上場企業の6割「業績見通し未定」の衝撃。それでも「増益予想」企業の理由

新型コロナウイルスの影響が見通せない中で、今期の業績見通しも明暗が分かれた。

新型コロナウイルスの影響が見通せない中で、今期の業績見通しも明暗が分かれた。

Clive Rose/Getty Images/Business Insider Japan

全国で「緊急事態宣言」が解除されたが、新型コロナウイルスは国内経済に深刻なダメージを与えている。2020年3月期決算では、上場企業が下方修正した売上高の総額が5兆円を突破。関連倒産は日ごと増加し、コロナ禍の影響が色濃く表れている。今期の業績予想を公表しない企業も相次ぐが、一方で「増益」見通しの企業もある。明暗の分かれ目は、どこにあるのか。

業績予想を出した企業は?「増益予想」は?

激動の自動車関連産業

豊田章男社長は「一つの基準を示すことが必要だと思った。いろんな人の生活を取り戻す一助になる」と、先行きが不透明な中でも、あえて見通しを出す意義について触れた。

豊田章男社長は「一つの基準を示すことが必要だと思った。いろんな人の生活を取り戻す一助になる」と、先行きが不透明な中でも、あえて見通しを出す意義について触れた。

出典:トヨタ自動車

・自動車業界
ホンダ、マツダ、三菱自動車工業などが「未定」とした中、トヨタが2021年3月期の業績予想を公表。純利益の見通しは示さなかったが、営業利益は前期比およそ80%減ながら5000億円の黒字見通し。年末以降はサプライチェーンが安定し、正常化すると見込んでいる。

豊田章男社長は「一つの基準を示すことが必要だと思った。いろんな人の生活を取り戻す一助になる」と、先行きが不透明な中でも、あえて見通しを出す意義について触れた。

・電子部品
大手8社で唯一、日本電産のみ純利益1000億円(前期比66%増)の見通しを示した。

電気自動車(EV)向けトラクションモーターや、データセンターのHDD用精密モーターの需要を見込む。永守重信会長は新型コロナの影響が少なくとも向こう1年間は続くとしながらも、「長引くほど競争力のある会社が生き残る」としてサプライチェーンの見直しなどを進めるとした。

残る7社のうち日東電など3社は「未定」。村田製作所、京セラなど3社は最終減益予想。主要供給先の自動車メーカーが販売代数の低下を見込んでいることから全体の先行きは不透明だ。

在宅シフトで特需の電機業界

5Gの固定回線網の整備やWindows7サポート終了に伴う法人PCの買い替え需要などで23年ぶりの過去最高益を達成したNEC。今期は売上収益3兆300億円(前期比2.1%減)ながら、営業利益は1500億円(前年比17.5%増)を見込む。

5Gの固定回線網の整備やWindows7サポート終了に伴う法人PCの買い替え需要などで23年ぶりの過去最高益を達成したNEC。今期は売上収益3兆300億円(前期比2.1%減)ながら、営業利益は1500億円(前年比17.5%増)を見込む。

出典:NEC

・電機
NECが好調。5Gの固定回線網の整備やWindows7サポート終了に伴う法人PCの買い替え需要などで23年ぶりの過去最高益を達成した。今期は売上収益3兆300億円(前期比2.1%減)ながら、営業利益は1500億円(前年比17.5%増)を見込む

新型コロナの悪影響を織り込んでいないが、上期で収束すると想定した場合は400億~500億円の利益減を想定する。これはテレワーク需要の拡大などで対応可能とした。

消費低迷が直撃したアパレルと百貨店

柳井正・代表取締役会長兼社長は「新型コロナの問題は戦後最大の人類の危機」と危機感を語った。

柳井正・代表取締役会長兼社長は「新型コロナの問題は戦後最大の人類の危機」と危機感を語った。

出典:ユニクロ

・アパレル
「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは4月、進行中の2020年8月期の営業利益見込みを従来予想から1000億円減の1450億円とした。

柳井正・代表取締役会長兼社長は「新型コロナの問題は戦後最大の人類の危機」としながらも、実店舗とネットの融合を目指す社内改革「有明プロジェクト」の推進を表明。「我々はグローバルで作って、グローバルで売るという業態。世界同時にやっていく、情報を世界に伝える、商品を世界中で作って世界中で売っていく、そういう企業が一番成長していくと思う」と語った。

「ザ・ノース・フェイス」を手掛けるゴールドウインは、営業利益35億円(前年比80%減)の2021年3月期業績予想を公表。新型コロナによる店舗休業に加え、消費マインドの低下がしばらく続くと想定している。

大丸松坂屋を運営するJ.フロントリテイリングのみ21年2月期の見通しを公表。営業利益は120億円(前年比70%減)とするが…。

大丸松坂屋を運営するJ.フロントリテイリングのみ21年2月期の見通しを公表。営業利益は120億円(前年比70%減)とするが…。

出典:J.フロントリテイリング

・百貨店
三越伊勢丹、高島屋など大手百貨店は「業績予想は困難」として軒並み公表を見送るなか、大丸松坂屋を運営するJ.フロントリテイリングのみ2021年2月期の見通しを公表。営業利益は120億円(前年比70%減)とするが、コロナの影響が十分に織り込まれていないことから、下方修正も見込まれる。

東京商工リサーチは、政府が推進する「新しい生活様式」のアパレル業界への影響を予想。外出の自粛に加えて「展示品への接触を控える」「通販も利用」などの試着自粛を求める言葉が並んでいると指摘する。

インバウンド依存で明暗のドラッグストア

マツモトキヨシの2021年3月期業績予想は営業利益305億円(前年比18.8%減)の見通し。

マツモトキヨシの2021年3月期業績予想は営業利益305億円(前年比18.8%減)の見通し。

出典:マツモトキヨシHD

・ドラッグストア
2021年10月に経営統合予定のマツモトキヨシHDココカラファインでは業績見通しの明暗が分かれた。

マツモトキヨシの2021年3月期業績予想は営業利益305億円(前年比18.8%減)の見通し。インバウンド悪化の影響で減益を避けられない情勢だ。

出典:ココカラファイン

一方、ココカラファインは営業利益139億円(4.2%増)で増益予想。

ココカラファインの森俊一氏(上席執行役員・管理本部総務部長)は決算発表会で、消費増税後の反動減や粗利率の改善、マツキヨとの資本提携のシナジー効果で「尻上がりの増益」を見込むと語った。

同じ業種でも分かれる業績予想

業績予想からは、同じ業種でもビジネスモデル次第で、増益見通しの企業トレンドが見えてくる。

一方、たとえ見通しが暗くとも、業績予想を開示した企業では開示後に株価が上昇しやすい事例もみられる、という指摘もある。

ニッセイ基礎研究所のレポートでは、業務用ソフトウエアのオービックビジネスコンサルタントの株価の動きに注目。同社は2021年3月期の純利益が8%程度の減益見通しと発表したが、翌日に株価は上昇。

「直近の高値となった5月12日の終値は 5080 円で、決算発表前日の終値(4480 円)から 13.4%も値上がりした」とし、「業績の“谷の深さ”が見えたことで安心感に繋がった事例」と紹介している。

下方修正は総額5.3兆円

Clive Rose/Getty Images

帝国データバンクによると、新型コロナの影響を受けたとして業績予想の下方修正(連結、非連結)を発表した上場企業は5月20日までに643社。内訳を見ると東芝テック、シチズン時計など、製造業が約半数を占めた。世界的な経済活動の停止で内外ともに需要が低迷し、売り上げが下落している。

東京商工リサーチの調査によると、5月20日までに新型コロナ関連の影響や対応などを情報開示した上場企業は3277社で、全上場企業の約9割にのぼる。業績を下方修正した企業(719社)のマイナス分の売上高は5兆3580億円に達した。

同調査では5月15日に東証1部上場企業レナウンの民事再生手続開始決定を受けて「上場企業としては初の『新型コロナ』関連倒産が発生した」と注目。「新型コロナの経済活動への影響は日増しに深刻さを増し、影響は小・零細企業から上場企業にも及んでいる」と指摘している。

上場企業の6割「業績見通し未定」の衝撃

SMBC日興証券が5月15日に発表したレポートによると、3月期決算の上場829銘柄のうち「約6割の企業が新年度営業利益計画を未定」。先行きの不透明さを決定づけている。同社は「2020年3月期の1株当り利益(EPS)の成長率はマイナス16.3%で、コロナショック直前の2019年末のアナリスト予想(マイナス1.6%)から大きく落ち込んだ」とした。

同レポートでは「約6割の企業が 新年度営業利益計画を未定としており、業績の水準感をつかみづらい」としながらも「株式市場は新型肺炎収束後を見据え、成長が見込まれる企業に物色の矛先を向けている」とも指摘。

ハイテク産業やIT企業への期待が高まっている様子が浮き彫りになっている。

相次ぐ関連倒産

新型コロナ関連の経営破たんも急速な右肩上がりで増えている。

東京商工リサーチによると5月26日午後5時現在、「新型コロナ」関連の経営破たんは全国で181件。うち、倒産は122件、弁護士一任・準備中が59件となっている。

新型コロナ関連の経営破たんは、

  • 2月 2件
  • 3月 23件
  • 4月 84件
  • 5月 72件(26日まで)

と、日を経るごとペースが増加。5月は月間100件に迫るペースで推移している。

業種別の破たんを見ると、コロナが直撃した業界が浮き彫りになっている。多いところから宿泊業の32件、飲食業が28件、アパレル関連が23件という順だ。インバウンドや人との接触が濃厚なサービス業が「自粛」で軒並み経営悪化した様子が明確だ。

中小企業だけでなく上場企業も例外ではない。前述のとおり、5月にはアパレル企業「レナウン」が経営破たんしたことも衝撃を与えた。

2019年10月の消費税増税の影響で企業体力が弱まっていた所に、年明けから新型コロナのダメージが加わったことで、資金繰りの悪化に拍車のかかった企業が多いようだ。

文・吉川慧

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