「マスクは年内に1箱1000円切る」中国マスク輸入の社長が語る「ナゾノマスク」の相場

ナゾノマスク

客が激減した飲食店の中には、マスク販売を始めるところも出てきているた(2020年3月、東京で撮影)。

REUTERS/Issei Kato

新型コロナウイルスの影響で日本中がマスク不足に陥る中、政府支給の布マスク「アベノマスク」より先に4月に商店街や飲食店で見られるようになったのが、中国から輸出された「ナゾノマスク」だ。

当時の相場は1箱(50枚)4000円前後だったが、5月に入ると値崩れが始まり、今では2000円を切ることも珍しくなった。このまま日本のマスク不足は解消に向かうのか。

筆者の最新刊『新型コロナ VS 中国14億人』で紹介した「食品メーカーだけどマスク輸入も始めた」松井味噌(兵庫県明石市)の松井健一社長は、「中国の生産体制は飽和状態。家庭用マスクについては、再び品薄になる可能性は低い」と語る。以下は松井さんの証言だ。

マスク破って品質確認する中国の従業員

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松井さんの会社では、2月に大連で工場を再開したとき、従業員がマスクを破って品質を確認したという。

私は日本、中国で食品メーカーを経営し、中国では大連を中心に味噌やインスタント麺用調味料を生産する工場5カ所を保有しています。大連では春節が明けて2月中旬に工場を再開するとき、当局から「全従業員に毎日マスク1枚を支給する体制をつくらないと、再開を認めない」と指示されました。

このため、iPhoneの製造工場として知られる鴻海(ホンハイ)精密工業など異業種の大手メーカーも自社向けにマスクを生産するようになりました。

当社は食品メーカーなので、コロナ前からマスクを備蓄していました。従業員たちにマスクを配布すると、みんな一度破って、感染予防効果のあるメルトブローン不織布フィルターを使用しているか確認していました。中国人は政府や政策もあまり信じていませんし、何でも自分で確認しないと気が済みませんから(笑)。

当時(2月頃)は中国でマスクが足りず、国からもマスク工場を作れと大号令がかかりました。聞いた話ですが、会社を設立して最短3日で製造免許が出たそうです。2~4月にはマスク工場が約4000工場増え、生産実績は20倍以上に増えたわけです。

欧州から返品が相次いだ理由

コロナvs中国14億人カバー帯あり

「新型コロナvs中国14億人」

中国政府は2月から増産したマスクを国内に供給していましたが、3月になると輸出を認めました。しかし、この頃は「マスクの生産能力を上げる」ことに重点が置かれ、規制らしいものはありませんでした。だから、医療用でない一般規格のマスクがどんどん世界に輸出されました。

中国のマスクの規格は5種類あります。

医療用マスクは米国認証規格であるN95と同レベルの検査基準をクリアしたとされるKN95マスク、サージカルマスク、一般医療マスクの3種類。加えて、建築現場や塗装作業場で使われるような粒子物資からの保護を目的としたマスク、日常生活での着用を想定した「日常防護マスク」があるわけです。この「日常防護マスク」が、日本のドラッグストアやコンビニで売られている家庭用マスクです。

コロナ前、日常防護マスクは日本で50枚600~800円で売られていましたが、実はその市場は日本と中国にしかありません。

私の知る限りですが、コロナ前、国民がマスクをする習慣がある国は、日本と中国、そしてベトナムだけでした。日本は花粉症、中国は大気汚染、そしてベトナムも排気ガス対策でマスク着用の習慣がありました。ただ、ベトナムは布マスクが主流でした。

2~3月に中国で急ごしらえで立ち上がったマスク工場の多くは、日常防護マスクを作りました。その中には日常防護マスクなのに、「医療用マスク」とパッケージに記載して売り出したところもかなりありました。それらが、3月に欧州から「品質基準を満たしていない」として大量に返品されたマスクです。欧州は医療用マスクを仕入れたつもりが、中身は日常防護マスクだったわけです。

メンツを潰された中国政府は、4月に輸出用マスクの検査を厳格化し、輸出を止めました。医療用マスクの輸出は1カ月ストップし、日常防護マスクの輸出も4月下旬に1週間止まりました。だから4月中旬ごろから世界の医療用マスク不足がさらに深刻になりました。

私は創業52年の医療品製造専門会社から医療用マスクを輸入していますが、それも出荷が止まりました。4月末に工場から「40数社だけ医療用マスクの輸出許可が出て、うちもそこに入れた」と連絡があり、出荷が再開しました。

こうして5月に入り、医療用マスク、家庭用マスクともに中国から海外への出荷が再開され、日本にも入ってくるようになりました。医療用マスクもこれでひっ迫状態がやや緩和するのではないでしょうか。

「ナゾノマスク」が値崩れした背景

松井社長

日本と中国で食品メーカーを経営する松井健一さん。

日本の商店街や飲食店の店頭で山積みになっている「ナゾノマスク」。あれらは4月に契約され、中国から出荷されたものだと思います。

日中企業は「投資回収」の考え方が根本的に違います。日本で製造ラインを作ると「設備投資は数年かけて回収」と考えますが、中国は「3カ月で投資を回収」が前提です。製造業だけでなく飲食店もそうです。テナント契約が1年なので、3カ月目で利益が出ないなら、1年待たず閉店を選択する、そういうカルチャーです。

4000あるマスク工場だって、今年1年の勝負と思っています。来年もマスクで儲けようとは思っていません。

では、4月は4000円台もあった「ナゾノマスク」の価格がなぜ1カ月で半額まで値崩れしているのか。それは売り先が日本にしかないからなのです。先に説明したように、日本以外の国が欲しいのは医療用マスクですから。

日常防護マスクは欧米に出せず、中国でもだぶつき始めたので、大量に日本に出てきます。そうすると、明らかに供給過剰です。今、日常防護マスクの中国からの輸入は、停滞しています。輸送している間に値段が下がってしまいますからね。

これらの要素から、日本で日常防護用マスクの価格が再び1箱4000~5000円に上がることはないでしょう。日本のコロナがこのまま落ち着けば、年内には50枚1000円を切ると思います。原材料費が上がっているので、コロナ前までの水準には戻らないかもしれませんが、花粉症などで日常防護用マスクを求める方は今焦って買う必要はありません。

中国の急造マスク工場は来年半分が消える

では、中長期的にマスクの需給はどうなるか。中国では4000工場が立ち上がりましたが、2021年には半分が淘汰されるでしょう。マスク工場の今後の選択肢は3つあります。

資金力や技術がある工場は、「医療用マスク」の規格を取り、高品質路線にシフトする。世界でコロナが収まらない限り、医療用マスクの需要は残りますからね。2018年の中国のマスク輸出は48億枚でしたが、2月に医療用マスクの生産を始めたBYDは今や1日に5000万枚を生産しています。自動車メーカーであるBYDがマスク生産を続けるかはともかく、医療用マスクは次第にメガ企業に集約されるかもしれません。

次の選択肢は、投資を回収したら、さっさと工場を畳むことです。

3つ目の選択肢は、日本と中国向けにマスクの生産を続ける。工場を畳むのももったいないし、従業員の仕事も必要だしと思う工場は、それを選ぶでしょう。

欧米企業に買い負ける日本

マスク工場

松井さんが医療用マスクを輸入する中国のマスク工場。

当社(松井味噌)は2月下旬、日本の関係者から「医療用マスクの輸入ができないか」と何度か相談を受け動き始めました。医療用マスクの免許を持っている中国の工場を調べ、電話して問い合わせていくという地道な方法です。

けれど、どの工場も世界中から注文殺到しており、価格交渉なんてできません。価格の話をしようものなら、電話を切られます。以前からマスクを安く買っていた日本の皆さんは「こんなに値段が上がるのはおかしい」「なぜ日本に入ってこないのか」と思っていたかもしれませんが、欧米企業や政府との札束での戦争になっており、「コロナ以前」の感覚を捨てきれない日本が買い負けるのも仕方ないのです。

マスク

アイドルグッズや雑貨店など、ドラッグストア以外の店頭でもマスクをよく見かけるようになった。

撮影:竹井俊晴

当社も大きな工場には相手にされませんでした。というのも、大工場の商品は中国政府に押さえられている。推測ですが、中国の大工場が生産するマスクが、同国政府の「マスク外交」に使われているのかもしれません。だから当社は、「まとまった量を作れないけど、医療用マスクで数十年の実績がある優良中小メーカー」を見つけ出して契約しました。

マスク代は全額前金で支払いました。医療用マスクの原材料であるメルトブローン不織布が中国でも不足しており、工場もメルトブローンメーカーに現金を払わないと仕入れができないのです。

契約が成立しても、欧米企業が数倍の価格を提示して横取りすることも珍しくありません。だから当社は従業員を工場の生産ラインに派遣し、ちゃんと作ってもらえるように張り付かせました。

そうして4月から医療用マスクを日本に輸入し、販売してきました。その後、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が中国で3億枚のマスクを調達し、日本に供給すると発表したことを受け、日本の医療現場のマスク不足は解消に向かうと判断し、当社は既に新規の輸入は停止しました。

日本へのマスク調達の役目を終えたと考え、今後は本業のお味噌製造業に専念する予定です。

文・浦上早苗、写真・松井さん提供)

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