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【Mr. CHEESECAKE・田村浩二1】ステイホーム時代に料理人はどう生き残る。即完チーズケーキの生みの親

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撮影:鈴木 愛子

注文はウェブサイトからのみ、毎週「オンライン争奪戦」を起こす幻の味 —— SNSで騒がれている「Mr. CHEESECAKE(ミスチー)」というケーキを聞いたことがあるだろうか。毎週売られる本数は非公開だが、Twitterには毎週「数分で売り切れ」「今週も買えなかった!」というつぶやきが溢れている。

生みの親は、料理人・田村浩二(34)。

違う意味を持った「シェフの生き残り戦略」

ミスターチーズケーキ

初めて食べた「Mr. CHEESECAKE」。

撮影:西山里緒

田村に初めて会ったのは2019年冬、友人に誘われて参加した、田村主催の料理教室だった。田村がキッチンを拡大移転するときにMakuakeで募集したクラウドファンディングのリターンの一つ。サポーター数は1183人、応援総額は2200万円を超えていた。

そこで初めて「Mr. CHEESECAKE」を食べた。ケーキを口にしながら、寒いからホットもいいかもしれませんねえ、などと冗談めいて話すと、田村は「やってみましょうか?」とさっと席を立ち、レンジを見ながら数十秒温め、温かさと冷たさが口の中で溶け合うまったく新しい味にしてくれた。

その柔軟さと「目の前にあるものでおいしさは作れる」という信念のようなものが、強く印象に残った。

真剣な顔でチーズケーキを温めてくれる田村と、スプーンを片手に待ち構える筆者。

真剣な顔でチーズケーキを温めてくれる田村と、スプーンを片手に待ち構える筆者。

撮影:西山里緒

2回目は2020年2月初め、移転した直後のだだっ広いキッチン・オフィスで、この取材のために対面した。少しずつ新型コロナウイルスの感染が日本でも確認されている頃だったが、当時はここまで社会や経済に大きな打撃を与えるとは多くの人が想像していなかった。

3回目は日本中のレストランが営業を自粛していた2020年4月、こもった自室からオンライン会議システム、Zoomを通して。

新型コロナ禍が日本を襲い、飲食業界を巡る状況は数カ月で激変した。有名フレンチでシェフとしての経験を積んでからチーズケーキブランドを立ち上げた田村に当初聞くはずだった質問 —— シェフの生き残り戦略をビジネス目線で語ってください —— は、取材中にまったく異なる意味を持つことになってしまった。

けれど田村は、初めて会ったときと同じように言う。

「料理人のスキルは今、あらゆるところで求められているんですよ」

しゅわしゅわ溶ける食感と甘酸っぱい後味

ミスターチーズケーキ

Mr. CHEESECAKEの予約は、いつもし烈な争奪戦だ。

画像:Mr. CHEESECAKE ウェブサイト

在宅ワークが続いていたある日、ミスチーを注文してみる。注文の受付は、売り始めた2年前から毎週日曜・月曜の10時と決まっている。予約開始直後毎回数分で完売するので遅れないように、10分前にアラームをセットする。

時間が来たら、スマホに指を叩きつけるようにして急いでフォームを入力。しばらくすると「決済完了」の画面が現れた。やった! 間に合った。

ホッと一息つきながら「#ミスチー予約完了」とインスタに投稿するとすぐに「いいなー!」と友人からレスが来る。予約できただけでにんまり顔だ。

数日後、シンプルな白の保冷バッグに包まれたミスチーが届けられた。まるでバターの塊のようにどっしりとしたそのケーキをまな板に乗せて、包丁にぐぐぐと力を入れて切り分ける(チルドで届くのでけっこう固いのだ)。一番上等なお皿を持ってきて、パタンと倒して乗せる。

ミスターチーズケーキ

在宅ワーク中に食べた「Mr. CHEESECAKE」。インスタ映えを意識して、ぶどうとナッツを添えてみた。

撮影:西山里緒

おもむろにスマホで真上から写真を撮り(もちろん後でインスタに載せるためだ)、少し溶けるのをおごそかな気持ちで待ってから、銀のスプーンでひとすくい。瞬間、しゅわしゅわしゅわ、とスフレのように溶けていく食感と、甘酸っぱい後味が口いっぱいに広がる。

ぺろりと一切れ平らげてから、どれどれとTwitterで他の人の感想をチェックしてみると、「おうち時間の贅沢に」という言葉がふと目に入った。確かに、ストレスのたまる今だからこそ、ミスチーが欲しくなるのはよく分かる。

自粛するのが正義じゃない

田村浩二

撮影:鈴木愛子

ステイホーム期間中に問い合わせは増えたと、田村は率直に言う。コロナの影響で料理人たちや飲食業の経営者たちが苦しむ中、ミスチー需要はむしろ伸びている。

田村の仕事はチーズケーキ作りだけではない。すでに発表されているレシピを自宅で簡単につくれるようにアレンジして発信、オンライン料理教室、そして数万のフォロワーを誇るnoteやSNSでの情報発信……。

田村の持つ発信力は今、消費者以上に、飲食業界にいる人にとって何より必要とされている。

「こんな時期に、自分は何ができるんだろうって、悩んでいますよ。技術1本でやってきた人たちが危機に立たされていて、僕もその1人だったわけですから」

Zoom上で、田村はそう語った。

田村浩二

Zoom上で、飲食店の現状について語ってくれた田村。

画像:西山里緒

田村のキャリアの始まりはフレンチの料理人だ。菓子づくりは専門ではない。2018年、趣味としてつくり始めたチーズケーキが副業となり、そして月に数百万円の売り上げにもなったタイミングでシェフを辞めて独立した。

コロナ禍で、料理人たちが店を開けられず、苦しんでいる時期だからこそ、田村の歩んできた道は希望にも映る。

「休業要請を受け入れてしまった料理人たちは、今すごく店を再開しづらい状況になっている。(当時は)自粛するのが正義のようになってしまっていたし、これからもしまた要請が発令されたら、世の中の空気もどうなるか分からない。でも本当は、自分自身で今何ができるか、探さなければいけないんです」

その一方で、こうつぶやく。

「この激変は、長い目で見れば遅かれ早かれ、料理界や飲食業界に起きていたことだとも思うんです」

なぜ田村は、文字通り「コロナに負けない」ビジネスモデルを打ち立てることができたのか? 2回目以降は、その秘密を探っていく。

田村浩二

撮影:鈴木愛子

(敬称略、明日に続く)

(文・西山里緒、 撮影・鈴木愛子、デザイン・星野美緒)

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