コロナショックは世界経済に深刻な打撃を与えました。そのマイナスのインパクトはあまりにも大きく、多くの企業が業績の急激な悪化にあえいでいます。
そんななか、大手企業の経営破綻のニュースも耳にするようになりました。アメリカに本社があるフィットネスジム大手のゴールドジムは2020年5月4日にチャプター11(※1)を申請。日本でも、老舗のアパレル大手レナウンが経営破綻し、5月15日に民事再生手続きの開始の決定を受けたという報道が流れました。
レナウンのような上場企業の倒産は1年4カ月ぶりとあってマーケットに対するインパクトは大きく、今後も倒産が増えていくのではないかという懸念も広がっています。
一方で、そもそも「倒産」や「経営破綻」といった言葉には曖昧さが残っていて、経営破綻後に企業はどうなってしまうのかについての理解が不十分な人も。
そこで、この連載の筆者でファイナンスのプロである村上茂久さんに、本稿では「そもそも倒産とは何なのか」を、そして次回から2回にわたり、レナウンの倒産事例について解説していただきます。
「倒産」とはどういう状態を指すのか
「倒産」と聞いて、あなたはどんなイメージを抱きますか?
経営者からすれば「会社の終わり」と見えますし、従業員からすると「職を失う」といった印象を持つかもしれません。実はこの「倒産」という言葉は、法律用語ではありません。そのため、人によってイメージするところはさまざまです。
そこでまず、倒産情報を網羅的に扱っている帝国データバンクと東京商工リサーチによる「倒産」の定義を見てみましょう。
「倒産」という言葉は、東京商工リサーチが1952年から「全国倒産動向」の集計を開始したことで一般に知られるようになった。
(出所)帝国データバンクのHP(https://www.tdb.co.jp/tosan/teigi.html)および東京商工リサーチのHP(http://www.tsr-net.co.jp/guide/knowledge/glossary/ta_14.html)より。
つまり、倒産とは「弁済すべき債務の支払いができなくなった」状態と言えます。
では、「弁済すべき債務の支払い」とは何でしょうか? 一番大きいのは、銀行からの借入、いわゆる借金です。その他、従業員への給与支払いや取引先への支払いも「弁済すべき債務」に含まれます。
これを個人の生活に置き換えてみましょう。私たちはたいてい、働くことで毎月給料をもらい、その範囲で税金、家賃、食費、クレジットカードの支払いなどを賄っています。
仮に手取りが30万円、そこから毎月の生活費を支払って預金残高が0円になったところへ、20万円のクレジットカードの請求が届いたらどうしますか?
クレジットカードの支払いのために、親からお金を借りたり、場合によっては消費者金融から借入をしたりすることで、一時的にはしのげるかもしれません。しかしこのような“自転車操業”は長くは続かず、結果的にクレジットカードの支払いが滞り、消費者金融への元利金の支払いもできなくなってしまった——これがまさに「弁済すべき債務の支払いができない」状態です。
企業も同じです。売上から原価を支払い、給料、家賃、交通費といった販管費を支払った後、金利や借入金の元本を支払うことになるのですが、借入金の元本をはじめ「弁済すべき債務の支払い」ができなくなり、事業活動を継続できなくなった時、企業は「倒産」という状態になるのです。
法的整理と私的整理
倒産の具体的な状況として、帝国データバンクは以下のように定義しています。
少し専門的な言葉も出てきますが、ここで押さえるべきは2点です。
1点目は、法的整理をするのか、それとも私的整理をするのかという点です。「法的整理」とはその名の通り、法律に則って裁判所を通じて倒産後の手続きを行うというものです。
これに対して「私的整理(内整理)」とは、裁判所へは行かずに、個別に貸し手である金融機関や利害関係者と相談して、返済スケジュール等を調整してもらう「リスケ(リスケジューリング)」や債権放棄(金融機関が有している債権の一部を放棄してもらうことで、債務者の負債を減らす)等の交渉を行うものです(※2)。
前者は法的拘束力(強制力)がある分、手続きが硬直的です。一方、後者は強制力がないため柔軟に対応ができる半面、利害関係者間での交渉が難しいという課題があります。
清算か、再生か
倒産に関して押さえるべき2つめのポイントは、事業を続けられるかどうかの判断です。
倒産には、倒産した会社そのものをなくしてしまう「清算型」と、支払うべき債務を軽くして事業を続ける「再建型」の2種類があります。事業を続けられるかどうかは、企業がキャッシュを生んでいるかどうかによって判断されます。
例えば、「事業を通じて毎年1億円のキャッシュを生み出しているものの、債務の弁済が毎年2億円あるため弁済しきれない」という場合は、債務の弁済を1億円以下に調整すれば事業を継続できることになります。
このような状況では、貸し手である金融機関としても、企業をいきなり清算するのではなく、債権の元本を減らしたり弁済期間を延ばしたり、あるいは毎回の弁済額等を少なく変更したりすることで、貸したお金の満額とはいかずとも一部を長期的に回収していく方が合理的です。
これをキャッシュフロー計算書(C/S)に当てはめると、「営業キャッシュフロー(営業CF)は黒字(あるいは、事業の見直しやコストカットにより営業CFが黒字化する見込みがあり)、かつ投資CFと財務CFを適切にコントロールできるなら再建型を選ぶことが望ましい」と表現できます。
他方、そもそも毎年赤字で、過去のキャッシュの蓄積を減らしているような場合はどうでしょうか? 売上が十分に立たず営業CFがマイナスの状態であったり、事業の見直しやリストラをしても赤字が解消しない状況では、再建型は望ましくありません。それよりも、資産を売却し、企業を清算させた方が債権者はより多く回収できることになります。
先の図表2ではこの5つの他に「銀行取引停止処分を受ける」という項目があったが、このマトリックス上では厳密に区分できないため、ここには記載していない。なお、手形や小切手の不渡りを2回起こすと銀行取引停止処分となる。この処分を受けると借入や当座預金を使った取引が2年間できなくなるため、事業の継続は極めて難しく、一般的には事実上の倒産ということになる。
筆者作成
このように、倒産は必ずしも企業の終わりを意味するのではなく、「次にどうするか」を意思決定するための、ある種の区切りと言えます。その「次にどうするか」の中身こそが、上述した「法的整理か私的整理か」「清算か再建か」という判断であり、経営者や債権者がこれらの意思決定を行うことになるわけです。
なお、アメリカの企業の経営破綻のニュースでよく耳にする「チャプター11」は、日本における民事再生や会社更生、つまり「法的な再建型」に該当します。一方の「法的な清算型」は「チャプター7」と呼ばれます。
“倒産の一歩手前”の場合は?
先ほど、倒産とは「弁済すべき債務の支払いができなくなった」状態である、とお話ししました。では、「現状では弁済すべき債務の支払がなんとかできているものの、自助努力だと近い将来、債務の支払ができなくなる見込みが高い場合」はどうでしょうか? 実はこうした“倒産の一歩手前”の状態も少なくありません。
一例を挙げれば、この連載の第9回で取り上げた大塚家具もこれに該当します。大塚家具は期を追うごとにキャッシュが減って弁済すべき債務の支払いが苦しくなり、結果的にヤマダ電機の傘下に入ることで事業を継続することになりました。
大塚家具は3期連続赤字と業績が低迷し、2019年12月にヤマダ電機から出資を受けて傘下に入った(写真は有明本社ショールーム)。
Rodrigo Reyes Marin / Shutterstock.com
また、スマホ決済サービスのOrigamiは2020年1月、メルカリの子会社であるメルペイに買収されました。一部報道によると、Origamiの1株あたりの売却価格は1円とか。メルペイは、事業規模からするとタダ同然でOrigamiを買収したことになります。
このように、企業活動を続けることが困難になりそうではあっても弁済すべき債務の支払いができなくなったわけではない場合は、第三者企業による出資や買収といった措置が取られることが一般的です。
大塚家具もOrigamiも、単独では事業の継続が困難だとしても、大きな企業の傘の下に入ってリストラをしたり赤字を飲み込んだりすれば再び事業を継続できます。一方の買収する側も、自社の資産やネットワークを活用することで既存事業とのシナジーが見込めれば、さらなる成長が期待できるわけです。
レナウンが申請した「民事再生」とは?
2020年5月15日にレナウンが発表したリリース「民事再生手続開始等に関するお知らせ」には、冒頭で「当社は、2020年5月15日、東京地方裁判所より再生手続開始決定および管理命令を受けましたので、お知らせいたします」と書かれています。また、同リリースの中ほどには、次のような記載があります。
「当社は資金の調達および売掛金の回収に注力いたしましたが実現せず、5月中旬以降に到来する債務の支払の目処が立たない事態となったことから、今般やむなく民事再生手続開始決定を受けることになりました」
まさに、倒産の定義で言うところの「弁済すべき債務の支払いができなくなった」状態になり、「再建型の法的整理」である民事再生を申請したということのようです。
では、そもそも民事再生とはどういった仕組みなのでしょうか? 同じく「再建型の法的整理」である会社更生とはどう違うのでしょうか? 以下では、レナウンのリリースやホームページを引用しながら見ていくことにしましょう。
レナウンのホームページにも書かれているように、民事再生とは次のようなことを指します。
これだとイメージが湧きづらいかもしれませんね。実際に民事再生手続きが始まるとどうなるのかを簡単に説明しましょう。
民事再生手続きの前と後での一番の違いは、「手続き開始後は債務の弁済ができなくなる」という点です。ひとたび民事再生を申請すると、買掛金や元利金の支払い等が禁止されます。そうなると当然、仕入れ先や金融機関は困りますね。
ですがもちろん、債権者は一生弁済されなくなるわけではありません。
民事再生手続きを通じて、経営陣(または裁判所が選任した管財人がいる場合は管財人)が企業の再生計画を策定します。その中で、今後どういった事業計画を想定し、どれだけの債務をどのくらいの期間で債権者に弁済していくかも決められます。
この再生計画は、利害関係者である債権者にも納得してもらう必要があるため、債権総額の2分の1以上、かつ議決権行使者の頭数の2分の1以上の賛成により認可されることになります。
このように、民事再生手続きが開始されると、経営破綻した企業はいったん債務の弁済を停止して事業計画を練り直し、可能なかぎり債権者に弁済するための準備に入るのです。
民事再生か、会社更生か
では、もうひとつの再建型法的整理である会社更生と民事再生はどう違うのでしょうか?
細かい規定まで含めると違いは多々ありますが、実務上押さえるべきポイントは次の3つです。
- どういった会社が対象になるのか
- 申請前の経営陣が残るかどうか
- 担保の取り扱いはどうなるのか
順に見ていきましょう。
(1)どういった会社が対象になるのか
民事再生は、個人と法人すべてが対象となります。本稿の冒頭で、クレジットカードの支払いに苦しむ個人の例を挙げましたが、個人でも民事再生を申請することで債務を軽減することができる可能性があります。
これに対し、会社更生は株式会社のみが対象で(※3)、かつ大半が大企業です(※4)。図表5は、過去に民事再生もしくは会社更生の適用を受けた企業の一例です。
このうちの何社かは、読者の皆さんもニュースで耳にした記憶があるのではないでしょうか。上記のうち、民事再生もしくは会社更生を経て再生した企業もあれば(日本航空はまさにこの例です)、再生中に買収された企業、そのまま破産に移行して清算をするに至った企業もあります。
(2)申請前の経営陣が残るかどうか
次に経営陣についてです。民事再生では基本的に、従来の経営陣が残って事業を継続することになります。
一方、会社更生では、従来の経営陣は責任をとって総退陣し、新たな経営陣が配置されることになります(※5)。日本航空(以下、JAL)のケースでは、稲盛和夫氏が会長に就任したことは当時非常に話題になりました。
(3)担保の取り扱いはどうなるのか
第3のポイント、担保の取り扱いについてはどうでしょうか。
担保と聞いてみなさんもすぐに想像されるように、お金の貸し手である金融機関は、融資したお金が返ってこなかった場合に備えて本社ビルや工場といった不動産等を担保にとっておき、いざデフォルト(債務不履行)が発生した際には、担保の不動産等を処分することで資金の回収を目指します。
民事再生と会社更生では、この担保権の扱いが決定的に異なります。
先ほど「民事再生手続きに入れば、債務の弁済は止まる」と述べましたが、担保権の付いた債務の場合、民事再生では債権者は担保権を実行することができます。これを「別除権(べつじょけん)」と言います。
たとえ民事再生手続きに入っていても、担保をとっている債権者は担保権を実行して不動産等を処分し、再生計画とは別に資金の回収を図ることができるのです。
一方、会社更生法では、担保は別除権の扱いにはならず、更生手続きに取り込まれます。担保権を持っている債権者(金融機関など)も、担保を処分して資金を回収することはできなくなります。
このことを、企業の再建を目指す経営者の視点から考えてみましょう。
例えば、不動産を多く所有して事業を行っている会社が民事再生を申請したとします。しかし、不動産といえばその多くに担保権が付いているもの。先述のとおり、担保権者は民事再生手続きとは関係なく担保権の実行が可能ですから、債権者はさっさと裁判所を通じて担保にしている資産を競売にかけ、資金を回収してしまうかもしれません。
これでは、資産に不動産を含む前提で再生計画を描いたとしても、“絵に描いた餅”になってしまいます。
筆者作成
もしJALが民事再生を選んでいたら?
この担保権の取り扱いがどれだけ重要か、本稿の最後にこんな思考実験をしてみたいと思います。
JALは2010年に経営破綻した際、民事再生ではなく会社更生の道を選びました。同社の再建支援に関わった企業再生支援機構の資料に目を通すかぎり、会社更生を選んだ理由としては、1)強力な経営体制の確立、2)より透明性が高く、公平で公正な手続きの実現、3)株主責任の明確化と機動的な組織統合、4)外国倒産手続きの関係、5)社員の意識改革に有効……といった複数の要因があったようです。
では、もしJALが会社更生ではなく、民事再生を選んでいたらどうなっていたでしょうか。実際、同じ航空会社であるスカイマークは会社更生ではなく、民事再生を選んでいます。会社更生と民事再生のどちらを選ぶかの意思決定では、別除権の有無だけが決め手になるわけではもちろんありませんが、ここでは思考実験のため、別除権の観点に絞って考えてみましょう。
この航空会社2社の細かな違いは多々ありますが、JALはスカイマークとは異なり、多くの動産・不動産を担保に差し出しています。そのため、仮に民事再生を選ぶと、担保権者である金融機関は原則として担保物件を処分できてしまいます。これではJALは安心して再生計画の実行に注力できません(※6、7)。
実際、会社更生手続きが始まる前のJALの2009年3月期の有価証券報告書によれば、同社の担保付きの資産は実に8000億円近くもありました。その内訳を見ると、航空機のみならず多くの不動産も持っていたことが分かります。
(出所)日本航空(2009年3月期)有価証券報告書より。
金融機関がJALの“商売道具”である航空機を処分してしまうことは考えにくいにせよ、民事再生を選んだ場合、本業とのシナジーが少なさそうな不動産については、担保権者である金融機関に勝手に処分されてしまう可能性があったと言えます。
ではスカイマークはというと、決算書を見る限り目立った担保付きの資産は有していなかったようです。航空機についてもほとんどはリースで、ほぼ所有していませんでした。
一般的に、民事再生は会社更生よりもその手続きが短期間で済みます。その点も考慮に入れたうえで、スカイマークは総合的に判断して民事再生手続きの道を選んだのではないでしょうか。
さて、ここまでで「倒産」と「経営破綻」についてひととおり整理してきました。次回は、2020年5月に経営破綻に追い込まれたレナウンの決算書を読み解きながら、なぜ同社が民事再生を申請するほどの苦境に立たされたのか、その原因を追っていくことにします。
※1 「米連邦倒産法第11章」を適用した手続きを一般的に「チャプター11」と呼びます。
※2 私的整理では、債権者と債務者が直接交渉することに加えて、ADR(裁判外紛争解決手続)、私的整理ガイドライン、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法、中小企業再生支援協議会、地域経済活性化支援機構などの仕組みを活用するケースもあります。
※3 法人の形態としては、株式会社が最も有名ですが、株式会社以外にも合同会社、一般社団法人等いくつかの類型があります。
※4 会社更生の手続きを選択するうえで会社の規模に規定はありませんが、大企業は利害関係者が多いため、現経営陣に再生を委ねる民事再生手続きに依ると、同意を得づらく計画案がまとまらないリスクが高まってしまいます。そこで大企業のケースでは、裁判所が強力な権限を持たせている管財人を据え置き、手続きの透明性・公平性が高い会社更生の方が一般的に進めやすくなります。
※5 なお、2009年以降、会社更生の場合でも従来の経営陣が残るDIP(Debtor In Possession)型会社更生手続きが導入されるケースも見られます。
※6 会社更生手続きならば、金融機関は自由に担保を処分することはできませんから、更生手続きの実行に集中して取り組めます。
※7 実務上では、事業者の再生という目的を達成するために、担保権に制約を及ぼす場合が認められています(担保権消滅の許可等、担保権の実行手続きの中止命令)。
※次回は6月8日(月)の更新を予定しています。
(連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
村上 茂久:1980年生まれ。経済学研究科の大学院を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして大手企業や地方の新規事業の開発及び起業の支援等をしている。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も実施している。