからないけれど、世の中の流れに乗っかって1個目の扉開いちゃったよ系」人材。
三浦
「今じゃん、今でしょ!」系ね(笑)。
正能
はい。そういう人たちは、メディアやイベントで面白いお話をしてくれて、その瞬間活躍されていることは間違いないんですけど、それってやっぱり、あくまでもコンテンツとして消費される人だと思うんです……。
三浦
消費される人材、だ。
正能
はい、私も消費される側の人という自覚はあるので、自分も含めてですけどね(苦笑)。で、もう1種類の大人は、「自分の意思でなんらかの鍵を手に入れて、2つ目の扉を開けている」という人たち。自らの得意領域や専門分野をしっかりと決めていて、その分野のオンリーワン・ナンバーワン・ファーストワンの存在だったり、その分野のプロとして目線を持って発信できる人、動ける人。「○○といえば、誰々」系ですね。
三浦
そういう人が一流で、「今じゃん、今でしょ!」系は二流ってこと?
正能
そうですね。「今じゃん、今でしょ!」系の人と、「○○といえば、誰々」系では、後者の方がなんらかの投資をして、自らの領域を形成して、チャンスをものにしているので、そういう順番をつけているんだと思います。「今じゃん、今でしょ!」系の人よりも、「○○といえば、誰々」系の人の方が中長期的に見て、安定して強い。そういう意味で、私も一流になりたいなと思うんです。
「パラレルワーカーといえば正能さん」と言われ多方面で活躍されているが、その状況さえ持続的なものではないと冷静に見つめる。
撮影:伊藤圭
三浦
ちなみに、おれはどっちなの?
正能
三浦さんは自分の領域を決め切ってないけれど、どの領域でも「○○といえば、誰々」系と対等にやりあえる感じがするので、「一流より上の、超二流」って感じです。
三浦
(笑)。そうだね、言ってることは分かるんだけど、一流と二流って言い方が良くないよ。それだと一流のほうが偉いっていうヒエラルキーになっちゃうじゃん。本当はそうじゃなくて、今のタイミングですごく時代から求められる「フロー型の人材」なのか、どういう社会環境でも変わらずに求められる「ストック型の人材」なのかってことじゃない? つまりフロー型が正能の言うところの二流、ストック型が一流。
正能
確かに! そうですね。一流と二流と表現していたのは、ストック型にもなれる何かを持っている人への憧れと尊敬の念です。時間やお金をかけて、意志を持ってmy領域を形成しているから、すごいなって。
三浦
ちなみに、おれは自分がストック型の人間だと思ってる。基本的に広告作るのがめっちゃ上手いから(笑)。
オンラインでもビシビシ伝わってくる仕事への誇り。三浦さんの自信に自粛なし!
正能
領域って、Whatで考えがちですが、Howも領域なんですかね。そう考えると、三浦さんは明確に領域持っていますよね。
三浦
そのうえで質問に答えるなら、やっぱり領域と技術だと思う。今、おれの親友の佐藤昭裕っていう感染症の専門医が「スッキリ」とかにも出てて、めっちゃフローなんだけど、彼は感染症専門医としての深い知見と、その知見をベースにいろんなことを語れる知性があるから、仮に表に出ることを一切拒否したとしても、ストック型人材としての価値はあり続ける。テレビに出なくなっても、医者としての商売は何も変わらない。
正能
そうですよね。お医者さんや弁護士の先生は、コンテンツ化しても、同時に自分の領域の仕事はキープできる。中長期的にキャリアを考えると、私のようなフロー型人材も、そういうストック型人材としてのネタを仕込めば、永く楽しくやっていけるのではないかと思っています。
三浦
フロー型であることは、脚光を浴びるという意味でラッキーに違いないんだけど、正能がたとえフロー型だとしても、今は会社員でありつつ大学院にも通ってるんだよね? そういうふうに何らかの専門性を持とうとすることがすごく大事なんじゃないかな。
人格が支持されるフロー型とアウトプットが実績となるストック型
正能
そうなんです。私は2番目の扉を開けたくて、まず、これまでの自分の経験を振り返りました。自分が興味のあることはなんだろう?って。その中で気が付いた「異質な存在は、どのように組織に変化を起こすのか」というテーマについて、大学院で学んでいます。ただ、私が思いつくストック型人材になる方法って、大学院みたいなアカデミズムだったり資格を取ったりという、古き良き日本の履歴書に書くような方法ばかりなんですよね。三浦さんがストック型人材だとすると、私の周りではかなりNewタイプな、アカデミズムや資格に頼らずストック側にいけてる人なのではないかと。ストック側にいく方法、具体的に知りたいです!
ご友人曰く“人生ガントチャート”な正能さん。将来設計に抜かりはなさそうです。
三浦
放送作家のおちまさとさんが、「ガラスの破片でも動き回ってれば流れ星に見える」って言い方をしてるけど、とにかくいろんな場所で活動することかな。あと、おれの場合はシンプルで、博報堂が大学だったから。
正能
博報堂が大学?
三浦
博報堂という大学で10年間広告の技術を磨いてきた。後半4年間は常に最前線にはいたから、大学で成績が良かった人みたいなもん。だから「ビジネスインサイダージャパン」に出ても「ニューズピックス」に出ても「スッキリ」に出ても、どんなクライアントと仕事をしても、ある一定の「広告の考え方」って技術で打ち返している自覚はある。それって、寿司職人がどんな場面でもすべて寿司にたとえて「いやー、これ実際マグロさばくときも一緒なんすよ」みたいなことを言うのに近い。
ただ、広告クリエイターって極めて雑多な話題を、割とスピーディーに解決する商売じゃん。つまりフロー型。じゃあストックの仕方って何ですかと言ったら、明確に実績を出すことだと思う。
正能
ふむふむ、実績ですか。
三浦
「私はこれをやった人間です」というやつ。個人にファンが付いているんじゃなくて、実績やアウトプットにファンが付いていることが、すごく大事。難しいのは、今はSNSで「個人の時代」とか言って、個人にファンが付くからいいんだみたいに言われてるけど、それってまさにフロー型の人材をつくることでしかない。
正能
はい、間違いないです。実績の有無に関係なく、活躍できる人が増えましたよね。
三浦
これってベッキーさんとゲスの極み乙女・川谷絵音さんとの不倫問題が分かりやすくてさ。ベッキーさんはやっぱりフロー型だったんだよ。人格やキャラクターにファンが付いていた。だから不倫したことで、信じてた人格に裏切られたと感じたファンが離れていったでしょ。一方の川谷さんは、不倫している人間性でも、その音楽からファンは離れない。なぜなら川谷さんは人格ではなくてアウトプットにファンが付くストック型だから。
正能
なるほど(笑)。そう考えると、誰の目にも明らかな実績が出せる人、つまりストック型の人は、やはり強いですよね。
誰から見ても揺るぎない確固たる実績があれば、ストック人材としていつの時代も生き抜ける。
Matej Kastelic/Shutterstock.com
「人材」より「人物」になりたい
三浦
それで言うと、やっぱりおれTwitterで超嫌われてるわけ。
正能
あはは(笑)。あんな一生懸命つぶやいてるのに。でも私は三浦さんのTwitter見て、元気もらう時あります!
三浦
一生懸命って言うな!まあ、6万人くらいいるフォロワーのうち3万人くらいはアンチだと思う。でも、仕事が途切れることはまったくない。おれの技術とアウトプットをみんな信頼してくれてるから。おれの人間性なんて究極的にはどうでもいいのよ。
実は情に厚く、礼儀正しい三浦さんの姿、Twitter民に届け!
今村拓馬
正能
うーん、なるほど。好かれているかどうかと、仕事のありやなしやは別ということですか?
三浦
ただ、アウトプットにはチャンスが必要じゃん? そのチャンスはキャラクターによって訪れることもある。だから一概にキャラクターが必要ないとは思わないよ。キャラクターとアウトプットは行ったり来たりするものと認識しつつ、それでいて自分の本質的な力点をアウトプットに置くことが、ストック型の人材になる上では大切なこと。
正能
以前、副総理の麻生さんとお会いしたときに、「地方には、人材は少ないけれど、人物はいる」っておっしゃっていて。
三浦
おもしろいこと言うね、麻生さん。
正能
地域でずっと活動をしている私としては、確かにって思ったんです。地域って、例えば〇〇大学卒業とか大企業出身とか、あとはそれこそ履歴書に書けるような明確なスキルがあるような「人材」は、東京に比べると少ない。
でも、誰々さんが言うなら聞いてみよう、誰々さんがやりたいって言ってるプロジェクトだから一緒にやろうって言われるような「人物」はいるんです。その人の能力を言語化してくださいと言われると難しいんですけど(笑)。でも、その人の生きざまや人間力、つまりは好き嫌いの世界の方で、チャンスをつかんで実績を残していると、確かに感じました。
三浦
ふむふむ。
正能
麻生さんの話を伺って以来、私も「人材」じゃなくて「人物」の側面も持った人になりたいと思い続けてきたんですが、今日の話だと「人物」ってつまりフロー型の人材ってことになりますよね?
三浦
そうだけど、正能の言う「人物」って、時間のフローじゃなくて空間のフローだよね。
正能
ふむふむ。
三浦
某県のその町においては圧倒的な影響力を持ってるおじさんだけど、東京に来たら全く意味ないじゃん、みたいな人だよね。だから逆に……と言うか正能が目指すべきは、空間におけるフロー人材ではあるけど、その空間限定の影響力だとしても、その空間を広げていきたい。ってことじゃないの?
正能
そういう意味では、空間型フロー人材が、その空間の範囲を無限に広げていくチャレンジができる時代だと感じています。例えば、私が普段特任助教として、学生たちと通っている長野県小布施町って、人口1万人の長野で一番小さい町なんですよ。その町には三浦さんが言うように、空間のフローを使って「君が動くなら動こう」って言われるような若者が何人かいます。地域ならではの人物ですね。ただ、彼らの場合は、それが小布施だけに止まるかというと、そうではない。彼らは、その活動をSNS等で発信していくことによって、その地域のみならず、いろいろな場所に活動を広げていっているんです。結果、実績を残すようなチャンスも増えて、ストック型人材にもなれる。そういう意味では、地域ならではの空間型フロー人材、すなわち「人物」が、今までと違って東京など違うエリアで活躍するチャンスのある時代であり、ストック型人材にも化けていける時代なのかなって思います。
三浦
地方での実績をアウトプットとして、外に打って出る。その意味では、フローによる成果をちゃんとアウトプットとして積み上げていくことが、正能が質問してくれた「フロー型人材がストック型人材に変わる」ためのステップなんだろうね。
※本連載の中編は、5月29日(金)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』が発売中。発売前から予約でAmazonのビジネス書で1位に。
正能茉優: ハピキラFACTORY代表取締役/大手電機メーカー 正社員/慶應義塾大学大学院 特任助教。1991年生まれ。 慶應義塾大学在学中、地方の商材をかわいくプロデュースし発信・販売する(株)ハピキラFACTORYを創業。大学卒業後は、広告代理店でプラナーとして活動。現在は、大手電機メーカーの正社員でありながら、自社の経営も行う。 その「副業」という働き方の経験を活かし、2016年度、経済産業省「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」の委員にも。2018年度からは「自らの手で、働き方の選択肢を増やせる人を育てたい」という想いから、慶應義塾大学大学院特任助教として新事業創造プログラムも担当。 内閣官房「まち・ひと・しごと創生会議」最年少有識者委員。