ECプラットフォーム大手Shopify(ショッピファイ)が新規プロダクトを続々投入している。
REUTERS/Lucas Jackson
- Shopify(ショッピファイ)が顧客基盤と消費者リーチを拡大するため、新規プロダクトを出しまくっている。
- 今度は、中小事業者向け銀行の「Shopify Balance」、後払いサービスの「Shop Pay Installments」を始める。
- 配送サービスのような地域の店舗向け機能の充実にも取り組んでいる。
- Shopifyはこれまでオンライン小売事業者のためのサービスを主体にしてきたが、レストランのような新たな分野への進出も検討している。
Shopifyは長らく中小事業者向けのeコマース(オンライン通販)プラットフォームとして認知されてきた。
しかしここ数カ月、新型コロナウイルスの世界的流行を受けてリアル店舗や会社が閉鎖され、小売り事業者がオンラインになだれ込んできたため、Shopifyは新たなニーズに対応するいくつかのプロダクトをローンチさせてきた。
5月前半には最新版の「Shopify POS(ポス)」(=実店舗とオンライン販売を統合した売上記録集計システム)と、スマホ向けショッピングアプリ「Shop(ショップ)」(※現在は英語版のみ)をリリース。
5月21日には、事業者と開発者コミュニティのためのライブ配信「Reunite(リユナイト)」を通じて、中小事業者向けの新たな銀行サービス「Shopify Balance(バランス)」を発表。2020年後半には、会員事業者の半分以上を占めるアメリカでサービス開始することを明らかにした。
Shopifyを利用する事業者と開発者コミュニティのためのライブ配信「Reunite(リユナイト)」。日本語字幕あり。
Shopify
さらに、事業者が運営するオンラインストアに組み込むことのできる後払いサービスを計画していることも発表した。
Business Insiderの取材に対し、Shopifyのクレイグ・ミラー最高製品責任者(CPO)は「確かに、われわれはプロダクトを出しまくっている」と率直に語っている。
上記の新たなプロダクトはいずれも数年かけて準備してきたもので、結果として、パンデミック発生後に起きたデジタル化のトレンドを加速する形になった。
3月13日から4月24日にかけて、リアル店舗でShopify POSを通じて計上された売り上げは71%減った。しかし、その店頭減少分のうち94%までがオンライン販売で相殺されている(Shopify第1四半期決算資料より)。
eコマース市場は着実に成長を続け、小売り全体の成長が鈍化したパンデミックの最中も勢いは衰えていない。2019年、アメリカの小売業販売額の10%超をオンライン通販が占めている。そしてこのデジタル化の流れは今後も小売り市場に影響をおよぼし続けるだろう。
リアル店舗の再開後は、店頭とオンラインをどう接続するかが小売り事業者にとって鍵を握ることになる。
事業者向け銀行サービス
ライブ配信「Reunite」冒頭に登場したShopifyのトビアス・リュトケ最高経営責任者(CEO)。
Screenshot of Shopify 'Reunite'
小規模な事業者にとって、銀行との取り引きは厄介ごとのひとつだ。大銀行が相手にしてくれるのはそれなりに規模感のあるところだけで、事業主が個人の口座を使って商売を始めることも多い。
この問題は新しいものではなく、まさにその解決を目指して設立されたフィンテック分野のスタートアップもいくつかある。
いまShopifyもそれと同じことを、事業者向け銀行サービスShopify Balanceでやろうとしている。
「伝統的な銀行は伝統的な企業のためのもの。2020年、世界は変わった。マーチャント(=Shopifyを利用する小規模の事業者)側にも、消費者側にも、これまで以上にさまざまなニーズが生まれている」(ミラーCPO)
Shopify Balanceの銀行サービスには、決済口座、電子および物理デビットカード、計上した売上金(現金)へのリアルタイムアクセスが含まれる。
口座には月額料金や最低預入金額といった縛りがない。マーチャントがすでに利用しているポータルから簡単に利用でき、資金繰りの管理や各種支払いを行うことができる。
多くのフィンテック企業と同じように、コアとなるインフラについては、Shopifyも他の銀行と提携してサービス提供している。パートナー銀行は明かされていない。
2020年後半にアメリカでサービス開始の予定だ。
ローカルビジネス向けに配送サービス導入
新たに発表されたサービス「Local Delivery(ローカルデリバリー)」。マーチャントが簡単に配送エリアを設定したり、配送ルートをカスタマイズしたりできる。
Screenshot of Shopify 'Reunite'
eコマースビジネスの立ち上げと運営支援は、Shopifyにとって2004年の創業時からの本業であり屋台骨だ。しかし、同社はいま従来とはまったく異なる産業への進出を検討している。
Shopifyのマーチャントには、リアル店舗にとらわれず全世界に販売先を広げたいと考えている事業者が多い。しかし実際には、地域の小売り事業者が店舗のロケーションを離れてビジネスを運営するのは難しい。
だからこそ、eコマースは新たな販売ルートとして機能するようになったわけだ。
「店舗のある地元エリアでもっと販売を拡大したいという事業者が非常に増えています。ところが、eコマースは伝統的に世界中に向けて販売するための手段で、役割が違うのです」(ミラーCPO)
さらに、地域の小規模事業者のニーズと、グローバルのeコマース事業者のニーズは異なる。一例として、昨今必要性が高まっているのは配送サービスだ。
Shopifyはそこでも新たなサービス「Local Delivery(ローカルデリバリー)」を展開する。マーチャントが地元の配送可能エリアを設定し、Shopifyの提供ツールで作成したオンラインストアあるいは店頭のShopify PoSを経由して受注できるようにする。
これはきわめてタイムリーな動きだ。4月24日時点で、Shopifyを利用するアメリカやイギリスの小売り店の26%が何らかの形で地元での集荷・配送サービスを使っている。2月時点ではわずか2%に過ぎなかったのに比べると、ニーズの成長は著しい。
レストラン向けのテンプレートと新機能
直感的にオンラインストアをデザインできるテンプレート「Express(エクスプレス)」。飲食店のテイクアウトサービスにも役立つ。
Screenshot of Shopify 'Reunite'
レストランについても、Shopifyはオンラインで料理を販売する新たな方法を模索している。
すでに、レストラン向きの新たな(オンラインストアの)デザインテンプレート「Express(エクスプレス)」をリリース済み。他のウェブサイト同様、利用者はストアで食べたいメニューを注文し、店頭で受け取る。
マーケットプレイスを経由して消費者と接するドアダッシュやウーバーイーツのようなフードデリバリーサービスに対して、消費者に直接販売できるのがShopifyの強みだ。飲食店などの事業者は客と直接的に関係を構築できるし、Shopifyにとってもマーケットプレイスとの競合を避けられる。
後払いサービスも
マーチャント向けのプロダクト創出以外にも、Shopifyは消費者リーチを拡大・深化させる方法を模索している。
例えば、2020年中にはECプラットフォームに後払い機能を実装し、マーチャントそれぞれのオンラインストアで分割払いができるようにする。
パンデミックが続くなかで後払いのニーズは急激に増えていて、「アファーム(Affirm)」「アフターペイ(Afterpay)」といったプレーヤーがひしめくレッドオーシャンになっている。
このShopifyの後払いサービス「Shop Pay Installment(ショップペイ・インストールメント)」は2020年後半にローンチ予定。決済サービス「Shopify Payments(ペイメント)」を使っているアメリカのマーチャントに提供される。
(翻訳・編集:川村力)