撮影:今村拓馬
新型コロナウイルスの影響で、大きく売り上げを減らしている外食産業。感染防止のため、国や自治体が外出の自粛を呼びかけたことに加え、居酒屋は夜間の営業について自粛要請されていることもあり、客足が遠のいている。
個人店舗の閉店は相次ぎ、大手資本でもロイヤルホールディングスが大量閉店することも衝撃を呼んだ。
そんな厳しい状況に置かれている外食産業業だが、「外食産業の声」委員会を発足させ、家賃支払いの猶予などを訴え積極的に声を挙げている人がいる。
タリーズコーヒージャパン創業者で、元参議院議員の松田公太氏(51)だ。
松田氏は現在、パンケーキなどハワイの朝食メニューが人気の飲食チェーンEGGS 'N THINGS JAPAN(エッグスンシングスジャパン)の社長を務めており、自身も経営者として難しいかじ取りを迫られている。
今、外食産業を救うためには。アフターコロナの時代に、外食産業はどうなるのか。松田氏に聞いた。
最高売り上げの勢いから、売り上げ9割減へ
松田氏が社長を務めるエッグスンシングスも、コロナによる影響が直撃している。
撮影:今村拓馬
私が社長を務めているエッグスンシングスでは、4月と5月(インタビューを実施した5月中旬まで)の売り上げは前年比でマイナス95%まで落ち込んでいます。
新型コロナの影響を受ける前まで、2月としては過去最高の売り上げを達成できそうだったのですが、2月の最終週で一気に売り上げが落ちました。
3月も売り上げは減り、4月に緊急事態宣言が発令されてからは、前年比で9割減。4月からはパンケーキなどのテイクアウトも始めましたが、売り上げへの貢献はまだまだ少ない。
テイクアウトがメインのお店は別ですが、他の飲食店でも同じような苦しい状況が続いています。
これまで私が採用した方が社長を務めていましたが、新型コロナによる影響に対応するため、4月に私がオーナーの立場から社長に就きました。
今は、銀行にどんどんお金を借りないといけません。大手企業とは違って連帯保証が必要になるので、私の個人リスクと責任の下で借り入れを増やしています。
中規模店には厳しい補償内容
松田氏は中規模な飲食店への補償が不十分だと指摘する。
撮影:今村拓馬
政府や自治体が支援を行っていますが、問題も多いと感じています。
持続化給付金(中小法人は200万円、個人事業者は100万円)や、東京都の場合は休業要請に応じた協力金(2店舗以上の休業で100万円)、また従業員の給与を助成する雇用調整助成金などがあり、個人事業主や小規模な飲食店は、だいぶ助かっていると思います。
私も1997年にタリーズコーヒーを始めたときは個人事業主だったので、もらえる給付金などを足し合わせると、正直、やっていけないことはないなと感じます。
ただ、10~20店舗を経営する中規模事業者や、それ以上の規模の飲食店にとっては、非常に厳しい内容です。
「一律に1社100万円」などと、ざっくりくくってしまえば、中規模以上は助かりません。
家賃補助についても、与党がまとめた案は、家賃の3分の2について、中小企業1社につき最大月50万円、個人事業主に25万円を給付するというものですが、何店舗も営業していると到底足りる額ではありません。
特に都心の一等地では月に300~400万円という地代もザラにあり、20店舗経営しているようなところは、家賃だけで1カ月あたり数千万円も支払う必要があります。
たしかに、飲食業界は小規模事業者の比率が多く、割合の大きい事業主を補償する考えはわかります。ただ、中規模以上の飲食店の方が、雇用も何倍も多く確保しているし、納税額も多い。
規模を考慮せずに一律の助成を行って、小規模事業者以外を切り捨てて良いのでしょうか。
競争激しい外食産業、消費者にはメリット
東京都の営業自粛要請を受け、夜間営業を中止する飲食店も多い。(5月14日、新宿の歌舞伎町で撮影)
REUTERS/Issei Kato
タリーズというベンチャー企業を立ち上げて成長させた経験がありますが、これまで国に対して「こうしてほしい」と要求をしたことはなかったですし、そもそも外食産業は「守られた産業」ではありません。
規制が少なくどんどん新規参入でき、ちょっとの差で負けてしまい、どんどん撤退していく産業です。
ただ、自由競争があればあるほど、産業は強くなる。
携帯電話もドコモだけでなく、 auやソフトバンク、今なら楽天も参入して競争することで、料金の値下げにつながります。
競争が厳しくなるから切磋琢磨し、それが消費者にとっては必ずプラスになる。日本の外食産業はレベルが高く、ちょっとでも値段が上がるとお客様は減るし、ちょっとでもサービスが悪くなるとすぐ口コミが広がります。もちろん味にも厳しい。
ミシュランガイドに掲載される星付きのお店が、世界で一番多いのは東京です。それだけ、日本の飲食業が厳しい競争の中でやってきたからです。
「家賃の猶予」の法制化を
「自助・共助・公助」という考え方が大切だと松田氏は言う。
撮影:竹井俊晴
激しい競争にさらされながらも、これまで飲食業界は成長を続けてきました。しかし、今回の新型コロナの影響は、自己責任の範囲を超えるものです。
誰も「売り上げ9割減」という事態に対して、保険をかけることはできない。
もっと言うと、国や自治体の政策として、店側にも消費者側にも非常に厳しく自粛を要請してきた。休業の要請は、補償とセットで行われないといけません。
私はこれまでも、自助・共助・公助が大切だと訴えてきました。
ただ、「お金をくれ」とか「全部補償しろ」というのは間違っていると思っていますが、何かしらサポートは必要です。
そこで全国の外食産業関係者と「外食産業の声」委員会を立ち上げ、「家賃支払いモラトリアム法」の策定を訴えました。この法案は、家賃の支払いの猶予を法制化するものです。
会社が潰れるのは、キャッシュという血液がなくなった時です。輸血が続いている分には死なないわけで、今回の法案はその輸血をお願いしています。
ただしこのキャッシュはあとで返しますよと。自助を前提にしながら、ともに助け合う(共助)と国の多少なりのサポート(公助)いう考え方を大事にしたいと思っています。
日本が挑戦できる国であるために
これまで何度も飲食店の事業拡大に携わってきた松田氏。「日本はまだまだ起業意識が低い」と言う。
撮影:今村拓馬
日本では、まだまだ起業文化が根付いているわけではありません。
新型コロナでこんな状況になったときに、チャレンジしてきた人を支援してくれないとなれば、リスクをとって事業拡大を目指す人は出てこなくなるのではと危惧しています。
ただ、ここ20年間でやっと、起業を取り巻く環境は変わってきました。
私が起業した頃は、ベンチャーキャピタル(VC)なんて言葉すらなく、直接金融という考え方がそもそもなかった。
会社を立ち上げるには、銀行から連帯保証でお金を借りて、それで潰れたらブラックリストに載ってしまい、再起は難しかった。
でも今は、エンゼル投資家やVCが育ってきて、起業や事業拡大をしやすい環境が整っています。
それでもまだ日本ではベンチャーを立ち上げるという意識が低く、良い大学に入って、少しでも大きな企業に入るのが正しいと考えている人が多い。
コロナの直撃を受けた今、国が何かしら救いの手を差し伸べることなく、成長過程の中堅企業が見捨てられることになれば、「やっぱり一番いいのは大企業に勤めること」だと思ってしまうでしょうね。
(現在の補償内容を考えると)大企業に入るか個人事業主のレベルでやっていくかどちらかでしょう。テナントとして入居し、設備投資を増やして成長するというビジネスは誰もやらなってしまう。
もしそうなれば、不動産価値の下落や日本経済の低迷にもつながります。
(後編に続く *近日掲載予定)
(聞き手・横山耕太郎)
松田公太氏…1968年生まれ。5歳から高校卒業までの主に海外で過ごす。筑波大学卒業後、銀行員を経て1997年に日本でタリーズコーヒーを創業。翌年タリーズコーヒージャパンを設立し、2001年に株式上場した。320店舗超のチェーン店に育て、2007年に同社社長を退任。2010年に参議院議員選挙で初当選。議員任期満了後は、エッグスンシングスの世界展開に着手し、国内では21店舗を展開している。