東京・六本木ミッドタウンの富士フイルム本社。
出典:富士フイルム
富士フイルム ホールディングス(HD)は5月22日、2020年3月期の通期決算を発表。懸念される新型コロナウイルスに関連するマイナス影響について、当初見込みからの差が売上高でマイナス470億円(当初見込み比1.9%減)、最終利益でマイナス80億円(同13%減)の影響があったとした。
2020年3月期・通期決算は、売上高は2兆3151億円(前年比4.8%減)、最終利益は1250億円(同9.5%減)で着地した。
出典:富士フイルムホールディングス2020年3月期決算説明資料より
富士フイルムHDの助野健児社長は決算発表の冒頭、「コロナ影響がなければ、過去最高の営業益を更新していた。感染拡大によって、消費活動が停滞したことで、当社の業績にも大きく影響が出た」と、コロナショックの状況についてコメントした。
アビガン増産と需要状況
アビガン錠。
出典:富士フイルム
富士フイルムは新型コロナウイルス感染症への効果が期待できるとして注目が集まっているアビガン錠の製造・販売も手がける。同薬剤は現在、あくまで抗インフルエンザウイルス薬としての承認を得ている状態だ。
富士フイルム常務で医薬品事業部長の岡田淳二氏は、決算説明の中で、新型コロナウイルス向けの薬剤としての製造承認を新たに取得する必要があるとして、「現在日米の2カ国でCOVID-19(新型コロナウイルス)患者に対して企業治験を進めている状況」だと語った。
出典:富士フイルムホールディングス2020年3月期決算説明資料より
アビガンの需要については、国内外各国からの増産要請を受け「(2020年)4月あたりから増産を開始」「段階的に生産能力を向上させ、日本政府の追加備蓄要請については2020年度内に納品完了予定」とした。
まだ今後の増産は、7月から月間10万人分、9月からは月間30万人分の供給を計画している。
事業領域別の状況
決算資料は事業領域をヘルスケア&マテリアルズ、ドキュメント、イメージングの3つのセグメントに分けている。いずれもが新型コロナ影響を受けているが、それぞれに増減がある。
ヘルスケア&マテリアルズ部門:
出典:富士フイルムホールディングス2020年3月期決算説明資料より
全体では減収だが、バイオ医薬品の開発・製造受託を手掛けるバイオCDMOや再生医療分野が牽引し、ヘルスケア領域単体では増収になった。
新型コロナの影響は、次のとおり。
- メディカルシステムは、営業活動の自粛や商談の遅延などによる全体ではマイナス影響の一方、肺炎診断の回診用X線撮影装置や、超音波診断装置の販売装置が伸長。
- グラフィックシステムは営業活動の停滞、イベント自粛に伴う印刷需要減少などの影響。
- バイオCDMO、電子材料、ディスプレイ材料はマイナス影響受けず。
- その他の事業は影響はあるものの軽微。
なお、ディスプレイ材料については、4月以降、在宅勤務拡大の影響から、PC、タブレット向けの販売が伸長している状況にあるという。
ドキュメントソリューション部門:
出典:富士フイルムホールディングス2020年3月期決算説明資料より
中国の景気減速、欧米向け輸出の減少、新型コロナの影響を受けて売上高は減少したが、収益性の改善などで営業利益は増益。
新型コロナ影響
- 全体では営業活動の自粛やオフィス閉鎖による複合機の稼働減少でマイナス影響
- オフィスプロダクト&プリンター分野では、欧米向け輸出、中国での販売が減少の一方、国内の主力カラー複合機が通期で堅調
- 第4四半期はコロナ影響でセブンイレブン店頭のネットプリントの需要が拡大
- ソリューション&サービス分野では、国内のオフィスITの設計運用管理の一括サポートサービスが伸長して、通期で増収
- 4月以降、(新型コロナ影響で)強固なセキュリティーや簡単なネット接続などを実現するソリューション「beat」の引き合いが増加
イメージング ソリューション部門:
出典:富士フイルムホールディングス2020年3月期決算説明資料より
新型コロナの影響を大きく受けた。中国工場の操業率低下などによる生産遅れから、新製品の発売延期になったほか、一部デジカメの販売開始が遅れた。小売店の休業などによりチェキやミラーレスの販売が減少した。
前年比の減少率では、営業利益が前年比51%減となったイメージング ソリューション部門が最も大きかった。しかし、売上高全体に占めるセグメントの比率は約14%と3部門でもっとも小さく、全体への影響は限定的だ。
2021年の定性的見通しは「懸念はイメージング事業」
富士フイルムも他の大手企業と同様に、2021年3月期の見通しは新型コロナウイルス影響の収束などの状況が読めないとして、定量的な見通しは非開示としている。
一方、定性的な見立ては質疑応答のなかで、次のように話した。
「21年3月期の見通しはコロナの収束がいつになるか読めない状況のもとで、今期見通しを立てていくのに苦慮している。(定性的な見通しとしては)ヘルスケアは、コロナの流行によって超音波診断機器、回診車、DRパネル等は非常に多くの注文をいただいて対応しているところ。
ヘルスケアもバイオCDMO等もあまりコロナの影響を受けない事業のため、安定的に推移していくと見ている。
ドキュメント事業は、テレワーク等が世の中に浸透してきたことで先進国を中心に商品の使用量が減っていく懸念があるが、(実態は)思ったほど減っていない。一方APAC、中国はまだ白黒が中心なので、カラー化を進めていくことで消耗品の拡販につとめていく。
懸念のイメージングは、アメリカは一部量販店が開き始めたこともあり、徐々に回復基調にいくと見ているところ」(富士フイルムHDの助野社長)
アビガンの増産にまつわる今後の業績への影響については、
「すでに(政府の)補正予算の中で備蓄が盛り込まれている。(具体的な規模も公表されているため)ここは見通せているが、これ以外に海外からの(増産)要請もきている。これが(見通すことが)非常に難しく、このあとの第2波、第3波が来るのか、収束するのかが見通せないため、すでにわかっているところ(政府備蓄)以上は、現時点では見通せていない」(岡田常務・医薬品事業部長)
とした。
(文・伊藤有)