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【パナソニック連載1】「脱ものづくり」果たせるか。将来占う米ソフト会社の資本提携

パナソニック

撮影:小林禎弘

データの量が爆発的に増える中、企業は、デジタル技術を駆使する体制を整備するデジタルトランスフォーメーションを迫られている。

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行で、人と人との接触を最小化せざるを得ない状況下、日本ではサプライチェーンのデジタル化の遅れが課題として浮上している。

こうした中、パナソニックコネクティッドソリューションズ社(CNS社)は5月20日、アメリカのソフトウエア会社ブルーヨンダーの発行済み株式の20%を約860億円で取得すると発表した。

ブルーヨンダーは機械学習を用いたサプライチェーンマネジメントで優位に立つ企業だ。パナソニックは今後、ブルーヨンダーのアプリケーションを軸に、顧客企業に対してサプライチェーン全体の業務効率化を促していく考えだ。

パナソニックが解決を掲げるこうした課題は、実はパナソニック自身が抱える課題でもある。大型出資の背景に踏み込むと、日本の製造業が抱える課題の輪郭が浮かんできた(全4回連載)。

単なる協業を超えた可能性を求めて

CNS社で上席副社長を務める原田秀昭(57)は2018年2月、アメリカ西海岸のサンフランシスコに向かった。

連結売上高が7兆円(2019年)を超えるパナソニックには大きく4つの柱があるが、CNS社はそのひとつだ。主に航空や流通、物流といった分野向けの機器を製造し、顧客企業の課題解決を担当している。一般消費者向け家電のイメージが強いパナソニックにあって、CNS社は企業顧客向けのビジネス(B2B)を主力とするカンパニーだ。

CNS原田副社長

オンライン記者会見で、ブルーヨンダーと資本提携を発表するCNS社上席副社長の原田。

撮影:小島寛明

原田のアメリカ出張の目的は、JDAソフトウェア(2020年2月、ブルーヨンダーに社名変更)の幹部とのミーティングだった。

アメリカのアリゾナ州に本社があるJDAは大企業を主たる顧客とし、サプライチェーンの課題解決を支援するソフトウェア会社だ。材料や部品の調達、製品の製造や輸送、小売店での需要予測……サプライチェーンの上流から下流に至るまで、さまざまなシステムを提供している。

JDA側からは他社との協業を担当する幹部が、CNS社からは原田らが出席した。

アメリカやイギリスに駐在するなど海外営業を長く経験してきた原田は現在、海外企業の買収や提携を含む事業戦略を担当している。JDAとの最初のコンタクトの空気感を、原田はこう振り返る。

「単なる協業というよりも、M&Aがポテンシャルにある、においを感じながら会ったというところだ」

最初の接触時から、パナソニックがJDAに対して強い関心を示したのはなぜか。話は、さらに1年さかのぼる。

矢継ぎ早に打ち出された樋口改革

2017年4月、日本ヒューレット・パッカード、ダイエー、日本マイクロソフトの社長を歴任した樋口泰行(62)がCNS社の社長に就任した。パナソニック内部の組織再編で、CNS社が発足したタイミングにもあたる。

CNS樋口社長

ブルーヨンダーとの資本提携を発表する会見の冒頭では、CNS社社長の樋口が挨拶した。

撮影:小島寛明

CNS社の社長と本社の代表取締役を兼任することになった樋口は、矢継ぎ早に社員に変革を促す策を打ち出した。まもなく、さまざまなものが廃止された。

まず、ドレスコードがなくなった。男性社員はこれまで、ビジネススーツ以外で出社することを想像もしなかったが、カジュアルなシャツを買いにユニクロに走った。

役員室は廃止され、役員専用の席もなくなった。

社内外から驚きの声が上がったのは、大阪府門真市から東京・汐留へのオフィス移転だ。松下幸之助が102年前に大阪市で興した松下電気器具製作所が、パナソニックのルーツ。大阪の製造業のプライドはいまも社内に根を下ろしている。

そんなパナソニックにあって、いちカンパニーであっても大阪から東京に移転するという判断は、少なくとも社内の常識からは大きく外れている。

ハードにこだわっていては先がない

CNS社

CNS社が本拠地を大阪から東京・汐留に移したことは社内外で驚きを持って受け止められた。

撮影:今村拓馬

樋口が社内の改革を進める一方で、原田は海外の企業との提携や買収を視野に入れた水面下の動きを始めていた。

原田はこう明かす。

「2017年は、ほかのアメリカの会社とも仲良くなりたくて、お見合いをしていた」

こうした動きの背景には、パナソニックの一部にある危機感が存在する。原田を含め複数の幹部が「パナソニックはソフトウェア・ケイパビリティが不足している」と口をそろえる。

パナソニックは100年間、ものづくりの会社として存在感を示してきた。顧客のほとんどがハードウェアの会社と認識していると考えられ、社員の側もその自負が強い。

幹部たちが言う、ソフトウェア・ケイパビリティがないという言葉は、ソフトをつくる能力がないという意味ではない。ハードを動かすためのソフトは開発しているが、ソフトを軸に継続的に収益を生む力がないという趣旨だ。

米中のIT大手が、ソフトウェアの圧倒的なシェアを背景に、さまざまな市場への支配力を強めるいま、ハードにこだわり続けていては先は見通せない。

マイクロソフトの停滞と変革を経験

サティア・ナデラ

マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。

REUTERS/Shailesh Andrade

パナソニック社長の津賀一宏(63)も「従来型のモノ売りからの脱却」を掲げている。

CNS社内部で強まっているのは、「リカーリング」と呼ばれるビジネスモデルへの転換だ。リカーリングは「繰り返す」「循環する」といった意味の言葉だ。

若干ニュアンスは異なるが、NetflixやApple Musicなどで定着した定額制のサブスクリプション・モデルを思い浮かべると理解しやすいだろう。

マイクロソフトは、長く単品売りのビジネスモデルを続けてきた。1990年代から2000年代、Windowsの新しいパッケージが発売されると、日本でも家電量販店に長い列ができた。

しかしマイクロソフトは、2014年にサティア・ナデラが最高経営責任者(CEO)に就任して以降、リカーリング・ビジネスへと大きくかじを切った。停滞を指摘されていたマイクロソフトが、再び革新的な企業として認知されるうえで、この移行が大きく寄与したとする声は強い。

日本法人のトップとして、マイクロソフトの停滞と変革の渦中にいたのが、現CNS社長の樋口だ。

ではこのリカーリングを、パナソニックに当てはめるとどうなるだろう。

これまでのパナソニックは基本的には、単体のモノ売りビジネスの会社だった。家電製品はもちろん、企業向けビジネスでも法人用の堅牢なノートパソコンを販売し、あるいは電子部品の工場向けに実装機を納入し、一定期間メンテナンスや修理を保証する。

こうしたモデルをリカーリングへと転換する上で、カギになるとみられるのがJDAの存在だった。

商品の発注の99%を自動化

ブルーヨンダー

ブルーヨンダーCEOのギリシュ・リシ。

撮影:小島寛明

一見地味にも映るサプライチェーン・マネジメントのソフト会社との協業がなぜ、パナソニックにとって重要な意味をもつのか。

原田が2年前にサンフランシスコを訪れて以降、パナソニックとJDAは、かなりのスピードで協業のステージを上げていた。

2018年8月、まずJDA側に大きな動きがあった。AIを活用したサプライチェーン・マネジメントで優位に立つドイツ企業ブルーヨンダーを買収。1年半後、JDAは買収したブルーヨンダーに社名を変更する。

M&Aでは通常、買収された企業が買収した企業の社名に変わる。買った側のJDAが、買われたブルーヨンダーに社名を変更した判断から言えるのは、JDAがこのドイツ企業を極めて高く評価しているということだろう。

ブルーヨンダーを表現するとき、「上流から下流まで、一気通貫にコントロールする」という言葉がよく使われる。例えば、部品や材料を調達して工場で製品をつくり、運送会社が製品を運び、倉庫会社が保管し、小売店が製品を売る。ブルーヨンダーが得意とするのは、こうしたプロセス全体を管理するシステムだ。

イギリスのあるスーパーマーケットチェーンでは、これまで人間が商品発注を管理していたが、ブルーヨンダーのシステムに置き換え、注文の99%を自動化したという。

「ハードとソフトは違う」という慎重論

パナソニックの社史

パナソニックにとっては30年前の苦い記憶。1990年、MCA社(現・ユニバーサルスタジオ)の買収。米映画界の大物・ワッサーマン氏と。

パナソニックのHPよりキャプチャ

2019年1月、パナソニックとJDAは共同開発について覚書を結んだと発表した。

原田は「パナのハードとJDAのソフトの組み合わせで、もっと付加価値を提供できる。彼らもパナソニックの価値を理解していた」と話す。

今後、ブルーヨンダーのソフトウェアとパナソニックの技術を組み合わせることで、サプライチェーン全体をターゲットに、効率化や自動化を促していく考えだ。

例えばパナソニックの画像解析技術で、店の棚から商品がなくなったことを検知する。こうした欠品情報は、ブルーヨンダーのシステムを通じて倉庫や工場にリアルタイムで伝えられ、どの製品を優先的に運んだり、製造したりするかを最適化する。

欠品情報の解析で売れ筋の商品が見えてくれば、どの棚にどう商品を置けば売り上げアップにつながるかなども提案できる。

CNS社は、ブルーヨンダーのシステムを軸に、付随するさまざまなパナソニックの装置もリカーリングモデルで売り込みを図る考えだ。

2020年5月、パナソニックはブルーヨンダーは資本提携に合意し協業のステージをさらに上げた。

記者会見の冒頭であいさつした樋口は、「強いハード、ソフトウェアのケイパビリティ、総合的にソリューションとして提供するコンサル、サービスの組織能力が必要になってくる」と述べた。

今回の出資を巡っては、パナソニックの経営層の間で「ハードとソフトは世界が違う。うまくやっていけるのか」との慎重論もあった。

パナソニックによるアメリカ企業の買収は、30年前の苦い記憶を想起させる。社名は当時まだ松下電器産業だったが、アメリカの映画会社MCA(現在のユニバーサルスタジオ)を約7800億円で買収した。しかし、まもなくMCA側の経営陣と対立が表面化し、5年後に株式を売却している。

前のめりにも映るCNS社の動きとは対照的に、取材に応じた社長の津賀は慎重な姿勢を隠さない。

「(社内の)多くの人たちにとって、ソフトウェア会社は何をするところなのかわからない。もっと中身を知りたい、勉強したいという思いが非常に強い」

顧客企業に対して、ソリューションを提供するビジネスに本格的に踏み込む上で、パナソニック自身の課題も浮かんでいる。

(敬称略、明日に続く)

(文・小島寛明)


小島寛明:上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年退社。同年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事。2017年6月よりBusiness Insider Japanなどに執筆。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(Business Insider Japanとの共著)。

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