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2020年春にフルモデルチェンジした花王の男性向け薬用シャンプー「サクセス」が好調だ。2020年2月24日のフルモデルチェンジからわずか2週間で、新製品のサクセス薬用シャンプー、サクセスリンス、サクセスシャンプー 髪サッと整うタイプの累計出荷数が過去最高の160万本。そして、コロナの影響がある中でも「サクセス」シャンプー&コンディショナー全商品の2020年度の累計出荷数が500万本を突破。フルモデルチェンジのキーワードに立てた「スタンバイ戦略」が確実に結果に結びついている。販売好調を導いた要因には何があるのか?ユーザーからはどのような反応があったのか?ブランドマネジャーの水町直樹さんにフルモデルチェンジ成功の理由を聞いた。
「頭のニオイ」への意識がより高まった
「身だしなみを整えてビジネスチャンスに備える」――そんなコンセプトでフルモデルチェンジした花王の「サクセス」が、若いビジネスマンから支持されている。
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──2020年2月のフルモデルチェンジ後、「サクセス」が予想を上回る売れ行きだそうですね。
水町直樹さん(以下、水町):はい。「サクセス」シリーズは30年以上続くブランドで、ユーザーの年齢層も40代、50代以降と高くなっていました。今回のモデルチェンジでは、20代、30代の男性に訴求できるようにしているのが特徴です。
今の若いビジネスマンにとって、身だしなみに気を遣うのはすでに当たり前です。中でもシャンプーというカテゴリーでの身だしなみのニーズに、今回の製品が合っていたのだと考えています。
身だしなみを整えてビジネスチャンスに備える──そんな「男のスタンバイを科学する」という今回のスローガンが、若い世代のニーズにうまく合致したところが大きいのではないでしょうか。
とはいえ、男性はこうした日用品に関して、なかなか自分で情報を取りにいかない、発信しない傾向があります。そこで今回のフルモデルチェンジに当たっては、コミュニケーションに工夫を凝らしました。
まず、ターゲットと同世代である亀梨和也さんをテレビCMに起用。それによって、ユーザー世代に共感を得られたのと同時に、亀梨さんファンの女性たちの商品への関心が高まり、彼女たちを通じて商品の情報を得る男性が増えました。男性用シャンプーは女性による代理購買の割合が高いカテゴリーです。そのため、こうした女性を介したコミュニケーション戦略が有効でした。
実際に、亀梨さんも以前から愛用してくださっていたそうで、インタビューでも「サクセスは、普段から使っている」とコメントしていらっしゃいました。「スッとするのが好き」なのだとか。そういった偶然も大きかったと思います。
店頭での露出を強化し、男性の興味喚起を高めた。
提供:花王
2月24日の発売日から店頭で大々的な展開をしていただいたことも、相乗効果を生みました。ターゲット世代の男性に加え、亀梨さんファンの女性たちが彼氏やパートナーのために購入しようと店舗へ足を運んだとき、ちょうど店頭の目立つところに商品が並んでいたのです。
一方、インターネット上では「頭皮トントン」というキャンペーンを実施しました。これは、頭皮のニオイやベタつきを、さりげなくチェックしているというエンタメ性のある企画です。従来から、男性の2人に1人は頭のニオイやべたつきを気にしていることが分かっていましたが、この企画を通じて、自分のニオイに自覚がなかった男性の間でも、頭皮ケアへの意識が高まったと言えます。
また、20代男性をターゲットにしたサブライン「サクセス24」の広告では、昨年に続き西野七瀬さんを起用。さらに今年4月から新たな香りを追加して、若い世代の注目を集めることができたことも、サクセス全体への興味関心を高めることにつながったと考えています。
男性の「身だしなみ」、今や常識
今回のリニューアル前後の消費者調査の結果からは、「頭皮や髪のことをよく研究している」「清潔感に自信が持てそう」といったポジティブな反応が見えてきた。サクセスのブランドへの信頼感が伝わってくる。
提供:花王
──「男のスタンバイを科学する」というスローガンは、まさに今回のフルモデルチェンジの好調を象徴していると思いますが、どのようなところから着想を得られたのでしょうか。
水町:グループインタビューなどの調査を通じて、消費者のニーズを掘り起こす作業は常に行っています。そうした中で、若い男性の「人と会う前にはきちっとしていたい」という身だしなみへの意識の高まりが、はっきりとデータに現れていました。
また、男性の身だしなみに関連した商品が、あらゆる分野で増えていることからも、ニーズの高まりは見てとれました。
実際、男性のスキンケアに対する意識は、40歳を境に大きく異なる傾向があります。今の20~30代の男性では、入浴後や洗顔後に化粧水をつけることへの抵抗感はほとんどありません。肌がきれいで顔色もよく、清潔感が漂っていれば、ビジネスもうまくいく。そんなふうに、外見が与える印象の大切さがすでに意識されているのです。
ただ、シャンプーというカテゴリーを見てみると“備える意識”に着目した商品は、聞いたことがありませんでした。デオドラントケアやスキンケアなどは、ビジネスマンの日中をカバーする商品が多く存在するのに対して、日中の頭皮や髪をケアする商品がまだないという現状に気づきました。
今回のリニューアルで、多くの男性が抱いていたそうした思いを「男のスタンバイを科学する」といった言葉にしたことで、消費者の中でもそのニーズがよりはっきりとした形になったのだと思います。
男性が髪を2度洗いする理由
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──家族で同じシャンプーをシェアする家庭も多いと思いますが、「男性向け」のシャンプーが、より男性の「スタンバイ」に求められる理由はどこにあるのでしょうか。
水町:実は、男性向けシャンプーと女性向けシャンプーは製品開発の考え方が異なります。女性向けは美しく長い髪を保つため、髪のケアをより重視して設計されているものが多い。しかし、短髪が多く、カットの頻度が高い男性は、女性ほど髪が傷みません。一方で、女性より頭皮の皮脂分泌量が多い上に、ハードなスタイリング剤を多く使う傾向があるため、より洗浄力が大切になります。
男性で、シャンプーの2度洗いが日常化するのにはそうした背景があります。1回のシャンプーではスタイリング剤が落とし切れず、髪にベタつきが残ってしまう。毛穴に皮脂が残ったままでは髪の成長にもよくないし、ニオイの原因にもなります。そこを1回のシャンプーで解決できるのが、新しいサクセスの強みです。
今回のフルモデルチェンジ後、新たにサクセスを購入された方を対象に行ったアンケートでは、1回でスッキリ洗えた満足感から約9割の方に「リピートしたい」と回答していただけました。
「サクセス」は、シトラス系の香りを中心に展開しているのですが、今回のフルモデルチェンジでは同じシトラス系でもよりさわやかな香りに改良しています。さらにメントールも入っているので、洗いあがりもすっきりとした爽快感に溢れています。人と会う日常ではもちろんですが、リモートワークで在宅勤務が続く現在のような状況下でも、リフレッシュに役立つのではないかと思います。
「明日の清潔感スタンバイ」をさらにサポートするために
提供:花王
──今回のフルモデルチェンジの成功を受けて、今後さらに、どのような展開をしていこうと考えていらっしゃいますか。
水町:若い世代にはニオイに敏感な人が多くなっています。最近は男性でも制汗剤を使うのは普通になっていますし、洗濯に使う柔軟剤でさえ、衣類の肌触りよりもニオイを防ぐ、あるいはいい香りをさせる効果が期待されるようになっています。
そうした流れの中でさらに「男のスタンバイを科学する」ために、シャンプーやトニックのような「サクセス」シリーズですでに取り扱いのある分野以外でも、ニーズに応える商品を提供していけたらと考えています。
消費者調査から読み取った「若い男性ほど身だしなみに気を遣う」というトレンドを商品にうまく生かした花王。ニオイをケアするデオドランドケア、好印象をもたらすスキンケアが重視される中で生まれたこのシャンプーを通じて、今後は頭皮や髪のケアにも多くの視線が集まるかもしれない。「サクセス」のフルモデルチェンジの成功は、現代の若いビジネスパーソンのニーズを的確につかんだ結果と言えそうだ。