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- 定期的に行われてきたワクチン接種が、少なくとも68カ国で中断されている。
- 1歳未満の乳児8000万人が、はしか、ポリオ、ジフテリアなど、予防できるが罹患すると致命的な病気のリスクを負うことになる。
- パンデミックによりワクチンの輸送は遅れており、ユニセフは各国政府と航空業界に支援を求めている。
COVID-19のパンデミックが、子どもたちへの定期的な予防接種を促進するための長年にわたる国際的な取り組みを消し去ってしまったと、世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF:ユニセフ)が5月22日に警告した。
WHOとユニセフは、1歳未満の子ども8000万人が、麻疹(はしか)、ポリオ、ジプテリアのような致命的ではあるが予防可能な病気に対して脆弱になったことを警告している。
5月15日の時点で、27カ国がはしかの予防接種を延期し、38カ国がポリオの予防接種を延期し、その他の多数の国が黄熱病、コレラ、腸チフスなどの予防接種を延期した。
分析によると、予防接種のデータが入手可能な129カ国のうち、少なくとも68カ国で予防接種が停止されていることがわかった。53%の国で中断、または全面的な停止が報告されている。
「予防接種は、公衆衛生の歴史の中で最も強力で基本的な疾病予防の手段だ」とWHO事務局長のテドロス・アダノム・ゲブレイェソス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)博士はプレスリリースで述べている。
「COVID-19の大流行によって予防接種プログラムが中断されることは、麻疹のようなワクチンで予防可能な病気に対する数十年にわたる進歩を巻き戻すことになる」
国民が医療保険に加入しているような裕福な国では、子どもたちは個々に事前予約をして医師による予防接種を受けている。しかし、カンボジアやナイジェリアのような低所得国では、集団接種が一般的だ。教会や学校、市場などの公共の場所に子どもたちを集めて予防接種を受けさせる。こうしたプログラムが休止されているため、多くの子どもたちが予防接種を受けられなくなっている。
医療従事者がワクチン接種の準備をしている。2019年9月10日、ニュージーランドのオークランドで。
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世界中に予防接種が普及して以来、最も大きなワクチン接種率の低下
予防接種プログラムの多くが始まった70年以降、これは予防接種サービスの中断としては過去最大のものだ。
こうした接種率の低下は、親が家を出ようとしないことが一因になっている。新型コロナウイルスの拡散を抑制するため、社会的距離の確保と自宅待機が世界中で求められている。
また、コロナウイルスによって引き起こされる疾患であるCOVID-19の治療を支援するために看護師や医師が他の医療分野に再配置されるなど、過重労働に陥った医療システムなど、他の要因も作用している。
医療従事者のためのマスクや防護服が不足しているため、多くの医療従事者がCOVID-19以外の患者を治療することができず、緊急時のために防護服を取っておくことになっている。
仮にできたとしても、移動の制限により、予防接種会場や医院に行くことが難しい場合がある。
ワクチン・アライアンスのセス・バークレー(Seth Berkley)は、5月22日のWHOの記者会見で「これは本当に憂慮すべきデータで、我々が何ヶ月も前から取り組んできた事実を数字で示したものだ」と述べた。
「COVID-19が世界の予防接種プログラムに与える影響の大きさは、これまでに見たことのないものだ」
ワクチンの輸送もパンデミックで遅れている
航空の運航が減り、チャーター便も限られているため、ワクチンの出荷が大幅に滞っている。3月22日以降、ユニセフはワクチンの出荷コストが通常よりも少なくとも100%上昇したため、ワクチンの出荷量が70%から80%減少したとしている。
「ユニセフは各国政府、民間企業、航空業界などに、子どもの命を救うワクチンのために貨物スペースを安価に解放してくれるように依頼している」とユニセフの広報担当者、マリクシー・メルカド(Marixie Mercado)は記者会見で述べた。
「子どもたちの命がかかっている」
ポリオと麻疹を地球上から一掃するキャンペーンは成功に近づいていた。パキスタンやアフガニスタンといった国でもワクチンを接種するという目標をほぼ達成していた。
5月22日のWHOの記者会見で、ユニセフのヘンリエッタ・フォア(Henrietta Fore)は、「我々は、一つの致命的なアウトブレイクを別のものと交換することはできない」と語った。
「たくさんの人々が懸命に取り組んできた、数十年に及ぶ保健衛生上の成果を失うわけにはいかない」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)