リモートワーク増加に後押しされ急成長を続けるZoom(ズーム)。中央にエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)。
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- Zoom(ズーム)がフェニックスとピッツバーグに研究開発拠点を設立し、今後数年で総計500人のエンジニアを採用しようとしている。
- パンデミック発生以前からの計画と、パンデミックによって急増した新たなユーザーを維持するための新たな対応を組み合わせた上での決定だ。
- 新たな拠点への投資は、オフィスでの勤務を希望する従業員にその選択肢を用意するのが目的という。
Zoomはユーザー拡大を受け、新たなエンジニア人材の確保に動き出している。
同社はリモートワークの象徴とも言うべき存在になったにもかかわらず、増加中の従業員のためにフィジカルなオフィスを2カ所で建設することを決めた。
すでにフェニックス(アリゾナ州)とピッツバーグ(ペンシルベニア州)で開発拠点の準備を進めており、今後数年かけて合計500人のエンジニアを採用する。
Zoomの従業員は1月31日時点で2532人なので、500人の新規採用はかなり大規模な採用活動と言っていいだろう。同社は5月17日現在、118件の求人情報を公開しているが、そのうち27件は新拠点での勤務とされている。
ケリー・ステッケルバーグ最高財務責任者(CFO)によると、今回の採用強化については以前から計画されていたが、新型コロナウイルスの世界的流行後にリモートワークの急増を受けて需要が急増したため、それを加味して採用数を決定したという。
「エンジニアチームの成長拡大を維持するにはどうしたらいいのか、どんな戦略をもってそれを進めていくのか、以前から議論を続けてきましたが、第1四半期はちょうどその最終的な意思決定のタイミングだったのです」
「以前から計画してきた通りのエンジニア採用に、パンデミック対応で生まれたあらゆる必要な機能に対応するための人員強化を上乗せして、採用人数を決めました」
Zoomはパンデミックの過程でユーザー数を一気に増やし、独自の立ち位置を築いた。4月半ばの時点で1日3億人がビデオ会議に参加しており、今後も継続的なニーズの拡大を想定している。
採用人数をこの段階で決定したのは、この拡大した顧客基盤へのサポートを確実にしておく必要があったからとみられる。
従業員は勤務環境を自由に選択できる
Zoomを活用して、クラスメイトたちとオンライン授業を受けるスペインの子ども。パンデミック終息後も、世界中で必要とされるところならどこでも、ビデオ会議ツールは定着するとの見方が強い。
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Zoomは当初、新規ユーザー向けの対応としてテクニカルサポートとカスタマーサポートに重点を置いた人員増強を検討していたが、現在は長期的な成長という視点も加えて検討している。
Zoomの経営陣は、パンデミック後もリモートワークとビデオ会議は増え続けるとくり返し発言してきた。ステッケルバーグCFOは次のように強調する。
「私たちは従来と同じ働き方に戻るとは考えていません。最終的に安全を確保してオフィスを再開できるようになっても、在宅ワークのような柔軟な働き方は、すべての企業が選択肢のひとつとして組み込むようになると思います」
また、開発拠点2カ所の建設は、ユーザー拡大後も同社のサービスを継続して安定的に利用できるようにするためのテコ入れだという。
今後、ソフトウェアエンジニア、セキュリティエキスパートを採用してDevOps(=開発と運用が連携し迅速にシステム開発を進める手法)を拡大するとともに、クラウドインフラのエキスパート採用を増やしていく方針。
従業員には、新拠点のフェニックスとピッツバーグ、サンノゼ本社(カリフォルニア州)での勤務、あるいはリモートワークを選択できるようにするという。
Zoomの従業員ですらオフィスをほしがる
ビデオ会議では非効率な仕事があることも、Zoomの従業員たちはよくわかっている。写真は「Zoom合唱」を試みるラトビアの市民たち。
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面白いのは、今回の開発拠点2カ所の新設によって、Zoomはリモートワーカーを採用するだけでなくオフィススペースにも投資するという事実が明らかになったことだ。
ステッケルバーグCFOによると、Zoomでは自社のリモートワークをサポートするために自社プロダクトを使っているけれども、一部の社員はオフィス勤務を希望していて、オフィスライフの再開を心待ちにしているという。
「チームの仲間と一緒に仕事をしたいという人もいます。それはソーシャルな(つながりの)観点から。同時に、彼ら彼女らは効率性も大事にしていて、Zoomを通じてやり取りしながら進めるより一緒の場所でやったほうがうまくいくと思う仕事についてはそうするわけです」
若い従業員にはとりわけそういう人が多く、フェニックスとピッツバーグに配置したいのはそうしたタイプの人材だという。ちなみに、両拠点ともアリゾナ州立大学とカーネギーメロン大学という著名大学から近い。
なお、Zoomはすでに新拠点のオフィススペース探しを始めているが、フェニックス、ピッツバーグ、サンノゼ、中国、いずれのオフィスも、安全が確保され、従業員が復帰して安定的に仕事をできる環境が整うまでは閉鎖を続ける模様だ。
シリコンバレー以外での採用
機械学習とデータサイエンスに精通した人材の「ハブ」といわれるペンシルベニア州ピッツバーグ。
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Zoomはシリコンバレーの中心・サンノゼに本拠を置くが、他のテック企業に追随してシリコンバレー以外にもサテライトオフィスの新設に動いている。
すでにエンジニアチームを分散させ、一部を中国に、残りをサンノゼに置いており、(フェニックスやピッツバーグのように)数カ所拠点を増やしていくことは従来の動きから逸脱するものではない。
ソフトウェアエンジニア採用支援サービス、ハッカーランク(HackerRank)のヴィヴェック・ラビサンカールCEOは、Zoomがピッツバーグを新拠点に選んだことに注目する。同市は機械学習とデータサイエンスに精通した人材の「ハブ」とみられているからだ。配車サービス大手ウーバーの自動運転車開発ユニットも拠点を置いている。
ラビサンカールCEOの見立てでは、Zoomは自社プロダクトに人工知能(AI)機能を組み込んでいくための人材を確保しようと目論んでいるようだ。
Zoomのバーチャル背景機能にはすでにAIが使われているが、例えばより精度の高い議事録自動作成機能など、イノベーションの余地はまだまだあるという。
ここまでの経営幹部の発言や専門家の分析を踏まえると、Zoomはさらなる成長を模索していると思われる。
ステッケルバーグCFOによると、新拠点への進出によってベイエリアでのエンジニア採用を一切中止するということはなく、あくまで「人材確保の機会を増やし、広げる」のが狙いだという。
(翻訳・編集:川村力)