アメリカの有人ロケット発射は9年ぶり…スペースXが2人のNASA飛行士を宇宙へ

スペースXが有人ロケットを打ち上げ。

NASAのジム・ブライデンスタイン長官(左)と握手をするスペースXのイーロン・マスクCEO。2019年3月2日、有人飛行のために設計された「クルー・ドラゴン」を軌道に乗せるミッション「Demo-1」が成功したことを報告するイベントで。

Dave Mosher/Business Insider

  • スペースXの宇宙船クルードラゴンが、初めて人を軌道に乗せようとしている。
  • 2人のNASAの宇宙飛行士が「Demo-2」と呼ばれるミッションを行うが、NASAとスペースXにとってはそれがすべてではない。
  • スペースXは月と火星への有人探査を計画しているが、まずは地球低軌道へ乗組員を安全に運べることを証明する必要がある。
  • 一方、NASAは、ほぼ9年ぶりのアメリカによる有人宇宙飛行を成功させたいと考えている。
  • この飛行はまた、NASAにとっては、国際宇宙ステーションを完全に掌握し、ロシアによる打ち上げ独占に終止符を打ち、将来の月や火星のミッションにつながる宇宙基地の研究を行うための道筋を示すものになる。

イーロン・マスクは2002年、火星探査というインスピレーションを得て、スペースX(SpaceX)を設立した。

月日が経ち、最近のスペースXの目標は、人間に月を周回させた後に着陸させることや、その後、火星に都市を建設して100万人を入植させ、地球規模の災難から人類を救うことに変わっている。

しかし、そのような壮大なビジョンを達成するためには、まず、地球低軌道へ人を安全に飛ばすことができることを証明しなければならない。それが、すべての宇宙探査の足がかりとなるからだ。

2020年5月20日、スペースXのクルードラゴンがケネディ宇宙センターの格納庫にあるファルコン9ロケットに搭載されている。5月27日に、このロケットでNASAの飛行士を宇宙に運ぶ予定だ。

2020年5月20日、スペースXのクルードラゴンがケネディ宇宙センターの格納庫にあるファルコン9ロケットに搭載されている。5月27日に、このロケットでNASAの飛行士を宇宙に運ぶ予定だ。

SpaceX via Twitter

このことは、スペースXの次のロケット打ち上げ、「Demo-2」と呼ばれるミッションの意味合いを非常に大きくしている。予定通りであれば、スペースXの宇宙船クルードラゴン(Crew Dragon)5月27日午後4時33分(現地時間)に打ち上げられる。それはスペースXの18年の歴史における最初の有人ミッションだ。

しかし、そのような将来計画を持っているのはスペースXだけではない。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は、経験豊かな2人の宇宙飛行士、ボブ・ベーンケン(Bob Behnken)とダグ・ハーレー(Doug Hurley)の命をスペースXに託している。2人はクルードラゴンを約110日の間、操縦する

NASAは新たな宇宙飛行能力を得るために、企業が宇宙船の開発、製造、打ち上げ、運用を主導することを可能にする「コマーシャル・クルー・プログラム」を通じて、スペースXに31億4000万ドル以上を投資した。さらに、ボーイング社の有人宇宙船「CST-100スターライナー」にも48億ドルを投資している。

Demo-2のミッションは単なる打ち上げ以上の意味を持っており、コロナウイルスが大流行しているにもかかわらず、NASAとスペースXがこの打ち上げを急いでいるのには理由がある。

そのうち最も重要なことをいくつか紹介しよう。


アメリカからの有人宇宙ミッションは約9年ぶり

スペースシャトル

フロリダ州ケープカナベラルの発射台にセットされたスペースシャトル「アトランティス」。

Dave Mosher

NASAは2011年7月、最後のスペースシャトル「アトランティス」を打ち上げた。この133回目の飛行成功の後、重さ100トンの往還機はすべてを退役した。

それ以降、アメリカのロケットや宇宙船は、宇宙飛行士を宇宙に送り込んでいない。

スペースXのDemo-2ミッションが成功すれば、アメリカが有人宇宙飛行を復活させた最初のミッションとなり、NASAの宇宙飛行士にアメリカの地から宇宙へ至る道を提供することになる。

NASAのジム・ブリデンスティン長官は5月1日の会見で、「これは人類の宇宙飛行にとっての新しい世代、新しい時代の到来だ」と述べた。


ロシアの有人打ち上げ独占を終わらせる

2018年12月3日、カザフスタンにあるロシアのバイコヌール宇宙基地から、国際宇宙ステーションへと乗員を運ぶソユーズMS-11宇宙船を搭載したソユーズFGロケットが発射された。

2018年12月3日、カザフスタンにあるロシアのバイコヌール宇宙基地から、国際宇宙ステーションへと乗員を運ぶソユーズMS-11宇宙船を搭載したソユーズFGロケットが発射された。

Dmitri Lovetsky/AP

アメリカとロシアは、アポロ・ソユーズテスト計画を皮切りに、1970年代から宇宙開発で協力してきた。NASAがスペースシャトルを退役させた時も宇宙への1つの道を持っていた。それはロシアのソユーズだ(中国は有人宇宙飛行を行っているが、アメリカ議会が許可しない限り、NASAは中国と協力することはできない)。

しかし、ロシアは宇宙飛行の独占を利用して、NASAの飛行士が宇宙を往復する料金をどんどん値上げした。その費用は、2008年(シャトルが引退する前)の約2100万ドルから、2020年10月に予定されているフライトでは1席あたり9000万ドル以上にまで上昇している。

一方、スペースXのクルードラゴンのコストは1席あたり5500万ドルと予測されている。打ち上げが成功すれば、ロシアの宇宙機関であるロスコスモスにも価格の引き下げを迫ることになるはずだ。

「ロシアの宇宙飛行士がアメリカのロケットで打ち上げられる日が来るだろう」とブリデンスティン長官は5月1日に語った。

「国際宇宙ステーション(ISS)の半分はロシア製であることを忘れないでほしい」


宇宙へアクセスに、1000億ドル以上を投資

国際宇宙ステーションの大きさをアメリカンフットボールのフィールドと比較した図。

国際宇宙ステーションの大きさをアメリカンフットボールのフィールドと比較した図。

NASA

NASAは、地球の上空約250マイル(約400km)から地球を周回する国際宇宙ステーションに、約1000億ドルの税金を投入した。NASAはさらに年間約30億ドルから40億ドルを投じて、施設の維持管理、物資の補給、実験を行なっている。

微小重力環境は、薬学、材料科学、天文学、医学、その他のユニークな研究を可能にする。大部分の実験は宇宙飛行士が行うことになっているが、2011年7月以来、ISSは最小限の人員で運用している。これは、ソユーズが3人しか乗れないので、多くても2人のNASA宇宙飛行士しか運べないためだ。スペースシャトルの座席は7人分だったので大きく減少している。

スペースXのクルードラゴンは、偶然にも一度に7人を運ぶことができる。Demo-2が成功すれば、ISSの人員を十分に確保するための大きな一歩となり、宇宙飛行士は日常のメンテナンスに費やす時間を短縮し、重要な実験に費やす時間を増やすことができるようになるだろう。

「国際宇宙ステーションはアメリカにとって重要なものだ。そしてそこに容易にアクセスできることも重要だ」とブライドスタインは述べた。

「我々はこのプログラムを急いで進めている。これはアメリカにとって、そして実際には世界全体にとって非常に重要だ」


宇宙旅行のマーケット開拓

地球を周回するスペースXのクルードラゴンのイラスト。ドラゴン2、またはドラゴンV2とも呼ばれる。最初のドラゴンは、人を運ぶように設計されていなかった。

地球を周回するスペースXのクルードラゴンのイラスト。ドラゴン2、またはドラゴンV2とも呼ばれる。最初のドラゴンは、人を運ぶように設計されていなかった。

Kennedy Space Center/SpaceX via Flickr

NASAは、スペースXの宇宙船の座席を4席使用する予定だ。このためスペースXは残りの席を民間の宇宙飛行士、業界用語で言う「宇宙飛行参加者(spaceflight participants)」に販売することができる。

スペースXはすでに、完全な民間宇宙ミッションに向けて準備を進めている。NASAは6月、民間宇宙飛行士の滞在を正式に支援するためにISSモジュール利用規則の変更を発表し、宇宙旅行市場の開拓に向けた地ならしを行った。ただし、宿泊費、生活必需品、インターネット接続、その他の費用は1泊3万5000ドルだ。

「ISSのデッキは商業活動するものにとって非常に不利になるようになっていた」と、2008年にISSでの2週間の滞在に3000万ドルを支払ったイギリス系アメリカ人起業家のリチャード・ギャリオット(Richard Garriott)は、以前Business Insiderに語っている。

「民間人である我々のほとんど全員に対して、NASAはやめさせようと説得したり、ある段階で禁止しようとしたりした」

2020年2月、スペースXはスペース・アドベンチャーズという宇宙観光企業を通じて4席を販売したと発表した。そして3月には、Axiom Space社もスペースXと契約したというニュースが報じられた。

そしてトム・クルーズも、ISSで新しいアクション映画を撮影するために、クルードラゴンに搭乗したがっている


火星進出に向けて、まずはもう一度、月へ

再び月へ人類を送り込むNASAのアルテミス計画の想像図。

再び月へ人類を送り込むNASAのアルテミス計画の想像図。

NASA

NASAはアルテミス計画で、2020年代半ばに宇宙飛行士を月面に帰還させ、基地を作ってクルーを継続的に滞在させるつもりだ。2030年代の火星の有人探査も視野に入れている。

しかし、いずれの探査においても人体がどのような影響を受けるかについて、ほとんど何もわかっておらず、現在のところISSがそのような疑問を解決することができる唯一のプラットフォームだ。アメリカがISSへのアクセスを回復し、競争をもたらすことでコストも節約し、軌道上での商業的な関心を高めて、クルーが実験を行う時間を増やすことは、問題解決への助けになるだろう。そして今のところ、スペースXのDemo-2ミッションが、この目標達成に向けた最も具体的な前進だ。

「この打ち上げは、実験室への参加を増やすことに向けたステップだ」と、NASAジョンソン宇宙センターで宇宙ステーションプログラムを管理するカーク・シャイアマン(Kirk Shireman)は5月1日の会見で語った。

「我々は、このフライトと、その後の、繰り返し可能で持続可能な地球低軌道への商業輸送フライトに期待している」

[原文:SpaceX is about to launch its first astronauts, and the stakes for both NASA and Elon Musk's rocket company are epic

(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)

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